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パーキンソン病を専門家に任せない

人体の機能がオーバーヒートした後に消耗して不可逆的な機能低下をきたす「消耗疲弊」病態、

代表格の病気は認知症です。認知症にまつわっては、コウノメソッドに代表されるごく少量の薬剤処方術が、

その方針に対し理解を示す、少数派でも熱意のある先生達によって広められ、そのすぐれた治療効果が少しずつ市民権を得られつつある状況だと思います。

なぜごく少量の抗認知症薬で効果が出るかと言えば、

薬が作用する相手である神経細胞が消耗疲弊のために機能低下し、少量分しか薬が作用する部位が残されていないからです。

それに加えて、機能低下を踏まえずに常用量投与して実は副作用をきたしているという側面がなくなるために、

ガイドライン的な治療ではなしえない治療効果をもたらしているものと考えられます。
薬が効く受け皿が小さくなったのなら、それに合わせて薬の量も減らして然るべき。

そうした当たり前の原則が守られずに、増量規定なる理不尽なルールで抗認知症薬の副作用が頻発し、しかもそれが医療者に認識されずに介護現場を苦しめているという実情があると思います。

実はそれと全く同じ現象が、もう一つの消耗疲弊病態、「パーキンソン病」の診療においても起こっています。

それを鋭く指摘するのは、以前当ブログでも紹介した神経内科医、新横浜フォレストクリニックの中坂義邦先生です。

この度、中坂先生が神経内科医として初めてその問題に切り込む御著書を世に出されました。



パーキンソン病 少しずつ減薬すれば良くなる! 単行本(ソフトカバー) – 2018/2/16
中坂 義邦 (著)


パーキンソン病は進行性の神経難病で、徐々に悪くなっていくのが当たり前だと考えられている病気です。

また根治療法は確立していませんが、対症療法としての抗パーキンソン病薬は非常にたくさんの薬が使用できる状況です。

しかし薬がたくさんある事は、必ずしもその病気の治療にとって好ましいことではありません。

糖尿病の薬がたくさんあっても病態が制御できていない状況と同様に、パーキンソン病をコントロールできていないからこそ多数の新薬が開発されているのです。

そのようにたくさん薬が使える状況は、治療の専門性を高め、専門科ではないと容易に手が出せない世界とのイメージが付きまとい、

一般的な内科開業医はパーキンソン病と診るや否や、専門科である神経内科へ回し、

あとはパーキンソン病の投薬は神経内科医を中心に行われ、一般内科医が処方するにしても神経内科の指示通りに処方するだけという状況があると思います。

では当の神経内科医がパーキンソン病に対してどのような治療を行っているかと言いますと、私も当事者として神経内科医療の現場を見てきたのでわかりますが、

どんどん薬を増やしていくのが基本的な治療の発想となっているのです。

ただジスキネジアという身体が勝手にぐねぐねと動いてしまうという副作用は抗パーキンソン病薬の副作用として有名です。

それがあれば神経内科医も薬剤の減量を考えるわけですが、中には「ジスキネジアがあるのは薬が効いている証拠」などと言ってそのまま薬を出し続ける医師もいたりします。

とにかく、積極的に薬を減らすという発想が乏しいのが、悲しいかな、多くの神経内科医が行っているパーキンソン病診療だと思われます。

今回の中坂先生の御著書の中には権威的な神経内科医が重ねに重ねてきた薬を慎重に減薬することで、

目覚ましい症状の改善をもたらすことに成功した症例の具体的な経過がわかりやすく紹介されています。

これは薬が症状を改善させたというよりも、もともと必要なかった薬を取り除くことで、身体本来の力が発揮されるようになったというのが適切だと思います。

中坂先生は神経系に作用する薬物は全て毒性が高いと指摘されます。

本来であれば血液脳関門でブロックされるはずの異物を、人為的な薬剤の工夫で通し薬効をもたらすわけですから、確かに的を射ていると思います。

私自身もパーキンソン病診療に携わり、薬剤の有害性は認識していました。

しかし以前に入院でパーキンソン病患者さんを担当させて頂いていた時に、積極的な減薬を試みてかえって動けない状態まで悪化させて元の状態に戻すのになかなか苦労するような失敗経験もありました。

今回の中坂先生の著書のタイトルでポイントは「少しずつ減薬」の部分だと私は考えています。

なぜならば、いくら減薬すべきだと言っても、一気に減薬してしまうと、

急激な代謝のハンドルを切ってしまう問題が起こり、悪性症候群に代表される難治性の副作用を呈する事につながるからです。

向精神薬を急激に減薬すると離脱症状によって悪化させることがあるという問題と共通構造を持っています。

神経内科医の私にとっては身につまされる内容であったと同時に、どうすればいいかという事に対して具体的な選択肢が提示されているため希望を持てる内容でした。

ガイドラインに捉われない発想を持てる神経内科医はもちろん、それ以外の医師にも、パーキンソン病患者さんも、関わる家族や関係者の方々にも、皆さんに是非一度読んで頂きたい内容です。

そして非専門医の先生におかれましてもお願いがあります。

パーキンソン病は前駆状態も含めれば、もはやありふれたコモンディジーズです。

ちょっとした診察のコツを学べば、誰でもパーキンソン病の存在に気付くことができます。

パーキンソン病を神経内科に任せるという発想を捨て、認知症診療でもそうであったように、

自分の患者は自分の手で守る気持ちを持ってこの本で学んで頂ければと思います。

読めば中坂先生がいかに深い所までパーキンソン病を理解し、いかに細かく時間をかけて患者さんを診療しているかという事が、

そして非専門医であっても同じような診療を目指すことができるという事がわかると思います。

私は常識や権威に捉われず、患者さんを救うために業界に一石を投じた中坂先生を神経内科医として心より尊敬する次第です。
非常におすすめの一冊です。


たがしゅう
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非公開コメント

パーキンソン病の方、関わることがあります。
神経内科医が診察するんですね。
初めて知りました。
薬を減らしてよくなることもあるんですね。見極めが難しそうです。
私も本読んでみたくなりました‼️

Re: タイトルなし

瀬川里香 さん

 コメント頂き有難うございます。

No title

薬を減らして症状が改善されるということを実感しています。

私は多発性硬化症(MS)ですが、少しずつ減薬し断薬に成功。
薬を止めてから再発しておりません。

薬の副作用でリンパ球が200まで減っていても、そのまま薬を続行する医者もいるのです。
これ程までに強い副作用のある薬を使わなくても、改善する方法は沢山あるのに…

中坂先生や、たがしゅう先生のような医師が増えていくことを切望しています。

Re: No title

黒猫ババ さん

 コメント頂き有難うございます。

> 私は多発性硬化症(MS)ですが、少しずつ減薬し断薬に成功。
> 薬を止めてから再発しておりません。


 同じ病気の人達を勇気づける言葉だと思います。
 当事者の言葉が一番説得力があると私は考えています。

 多発性硬化症も過剰適応から消耗疲弊へと移行しやすい病態です。
 不可逆的な消耗疲弊状態へと進行する前に、糖質制限+ストレスマネジメントを中心に身体機能を取り戻しながら、副作用をきたしうる薬剤への依存状態を少しずつ解消していくアプローチが望ましいと私は考えます。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院にいます。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

南鹿児島さくら病院では職員を随時募集中です。
詳しくはホームページhttp://www.nissyoukai.or.jp/
を御覧になって下さい。
見学申し込みもお気軽にどうぞ。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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