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サイアミディン

高齢者診療で10を目指さない

先日とある漢方の勉強会に参加した際に、

以下に示す一冊の本についての紹介がありました。



老人必用養草 老いを楽しむ江戸の知恵
香月牛山/原著 他2名


江戸時代に活躍した後世派と呼ばれる流派の漢方医、香月牛山(かつきぎゅうざん)が記した健康長寿のための心構えやコツ、ひいては養生のための具体的な漢方処方にまで言及されている本です。

香月牛山自身は1656年生まれで、1740年に84歳でこの世を去っており、当時としては長命であるため、ある程度の説得力があるように思えます。
同じ養生の本としては貝原益軒(1630〜1714)の『養生訓』が有名で、こちらは基本的に万人に対する養生の教えなのですが、

香月牛山は貝原益軒の影響を受けつつも、老人、小児、婦人などとよりターゲットを絞って養生の注意点を説いているという点でより細かい内容になっているというのが特徴のようです。

原文は読みにくい古語ですが、これを中村節子さんという元看護師で看護史研究会のメンバーである方が全文現代語訳を施されたのが上述の本ということになります。


さて、この本の巻五(第5章)、老人の疾病治療について述べられる章の中で、次のような文章がありました。

(p153より引用)

《駆邪ーー十の物、七、八分をしりぞけて二分は残すべし》

老人の病気は、邪気があっても完全に取り除こうとしてはならない。十のうち七、八分を除き、あとの二分は残す程度にすれば、その邪気は自然となくなるものである。

(引用、ここまで)



これは短くも非常に示唆的なメッセージだと私は思います。

ともすれば、高齢者医療への諦めのようにも受け止められかねない言葉ですが、

理想を高く持ってしまうが故に、過剰な医療を与え、それによる弊害を生じないようにするためにも大事な視点です。

老化というのは基本的に不可逆的な消耗疲弊病態です。

若い頃の細胞機能を10だとして、老化による不可逆的な機能低下が加われば、

高齢者の場合は全ての細胞機能を発揮しても7とか8にしかならないというのは理にかなった話だと思います。

ところが私達は医療者側も患者側も、自分の中での10をイメージして治療に挑んでしまってはいないでしょうか。

その目標が現実とかけ離れていればいるほど、理想とそぐわない現実に対してストレスを抱えることになりかねません。

そもそも満点が7までのところで10を目指すなんていうのは土台無理な話です。

もしかしたら満点が2とか3くらいまで下がってしまっているケースだってあるのではないでしょうか。

私は特に認知症診療やパーキンソン病診療においてそのことをすごく実感します。

不可逆的な消耗疲弊病態が進行しきっているが故に、もはや回復の幅はほとんど残されていない状態の患者、

それにも関わらず10を目指して治療をすることは、医師も患者も家族も、誰も幸せにならないのではないでしょうか。

事実、認知症やパーキンソン病の診療現場では過剰投薬による弊害が至る所で起こってしまっていますし、

だからこそ名古屋の河野先生や横浜の中坂先生らの認知症やパーキンソン病に対する減薬、必要最小限処方術が功を奏するのではないかと考えます。

諦めとは違う受容、このことが高齢者医療における勘所であると、

そんなことを教えてくれる良書だと感じました。


たがしゅう
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No title

パーキンソン病と言うと、高齢者(70歳以上?)の疾病で自分(55歳)とは他人事と思っていたのですが、ネットで調べたら50代ごろから症状がみられ年齢とともに患者が増加し、中には40歳未満で発症することもあり「若年性パーキンソン病」と呼ばれるとありました。

はっきり言って驚きました。自分の無勉強を恥じるしかありません。

しかし、うろえてはいません。

素人の私がこんな事を言うのはおこがましいかも知れませんが、パーキンソン病も他の疾病と同様に酸化ストレスの蓄積が原因ではないかと思われます。

糖質制限を実践していれば、パーキンソン病のリスクも低減出来るのではないかと思います。

しかし、私は喫煙者で大酒呑みなので糖質制限の効果を相殺してしまっている可能性が有ります。

いくら減量出来ていて中性脂肪の値が低減したからと言っても目には見えないリスクを抱えているのは覚悟しなければならないと思っています。

ところで、ネットで調べたパーキンソン病の初期症状には自分に当てはまると思われるものがいくつか有りました。

ここで、自分はパーキンソン病かも知れないと思い込み脳に過大なストレスを掛けると本当にパーキンソン病になってしまうのかも知れません。

しかし、初期症状と言われるものはパーキンソン病ばかりではなく他の疾病にも当てはまるものばかりじゃん?思われるものばかりでした。

だからと言って、自分はパーキンソン病は大丈夫などと油断してては将来痛い目に遭うのかも知れません。

人間は約37兆個の細胞からなるブラックボックスです。人知を遥かに凌駕した存在です。

ことわざに有りますが「下手の考え休むに似たり」ですね。その様な姿勢で私は自身の身体と向き合って行きたいと思います。

ところで、京大でiPS細胞によるパーキンソン病臨床試験をやるようですね。これはこれで有意味なのかも知れませんが、食生活習慣とパーキンソン病の関係のRCTでもした方が手っ取り早いのではないのかな?思いました。

Re: No title

名無し さん

コメント頂き有難うございます。

御指摘のように糖質制限は酸化ストレスの軽減という観点からパーキンソン病の予防に有効だと私は考えます。
またストレスマネジメントも重要だと思います。裏を返せばパーキンソン病の患者さんにはストレスマネジメント不良の問題を感じることが多いです。そこにもパーキンソン病予防のヒントが隠されていると思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院にいます。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

南鹿児島さくら病院では職員を随時募集中です。
詳しくはホームページhttp://www.nissyoukai.or.jp/
を御覧になって下さい。
見学申し込みもお気軽にどうぞ。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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