サイアミディン

ストレスマネジメントが鉄欠乏に重要な理由

藤川徳美先生の本を読んでいて、もう一つ感じた違和感があります。

本の中には血液検査でフェリチン低値を指摘され、糖質制限+鉄剤/鉄サプリ+αの治療を行うことで、

劇的な改善を遂げた精神疾患の患者さんの症例が実に多く紹介されていますが、

20代女性、パニック発作、フェリチン4未満、糖質制限+鉄剤で改善
40代女性、パニック障害、フェリチン4未満、糖質制限+鉄剤で改善
30代女性、パニック障害、フェリチン4以下、糖質制限+鉄剤で改善・・・・


このように紹介される事例がことごとく、フェリチン1桁台の重度鉄不足の方ばかりなのです。
私も鉄不足に注目し、一般的な医師に比べて比較的フェリチンを高頻度に測定する方の医師だと思いますが、

私がフェリチン4未満の重度鉄不足の症例に遭遇する確率はかなり低いです。

もちろん、診ている患者層が違うということも大きいとは思います。私は若い人を診ることもありますが、主に御高齢の方を診ることが多いです。

ただ、若い女性で鉄欠乏症状が示唆される人にフェリチンを測定してみても、せいぜい15~20くらいまでです。フェリチン4未満の人にはそうは遭遇しません。

書籍の中では全体の受診者の中でフェリチン1桁の人の割合がどの程度なのかはわかりませんでしたが、

少なくとも私の臨床経験と比べると藤川先生がフェリチン1桁の患者さんを診ている率は圧倒的に高いと思います。

これは何故なのでしょうか。
私が鉄不足を見落としているからでしょうか?
それともネット情報で鉄不足を疑った患者さんが藤川先生のところに集まるからでしょうか?

ひとつ、私が思いつくのは強い精神症状があるかどうか、ということです。

著書の中にも書かれていましたが、鉄は精神症状に影響を与えるドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質を合成するときにかかわる補因子です。

鉄不足があればそうした物質の産生が滞り、精神症状に悪影響を与えるというのは実に理にかなった話です。

ではその逆についてはどうでしょうか。強い精神症状があれば鉄は欠乏するのでしょうか。

強い精神症状が出るということは、強いストレスが関わっている可能性があります。

そこでストレス学の成書などで、ストレスによって鉄代謝にどのような影響がもたらされるかについていろいろと調べてみましたが、満足のいく答えには行き着けませんでした。

しかしストレスが炎症をもたらすという情報には行き着きました。

ストレスがかかると交感神経系を介してストレスホルモンであるコルチゾールなどの物質が副腎から放出されます。

コルチゾールはステロイドホルモンであり強力な抗炎症作用がありますので、通常であればストレスで炎症は治まる方向へ向かいそうなものですが、

それはあくまでもストレスの量が適量で対処システムが適切に作動していればの話です。ストレスマネジメントが上手であればストレスによって起こる一過性の炎症は速やかに収束します。

ところがストレスの量が多く、あるいは程度が強い場合には、コルチゾールなどが働きかける標的臓器など下流の応答系統が反応しきれずに、

一過性であるはずの炎症が一過性では済まなくなり、いわゆるオーバーヒート状態になってしまうのではないかと思います。

あるいはストレスホルモンがうまく出せない副腎疲労のような病態でも、同様の状況は起こりうると思います。

さて、ストレスによって起こった炎症が抑えられなければどうなるかですが、

前回記事でも示しましたように、炎症によって誘導されるヘプシジンという鉄代謝調節ホルモンの産生が亢進し、

結果的に網内系での鉄リサイクルシステムが停止し、鉄の排泄がデフォルト以上に多くなってしまいます。

これで強いストレスがかかることによって、鉄欠乏につながるということが説明できるのではないでしょうか。

「強いストレスが鉄欠乏をもたらす」と仮定すれば、私の患者さんより藤川先生の患者さんで鉄欠乏が多いことの理由も説明できるように思うのです。

ただし「強いストレス=強い精神症状」というわけでもないようです。

私は認知症の患者さんを比較的多く診ており、そうした人にもフェリチンを測定したりするのですが、

問題行動がみられるような認知症患者さんにフェリチンを測定しても、必ずしも50以下に低下してないのです。

たとえ周りからみて精神症状があっても、本人がそれを意に介していなければ、それはストレスにはなっていないということなのだろうと思います。

しかし同じような精神症状でも本人が気にしていれば、それはストレスであり、炎症から鉄喪失へとつながりえます。

精神疾患が鉄欠乏をもたらすかどうかは、本人にとってストレスとなっているかどうかが重要なファクターだと考えられます。

逆に言えば、精神症状があって鉄欠乏をきたしているような人は、その裏に非常に大きなストレス源があるという事が予想されるので、

そのストレス源の同定と対処も念頭に診療に当たる必要があると思います。


以上の考察により、

鉄欠乏症に伴う精神症状で悩んでいる患者さんに対しては、

鉄補充が対症療法、ストレスマネジメントが根治療法の位置づけになると私は思います。


たがしゅう
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ストレスマネジメントと精神科

精神科コメディカルです。この記事を読みましてハッとしたことがあります。
精神科の治療においてストレスマネジメントは基本中の基本。
心理療法の併用は当たり前ですが、それでも改善しにくい人がわんさか来ます。

そうか、他科の先生にはストレスマネジメントって新鮮(?)な発想だったんですね…

たがしゅう先生は糖質制限+αとしてストレスマネジメントに
藤川先生は精神科標準医療・ストレスマネジメント+αとして鉄タンパク強化に
それぞれたどり着いたのだと考えています。
先生の考察、いつも楽しみにしています。

精神症状と鉄欠乏

何度もすみません。
藤川先生の患者さんでフェリチン低値の件ですが、
強い精神症状があるから、ということよりも
「さほど強い精神症状がない。不調が続く。不安が強く、かといっても治療になかなか反応しない。」
という患者さんを調べたらフェリチン低値だった
のではないかと考えます。

開業の精神科クリニックにはそんな患者さん、結構いらっしゃいます。

Re: ストレスマネジメントと精神科

マーシャ さん

 コメント頂き有難うございます。

> 精神科の治療においてストレスマネジメントは基本中の基本。

 教科書的にはその通りです。
 しかし現実にはそれができていない精神科医の方が多数派ではないかと私は思っています。
 なぜならば時間がかかるからです。
 私はその実情をスーパーローテーションという研修システムで精神科を回った時に肌で感じています。

 2016年12月1日(木)の本ブログ記事
 「『教える』のではなく『考えてもらう』」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-797.html
 も御参照下さい。

 マーシャさんの周りの精神科の先生は基本を忠実にされている良い先生なのだろうと思います。

Re: 精神症状と鉄欠乏

マーシャ さん

 コメント頂き有難うございます。
 
> さほど強い精神症状がない。不調が続く。不安が強く

 不安の強さは強い精神症状の一型と言えると思います。
 しかも外に表出できない分、発散もできていないということです。
 それを周囲の人から見ると、「強い症状ではない」と錯覚している状況ではないかと思います。

 周囲からみて強い精神症状でないものが、必ずしも本人にとっても強い症状ではないとは限らないという事には注意しておかなければならないと思います。
 大事なことは見えるものだけではなく、見えないものにも意識を向けるよう努力するということです。

 2017年7月2日(日)の本ブログ記事
 「見える部分と見えない部分とのバランス」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-1015.html
 も御参照下さい。

うつ病と戦う人

うつ病はそんなに甘くないと思います。
認知行動療法、森田療法、自律訓練法、催眠療法、ヨガ、スピ系色々ありますがどれも効きません。
全くといっていいほど全滅、とても多くの人がそう言っています。
それで糖質制限はどうかというとまず胃腸が耐えれません。続けると何もできなくなり
寝込んでしまいます。(低血糖、腸内細菌悪化)
では鉄(フェリチン)はどうかというと十分にありますが身体症状は肝血虚と同じ症状です。
一度藤川先生に見てもらった事もありますがお手上げと言われました。
糖質制限も辞めたほうがいいのではと言われました。
断食道場も過去数回行きましたが、より症状を悪くしただけでした。
サプリも漢方も吸収出来ません。

私の体はストレス=鉄欠乏ではありませんでしたが、強いストレスが何十年とあるのは間違い無いです。
最近流行りの療法が全く効果無くて私は辟易しています。
先生のストレスマネジメントもそんなに凄いのならネットで話題になっているはずですがそんな声はどこからも上がっていません。

こんな風な人または思っている人は私だけでしょうか?

Re: うつ病と戦う人

シロップ さん

 率直な御意見を頂き有難うございます。

 ストレスマネジメントは誰かから教わるものではなく、自分自身で習得するしかないものです。
 内容は人それぞれ違うので、誰が行っても効くという単純な話ではありません。

 お会いしてないので断定はできませんが、
 あくまで文面から見る限りは、ストレスフルな感情が伝わってくるようです。
 「何をやっても効かない」と思い込むその心に問題が潜んでいるように思えます。

 糖質制限で胃腸が耐えられないというのであれば、今食べておられる糖質食と胃腸が耐えられなくなったという糖質制限食とその間くらいの糖質量で緩やかな糖質制限食として再開してみてはどうでしょうか。糖質制限で胃腸が悪くなるにしても、1gでも制限したらすぐ胃腸が悪くなるわけではないですよね。シロップさんにとってのちょうどいい糖質の量というものがあるはずです。
 それもしないというのなら、糖質制限が効く効かない以前に、そう決めつける自分の心に問題があると言えるのではないでしょうか。

 もの凄いストレスは炎症を起こし、消化吸収能を悪くします。オートファジーなどのリサイクル機能も停止します。
 その状況においては私ならいきなり断食は勧めず、緩やかな糖質制限をおすすめします。そしてそれに慣れてくれば、徐々に糖質制限へ移行していく事も考慮します。
 長年かけて受け続けてきたストレスと、それを助長させてきた自分の心の問題とは、御自身があせらずじっくりと向き合っていく必要があると私は思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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