サイアミディン

許容と推奨では雲泥の差

糖質制限の考えが徐々に広まってきていますが、

ひとくちに「糖質制限に理解のある医師」といっても様々な立場の医師がいます。

糖質ゼロを推奨される先生もいれば、緩やかな糖質制限は推奨するけれども厳しい糖質制限は推奨しないといった先生もいらっしゃいます。

しかしこの両者には糖質の推奨摂取量以外に極めて大きな差があります。

それは「糖質を必要なものと考えているか否か」ということです。

糖質は栄養学の中で長らく三大栄養素として扱われてきましたが、その科学的根拠は乏しく、人間栄養学的に糖質は必須栄養素ではありません。

つまり糖質は「全く摂取しなくても生きていけるもの」です。
ここで勘違いしてほしくないのは、「糖質」と「ブドウ糖」は異なるということです。

「糖質」とは「食べて吸収されると100%ブドウ糖に変換されるもの」ですが、

「ブドウ糖(=グルコース)」は「人体によって最低限必要なエネルギー源」です。ここを混同してはなりません。ちなみに「血糖値」とは「血液中のブドウ糖の濃度」のことです。

ブドウ糖を利用する「ブドウ糖-グリコーゲンシステム」は夏井先生の言葉を借りれば人体にとっての「旧型エンジン」ですが、

このエンジンは進化の過程の中で完成しつくされてます。

まず「ブドウ糖」は外から食べなくても、脂肪、蛋白質を用いて「糖新生」というシステムを用いて自分の身体で24時間安定して合成することができます。

さらに飢餓などの何らかの事情で血糖値が下がる場合に備えて、低血糖を回避するために多重のバックアップシステム(グルカゴン、アドレナリン、成長ホルモン、コルチゾールなど)も完備しています。

さらに人体はもっと効率的な「ケトン体-脂肪酸システム」という「新型エンジン」を増設することでより効率的にエネルギーを産生できる優れたシステムに生まれ変わりました。

つまり人体のエネルギー産生システムはもともと糖質をとることを前提に作られていないということです。

だから、ブドウ糖がエネルギー源という事は紛れもない事実ですが、だからといって「糖質はある程度とらないといけない」という話にはなりません。

「緩やかな糖質制限を推奨され、厳しい糖質制限を推奨しない」という立場の医師はこの「糖質」も「ブドウ糖」も同じエネルギー源だと解釈してしまっている可能性があります。だから厳しい糖質制限をするとエネルギー不足になり、身体に様々な支障をきたす、という考えに至るのでしょう。

しかし、そうでないことはいわゆる「厳しい糖質制限」をやっている人なら皆知っていることだと思います。

またそうした医師が厳しい糖質制限を推奨しない理由として、「ケトーシス(ケトン体が上昇すること)」の有害性の指摘がありますが、

これはインスリン絶対的欠乏状態でのケトーシスによって起こる「ケトアシドーシス」を意識してのことだと思います。

インスリン自己分泌ゼロの1型糖尿病や長期の2型糖尿病の人での糖尿病性ケトアシドーシスや、急激に液体の糖質を大量摂取し一時的なインスリン枯渇状態をきたすペットボトル症候群でのケトアシドーシスが有名です。

確かにケトン体は酸性物質なので、「アシドーシス(酸血症)」という状態を起こし得ます。アシドーシス自体は身体の恒常性を保つ上で有害な現象です。

ただしインスリン作用がある程度保たれていればアシドーシスは自然補正されます。

私は個人的に絶食療法で自分の総ケトン体を10142μmol/Lまで上昇させた経験があります。その時のインスリンは3.3μIU/L(基準値:1.9-23.0μIU/L)でしたが、それでもアシドーシスは自然補正されました。

従ってインスリン作用が保たれていれば、ケトン体は危険どころか、さまざまな非常に有益な作用をもたらす重要な物質であるのです。

このように緩やかな糖質制限までを推奨するのか、糖質ゼロを目指すのかでは雲泥の差があります。

ちなみに私の基本的な指導スタンスは「理想的には糖質ゼロ、しかし社会環境に折り合いをつけるために1回の食事中の糖質量を20g位までにする」というものです。

従って、江部先生のスーパー糖質制限食や修正アトキンス食が最も私の指導スタンスに近い食事療法になります。

その中で釜池先生の糖質ゼロ食、荒木先生の断糖食、渡辺先生のMEC食などの基本「糖質は必要ないもの」というスタンスである他の食事療法も参考にしながら指導に当たっているのが現状です。

緩やかな糖質制限のみを推奨される医師は、本当の意味で糖質制限を理解しているとは言えないと思います。


たがしゅう
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よくぞ言ってくれました!!

たがしゅう先生

いつもブログ楽しみにしています。先生、ほんとに今日の記事は我が意を得たりの心境です。以前、こちらのブログに糖質制限に理解のある医師のクリニックに行き、がっかりした話を投稿しましたが、私も基本的には先生と同じようなスタンスです。私も断食、糖質ZEROなどいろいろやってみましたが、糖質が必要なものだとは全く感じませんでした。むしろ、パフォーマンスが落ちるものでしかないという印象です。一時的には多幸感をもたらしたりしますが、そのあとは、眠気が襲って来たり、さらなる空腹感に苛まれたりと散々な状態に陥ります。なかなか、糖質制限を本当に理解されている医師は少ないようです。私は三件目でようやく、たがしゅう先生のように根本的に理解されている医師に出会いました。今年もあとわずかになりました。今後も、先生のブログを楽しみにチェックして行きたいと思っています。少しはやいですが、良いお年をお迎え下さい。先生のさらなるご活躍をお祈りしております。来年もよろしくお願い致します。

Re: よくぞ言ってくれました!!

carpediem さん

 コメントを頂き有難うございます.

 糖質制限を理解することは,裏を返せば従来の常識を抜本的に見直すことです.

 従来の常識の延長線上で糖質制限を理解しようとしても,それは理解していると言えません.

 本当に奥深いです.私のような一介の医師が,糖質制限にまつわる文章を毎日書けることがその奥深さを象徴していると思います.

 どこまで続けられるかはわかりませんが,宜しければこれからも読んでやって下さい.

ためになりました。

なるほど、推奨派といっても医師によってスタンスが違うのですね。その根本理由が糖質に対する理解とは…。とても参考になります。
ブドウ糖≠糖質というのも勉強になりました。なぜ糖質摂取が不要なのか、これで自分のなかでさらにクリアになりました。
私はスーパー糖質制限です。
まだ2か月めですが、肌がスベスベになり、髪にはコシが出てきました。
体重も5kg減少。
従来のカロリー制限でやせると顔の肉がたるむそうですが、そのようなことはまったくなく、きれいにすっきりやせてきて、周りが驚いています。
あきらかに健康に向かっています。身体は正直ですね~。

Re: ためになりました。

月夜野うさぎ さん

 コメント頂き有難うございます.

> ブドウ糖≠糖質というのも勉強になりました。なぜ糖質摂取が不要なのか、これで自分のなかでさらにクリアになりました。 

 お役に立ててよかったです.これからも無理なく糖質制限をお続け頂ければと思います.

20グラム?

大変参考になりました。

それで、あなたはなぜ糖質を20グラムも取ってるんですか?
やせないなら完全に0を目指すべきではないんですか?
中途半端にやっているから周りも本気にしてくれないんだと思いますが。

Re: 20グラム?

タケシ さん

 理想はゼロであっても,世の中の人間が皆理想通りにできるわけではないということです.

わかりやすい解説に感謝です

こんにちは!

「糖質」「炭水化物」「ブドウ糖」という言葉の意味を
きちんと正確に把握しておくのはとても大切な事ですね。
自分で使っていて、これであってるのかな?と
ちょっと不安になる時もあるので、
きちんとわかりやすく解説して頂けて
本当にありがたいです。

糖質制限を続けて行く上で、
糖質は「食べなくても人間は生きていける」という事実、
まさに今日の記事は
「知りたい本当のところ」
のひとつだと私は思います。

いつも楽しみに拝読していますが、
今日こそは、心の底からロムしていて良かったと
たがしゅうさんに感謝したいです!

これからも、素人にはいまいちわかりづらい事を
わかりやすい記事で情報提供して下さい。
きっと私だけではなく、多くの人々、
時代が求めている事だと思いますよ!

応援しています☆

趣旨を知る

たがしゅう先生、こんにちは。
当初は糖質が血糖値を上げるということで血糖値をコントロールする目的で炭水化物を制限していましたが、糖質はたばこや酒と同じで嗜好品であり、決して人間は糖質を必要としていないということは知りませんでした。

世の中の人は大部分は糖質というか炭水化物は必須なものだと思っているので炭水化物を摂らなくなると体に不具合が起こるのではないかという恐れを抱いているのではないかと思います。

私は江部先生がおっしゃるスーパー糖質制限を初めてほぼ一年になりますが、それにより体に力が入らないということはありませんし、理性が吹っ飛ぶような異常な空腹も経験したことがないのでたがしゅう先生がおっしゃるように糖質は体にとって必須なものではないということが実感として理解できます。

たがしゅう先生のこのブログのおかげで糖質の位置づけというのがよく理解できました。

今も炭水化物は摂っていませんが、私自身の認識では糖尿病とかいうことではなく認知症などにならずに生涯自分であり続けるために糖質の摂取を制限しているという感じです。

来年もよろしくお願いします。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: わかりやすい解説に感謝です

棗 さん

 いつも御覧頂き有難うございます.

 私が理解したことはできるだけわかりやすい記事にして伝えることを心がけたいと思っています.

 これからも宜しくお願い申し上げます.

Re: 趣旨を知る

クロワッサン さん

 いつもコメントを頂き有難うございます.

 「糖質が不要」ということは,糖質を控えることによって糖尿病や肥満だけでなくさまざまな病態が改善していく事実からもうかがい知ることができます.

 事実を元にどう考えるかが重要だと思います.従来の常識の延長線上で考えていては事実を捻じ曲げて理解してしまうことも起こりえます.

 これからもこの糖質制限の問題,しっかり向き合っていきたいと思います.今後とも何卒宜しくお願い申し上げます.

NPO法人 日本ローカーボ食研究会

◇正しく知る糖質制限食 --科学でひも解くゆるやかな糖質制限--

http://gihyo.jp/book/2013/978-4-7741-6083-2

「緩やかな糖質制限は推奨するけれども厳しい糖質制限は推奨しない」という考えにのっとって出版された本です

ちなみに金沢大学の篁俊成氏も類似の考えです

北里研究所病院の山田悟氏は「緩やかな糖質制限を推奨し、厳しい糖質制限は否定しない」考え方のようです

Re: NPO法人 日本ローカーボ食研究会

精神科医師A 先生

 いつも情報を頂き有難うございます。

 こちらの本私も拝読しましたが、長期予後が出ていないはずのいわゆる厳しい糖質制限に悪いという結論を出してしまっているところがおかしいですね。

 それに「厳しい糖質制限」という呼び方自体に意図的なものを感じます。

 2013年9月29日(日)の本ブログ記事
 「意図的にイメージづけされた言葉」http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-38.html
 もご参照下さい。

 今年一年大変お世話になりました。来年もまた宜しくお願い申し上げます。

たがしゅうさん

こんにちは。気楽に質問してしまい、真摯な回答をいただいて恐縮です。

ほかのブログには滅多に書き込みはしませんが僕も神経内科にかかっているのでその専門医の考えには個人的に重みが増します。

釜池氏の名前もこちらで初めて知りました。

残念ながらブログは閉鎖れているので著書もこれから読んでみるつもりです。

その関係で江部氏のブログに載っている釜池氏への絶交状みたいなものを読みましたが、釜池氏が自らは学者であると定義するのに対し、江部氏が私はただの臨床医だということをおっしゃってます。これは、病院を経営している客商売の商売人であるということを意味するのだと思いました。僕としては医師という存在は学求徒であるから尊敬できるので、釜石氏を支持したいです。かつ江部氏はかつてアボカドも禁忌としていたこともあり、やはり大先生の講釈といえど、自分で吟味する必要があると思いました。

とはいえ現実的に糖質ゼロなど不可能であります。MEC食は名前からしておかしい(soy beansは?nutsは?fishesは?)ので、僕はたがしゅう路線を支持します。mecとはフランス語だと「野郎」という意味にもなってしまいます。

いろいろ調べる中で、僕は痩せることには関心はなくてボディデザインをしたいので筋肥大ということを強く意識しています。糖質制限食が、瞬発力にも持久力にも負の影響はないことはわかりましたが、できればいつかこちらで「糖質制限と筋肥大」という記事を読んでみたいものです。

ボディビルに興味を持つといろいろ価値観が転倒します。たがしゅうさんのように130キロまでゲインして、それを支える体幹のナチュラルな強さはまさに才能です。

日本語のネット環境では低水準な揶揄も多いでしょうが、期待してます。

Re: たがしゅうさん

佐々木 さん

 コメント頂き有難うございます。

 私もいろいろ言ってますが、なかなか理想通りにはできない弱い人間です。
 様々な意見を自分の中で統合して、自分なりの方法にカスタマイズしていくのがよいのではないかと考えています。

 そういう意味では糖質セロも、MEC食も私自身の理想の食事に近づけるための方法論の一つという事になります。

> できればいつかこちらで「糖質制限と筋肥大」という記事を読んでみたいものです。
> たがしゅうさんのように130キロまでゲインして、それを支える体幹のナチュラルな強さはまさに才能です。


 なるほど面白い視点ですね。
 確かに私はおそらく下肢筋力はかなり強い方だと思います。

 ジムのレッグプレスで200kgでも余裕で挙げられますし、見た目にも実感としても下肢筋量多く周囲径も大きいです。
 それには長年高度肥満の状態を支えてきたという歴史は多かれ少なかれ関係しているのでしょうね。

 しかし最近は筋トレをしていないので、まずはその実体験を得て、生化学や生理学の知見も踏まえて何か面白そうなテーマが見つかれば折をみて記事にしてみたいと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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