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サイアミディン

間違った科学的思考に注意

科学が私達にもたらした恩恵には大きなものがありますが、

使い方を間違えると大きなしっぺ返しを食らうという事は認識しておくべきではないかと私は思っています。

特に医学・医療の世界での「科学」という言葉の使われ方は大きく間違っていることが多いので注意すべきです。

「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」という本を書かれた、

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授の津川友介氏が次のような記事を書かれています。

新常識!やせるには「カロリーの質」が大切だ
科学的根拠のある「ダイエット食」とは
津川 友介 : カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授
結論から言って、これはまさに科学の間違った活用法の典型例なので、いくつか紹介してみたいと思います。

(以下、記事より断片的に抜粋)

・研究に参加した人たちを低脂肪食と高脂肪食に無作為に割り付けたランダム化比較試験(2008年の論文、2009年の論文)の結果、低脂肪食を食べていた人も、高脂肪食を食べていた人も体重の変化に差がないことが明らかになった。

・確かに単純に炭水化物の摂取量が多い人と少ない人を比較したら、炭水化物の摂取量が少ない人のほうが体重が減っていることはランダム化比較試験(2008年の論文、2007年の論文)で報告されている

・つまり、白米やラーメンのように精製された炭水化物(白い炭水化物)は体重増加につながるものの、玄米や蕎麦のように精製されていない炭水化物(茶色い炭水化物)を食べても体重は増えないことが研究結果から示唆されている

・2011年にハーバード大学の研究者らが、アメリカ人約12万人を12〜20年間追跡して、食事内容が体重にどのような影響を与えるかを調査した観察研究がある。それによると、白い炭水化物を食べている人は体重が増加しているのに対して、茶色い炭水化物を食べている人では体重が減っている。

研究結果では、じゃがいも、加糖飲料(糖分を含む炭酸飲料など。ここではダイエットコーラなどの無糖のものは含まない)、赤い肉、フルーツジュースなどをとっていた人ほど体重が増えていた。逆に、野菜や果物、ヨーグルトを食べていた人は体重が減っていた。

・注意が必要なのは、これは観察研究(食習慣の違う人たちを追跡して体重変化がどうなったか検証する研究のこと)の結果であるので、因果関係があるかどうかは明らかではないということである。

・しかし、それにしても白い炭水化物と茶色い炭水化物とでは体重変化との関係が真逆であったというのは興味深い知見であろう。

・「炭水化物さえ減らせばステーキでも焼肉でも好きな物を食べてもいい」とアドバイスされたならば、明らかにその食事療法は間違っているので、指導者を変えたほうがいいかもしれない。なぜならば、先ほど紹介した研究結果にもあったように、赤い肉を食べている人ほど体重が増えていることがわかっているからである。

(引用、ここまで)



御覧のように、津川氏が科学的と称する論法はすべて「論文にそう書いてある」というものなのです。

これは論文が絶対に間違っていないという事が大前提でなければ成立しない論法ですが、

これまで私も折に触れ紹介してきましたように、医学論文というのは示せることがかなり制限されていますし

食事の調査に限って言えば、大規模になればなるほどその信ぴょう性が怪しくなってくるという傾向があります。

ですから、一つひとつの論文にどれほど妥当性があるのか、じっくりと検証していく必要があるのですが、

津川氏は医学雑誌に掲載されている研究結果であればすべて正しいという前提で論理が展開されているので、

もしも論文の結果が間違っているとなった時に立ちどころに信ぴょう性がなくなる論法となっていることがわかります。

例えば津川氏は、「白い炭水化物と茶色い炭水化物とでは体重変化との関係が真逆であったというのは興味深い知見」と述べていますが、

これは実際に白い炭水化物と茶色い炭水化物とで体重の変化がどうなるかを実験してみればわかると思いますが、

必ずしも論文が表しているような結果にならない人がほとんどであろうと思われます。

なぜならば白い炭水化物であろうと、茶色い炭水化物であろうと、含有される糖質の量には大差はないからです。

それでは論文の信ぴょう性自体が怪しいのではないかと考えるのが妥当なはずですが、

それを確認しないまま突き進むのが津川氏の科学的な論法です。

そしてこれは何も津川氏に限ったことではなく、医学界の多くで当たり前のように見受けられる現象なのです。


では正しい科学的思考とはどういうものかと言いますと、

何はともあれ実際に起こっている事実を最優先します。

その事実を的確に説明できる科学的に妥当な解釈を試みます。

その解釈が適切であれば、他の様々な事象にも当てはまるはずなのでどんどん適用していきます。

その結果、どの事象にも矛盾なく当てはまる解釈が科学的に正しい理論として採用されることになります。

それこそが正しい科学的思考であり、疫学研究の結果はむしろその理論に矛盾するようなら疑うべき対象と考えるのが妥当だと私は思います。


おそらく数学や物理の世界はそうやって発展してきたと思いますが、

医学は複雑有機化合物の集合体である人間が対象なのでそう簡単にはいきません。

科学で解明できない部分は保留にするしかありませんが、それでも科学的に正しく考えればわかってくることがあります。

糖質制限の理論は私の知る限り最も多くの事象を矛盾なく説明できる解釈です。

くれぐれも間違った科学的思考に振り回されることのないよう注意したいものです。


たがしゅう
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No title

たがしゅう先生なら御存知かも知れませんが、下記の様な書籍が有りました。

「医学は科学ではない」
https://www.amazon.co.jp/%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E3%81%AF%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%84-%E3%81%A1%E3%81%8F%E3%81%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E7%B1%B3%E5%B1%B1-%E5%85%AC%E5%95%93/dp/4480062785

もしかしたらたがしゅう先生が既に本書をブログで取り上げていたような気もしますが、定かではありません。

是非読んでみたいと思います。

Re: No title

名無し さん

 情報を頂き有難うございます。

 タイトルは私が常々考えていることではありますが、この本はまだ読んだ事がございません。
 私も是非とも読んでみたいと思います。

既視感が

夏井睦先生のウェブサイトの「更新履歴」の2006.1.3辺りを読んでいて、同様な記述がありました。

変わってないと思うのか、こういう間違いに陥る可能性を常に自分たちは持っていると自覚せよという戒めなのか。

自分の思考が何に拠っているのかを常に確かめないといけないですね。

Re: 既視感が

緑楽 さん

 コメント頂き有難うございます。

 糖質制限に出会う前から夏井先生がいかに正しい科学的思考ができていたかというのがうかがえる文章ですね。非常に大切なことと思います。

No title

いつも興味深い記事をありがとうございます。

人間は間違いを起こします。
正しい論文、間違った論文、当然あります。

津川氏が書かれた本も、
正しい内容、間違った内容、ありますね。

情報過多だからこそ、
知識人や、活字での印刷物に惑わされず、
正しい情報、間違った情報を、
見極める目が必要ですね。

Re: No title

Etsuko さん

 コメント頂き有難うございます。

> 情報過多だからこそ、
> 知識人や、活字での印刷物に惑わされず、
> 正しい情報、間違った情報を、
> 見極める目が必要ですね。


 私もそう思います。
 自分で見極めるためのコツは「なぜ?」にこだわることです。
 「なぜ?」に自分で答えられない疑問は、むやみに信じずに保留にしておくことをおすすめします。
 そして着実に知識を蓄えていけば、いつか答えられるようになる日が来るかもしれません。

No title

ここに書いてあるとおりに白い炭水化物を減らし、黒い炭水化物に変更という食事指導をして、かなり良くなった糖尿病の患者さんが少なくとも10人はいましたけどね。「医学論文だからといって信用するな」と言ってしまうと、みなさん何を信用していいのかわからなくなり、かえって混乱を生むだけではないでしょうか?実際の症例で試しもせずに頭ごなしに否定的な見解を述べるのはいかがなものでしょうか?この論文を書いた著者にも名誉とプライドがあると思いますので配慮されたほうがいいと思います。
あと「糖質制限絶対主義・原理主義」のような排他的な思想を推進するという思想を持たれるのは個人の自由だと言ってしまえばそれまでですが、世間に与える影響力の大きさを考えれば、信者とアンチの分断・二極化を生むだけではないかと思うのですが?いかがでしょうか?
実際の臨床現場では糖質制限治療のノンレスポンダーは少なくないと思われますが、それについてはどう説明するのでしょうか?生物の多様性・個別差を考慮せず、1つの治療を推進するというのは実用的ではないように思うのですが。

Re: No title

マッドネス さん

 率直な御意見を頂き有難うございます。

> 白い炭水化物を減らし、黒い炭水化物に変更という食事指導をして、かなり良くなった糖尿病の患者さんが少なくとも10人はいましたけどね。

 何が良くなったのかにもよりますが、
 白米や白パンから玄米やライ麦パンに変えてよくなることがあるとすれば、
 食物繊維の含有量が増えるため、血糖値の上昇が緩やかになる可能性はあると思います。

 軽症であればそれでもよいですが、ある程度重症の糖尿病では糖質の含有量が血糖値の上昇具合に直結し、いわゆる茶色い炭水化物で血糖コントロール困難な症例はこれまでにも多く経験しています。
 従って私はやみくもに否定しているわけではなく、医学的根拠を持って否定的見解を述べています。
 
> 「糖質制限絶対主義・原理主義」のような排他的な思想を推進するという思想を持たれるのは個人の自由だと言ってしまえばそれまでですが、世間に与える影響力の大きさを考えれば、信者とアンチの分断・二極化を生むだけではないかと思うのですが?いかがでしょうか?

 逆にお尋ねしますが、マッドネスさんならどうすればよいと思われますでしょうか。
 
 私は糖質制限を基本に医療を展開するのがよいと思っています。
 しかし一方で糖質制限だけでは完全ではないという事は当ブログではしばしば述べています。従って私は「糖質制限絶対主義」ではありません。糖質摂取の一定のメリットも認めていますし、糖質制限以外はダメと他を排除しているわけでもないので「糖質制限原理主義」でもありません。糖質制限を基本にはおくものの、どちらかと言えば多様な選択肢を許容している立場です。

 しかしそのように情報発信をしていても、私が「糖質制限絶対主義・原理主義」だと解釈されてしまう読者の方は、私がどれだけ丁寧に記載をしていたとしても一定の割合で出てきてしまいます。誰もが私の文章をくまなく読んでくれているとは限らないからです。

 どのような情報提供をしていても、誤解する人はしますし、受け入れられない人はアンチとなります。情報の伝え方の問題も多少はありますが、本質的にはどんな情報に対しても「理解」「誤解」「拒絶」の3パターンに分かれる構造は変わらないはずです。 

 ならば自分が自分の頭で一生懸命考えた主義・主張をなるべく誤解されないように伝える努力を続けるのみだと私は思います。

 ちなみに私の臨床経験上では、糖質制限が受容できずに治療効果が得られないという人は少なくありませんが、糖質制限治療を行っているのも関わらず効果がないというノンレスポンダーは極めて稀です。

記事の引用論文を読みました

いつもブログを読んで勉強させてもらっています。ありがとうございます。私は糖質制限を軸にして2型糖尿病に対処している者です。いろいろな情報に振り回されますが、先生のブログも参考に、自分で考え納得して、主体的医療に主体的に取り組みたいと思っています。自分の体・健康・生き方のことですので。
私は茶色での白でも糖質量で血糖値が上昇する(糖質1gあたり血糖値3)ので、津川氏の書籍には興味がなかったのですが、東洋経済オンラインの記事はあまりに腑に落ちず疑問に思っていました。たがしゅう先生の今回の記事を読んでなるほど、とすっきりしました。
また、改めて興味を持ち、引用されている論文を読んでみました。総カロリー量を変数としてみていない、食品項目間の摂取量の変化の関係を見ていないなどさらに疑問を多く持ったので、自分のブログで記事にしてみました。専門家でなく、英語力も十分でないので解釈が間違っているかもしれませんが、もしお時間があれば覗いていただければ幸いです。
https://sf-empower.com/whole-refined-grains-tsugawa/
これからもブログを読んで学ばせていただきます。よろしくお願いいたします。

Re: 記事の引用論文を読みました

ホリデー さん

コメント頂き有難うございます。

論文の妥当性を自分の目で確かめる姿勢、素晴らしいと思います。
大変骨の折れる作業なので、なかなか毎回はできませんが、私もその姿勢でありたいと思っています。ホリデーさんのブログ記事の方も是非とも参考にさせて頂きます。

No title

たがしゅう先生
お忙しいなか、ブログを読んでいただきありがとうございます。これからも勉強させていただきます。よろしくお願いします。

(これ以降の内容、削除いただいても構いません。)
私のブログには厳しい脂質制限で20年来の糖尿病が完治しかけている、という方が状況をコメントしてくれたりします。そうなると、何が良いのか、また悩みそうです。人それぞれ、で片付ければよいのかもしれませんが。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院にいます。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

南鹿児島さくら病院では職員を随時募集中です。
詳しくはホームページhttp://www.nissyoukai.or.jp/
を御覧になって下さい。
見学申し込みもお気軽にどうぞ。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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