耳鳴も難治性

2014/10/13 00:01:00 | 素朴な疑問 | コメント:2件

糖質制限の効果には目を見張るものがあります.

食後の眠気などは即座に改善しますし,

片頭痛や逆流性食道炎などはかなりの割合で改善させる事ができます.

しかし中には糖質制限をしていてもなかなかよくならない症状というのもあります.

先日紹介したパーキンソン病による手の振るえもその一つですが,

もう一つ私が診ていて治しにくいと思うのは耳鳴りです.

今日は「耳鳴り」について考えてみたいと思います. 耳鳴りの事を医学的には「耳鳴(じめい)」とも言いますが,

通常,耳鳴を専門的に治療する専門は,耳鼻咽喉科になります.

ただ耳鳴がどうして起こるかというのは実はあまりよくわかっていません.

「蝸牛有毛細胞の異常運動」、「伝達機構の障害」、「信号変換機構の障害」などといろいろな仮説が言われてはいるものの,

じゃあそれがどうして起こるのかという事は結局わかっていないのです.

そのためか,耳鼻咽喉科へ紹介しても,多くの場合「年齢的なものでしょう」と言われて帰ってくる事がほとんどです.

一方で.我々の神経内科でも耳鳴りを訴えられる患者さんに時折出会う事があります.

その場合,耳が鳴るというよりも「頭が鳴る」という訴え方をされる事が多いです.これを「頭鳴感(ずめいかん)」と呼んだりもします.

耳鳴というと耳に異常があると考えがちですが,耳だけではなく脳が関わっている事も往々にしてあるのです.

そんな耳鳴の治療ですが,原因がはっきりしている場合はそれに対する治療を行います.

例えば,ベンゾジアゼピン系薬の離脱症状として耳鳴が起こることもあるので,この場合は断薬を継続する事が治療となりますし,

また突発性難聴という突然の難聴と同時に耳鳴が起こる病気では,ステロイド点滴や高圧酸素療法といった治療を行います.

しかし原因のわからない耳鳴に対しては基本的に対症療法です.

一般的には抗てんかん薬や循環改善薬,漢方薬などが用いられますが,多くの場合難治性です.

そして耳鳴というのは,他人に最も理解してもらいにくい症状ですから,「あまり気にせずに様子をみましょう」などと医者から気軽に言われたりすることも多かったりします.

でも「気にするな」と言われても,気になったから受診しているわけであって,これでは何の解決にもなっていません.

耳鼻咽喉科では耳鳴に対してもっといろいろな専門的治療が行われているところもあるようですが,

その成果の良し悪しは私の耳には入ってきません.

とにかく耳鳴は治すのが難しい症状なんです.


でも何とか治してあげたいというのが医師人情です.

そこで,原因のわからない症状を治す可能性を秘めている糖質制限を,

私は耳鳴を持つ何人かの患者さんに勧めて,実際にやってもらいました.

まだ数えるくらいの患者さんにしか指導はできていませんが,

正直言って今のところ負け越しといった印象です.

耳鳴に対しては糖質制限とてなかなか満足のいく治療効果を出す事ができません.

パーキンソン病の手のふるえと同様の治療困難性を感じます.


ここでふと,耳鳴りをめぐる状況を振り返ってみました.

耳鳴りの多くが原因不明で,多くの場合年齢のせいだと言われているということ,

耳鳴りと頭鳴りはしばしば混同され,鑑別が困難であるということ,

耳鳴りの治療に抗てんかん薬,すなわち脳の興奮性を抑える薬が用いられているということ,

こうした事実をまとめていくと,「耳鳴りは聴覚に関わる神経経路の神経変性によって起こっているのではないか」という考えが私の頭の中をめぐります.

聴覚に関わる脳領域は側頭葉だと言われています.

また神経変性には可逆的な段階と,不可逆的な段階がありますので,

難治性の耳鳴りは耳から側頭葉に至るまでの経路のどこかが,不可逆的な神経変性を起こしている可能性があるのではないかと思うわけです.

そして別の見方をすれば,耳鳴りは聴覚を司る細胞がいわばオーバーヒートしているような状態なのかもしれません.

パーキンソン病の手の振るえも,アクセルの交感神経とブレーキの副交感神経が破綻する神経のオーバーヒート状態だと考えれば,両者はすごく似ています.

こうなるとそれを抑えるには一回オーバーヒートした回路をシャットダウンさせるような方法しかなくなってしまうのではないかと思うのです.

パーキンソン病の場合はそれが抗コリン薬や深部脳刺激療法(DBS)といった方法になると思います.

耳鳴りの場合は専門科で行われる中耳腔注入療法や、星状神経節ブロックなどがそれに相当するのでしょうか.

ともあれ,基本的な診療姿勢は両者に共通していると思います.

そもそも不可逆的になる前に,可逆的な段階で症状を留めるべきだということです.

もしも耳鳴りもパーキンソン病と同様にその本質が神経変性にあるのだとしたら,

早い段階で糖質制限を行う事で予防が可能になるのではないかと思います.


たがしゅう
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コメント

難聴は今のところ改善しません

2014/10/13(月) 03:14:28 | URL | josh #-
半年ぐらい前から読ませていただいています。
私は現在60歳の女性で、耳鳴りと難聴になやまされています。
30代半ばで左耳が突発性難聴になり、1年後に回復しましたが、40代半ばで耳鳴りが始まり、感音性難聴になっています。
左耳はそうとう聞えません。
また言葉が捉えられません。
右耳は普通なので、なんとか日常生活は送れてます。
が、この2週間、頼りの右耳が詰まり気味で、聴力低下を感じています。
早急に難聴専門病院に行く予定です。
私は糖尿病ではないのですが、数年前からスタンダード糖質制限をしています。
2か月前からは、スーパーに切り替えました。
BMIも21ぐらいなので、体重はほとんど(というかまったく)減りません。
体脂肪が2%ぐらい落ちたかも?という程度です。
ネットで見ていると、糖質制限が難聴(メニエール)の発症を和らげているという記述は見ます。
が、年齢からくる難聴の改善は見られません。
スーパーにして、体調はかなりよくなりましたが、難聴には改善はありません。
ほとんど治療法がない現在は、糖質制限を続けようと思ってます。
血流を改善するのなら、良い結果も出るかもしれません。
そう信じたいです。

Re: 難聴は今のところ改善しません

2014/10/13(月) 18:12:52 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
josh さん

 コメント頂き有難うございます.
 
 糖質制限が難聴,耳鳴を悪化させる事は少なくともないと思います.

 ただ長年の症状を糖質制限だけで改善させるのはなかなか難しいというのもまた事実です.

 食事療法で可能性があるとすればケトン食や絶食療法にまで手を出すかという事になりますが,それとてよくなる保証はなく,やってみなければわからない世界です.

 自分の努力でどうにもならない場合は必要最小限の西洋医学を利用してみるというのも一法だと思います.

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