サイアミディン

肥満があるのに低栄養

昨日の記事の続きです.

重症脳梗塞でウチの病院へ搬送された70代女性の患者さんですが,

この患者さん,高度の肥満があるにも関わらず,血液検査で蛋白質が低いということがわかりました.

肥満とは「体脂肪が過剰に蓄積した状態」ですが,脂肪は本来飢餓に備えて貯蔵してある予備のエネルギー源と言えますが,

全身の栄養状態が悪いにも関わらず,脂肪がエネルギーとして利用されない矛盾した状況になります.これは「新型栄養失調」と呼ばれ,近年注目されています.

これはまさに糖質主体の食生活により蛋白質の摂取量が不足して生じる状態です.

血液検査で体内での蛋白質の状況を把握するにはいくつかの方法があります.

一つは「総蛋白」という項目で,もう一つは血液中に存在する蛋白の中で最も多く存在する「アルブミン」という項目です.通常血液(血清)中にある蛋白質の50~65%を占めています.

このアルブミン,実は臨床的にかなり重要視されています.
アルブミンは体内の蛋白質の中の最大成分であるので,まず一つ「栄養状態を反映」するというのはわかりやすいと思います.

一般的には血清アルブミンの正常値は4.0~5.0g/dLと言われていますが,

3.8g/dLを切ると低栄養予備軍,3.5g/dLを切ると低栄養の可能性が出てきます.

一方アルブミンのもう一つの重要な働きは身体の「浸透圧を調節」していることです.

簡単に言えばアルブミンに水分を保持する力があるので,アルブミンが多ければ血液の中の水分量がしっかりあるということです.

アルブミンが3.0g/dLを下回ってくるとその浸透圧が低下するために,血管の外へ水分が漏れ出してしまうために身体のむくみや胸水,腹水といった本来水分がないはずの場所に水分がたまっていくことになります.

その他にもアルブミンには「物質の保持・運搬」,「pH緩衝作用」,「抗酸化作用」などの働きがあります.

さて先般の患者さんは,この血清アルブミンの値が1.9g/dLでありました.

身体全体がむくみ,血管はボロボロの状態で,最終的には脳梗塞を起こしたこの患者さんは,果たしてこれまでどのような食生活をされてきたのでしょう.


そういえば,最近こんな本を読みました.



この本は分子整合栄養医学という糖質制限に通じる栄養学の立場の先生が書かれたもので,重要な蛋白源である肉を食べることの重要性がわかりやすく表現されています.

本の中で,血液検査の中で「AST,ALTの値が低いと蛋白質が不足している」との記載がありました.

「AST」「ALT」というのは「肝逸脱酵素」と呼ばれ,通常肝臓の細胞が壊れるような時(飲酒,脂肪肝,肝炎など)に上昇してくる項目として知られているのですが,

AST,ALTが低い場合にはあまり問題視されることがありません.しかしそれが実は低蛋白を反映している可能性があるというのです.正直このことは医師の間でもあまり知られていない事実であるように思います.

そういう目でこの患者さんのAST,ALTの値を見ていると,確かに低い傾向があることがわかりました.

どうやらこの患者さんが極端な低蛋白の状態にあることは間違いないようです.

「肉の摂りすぎは身体によくない」「卵にはコレステロールが多いので1日1個まで」「野菜は身体に良い」などの従来の健康常識が世間には相も変わらずはびこっています.

その従来の健康常識がこの患者さんを高炭水化物,低蛋白の食生活へ駆り立てたのだとすれば,この患者さんはある意味被害者と言えます.

このような被害者を減らすためには十分な蛋白質の摂取が不可欠です.

「蛋白の摂りすぎで腎臓が悪くなる」という事も蛋白質の積極的摂取に歯止めをかける要因の一つですが,

この事は近年見直されつつあります.少なくとも健康人については蛋白質の摂取が腎臓機能を悪化させるどころか,改善させるということがわかってきています(Friedman AN, et al. Comparative effects of low-carbohydrate high-protein versus low-fat diets on the kidney. Clin J Am Soc Nephrol. 2012 Jul;7(7):1103-11. doi: 10.2215/CJN.11741111. Epub 2012 May 31.).

私は患者さんに蛋白質をしっかり摂ることを勧めます.


たがしゅう
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アメリカ デューク大学 ケトン食の定義は20〜50g/日としてよいかもしれません

明確に語られていますね。
たがしゅう先生
ケトン食で注意しなければいけないことについて、コメントいただけますか?

 * * * * *  (引 用)

医師のための専門情報サイト MTpro(エムティープロ)記事

米デューク大学研究者インタビュー〈前編〉
[2013年12月19日(VOL.46 NO.51) p.15]
糖尿病に対する糖質制限食治療

よみがえるインスリン以前の標準食事療法
山田 悟氏 Eric C. Westman氏 William S. Yancy Jr.氏

 2013年10月,米国糖尿病学会(ADA)は成人糖尿病患者の食事療法に関する声明を2008年以来5年ぶりに改訂し,適切な三大栄養素比率は確立されていないことを明言するとともに「糖質130g/日が平均的な最小必要量」の文言を削除した。2型糖尿病に対する食事療法として,今や糖質制限食は重要なポジションを固めつつあるようだ。そこで,糖質制限食に関する臨床研究を牽引するデューク大学(米ノースカロライナ州ダーラム)一般内科のEric C. Westman准教授と同大学のWilliam S. Yancy Jr.准教授の両氏に,これまでの豊富な研究ならびに臨床経験からの知見と,同大学で実践している糖質制限食の実際について聞いた。Westman准教授は同大学生活習慣医学クリニック所長ならびに米国肥満学医学会(ASBP)会長を兼務しており,Yancy Jr. 准教授は今回のADA声明改訂委員の1人でもある。聞き手は,糖尿病に対する食事療法に造詣が深く,2013年11月に食・楽・健康協会理事長にも就任した北里研究所病院(東京都)糖尿病センターの山田悟センター長にお願いした。

炭水化物20g/日未満をクリニックで実践

山田 ADAの声明でも改訂された通り,糖質の理想的な摂取量については明確にされていません。Westman先生のクリニックでは患者さんにどのように指導しているのですか。

Westman 臨床では,炭水化物を20g/日未満に制限する「糖質制限-ケトジェニック食」(ケトン食)を用いています。20gは野菜を普通に食べていればほぼ達してしまう量です。

山田 非常に厳格ですね。

Westman そう思われますか。しかし,ケトン食は,インスリンの開発以前は糖尿病に対する治療法として確立されたものでした。当時の標準的な医学教科書である「オスラーの内科学」には,重症糖尿病に対する糖質摂取は10g/日とするよう記載されています。

Westman インスリンの発見は1921年ですが,それ以降,薬物治療の存在が急速に大きくなり,糖質制限治療は忘れられていました。

糖質でなくケトン体を主要なエネルギー源に

山田 日本では糖質制限によるケトン体の増加を懸念する声が強いのですが,いかがお考えですか。

Westman ご承知の通り,三大栄養素の中で炭水化物,つまり糖質だけが血糖値を直接上昇させる栄養素であり,糖質を制限して血糖値の上昇を抑えることは糖尿病治療において理にかなっています。そもそも,現在ほど糖質をヒトが食べるようになったのは,太古からの人類の歴史からすればまだ非常に最近のことです。一方,体内燃料としてのケトン体は健康的で,良いものであり,グルコースよりも毒性が低い。私たちが厳格な糖質制限食を実践しているのは,糖質中心の食生活から狩猟漁猟時代のより自然な食生活に近づけることで,体内の主要エネルギー源を現在の「糖質と脂肪酸」から以前の「脂肪酸とケトン体」へと戻し,インスリンの作用でため込まれた余分な脂肪を燃焼する経路を活性化することを意図しています。クリニックでは,20g/日未満に炭水化物を制限すると尿中ケトン値は上昇するとまず患者全員に説明していますし,「脂肪を燃焼するために脂肪を取りましょう」と話してもいます。まれに,ケトン体は炭水化物50g/日程度でも上昇する例もあります。ですから,ケトン食の定義は20〜50g/日としてよいかもしれません。ケトン食の実践では体重や血糖値の劇的な改善を経験することもよく認められるため,定期的な血液検査と医師による診察を受けることが重要です。

Yancy Jr. 肥満の2型糖尿病を対象としたBodenらの研究では,ケトン食の開始から3日で尿中ケトン値が急激に上昇しますが,その後徐々に下降してくることが示されています※。これらは体内でケトン体がエネルギーとしてよりうまく消費されるようになった結果ではないかと推察しています。

山田 ケトン食を実践している日本人のデータでは,尿中ケトン値が出ていなく,血中ケトン値が上昇している例があります。

Westman 私にも同様の経験があります。内因性インスリン分泌が保たれているか,あるいはインスリンを投与していれば,糖尿病性ケトアシドーシスを来すことはまずありません。糖質制限で血中ケトン値が上昇したといっても,それは糖尿病性ケトアシドーシスとは全く異なるものです。いたずらに恐れる必要はありません。

Westman 今後の研究としては尿中よりも血中ケトン値に注目しています。糖質制限を導入して5年余りたちましたが,患者を診れば診るほど,糖質制限で懸念されていた問題は現実には非常にまれであることが分かってきました。

糖質制限でエネルギー摂取量は自然に低下

Yancy Jr. Bodenらの研究は,いわゆるad libitumダイエットを実践したものです。まず,1週間の通常食期間の後に,ケトン食を2週間行いました。ケトン食期間中,制限したのは炭水化物の摂取量だけで,脂肪も蛋白質も自由にしてよいとだけ指導しています。すると,ケトン食期間中のエネルギー摂取量は通常食期間に比べ自然に低下したのです。

山田 なぜ,糖質制限を行うとエネルギー摂取が低下するのでしょうか。

Westman Bodenらの研究で,通常食とケトン 食期間における空腹感のvisual analogue scale(VAS)値はエネルギー摂取量に差があるにもかかわらず同等でした。糖質制限を行うと空腹感が低下し,食事量が減るため,摂取カロリーも低下するのです。

山田 では低糖質−高蛋白食と低糖質−高脂肪食であればどちらを推奨しますか。

Westman 高脂肪食です。厳密には,低糖質,高脂肪,そして適度な蛋白質量の食事を推奨します。

Yancy Jr. 食事の蛋白質については肉食が尿酸値を上昇させると考えている人が多いと思いますね。

Westman 確かに。それは食事療法が混在しているときに生じる誤解です。炭水化物をきちんと制限している限り,肉食に問題はありません。尿酸は腎臓を通じて排出されるため,糖質制限を開始して最初の週に尿中ケトン値が上昇し,尿酸値が上がることは考えられます。しかし,これは糖質制限で尿酸値が増えたわけではなく,ケトン値が再び低下してくれば消失します。一種の代謝変容の過程なのです。
※ Boden G, et al. Ann Intern Med 2005; 142: 403-411.

毎日が勉強ですね

おはようございます。
やはり医者と言う職業は大変ですね。
そうです毎日診察し矛盾について考える先生はほんの一部ですね。

私の周りのドクター自分で考えていません。なぜなら体調が良いくならないのは患者の責任、薬はなんでも増やす・・・

そんな理由で、近所の医者でなく今は片道2時間かけて竹・先生のところまで通院しています。

たがしゅう先生と竹・先生の会話を聞いているだけでも安心します。

たがしゅう先生や江部先生は自身でエビデンスを作りながら日々の診察されていますね。

本当にご苦労様です。
たがしゅう先生、現代のあかひげ目指して頑張ってください。

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Re: アメリカ デューク大学 ケトン食の定義は20〜50g/日としてよいかもしれません

わんわん さん

 情報を有難うございます。

> ケトン食で注意しなければいけないことについて、コメントいただけますか?

 糖質制限食とケトン食は表裏一体です。

 同じ食事療法の負の側面(有害である糖質を減らす)と正の側面(有益であるケトン体を増やす)をそれぞれ表現しているにすぎません。

 デューク大学で推奨される「糖質制限-ケトジェニック食(20〜50g/日)」は江部先生のスーパー糖質制限食と同等の内容ですので、江部先生のブログで紹介されている注意点をご覧頂くのがよいと思います。

 「糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について」
 http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-category-110.html

 ただ「ケトン食」自体はもう少し幅の広い概念です。これに関しましては、また時間ができたら本記事の方で解説したいと思いますので、今しばらくお待ちください。

No title

お早うございます。蛋白質のとりすぎは腎臓が悪くなると 私も思つていました 糖質制限食をしているとどうしても蛋白質が多くなるので少し気にしていました 改めて血液検査のASTとALTの値を見て今まで通り安心して蛋白質をしっかり取ることにします。

Re: 毎日が勉強ですね

もとつむり さん

 いつもコメントを頂き有難うございます。

> 私の周りのドクター自分で考えていません。なぜなら体調が良いくならないのは患者の責任、薬はなんでも増やす・・・

 私の印象では食事療法に関して自分の指導が間違っているかもしれないと考える医師はまずいないです。カロリー制限食が唯一無二の食事療法と考えられているからです。

 糖質制限食を指導すれば実際に症状がよくなっていく患者さんがいることを知ることができます。それをみて初めて「自分が間違ってしまっていたのかもしれない」と思えるのですが、多くの医師はそのスタートラインにすら立っていません。糖質制限食を知らないし、知っていても異端の食事療法と考えているからです。

 糖質制限を知り、私の前には今までに見えなかった世界が確実に広がりました。

 この世界の事をこれからも少しずつ伝えていきたいと思います。

Re: No title

田中 和子 さん

 いつもコメントを頂き有難うございます。

 蛋白質にまつわる誤解も多いので、少しずつ軌道修正していきたいですね。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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