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サイアミディン

咳を抑えるため全身を意識する

私の知人から「長引く咳」への対処法について尋ねられたので、

本日はこれについての私の考え方について記事にしたいと思います。

咳とは、気道に入ってきた異物や気道にたまった痰を喀出するために必要な生体の防御反応です。

風邪などの感染症に罹患し、異物を気道から排出する需要が高まった時に出る咳は当然の成り行きであって、

こうした状況で辛いからと安易に咳を止めようとする行為は、むしろ身体の治癒反応を遅らせてしまうため好ましいことではありません。

ただし長引く咳の場合は事情が異なります。もはや排出すべき異物も痰もさほどないにも関わらず、

咳が依然として出続けている状況は、言わば咳反射の「過剰適応」状態であり、直ちに是正すべきと思います。
この「長引く咳」に対して、一般的にはどのような治療が行われているのでしょうか。

少し調べてみると日本呼吸器学会「咳嗽(がいそう)に関するガイドライン 第2版」に準拠した、

「専門医に学ぶ 成人と小児のための長引く咳の治療指針」という冊子が2013年に総合医学社から刊行されていましたので読んでみました。



専門医に学ぶ成人と小児のための長びく咳の治療指針―日本呼吸器学会「咳嗽に関するガイドライン第2版」に準拠して

そこには感染症後の長引く咳以外にも、

喘息などアレルギー性の咳、喫煙との関連が示唆される慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴う咳、

心不全や逆流性食道炎などの一見咳と関係なさそうな疾患による咳や、高齢者を中心とした誤嚥による咳、さらには心因性咳嗽まで、

様々な病態ごとの長引く咳に対する解説と具体的な治療法が記載されていました。

その大きな流れを抜粋しますと、感染症による咳が除外されていることを前提に次のように考えます。

まず咳の副作用をもたらす薬(一部の降圧薬など)、喫煙などの明らかな咳の誘発因子を可能な限り除去します。

その上で痰を伴う場合は、副鼻腔気管支症候群などの慢性感染症の可能性を考慮し、可能な限り痰培養を提出した上でマクロライド系と呼ばれる抗菌薬の少量内服治療を8週間行います。

痰を伴わない場合は、さらに問診で季節性の有無や胸焼けを伴うかどうか、感染症が先行していたかどうかなどを尋ね、

大きくアレルギー性なのか、逆流性食道炎性なのか、感染後咳嗽症候群なのか、それ以外なのかを区別していきます。

アレルギー性なら抗ヒスタミン薬やステロイドなどアレルギー反応を押さえる薬を、

逆流性食道炎性なら胃酸分泌抑制薬(PPIなど)を、感染後咳嗽症候群なら中枢性鎮咳薬などの対症療法薬を使用する、という流れです。

しかしながらこの流れだと、抗菌薬とステロイド以外の薬は、

精巧な生体システムの一部をブロックする類の薬なので、表面上咳が治ったように見えたとしても、

胃酸分泌不全などの別の代謝障害を潜在させることへとつながり、根治からは程遠く場合によっては余計にこじらせる結果となりかねないので私にとってはあまり気の進まない治療方針です。

ステロイドに関しては「過剰適応」病態によく使われており、

咳の場合でも確かによく効いてくれることがあり、私が処方する場合もあるのですが、

咳が長引くというストレス状態に対して外部からストレスホルモンを補充することで強制的にストレス状態を解除するような治療です。

当座の解決にはなりますが、その代わりにステロイドの自己分泌能を怠けさせる側面がありますので、

あくまでも緊急避難的に用いるべき治療であって、先々に同じトラブルを起こさないようにするためにはできるだけ避けるべき治療かと私は思っています。


咳が長引いているということは、自らが引き出した生体の防御反応が、

コントロールできなくなって「過剰適応」状態となっているわけなので、

是正すべきは表面上の咳ではなく、過剰に反応が起こってしまっている身体の免疫反応の方なのです。

正直言って免疫というシステムそのものに調整的にアプローチできる薬は西洋医学ではステロイドくらいしかありません。

ということは西洋医学的アプローチでは、長引く咳が治るも治らないも本人の免疫システム次第ということになってしまいます。

そこで重宝するのが、私が普段からよく利用している漢方薬です。

漢方薬で咳に作用する薬はシステムの一部をブロックする西洋薬の効き方とは一線を画しています。

詳しいメカニズムは解き明かされていませんが、まさに上記で求められる免疫システムに調整的に作用するとしか思えない効き方をしてくれるのです。

上述のガイドラインでは麦門冬湯という漢方薬が長引く咳に対して唯一紹介されていましたが、

それ以外にも漢方薬で長引く咳に対して使われる漢方薬は半夏厚朴湯、麻杏甘石湯、五虎湯、人参養栄湯など様々な種類があります。

どうやって使い分けるかを説明すると長くなるので、ここでは概要だけに留めておきますが、

身体が乾いているかどうか、逆に水分がたまりすぎていないかどうか、冷えていないか、炎症がくすぶっていないか、

あるいは自律神経が高ぶっていないかどうかなど、咳の陰に隠れた身体全体のシステム異常を推測するようにします。

そしてそれぞれの異常状態に対して経験的に用いて効果があったとされている漢方薬を合わせていくのです。

従ってこのブログの場で〇〇が長引く咳に効く、などと断定的に漢方薬を紹介することはできませんが、

強いて言えば麦門冬湯と半夏厚朴湯の組み合わせは、風邪などの感染症後の長引く咳に対してかなり好成績の印象を持っています。

麦門冬湯は長引く炎症や過剰な痰排泄で乾燥に傾いた水産生系システムの是正に良いのでしょうし、

半夏厚朴湯は長引く咳によるストレス持続から来る交感神経過緊張状態の是正に役立つ印象があります。

おそらく多くの感染後咳嗽症候群がそのような病態になることが多いから効く確率が高いのだと思いますが、

よりシャープに効かせようと思えば診察上のちょっとしたコツがあります。

漢方薬処方を希望する方はドラッグストアなどで自主購入するより、お近くの漢方専門医へ受診されることをお勧めします。

ともあれ表面的な咳だけではなく、身体全体にアプローチすることで、

こじれた生体システムを整える可能性を持つ漢方薬による治療は、

長引く咳の治療指針の中で欠かせない存在だと私は思います。


たがしゅう
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たがしゅう先生おはようございます。私の母は何年も原因不明の咳が出ていましたが、カリンを漬けた物を毎日食べていたら数ヶ月でピタリと咳が止まりました!!カリンお恐るべしですね。

Re: タイトルなし

あっぴ さん

コメント頂き有難うございます。

私自身にはカリンの使用経験はありませんが、漢方薬としても利用されているようですね。
自然の構造を利用した薬の奥深さを見ることができますね。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院にいます。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

南鹿児島さくら病院では職員を随時募集中です。
詳しくはホームページhttp://www.nissyoukai.or.jp/
を御覧になって下さい。
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※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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