サイアミディン

食事療法軽視の風潮

「一に食事、二に運動、三四がなくて、五に薬」という言葉があります。

糖尿病治療の基本骨格をわかりやすく表現した言葉です。

基本となる食事・運動療法なくして、薬を加えても適切な治療はできないという事を諭す内容ですが、

はたして世の中の医療者は本当にそう認識しているでしょうか。

こんな症例がありました。50代女性で脳梗塞を初めて発症され入院された方です。

この方の脳梗塞の症状は幸い軽症で、治療により軽い失語(言葉の出しにくさ、理解のしにくさ)を残すのみまで改善しました。

脳梗塞を一度起こした方へは再発予防のために、一般的には抗血栓剤という血液をサラサラにする薬を終生内服してもらうことが勧められます。

しかしこの方は安易にそれが勧められない事情がありました。
実はこの方、高度の鉄欠乏性貧血を一緒に持っておられました。

「鉄欠乏性貧血」というのは読んで字の如く、鉄分が不足することによって生じる貧血です。

ここで「貧血」という言葉も医療者と一般の方で理解に違いがありよく誤解を生じる言葉なので説明しておきますと、

いわゆる頭がクラクラする、ふ~っと目の前にもやがかかって意識が遠のいて倒れる、というような事を一般的に貧血と言っていると思いますが、医学的にはその現象は「失神」という方が近いです。

医学的な貧血というのは「血液中のヘモグロビンが不足した状態」、いわば血液が足りないことを指します。

貧血が起こった結果、失神が起こることはありますし、他にも動悸・息切れといった症状が起こる場合があります。

話を戻して、鉄欠乏性貧血の原因は確かに鉄分が不足することですが、

ではどうして鉄分が不足するのかと言いますと、真っ先に「鉄分を多く含む食材を食べていないから」という理由が思いつくかと思いますが、必ずしもそうでもないのです。

実は鉄分は血液中にも多く含まれています。女性の場合、鉄が不足する最大の原因は月経(生理)なんです。

つまり身体のどこかから血液が大量に失われる現象があれば血液ごと鉄分が失われるというわけです。

この患者さんにも案の定、過多月経があることがわかりました。

この状況で予防の為とはいえ血液をサラサラにする薬を使ったら、月経の時に血が止まりにくくなってしまいます。

出血の時に対応の基本は「圧迫止血」ですので、圧迫できる場所であればおそれるに足らずなのですが、月経の場合はそういうわけにもいかないでしょう。

従ってこの患者さんには抗血栓薬使いにくい状況です。さあどうしましょう、ということになりました。

私がこの患者さんの主治医でしたが、基本に忠実にまずは食事療法で再発予防を図ることに致しました。

軽度の肥満がおありの方でしたので、具体的に糖質制限の理論を説明し実践してもらうことを推奨、患者さんも実践してくれる事となりました。

そして月経と貧血の問題が解決した段階で改めて抗血栓薬について検討するという方針にしました。

その後、この治療方針につき複数の神経内科医の間で議論する場があったのですが、

食事療法で再発予防を図るという方針を提示した途端、

「えっ・・・、食事療法だけですか・・・?」

という声が上がりました。

これって食事療法をあまりにも軽視しすぎていませんでしょうか。

私は自身で糖質制限を実践し、その絶大な効果を身をもって実感していますので、

食事療法のみで経過を見守る事はなんらおかしいこととは思いませんし、むしろ最も安全かつ有効な方法だと考えています。

しかし大多数の医師はそうは考えていないようです。


このようにカロリー神話と同様薬中心主義も医療者の頭の中に刷り込まれてしまっており、

冒頭の言葉が空虚に思える悲しい現実があるように思います。

はがゆい思いもしばしば感じますが、

一つひとつ伝えられるところへ確実に伝えていくしかありません。


たがしゅう
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お薬信仰

以下、昔の会話ではありません、現在のリアルやりとりです。
お薬信仰は、根強く、医師の資質は様々・・・。

先生、ワセリン出して下さい。
・・・ワセリンは何も薬効無いでしょう。いつも言いますよねえ
じゃあ、アズノールでは?
・・・あー、チューブ1本でいいですねー
(なぜか、プロペトで書いてくれるイシもいる。なぜか、ワセリンは馬鹿にされる)

・・・えっっ?なにも塗ってないの?
薬塗らないと、治らないでしょ、悪化したらどうすんの?皮膚科に回さなきゃいけなくなったら、俺が書くんだから~。(依頼を)

ワセリン?そんなの書かせんなよー
今日は、〇〇とか、安いの(処方)ばっかなんだよー


・・・ナートしたトコ、毎日消毒しといてね。
先生、もう消毒は致しません。洗っておきます。水で。
・・・はあっはっは、ナーに言ってんの、いつも威勢いいな~

・・・ホントの会話です。
糖質制限も、湿潤治療も、溜息とともに・・・・。
めげませんが、たまに愚痴らないと、やってけません。


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Re: お薬信仰

KCO さん

 コメントを頂き有難うございます。

 お薬信仰主義、これもまたかなり根深いです。

 世間的に頭のよさそうに見えるドクターもそのようなものだということですね。「頭のいい医者と良い医者は同義ではない」、決して珍しい話ではないと思います。

 愚痴ならいつでも聞きますよ(^^)/ お互いストレスを吐き出して心の安定した生活を送りましょう。

現場は大変

たがしゅうさん Kcoさん

医療現場で、「糖質制限」「湿潤療法」を実践するのは大変ですね。
上司が絶対的な権限をもっているとなおさらです。
 無理解な医師というのは、実際には、パワーハラスメントをしているのと同じです。
 私も福祉の現場にいると、しばしばとんでもない場面に出くわします。
 例えば、統合失調症の少年が、一般病院に入院したときの事ですが・・
 少年が、夜、のどが渇いて、お金を持っていなかったので自動販売機をゆさぶりました。
 翌朝、この病院から「うちはキチガイ病院ではないから、早引き取りに来てくれ」と言われました。
 また、ある病院では、患者のいる前で医師から私に、「こういう面倒な患者は、国公立病院に連れて行ってくれ。なんでウチで見なければいけないんだ」といわれた事があります」
 人権とか、患者への思いはないのでしょうか・・・
 どうしてこんな医療関係者が幅をきかせているのか・・・
 病院にお世話になっているという気持ちと、信頼感がくずれる瞬間です。
 そんな医師ばかりではないことはわかっていても・・・

  そんな人間に医者になってもらいたくない・・!

上医・中医・下医

 中国医学(漢方)の古典に「上医・中医・下医」という考え方があります。

「上医は未だ病まざる者の病を治し(未病治)、中医は病まんとする者の病を治し、下医は既に病みたる病を治す」(千金方、孫思邈著・6世紀)の考えから食医が上医だったようです。
 
また、「上医は国を医し、中医は民を医し、下医は病を医す」(小品方、陳延之著・5世紀)とあります。

 つまり、下医とは、病気しかみていない医者(お薬信仰の医者)、中医とは、人間の全人格を考慮して診る医者、では上医とは、どんな医師であろうか?
 医師が政治家にになるというわけでは無いだろうから、(尤も、悪い事をした医師の政治家もいたが)ここは「医師として正しき思想信条を持った医者を意味していると思われます。

 糖質制限食、湿潤療法を勧め、医療のパラダイム・シフトを推進する先生方は、まさしく現代の上医だと思います。。

上医のお医者さんにめぐり逢えた、私達は幸せ者です。

Re: 現場は大変

わんわん さん

いつもコメント頂き有難うございます。

>  無理解な医師というのは、実際には、パワーハラスメントをしているのと同じです。
>  人権とか、患者への思いはないのでしょうか・・・
>  どうしてこんな医療関係者が幅をきかせているのか・・・


医師育成の教育環境も問題に関わっていると思います。

現状、医師になるのに必要なのは主に学力であり、人格はほとんど問われません。極端に言えばモテたいといった動機であっても学力さえ一定水準に達していれば医者にはなれてしまいます。

また大学病院を中心とした封建社会的な仕組みも問題です。組織の体制が従順な医師から自由な思考を奪い、患者を救う事より訴訟から組織を守る事へ仕向けさせるのです。

その結果、口では患者の為と言いながら実際の行動が伴わない医者がごまんといることを私は知りました。悲しいかなそれが日本の医療の現状ではないかと私は思います。

Re: 上医・中医・下医

haru さん

いつもコメントを頂き有難うございます。面白い考え方ですね。

検査値だけ見ている医師も下医ですね。原因を調べずただ薬だけ出し続ける医師も下医です。

実力はさておき、私も心は上医でありたいと思います。

10年前から変わっていないようです。

たがしゅう先生、こんばんは。

>一に食事、二に運動、三四がなくて、五に薬

この言葉は、糖尿病治療だけでなく、健常者にも当てはまりますよね。

今、近藤誠先生の「成人病の真実」という本を読んでいます。10年ほど前に出た本なのですが、当時と今で、ほとんど糖尿病治療に変化はないようですね。

本の中で、食事療法を続けるだけの観察治療群1,000人とインスリンなどの血糖降下剤を用い、血糖値が110mg/dl未満にとどまるようにする強化療法群1,000人を比較したデータが掲載されていました。

その結果は、観察治療群は年あたりの死亡者が19人で、強化療法群のそれは18人でした。

薬を使って強引に血糖値を正常値にしても大した意味がないということですよね。

Re: 10年前から変わっていないようです。

ミスターT さん

いつもコメントを頂き有難うございます。

近藤誠先生の考え方は基本的に私の肌に合います。薬を使って見かけの状態を落ち着かせるだけでは意味がありません。

勿論、薬が必要不可欠な場面もありますが、それすらも「本当にその薬は必要か」と常に自問自答し続ける事が大事だと思っています。

癌と薬の話題

この2日間、近藤誠氏が騒ぎ立てる報道が相次いでいます

1) 子宮頸がん予防ワクチン論文の利益相反隠蔽
www.cabrain.net/news/article/newsId/41615.html
www.hws-kyokai.or.jp/ronbun/0909/200909-1.htm

2013年春にはNovartis社員が論文に所属を伏せて載っている事が話題となっていたはず。どうして今まで隠していたのか

2) 雑誌記事の、抗がん剤のタイアップ記事

Re: 癌と薬の話題

精神科医師A 先生

いつも貴重な情報を頂き有難うこざいます。

「バレなければ大丈夫」と、やりたい放題やっているようにしか見えません。

金や商売が関わると本当に怖いです。

子宮頸がん予防ワクチン

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000014wdd-att/2r98520000016rqg.pdf

 問題の論文は厚生労働省の報告書に引用文献として大きく掲載されています。10~11頁をご覧ください

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Re: 50代で月経過多

かんな さん

 御助言頂き誠に有難うございます.参考にさせて頂きます.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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