実践できなければ意味がない
2014/04/10 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:6件
当ブログではカロリー制限を主とした従来型栄養指導の問題点をしばしば取り上げています。
「井の中の蛙」とはよく言ったもので、
カロリー制限だけしている時には全く気がつかなかった問題点が、
糖質制限を実際にやってその恩恵を受けることで初めていろいろと見えてきます。
今日は数ある従来型栄養指導の問題点の中から、
「実行可能かどうか」という点に注目して考えてみたいと思います。 紹介するのは脳梗塞後遺症で通院する80代の男性です.
少し過体重で軽症糖尿病があるこの患者さんは,過去に栄養士による栄養指導を受けています.
そこで患者さんに次のように尋ねてみました.
たがしゅう「どのような食事指導を受けましたか?」
患者さん「量を減らすことですね.それから脂肪分を減らすこと.糖分を減らすことですね.」
たがしゅう「具体的にはどのようにするように指導されましたか?」
患者さん「……まぁ,量を減らすことですね」
…そうなんです.
栄養士がせっかく一生懸命栄養指導をしたところで患者さんに残るのはこのくらいなのです.
しかもその残った知識が正しければまだ良いですが,
「量を減らすこと」=「腹八分」と言い換えられるかもしれませんが,
糖質に注目しなければ,この腹八分はかなりの苦行です.
仮に炭水化物50~60%の割合(一般的な和食はこうですね)のまま,腹八分を実行しようとしたら,
量はやや少ないけど血糖値を上昇させる程の糖質はしっかり入っているので,
血糖値の乱高下を生じ,それによって食後の空腹感が引き起こされます.
さらに糖質に中毒性があるので,次の糖質への欲求が書きたてられます.
その誘惑に耐えながら腹八分を実行し続けることは至難の業であるわけです.
この事はカロリー制限だけやっている時は当たり前だと思っていましたが,
糖質制限を経験する事で,それが糖質によって作られた空腹感である事を初めて知ることができるのです.
一方,「それは80代という高齢者で,しかも調理をしない男性だからそのくらいしか覚えられないだけだ」という批判もあるかもしれません.
「食べる本人ではなく,調理者である奥さんに指導すべきだ」と言われてしまうかもしれません.
確かにそれはそうでしょう.
しかし,一人暮らしの男性に対してはどうしますか?
あるいは,調理をする女性に伝えたらきちんと伝わると本当に言い切れますか?
栄養士のスキルの問題を言っているのではありません.
多くの人はたくさん言われた事を一度で全てを覚えることはできません.物事はシンプルかつコンパクトにしてこそ伝わるものだと思います.
どれだけ優れた治療であっても複雑であればスムーズに広まる事は難しいでしょう.
まず,カロリー制限を行うには,まずあらゆる食材がどのくらいのカロリーであるかを覚えていく必要があります.
覚えられなければ,それを調べるための本を常備しておく必要があり,それを駆使して毎日の献立を作るのは考えただけでも大変複雑な作業です.
その点,糖質制限のやり方は極めてシンプルです.
「主食と甘いものを抜き,その代わりおかずをしっかり食べる」
極端に言えば,これだけでもある程度の糖質制限は実践可能です.
そして何が糖質が多いかのだいたいの傾向さえつかめばさらに精度を高めることができます.
これだけシンプルな食事療法であれば,料理をしない独居男性でも,認知症でもない限り十分に実践可能です.
しかも科学的にみた時に,血糖の乱高下を避ける上でカロリー制限よりも糖質制限の方に分があるというわけですから,
これはどう考えても糖質制限の方で指導すべきです.
何しろ実践できない栄養指導は意味がないわけですから.
ただし、実際には糖質制限の指導でも実践してもらえない事も多いです。
実行可能な指導内容であるにも関わらず、固定観念、食文化、社会環境、権威による誤誘導、糖質の中毒性などが実践を邪魔します。
つまり、やる事はシンプルなのにやってもらえないという事実も現実問題としてあるわけです。
この壁を乗り越えるのは容易でないですが、
あせらず一つずつ出来る事を進めていきたいと思います。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
栄養指導というものを教育ビジネスと捉えるといかにカロリー制限が無意味な商品だったかがわかると思います。糖尿病になったら一律1600カロリーを目指しましょう、一日三十分以上運動しましょう、そんなこと一方的に言われて実行できる人間がどんだけいるか。あげく欧米型食生活が~ですが、穀物生産はメソポタミア付近で始まってるという考古学は完全無視ですしね。日本人もそれに習うなら玄米じゃなくて黒パンでも推奨しなきゃいけませんね。
江部医師の姿勢で立派なのは、三食一回でも良いからやってみませんか?という姿勢ですね。ラサールさんの番組も見ましたが、実際やってみれば恐ろしく簡単なことです。なにより食べる量の調節が物凄く楽なのが良いですね。仕事が忙しい日なんか職場で食べないほうが調子が良い、かつてはまさにお腹と背中がくっつくという状態だったのは全部糖質の依存性だったのでしょうね。むしろ寝る前にいかに肉や魚を食べるかがこれからの栄養学の視点になる気がします。
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
栄養指導を商売に例えれば詐欺商法だと思います.しかも売っている側がそれに気づいていないという特殊性があります.
私もラサールさんの番組みましたが,糖質依存の実態がありありと現れていましたね.しかしそれでもとにかく実践することで,「糖質によって作られた食欲がある」ということを実感されているようでした.
糖質制限の話をしたら渋い話をされました。
医者に渋い顔をされました。
急に薬をやめるのではなく、今まで飲んでた
糖尿病の薬を2錠から1錠に減らし、
その代わり、ご飯を半分にしてください。
学会では6割炭水化物ということになってるが
半分までは許されている・・・という内容。
そんなんじゃ良くならない!!
1ヶ月分の薬を出されましたが、飲まずに
糖質制限1本でやっているところです。
数値が悪くなれば、どんどん薬を足していく。
そんなやり方でいいのでしょうか。
せめて糖質制限という選択肢も加えてほしい・・・
そんなお医者様が増えればいいなと思います。
Re: 糖質制限の話をしたら渋い話をされました。
コメント頂き有難うございます。
> 学会では6割炭水化物ということになってるが
> 半分までは許されている
自分の頭で考えていない医師の発言ですね。半分までしかダメだという理由に自分なりの根拠があるわけではなく、ただ「学会で許されていないから」というのは全く論理的ではありません。情けない話です。
そういう医師の言う通りにするか、自分の納得のいく食事療法をするかどうかを選べるのは他ならぬ患者さん自身です。医師が変わるのを待っている必要はないと私は思います。
自分が情けない…
読んでいただけるのか不安ですが投稿してみます。
たがしゅうブログの大ファンで、いつも勉強させていただいています。
私は33歳で4児の母です。
糖質がいかに悪者か、食べないことのメリットがどれほどのものか、こちらのブログでよーーく分かってるはずなのに、糖質中毒がなかなか治りません…
3日ほどは我慢できるのですが、一口パンを口にすれば、もうその後は糖質に操られっぱなしで、もう止まりません。
いえ、糖質が悪いのではなく、できない自分がただただ甘いのです…
そんな自分が本当に情けなくて、もう何をやってもダメなんじゃないか、と自信喪失です。
もう何ヶ月もトライしていますが、糖質スイッチが入ってしまいます。
依存症とは本当に恐ろしいです。
悪いと分かっていても止められない…
明日から絶対に摂らない!!と今は強く思える半面、明日の自分が信用できません…
精神病ですね(T_T)
ぐだぐだと書いてしまいましたが、こんな私でも糖質中毒から抜け出せるのでしょうか…?
BMIは22です。
Re: 自分が情けない…
コメント頂き有難うございます。
> こんな私でも糖質中毒から抜け出せるのでしょうか…?
大丈夫です。目指すべき目標が定まってさえいれば、いくら失敗しようと何度だってやり直せます。
それに私だって決して完璧ではないのです。実は自分の糖質制限に対して私も日々悩みながら奮闘しているのです。
もう少し一緒に考えてみましょうか。記事にさせて頂きます。
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