サイアミディン

糖質制限と食欲

糖質制限実践前,過食傾向であった私は,

糖質を制限することである程度空腹感をコントロールできる事を知りました.

空腹のメカニズムについてはまだわかっていないことも多いようですが,糖質の中毒性から考えると,

「糖質摂取」
→「血糖値上昇」
→「インスリンにより血糖値が下がる」
→「糖質の離脱症状によって次の糖質を欲するよう空腹感が引き起こされる」

というのが一つ空腹を生じる理由であると解釈できます.

ただそれだけだと糖質を摂取しなければ永遠に空腹を感じないということになってしまいますが,現実はそうはなっていません.時間が経てば必ず空腹感を生じます.

そうなると空腹感を生じるメカニズムが別にあるということになります.
そう考えていたところ,一つヒントになる事がありました.

それは食欲不振を改善させる漢方薬「六君子湯(りっくんしとう)」のメカニズムです.

今日の話はちょっとややこしいです.できるだけ噛み砕いて説明してみます.

六君子湯とは

「蒼朮(ソウジュツ)」
「茯苓(ブクリョウ)」
「人参(ニンジン)」
「半夏(ハンゲ)」
「陳皮(チンピ)」
「大棗(タイソウ)」
「生姜(ショウキョウ)」
「甘草(カンゾウ)」

の8つの生薬から構成される漢方薬ですが,

この絶妙な配合の妙により消化管運動と食欲低下を改善させる働きがあることがわかっています.

そして近年西洋医学的解析により,その改善作用が主に「グレリン」という消化管ホルモンによるということがわかってきました.


食欲不振の3大原因はストレス,加齢,抗がん剤治療と言われています.

そのうち,強いストレスがかかると食欲がなくなるということは誰しも経験があることと思います.

この時のストレス反応に中心的な役割を果たすものとして「副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)」というものがありますが,

ストレス反応に伴い,視床下部のCRFニューロンがセロトニン2c受容体を介して活性化すると,交感神経を介して胃でのグレリンの分泌が抑制され,血液中のグレリン濃度が低下し,胃の動きが悪くなって食欲がなくなるということなのです.

そしてこのメカニズムに対して六君子湯は,構成生薬の中の「陳皮」や「甘草」に含まれるフラボノイド類がセロトニン2c受容体を阻害する働きがあるため,CRFニューロンの活性化を抑制し,その結果グレリンの分泌を回復させ食欲を出すということをしています.

…気づきましたでしょうか?

食欲のメカニズムにはあの「セロトニン」も関わっています.

ケトン食のメカニズムの一つに「セロトニン系の賦活」というものがありました.

セロトニンが分泌されれば,別にストレスが原因でなくても,セロトニン2c受容体が刺激され食欲を抑える方向に働きかけます.

つまりセロトニンには「食欲抑制ホルモン」としての位置づけもあるということです.

糖質制限食/ケトン食で空腹感が抑えられる理由にはこの関与もあるのではないかと考えています.

ここで話はグレリンに戻りますが

グレリン(Ghrelin)は1999年に我が国の研究者によって胃から発見された「成長ホルモン分泌促進ペプチドホルモン」です.

グレリンには以下の作用があります.

「成長ホルモン刺激作用」
「心血管系保護作用」
「エネルギー代謝改善作用」
「食欲亢進作用」
「上部消化管の運動機能促進作用」

どうやらグレリンは全体的に身体にとっていいことをしているようです.

ちなみにグレリンは3番目のセリンという塩基が脂肪酸による修飾を受けることによって活性化します.ここでも脂肪が大事だということを感じさせられますね.


さてここまで来て一つの疑問が生じます.

「グレリンが出て食欲がわくことは良い事?,ということは空腹感が抑えられる糖質制限/ケトン食は悪いことなのか?」

そうではありません.というのもグレリンは絶食により血中濃度が高まるからです.

つまり,

「糖質制限食」→「セロトニン↑」→「空腹感弱まる」→「疑似絶食状態」→「グレリン分泌」→「糖質制限食」

というサイクルが出来上がります.



ここから先は私の考えですが,

まず動物は食物から栄養を得なければ生きていくことはできません.

一方で動物は恒常性を保つことを重要視しています.

食べないで恒常性を維持させることができればそれに越したことはないのですが,

そんな絶食状態がずっと続いてしまうと脳から臨時で「食糧を確保せよ」という指令が出ます.それが「食欲」です.「食欲」は言わば生命の維持に対して発動した安全装置ようなものだと思うのです.

つまり,人体にとって一番いいのは,安全装置である食欲の発動はできるだけ少ない回数で済むようにして,なおかつ十分な栄養が確保できているという状態ではないかと考えます.

普段はセロトニンなど神経伝達物質が効率的に働くことができる安定環境をできるだけ長持ちさせ,

ここぞという時だけグレリンを増加させ,その際に多面的な改善作用の恩恵を受けて,再びもとの安定環境に戻す,というのが理想のサイクルなんじゃないかと思うのです.

安全装置の発動は少ないに越したことはありません.

だから本当は1日3食より1日1-2食の方が理想に近いのではないか,

糖質制限していて食欲が制御されている自分をみてそういうことを考えた次第です.


たがしゅう
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

セロトニンラブ

こんにちは。セロトニンに興味しんしんです。
セロトニン=幸せホルモン
セロトニン=食欲抑制ホルモン

セロトニンっておもしろいですね。私はストレスで食べちゃうほうです。
こういう仮説も考えられませんか。

イケメンを見る→幸せでセロトニン↑→空腹感が弱まる

万一、福山雅治さんと会食ができたら、何も食べなくてもお腹いっぱいになる自信があります。

Re: セロトニンラブ

エリス さん

いつもコメント頂き有難うございます。

> イケメンを見る→幸せでセロトニン↑→空腹感が弱まる

面白いですね〜。

男→女でも同じ事が言えそうです。

確かにあこがれの人が目の前にいたら、お腹すかしている場合じゃないですね(^_^;)

世界糖尿病会議

2013年12月2日~6日 Melbourne Australia

「1日6食の小分け」より「朝昼2食」の方が減量・血糖管理に効果

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/wdc2013/201312/533965.html

(登録しなくてもだれでも閲覧できます)

Re: 世界糖尿病会議

精神科医師A 先生

 情報を頂き有難うございます.

> 「1日6食の小分け」より「朝昼2食」の方が減量・血糖管理に効果

 そうなるでしょう.

 食事回数が多いとケトンが産生されるヒマがないですものね.

 やはり食事回数は少ない方が自然の形に近いのではないかと思います.

こんばんは。

糖質制限食は本当に空腹感を感じませんね。普通の食事だと一日3食たっぷり食べても足りない事があったのですが…(汗)
初めは「たんぱく質だから腹持ちが良いのかな?」と思いましたが、それにしては空腹感を感じなさ過ぎると不思議でした。
犯人は幸福ホルモンのセロトニンと聞いて納得です。
確かに幸せを感じている時は空腹感を忘れてしまいますよねっ。

ちなみに私は眼筋型MGなのですが、たがしゅう先生は神経内科のお医者様との事で、患者様から「眼瞼下垂をブルーベリーサプリで改善出来る」という話を聞いた事はありませんか?
こういう体験談をネットでは見ないので、他の方はどうなのだろうかと思いまして。
私の場合は確かに飲むと飲まないでは眼の開きが全然違うのです。流石に複視は治りませんが…(汗)。

糖質制限とは全然違う話ですが、たがしゅう先生が神経内科の先生との事で聞いてみたくなりましたm(_ _)m

Re: こんばんは。

すず さん

 御質問頂き有難うございます.

> 「眼瞼下垂をブルーベリーサプリで改善出来る」という話を聞いた事はありませんか?

 申し訳ございません.私はそういう話は聞いたことがなかったです.

 ただ患者さんの実体験が何よりの教科書なので,その事は興味深いです.同じ事が言えるかどうか今度眼筋型MGの患者さんがいたら検証してみたいと思います.

 ちなみに私が知っている眼瞼下垂に対する簡易対処法に「アイステスト」と言って瞼の上からアイスノンのような冷えるものを2分程度当てると眼瞼下垂が改善するというものがあります.確か7割くらいの有効率があったと記憶しています.これからの寒い季節実践しにくいかもしれませんが….

 あとプリビナという点眼薬も有効です.処方してもらえる場合がありますのでよろしければ主治医の先生に相談してみて下さい.

No title

たがしゅうさん

動物にとって何かを食べるというのは常にリスクですね。相手が生きた状態なら窮鼠猫をかむの例えどおり全力の抵抗を受けますし、植物や死肉は毒や病原菌と紙一重です。保存技術の発展した現代の我々でも食中毒で死ぬ可能性は常にあります。

そう考えれば、食事の回数は少なければ少ないほどいいし、その上で消化器に負担にならないようなるべく咀嚼に時間をかけた方がいいんでしょうね。

アツアツの麺類や雑炊がおいしい時期になりましたが、こういうのも消化器を痛めつける原因かもしれません。

Re: No title

SLEEP さん

いつもコメント頂き有難うございます。

> 動物にとって何かを食べるというのは常にリスクですね。相手が生きた状態なら窮鼠猫をかむの例えどおり全力の抵抗を受けますし、植物や死肉は毒や病原菌と紙一重です。保存技術の発展した現代の我々でも食中毒で死ぬ可能性は常にあります。
> そう考えれば、食事の回数は少なければ少ないほどいいし、その上で消化器に負担にならないようなるべく咀嚼に時間をかけた方がいいんでしょうね。


なるほど、ですね。

食事がリスクという観点を持つと食事回数が少ない方が調子が良いことがまたすっきりと理解できますね。面白い視点を御教示頂いて有難うございます。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
これまでの訪問者数
FC2アフィリエイト
メールフォーム
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR