FC2ブログ
サイアミディン

脂質代謝を使わせなくするもの

糖質制限はよくないとする人達の主張その2は「リブレでみると夜間低血糖を呈することがある」です。

フリースタイルリブレ、通称「リブレ」という間質液のブドウ糖を24時間持続的に測定し続けることができる機器が普及してきたおかげで、

糖質制限実践者における血糖値の変動具合がかなり細かい所までわかるようになりました。

とりわけ従来の血糖測定器では把握不可能であった睡眠中の血糖値を推定できるようになったことは医療機器業界における大きな進歩ではなかったかと思います。

ただし今「推定」と表現したようにこのリブレ、あくまでも血糖値そのものではなく血糖値の「推定値」です。
血管の周囲に存在する細胞と細胞との隙間の間質という部分にしみ出た血糖値を、

通常の簡易血糖測定値とは異なった特殊な技術で間質液のブドウ糖の濃度を連続して検出しているということですので、

厳密には血管内の血液のブドウ糖濃度、すなわち血糖値と全く同じものではありません。

またこのリブレでの間質液中ブドウ糖値(以下、リブレ値)は経験上、血糖が安定している人においては血糖値との相関が安定していますが、

グルコーススパイクが起こっている時や、糖尿病でインリスンなどを使用して血糖値が変動している人などではすこぶる相関が不安定に、すなわちデタラメな値となる傾向があります。

また安定している人においても、血糖値>リブレ値となるか、血糖値<リブレ値となるかは個人差があり、

その差がリブレの特殊な測定方法によってもたらされているのか、それとも患者の病態によって異なるのかは不透明なところがあって、リブレ値の精度に関しては疑問の余地が残ります。江部先生もその旨以前ブログで書かれていました

そもそも忘れがちですが、簡易血糖測定器も状況によって正確な血糖値を表さないことがあるので、

不正確にさらに不正確さが加わったリブレ値の解釈には十分注意する必要があります。

さて前置きが長くなりましたが、今回そのリブレで糖質制限実践者において夜間低血糖があるという指摘を耳にしました。

詳しく話を聞いてみますと、糖質制限実践者の中で睡眠中に歯ぎしりをしていたりすることがあり、そこでリブレの記録を振り返ってみると、

夜間のリブレ値では60mg/dLを優に下回っていて、それがやせ型非筋肉質の女性に多く見られるということのようで、

だから人知れず夜間低血糖を起こす糖質制限を糖尿病でもない人が行なうべきではない、という主張です。

これについてはリブレが不正確な数値を出しているという可能性はどうしても残るので、

医療機関で用いる本格的な24時間持続血糖測定器で再現される現象なのかどうか確認したいところですが、

現時点で私はその情報を持ち合わせておりませんし、私が直接確かめられる環境にもないので、

ここから先の話はそのリブレ値が正確であったと仮定して話を進めたいと思います。


私は断食で自分の血糖値を60mg/dL近くまで下げたことがあるのですが、

脂質代謝がうまく回りケトン体を使い慣れている身体になっている時は低血糖症状は出ません。

しかしそれまでの食事の糖代謝依存度が高く、いきなり断食に入ったような人は、

断食道場で時々起こっているように低血糖症状が起こりやすくなります

一方でやせ型非筋肉質の方は糖質制限実践によりケトン体が比較的高いところまで上昇しやすい傾向があります。

それはケトン体が上がってよかった、というのではなく、ケトン体を使い慣れていないために、

使いきれないケトン体が余って血液中に溜まってしまい、それが高じて尿中へ排泄されているという状況を示している可能性があります。

ここでやせ型非筋肉質の人が糖質制限実践中に夜間低血糖を起こしているという事実を眺めてみると、

まずこの方々は糖質制限実践中にも関わらず、ケトン体がうまく使えていない、即ち脂質代謝が回っていないという解釈をすることができます。

ではなぜやせ型非筋肉質の方々の脂質代謝は糖質制限でうまく回らないのかということに関してはいくつか理由が考えられますが、

脂質代謝がうまく回っていないということは、糖代謝がメインで回っているということです。

しかしこの場合糖質制限実践中なので、食事により糖代謝メインにさせられているということはないはずです。

従って何か他の理由があって糖代謝メインにさせられているということになります。

生まれつき糖代謝メインという可能性もあるにはありますが、基本的に環境適応能力を持つヒトにおいて、それが生まれつき変えられないというのは先天性代謝異常の人を除いてあまり腑に落ちません。

となると私が一番考えやすいのはストレスによって糖代謝が駆動されているという可能性です。

ストレスにより交感神経優位になり、コルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されれば、肝臓や筋肉などに貯蔵したグリコーゲンが分解され血糖値が上昇します。

またそれに伴いインスリンも分泌され、糖代謝が回ることになります。

ただしストレス性の血糖上昇はグリコーゲンの貯蔵量に限度があるので、食事性の血糖上昇に比べて緩くなる傾向があります。

その代わり緩い刺激が持続的に繰り返されうるため、これといったピークのないままに血糖値上昇、インスリン分泌がダラダラと刺激され続けてしまい、

結果的に糖代謝も緩く持続的に駆動され続けるという事態が起こり得ます。

ストレスのせいだと考えれば他にもいろいろとつじつまが合ってきます。

例えばストレスにより消化吸収障害をきたすために、食べても食べても太れない状況になりうるでしょうし、

太れないから当然筋肉もなかなか作れないから、やせ型非筋肉質にもなるでしょうし、

筋肉量が少なければ、乳酸やアラニンから糖新生を行う場である筋肉も少ないわけなので、糖新生能が低くなりますし、

糖新生能は低いけど糖代謝は緩く駆動され続けているので血糖値が低いけどケトン体はなかなか利用できないと、

だから糖質制限実践中に最も血糖値が下がりうる夜間・睡眠時間帯に低血糖症状が出てしまう、と考えることができます。

もしそうだとすれば、糖質制限を解除すれば今まで不完全でアイドリング的な回り方だった糖代謝エンジンにガソリン的な糖質が入ることになるので、

待ってましたとばかりに糖代謝が大きく回り始め、エネルギーは効率的に得られることになります。

この状況では確かに糖質制限が患者さんに害をもたらしていたことになるかもしれませんが、

本質的な問題は糖質制限にあると言い切れるでしょうか。

糖代謝を駆動し続けていたストレスに対するマネジメントがないことの方がより問題ではないかと私は思います。

なぜならば糖質制限解除によってとりあえず急場はよくなったとしても、

その後は依然としてグルコーススパイク、それがなくとも高インスリン血症、酸化ストレスは受け続けることになり、ふりだしに戻っているからです。


もう一つ、ストレス以外にやせ型非筋肉質の人が糖質制限実践中に脂質代謝が回りにくい理由として考えられるのは、

今まで糖代謝ばかりを使い過ぎたために、「脂質代謝機能が不可逆的な消耗疲弊に陥っている」というものがあります。

少し話が飛びますが、リハビリの世界では早期離床、早期訓練が今や常識的となっています。

なぜならば身体を動かさない状態によって筋肉がやせ衰えて機能が低下する廃用症候群、これは発生からの時間が長くなればなるほど、

リハビリしても筋力が回復しにくくなるという事実が経験的によく知られているからです。

これは長く機能を使わないでいると、その機能は「不可逆的な消耗疲弊」を起こすということを示しているのではないでしょうか。

脂質代謝もこれと同じで長らく糖質摂取にストレスマネジメントを依存し、

自らの力でストレスをマネジメントすることを怠り続けてしまった人は、

糖質摂取によるストレスマネジメントができなくなると守ってくれるものがなくなり、途端に身も心も両面でストレスに対する脆弱性がむき出しになってしまいます。

その結果、糖質制限により大きなストレスを受けてしまうのではないでしょうか。

そう考えると一般的に甘いものに対する嗜好性が高い傾向がある女性で、この糖質制限実践中のトラブルが起こりやすい理由もわかるような気がします。

では問題です。ここまで私が述べてきたことがもしも正しかったと仮定した場合、その糖質制限で夜間低血糖を起こしてしまうという人はどうすればいいでしょうか。

ここから先は皆さんそれぞれで考えてみて頂ければと思います。


たがしゅう
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

このシリーズ期待してます。ものすごく、興味深く読んでます。

糖質制限・MEC食をして調子が悪く疑問に感じてアンチ糖質制限・MEC食になった人は解るのですが、方や盲目的に信頼しストレスどころか糖質制限・MEC食ハイになっていた人もアンチになる割合が少なくない気がします。あんなにハイに押してた方々がアンチになるのを見ると何だか不思議な気分になりますね。

Re: タイトルなし

ジャスミン さん

 コメント頂き有難うございます。

> 方や盲目的に信頼しストレスどころか糖質制限・MEC食ハイになっていた人もアンチになる割合が少なくない気がします。あんなにハイに押してた方々がアンチになるのを見ると何だか不思議な気分になりますね。

 盲目的に信頼していたからこそだと思います。
 盲目的に糖質制限を信頼していた人は、何も考えていなくともまずは糖質制限による恩恵を受けます。それによりまずは手放しで糖質制限を礼賛します。

 ところが世の中は何も考えていなければまず間違いなく糖質過剰になる環境ばかりです。何も考えていない人達は何も考えていないことが災いして糖質制限を続けて行くことに次第に生きづらさを感じることになります。そこにストレスも関わっていることでしょう。たまに糖質を摂ってみればおいしくてその誘惑に負けてしまう自分もいます。
 そんな状況に「やっぱり糖質は摂るべきだ」という指導者が出てくれば、再び盲信的にその人達のことを信頼します。なぜならば糖質を摂取した時の快感を覚えた自分の実体験とも合致するからです。そして再び手放しで糖質制限を批判します。

 一連の行動の問題点は自分の意見を持っていないこと、要するに「主体性の欠如」だと私は思います。
 そう考えればそのような人達が現れるというのは、ごく自然な流れです。

No title

いつも、読ませて頂いております。
以下は、「勉強した」素人さん(研究者や医師ではない人)の考察ですが、どうでしょう。


https://ariya-step.com/1684.html

https://ariya-step.com/1593.html

もし、真実であれば、
糖質制限には、ビタミン、ミネラルが欠かせないという結論に至るのではないかと思います。
それだけですべてが解決できる訳ではありませんが参考になれば。

Re: No title

 コメント及び情報を頂き有難うございます。

> 糖質制限には、ビタミン、ミネラルが欠かせないという結論に至るのではないかと思います。

 ビタミン補充療法に対する私の見解は一度まとめたことがあります。

 2017年10月18日(水)の本ブログ記事
 「ビタミン補充療法についての私見」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-1128.html
 も御参照下さい。

 もしもビタミン、ミネラルの補充が糖質制限に不可欠であれば、ビタミン・ミネラルを補充していない糖質制限実践者はもれなく体調不良に見舞われていないとおかしいわけですが、実際には糖質制限だけで好調を維持している人はたくさんいらっしゃいます。

 逆に言えば、糖質制限にビタミン・ミネラル補充をさらに加える行動に出る人は、糖質制限だけでは克服できない何らかの健康課題が存在している事が示唆されます。

 糖質制限だけでは克服できない健康課題の影にはもれなくストレスの問題が潜在しているというのは私の考え方です。そのストレスがビタミン・ミネラルを補充する事でマネジメントできるのであればそれはそれで一つの方法であります。

 ただもしビタミン・ミネラルを補充する作業が代謝を回すのに物理的に必須なのであれば、仮に糖質摂取していても、糖質摂取による負の効果を打ち消すくらいビタミン・ミネラルを大量補充すれば代謝は改善して健康課題は解決するはずですが、ビタミン補充療法だけにそこまでの治療インパクトはありません。

 そしてビタミンC不足である壊血病は糖質過剰とセットで起こりますが、糖質制限をしていれば1週間しゃぶしゃぶ食べ放題でビタミンCを全く摂取しない状態で過ごしても、ビタミンC欠乏には至らないし、体調不良にもならないし、勿論壊血病の症状も出ないという事を私は自分の身体で確認しています(http://www.wound-treatment.jp/new_2017-05.htm#0519-4

 2017年11月8日(水)の本ブログ記事
 「5日間断食での血液検査データ」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-1150.html
 も御参照下さい。

 ゆえにビタミン・ミネラルの枯渇は、糖質やストレスなどの代謝を過剰回転させるものによって引き起こされるのであって、ビタミン・ミネラルの補充は対症療法、糖質制限やストレスマネジメントが根治療法だと私は考えています。

No title

糖質制限には、ビタミン、ミネラルが欠かせないという結論に至るのではないかと思います。

を投稿した者です。返信ありがとうございます。

たがしゅう先生の糖質制限というか、健康のための生き方の考えは、驚かせられました。

身内が糖尿病と診断され、それについて勉強していたら、糖質制限に行き着きました。

自分の中では、ビタミン、ミネラルは、必要な分は、摂取しなければならないという風に考えていました。

糖質を摂取せず、ビタミン、ミネラルを摂取するにはサプリメントで、それなりのお金がかかります。
そして、たがしゅう先生のおっしゃる通り、それは、死ぬまでか、お金が無くなるまでか、辞めるまで続く、
お金も問題もありますが、シンプルに摂取しなくても大丈夫なら、私にとっては魅力的です。

私も、「食べなくても生きてけるなら、食べない」という考えです。

これからも、たがしゅう先生の情報をこれからも吸収していきたいと思います。

Re: No title

テル さん

 コメント頂き有難うございます。

 御自身が納得される方法が一番です。私の見解も一つの参考にして頂ければと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院にいます。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

南鹿児島さくら病院では職員を随時募集中です。
詳しくはホームページhttp://www.nissyoukai.or.jp/
を御覧になって下さい。
見学申し込みもお気軽にどうぞ。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
これまでの訪問者数
FC2アフィリエイト
メールフォーム
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR