サイアミディン

ケトン食でモニターすべき項目

昨日に引き続き,ケトン食の話です.

今回もこちらの項目を書籍を参考に記事を書かせて頂きます.



以前,読者の方から糖質制限をしている人が注意すべき血液検査での項目は何か,という御質問を頂きました.

糖質制限食でのモニター項目は本家の江部先生が示されている通りですので,

ここではケトン食の観点からモニターすべき項目について考えてみたいと思います.

糖質制限食とケトン食は表裏一体なので基本的には同じと考えてもらって構わないのですが,

強い糖質制限である「古典的ケトン食」の場合は,江部先生のスーパー糖質制限食や修正アトキンス食では生じ得ない副作用が起こりえるので注意が必要です.
モニター項目をみていく前に,まず古典的ケトン食での注意すべき副作用についてみていきましょう.


①過剰なケトーシス

「ケトーシス」とはケトン体が上昇し臨床症状を呈した状態のことを指します.

昔はケトン食を導入する前に最初の数日間絶食を行っていた時代があるそうです.

それは絶食が最も強力にケトン体を上昇させる方法だからですが,現在では絶食してもしなくてもてんかんの治療効果には差がないということがわかり,現在は事前の絶食は不要と考えられています.

そしてケトン体は酸性の物質ですが,通常はインスリンの働きによりケトン体が多少上昇しても酸・アルカリのバランス(酸塩基平衡)が自然に補正されて中性の状態が保たれます.

しかし絶食のように急にケトン体を上昇させすぎた場合にインスリンの働きで酸塩基平衡が補正が間に合わずに身体が酸性に傾く場合があります.通常生理的範囲のケトーシスはほとんど症状がありませんが,ケトーシスが強くなりすぎると浅く速い呼吸,易刺激性,頻脈,顔面紅潮,通常認めない疲労感,倦怠感が現れることがあります.

ケトーシスの中で最も多いのは,吐き気・嘔吐,便秘,下痢などの消化器症状です.

さらに実際に血液が酸性に傾いた場合にはこれを「ケトアシドーシス」と呼ぶわけです.

たとえケトアシドーシスに陥ったとしても,基礎インスリンの作用が保たれていれば症状の出現は一過性です.

ただ,臨床症状が許容できないくらい強ければ一時的に糖分を補充させて一旦ケトーシスを解除させる対応が必要になります.

従って,これをチェックするために「血液ガス分析」「ケトン体分画」の確認が必要です.

ただ修正アトキンス食であれば,多くの場合ケトーシスの症状は軽症であり,問題になることはあまりありませんし,一過性でありしばらくすれば次第に身体が慣れてきます.

一方ケトン体分画は採血から結果が出るまでに1週間くらいの時間がかかる事が多いので,リアルタイムに役に立たせることができません.従って,血液ガス分析は有症時のチェック,ケトン体はうまくケトン食が実践できているかどうかの確認に使う事が多いです.

②ビタミン・ミネラル欠乏

厳しく糖質の量を制限したケトン食では,ビタミン,ミネラルを多く含む野菜や果物の摂取にもかなり制限が加わります.そのため,ビタミン不足やミネラル欠乏,低カルニチン血症をきたす場合があります.

起こりうる欠乏はカルシウム,マグネシウム,鉄,亜鉛,セレンなどが報告されています.カルシウム,マグネシウムの欠乏をきたすとこむら返りなどの問題をきたすことが知られているので,そうした症状があれば測定することが望ましいです.

カルシウムに関しては欠乏すると骨量減少の懸念もあります.ただ,実はカルシウムは摂取量が少なければ下がるという単純なものでもなく,さまざまなシステム(副甲状腺ホルモン,ビタミンD,カルシトニン,サイトカインなど)によってかなり厳密に調節されています.

だから我々はカルシウムが基準値よりも少しでも外れていればそれをすぐ異常とみなす,それくらいカルシウムの調節は厳密です.ちなみにカルシウムが乱れる原因は主要調節システムである副甲状腺の異常や悪性腫瘍が原因である場合が多いです.

一方カルニチンとは,生体の脂質代謝に関与するアミノ酸から生合成されるビタミン様物質で、食品の中では圧倒的に肉に多く含まれます.カルニチンは肝臓の細胞の中で長鎖脂肪酸をケトン体に変換するときに必要な物質なので,ケトン食において重要です.

ただ低カルニチン血症が起こる頻度は非常に低いです.肉をたくさん食べるケトン食なので当然かもしれません.

症状も脱力,倦怠感,疲労感が主体で1か月以内に正常範囲に収まる場合が多いのであまり測定する場面はないかもしれません.

そして,さらに稀になりますが,セレンという微量元素が欠乏する場合もあります.セレンは穀粒,肉類,魚肉に多く含まれます(ヒューマン・ニュートリション 基礎・食事・臨床 第10版).

セレン欠乏は心筋症という心臓の病気を起こす可能性が示唆されています.心筋症はQT延長症候群という心電図の不整脈を通じて突然死を起こす可能性があるため無視できない病気です.

従って厳格なケトン食を行う場合にはセレンのモニタリングも必要になってきます.

③腎結石・尿路結石

ケトン食を行っていると尿酸が上昇する場合があります.

一つのメカニズムは,尿中に酸性物質であるケトン体がある状況では,同じく酸性物質の尿酸が排出しにくくなり血中に溜まってしまうことだと言われています.

尿酸がずっと血中にあると尿酸結石というものができやすい状況ができてしまいます.その結石ができやすい場所が腎臓であり尿の通り道である尿路だというわけです.

またカルシウムが多い場合にはカルシウム結石ができる場合もあります.

従って,結石予防のためには尿酸とカルシウム,尿のpH(ペーハー;酸・アルカリの指標)などもチェックすることが望ましいです.

ちなみに修正アトキンス食の場合は,ずっと尿中にケトン体が出るほどケトン体の値は高まらない(腎臓での再吸収効率が高まり多少のケトン体上昇では尿中にもれなくなる)ので,尿酸上昇が結石まで問題になることはあまりありません.

なお結石の予防には,尿をアルカリ化させる性質があるクエン酸の摂取が役に立ちます.




以上を踏まえまして,ケトン食実践中に一般的にモニターすべき項目をまとめます.

・血算(白血球,赤血球,ヘモグロビン,血小板)
・電解質(=ミネラル;ナトリウム,カリウム,クロル,カルシウム,マグネシウム,リン)
・血液ガス分析→アシドーシスの有無
・総蛋白,アルブミン,肝機能(AST,ALT)・腎機能(BUN,クレアチニン)
・脂質プロフィール(※空腹時)(TG=中性脂肪,LDL-C,HDL-C)
・アミラーゼ→膵炎の有無確認
・静脈血中ケトン体分画
・検尿一般(尿中ケトン体,尿pHなど)
・尿中カルシウム,尿中クレアチニン

(必要に応じて)
・鉄,総鉄結合能(TIBC),銅,亜鉛,セレン
・血清アシルカルニチン分析
・ビタミン濃度

皆様の健康維持のための参考となれば幸甚です.


たがしゅう
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コメントの投稿

非公開コメント

非常に参考になりました。

たがしゅう先生
おはようございます。
昨日に引き続き、ケトン食のお話、興味深く読ませて頂きました。「昔はケトン食を導入する前に最初の数日間絶食を行っていた時代があるそうです」とのことですが、私も三日ほど断食してスタートしました。一度リセットしてからの方がやりやすいかなと思ったのですが、昔はそのようにやっていたのだとわかり、納得しました。私の場合は生理的ケトーシスで気分が悪くなったことがなく寧ろ、体調がよくなります。血液ガス検査も受けましたが①に関しては大丈夫だったようです。②に関しては一時足が攣ることがあり、関連性があるように思います。今後、注意深くみて行こうと思います。③に関してははケトン食を始めてからどうなっているのかはわかりませんが、絶食時は尿酸値が11に跳ね上がるので注意が必要だと感じています。絶食(断食)を中止するとほぼ正常値まで戻ります。尿酸や結石が気になり、一時クエン酸摂取などもしていましたが検討していみたいと思います。総合的に考えると修正アトキンスがバランスが取れているように感じました。先生、ケトン食の情報ありがとうございました。今後もケトン食の話題を取り上げて頂けると嬉しく思います。あと、ケトン食がうまく行っているかどうかの指標として血糖値を計ると良いと聞いたのですが、これに関しては基準値などはあるのでしょうか?血糖値55~65くらいだという情報もあるのですが、摂食しながらこの数値に到達するのは少し難しく感じています。あまりその点は気にしなくて良いのでしょうか?(断食や絶食だとこの数値はなんとかキープはできました)ケトスティックスでは陽性がとりあえず出ています。教えて頂けると嬉しく思います。よろしくお願い致します。

Re: 非常に参考になりました。

carpediem さん

 コメントを頂き有難うございます. 

> ケトン食がうまく行っているかどうかの指標として血糖値を計ると良いと聞いたのですが、これに関しては基準値などはあるのでしょうか?血糖値55~65くらいだという情報もあるのですが、摂食しながらこの数値に到達するのは少し難しく感じています。あまりその点は気にしなくて良いのでしょうか?

 書籍にはケトン食実践時の血糖低値は副作用という位置付けですが,「30~40mg/dLでも症状がなければ特に治療の必要なし」とあります.血糖に関しては症状が出ないレベルでの低値安定が一番望ましいと私は考えます.具体的な数値については残念ながら私は把握しておりません.

ケトン食文献

最近の文献をご紹介します

From the Ketogenic Diet to the Oral Administration of Ketone Ester

http://www.jlr.org/content/early/2014/03/05/jlr.R046599.long



The Modified Atkins Diet in Refractory Epilepsy

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3929267/

Re: ケトン食文献

精神科医師A 先生

 いつも大変お世話になります.勉強させて頂きます.

ケトン食文献(2)

10年間のreview

Epilepsy Behav. 2013 Dec;29(3):437-42

A decade of the modified Atkins diet (2003–2013): Results, insights, and future directions.
Kossoff EH, Cervenka MC, Henry BJ, Haney CA, Turner Z

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1525505013004988

Re: ケトン食文献(2)

精神科医師A 先生

 情報を頂き有難うございます.

> 10年間のreview
> Epilepsy Behav. 2013 Dec;29(3):437-42
> A decade of the modified Atkins diet (2003–2013): Results, insights, and future directions.
> Kossoff EH, Cervenka MC, Henry BJ, Haney CA, Turner Z


 こちらの文献は以前本ブログでも記事にさせて頂いた事があります.ケトン食の将来の展望が開けてきましたね.

 2014年2月13日(木)の本ブログ記事
 「修正アトキンス食の10年」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-181.html
 も御参照下さい.

ケトン食文献

-最近の文献からお知らせ

Ketogenic Diets, Mitochondria and Neurological Diseases.
Gano L, Patel M, Rho JM.
J Lipid Res. 2014 May 20

http://www.jlr.org/content/early/2014/05/20/jlr.R048975.long


Neuroactive Peptides as Putative Mediators of Antiepileptic Ketogenic Diets
Front Neurol. 2014; 5: 63
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4010764/

Re: ケトン食文献

精神科医師A 先生

 いつも情報を頂き誠に有難うございます。

 ケトン食関連の文献、次から次へと出てきますね。頑張ってついて行こうと思います。

No title

突然失礼します。
万病予防のためケトン食や糖質制限食に
興味を持ち調べている30男です。
本記事を拝見しましてたがしゅう様に
伺いたいことがございます。
さしつかえなければ御教授願います。

上記に
>(たとえケトアシドーシスに陥ったとしても,
基礎インスリンの作用が保たれていれば
症状の出現は一過性です)

とあります。
これは既に初期糖尿病や機能性低血糖などで
空腹時血中インスリン値が
基準値の5~15μU/mLを外れているような人
(例えば2~3μU/mL等)は
ケトン食や厳しい糖質制限を実践することは
危険ということになりますか?

インスリン値が基準値内の人であっても
数ヶ月以上など長期にケトン食や
厳しい糖質制限食を実行すると
ケトン体にはインスリン分泌を低下させる
作用があると聞きますので
基礎インスリンの分泌量が基準値外低値へ低下、
ケトン食を止めた時に、
再び基礎インスリン量を回復させることは、
困難になるという状況にはならないのでしょうか。

Re: No title

まっと さん

御質問頂き有難うございます。

> 空腹時血中インスリン値が
> 基準値の5~15μU/mLを外れているような人
> (例えば2~3μU/mL等)は
> ケトン食や厳しい糖質制限を実践することは
> 危険ということになりますか?


2-3μU/mLほどなら特に問題ないと思います。
ただ厳しい糖質制限で、どれほど急激にケトン体産生が起こるかは個人差もあるところですので、
食事を切り替える最初の時期の体調には特に注意して実践すべきと思います。

> ケトン体にはインスリン分泌を低下させる
> 作用があると聞きますので


「ケトン体はインスリン分泌を低下させる」のではなく、

「ケトン体は追加インスリン分泌を起こさない」という事ですね。糖質制限でむしろ膵臓は休息できるので基礎インスリンが出せなくなるような事はないと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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