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サイアミディン

エビデンスよりも科学的思考

現実に起こっている事実を重視して進めていく正しい科学的思考は、

従来常識とされている説を疑う時にも、おおいにその力を発揮します。

例えば、「高血圧には減塩すべし」ということも医学的には常識と言われている内容です。

医学論文を見れば、減塩には降圧効果があるとか、食塩の過剰摂取が心血管発症リスクを増やすなど支持的なものが多数発表されています。

ただ一方で、減塩を行うと心血管病死亡率と総心血管イベントの頻度が高くなるなどの研究も少数ながら存在しています。

ですが全体としては「高血圧には減塩すべし」という結果の方が多数派を占めているので、

多くの専門家もその流れに従っていて、高血圧治療ガイドライン2014では6g/日の減塩が推奨グレードA、エビデンスレベルⅠで推奨されています。
なお推奨グレードAというのはガイドライン作成委員会が「強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる」と判断しているという意味で、

エビデンスレベルⅠというのはエビデンスで一番信頼度が高いとされる「システマティックレビューやランダム化比較試験のメタアナリシス」という研究結果があるということを示しています。

では「高血圧に減塩すべきではない」と結論づける少数派の論文は、信頼度が低い研究として一括で無視していてよいものなのでしょうか。

そもそも高血圧関連の論文は無数に存在するため、その一つ一つの妥当性検証をするのは相当に骨が折れる作業です。

それに仮に論文を読み切ったとしても、論文に書かれていない情報はグレーのままで、真実にたどり着けるとは限りません。そんな建設的でない作業に没頭するのは無益に思えます。

では高血圧に減塩すべきかどうか、どうやって考えるのがよいのでしょうか。おとなしくガイドラインに従っておくのがよいのでしょうか。


ここで私は現実に起こっている事実を重視します。

まずは本当に塩分制限をして血圧が下がっているのかどうかを自分の目で確かめるということです。

この時、外来患者で確認するのは困難です。減塩指導したとしても、それが本当に順守できているかどうかの保証がないからです。

この点においては糖質制限においても同じことが言えます。糖質制限指導で症状が悪化したという人が、本当に糖質制限のせいで悪化したのか、実は糖質制限できていないから悪化したのかを外来の場で判断するのは難しいと思います。

そうなれば入院患者さんで確実に減塩、糖質制限ができている事が保証された状況で評価すべきです。

当院でのいきいき食、いわゆる緩やかな糖質制限食においては、減塩は行わない事が多いですが、

減塩を行っていないにも関わらず、血圧が下がることは多く経験します。

一方で最近はそういう理由から減塩指導を積極的には行っていないのですが、

過去に自分が働いていた病院で減塩食を提供していても、血圧が下がらないので結局降圧薬を加えてコントロールしていた事がほとんどだったように振り返ります。

何よりもこの自分の目で確かめた事実を自分の中での行動指針の根本におくようにしています。


その上で次にこの事実を説明しうる科学的な解釈を考えます。

減塩で血圧が下がると考えられる理屈はおおざっぱに言えば次のようなことだと思います。

塩分、すなわちナトリウムが体内に入れば、浸透圧を一定にするために体液が濃くなりすぎないようにナトリウムと一緒に水分が引き込まれ、

その結果血管内にはいつもよりも大量の水分が入り血管を圧迫するために血圧を高くするという仕組みです。

塩辛いものを食べるとのどが渇くという現象もこのメカニズムで説明する事ができるため、この説明には一定の説得力があるように思えます。

しかし以前にも指摘しましたように、人体はナトリウムを一定濃度に保つための仕組み、ナトリウムホメオスターシスがあります。

ナトリウムが入れば水分が一緒に引き込まれる事自体は事実ですが、

その後速やかにナトリウム濃度が一定になるように内分泌・神経系のシステムが速やかに働きますので、

「ナトリウムが入る=血圧が上昇する」とは限らない、ということになります。

減塩が高血圧に有効だとする理由も、ナトリウムを制限すれば、それに伴って流入する水分も減るはずなので、

血圧はきっと下がるはずだというところにあると思いますが、

ナトリウムホメオスターシスはナトリウムが低くなった時にも一定の濃度で保たれるようにシステムに働きかけます。

ですのでせっかく一生懸命ナトリウムの摂取量を減らす、すなわち減塩したところで、必ずしも水分量が失われるとは限らないわけです。

逆に言えば塩分を摂取していないせいで水分が不足してしまうような状況があれば、それはナトリウムホメオスターシスの機構が破綻していることを意味していることになります。

これが熱中症で塩分摂取が勧められる理由と、耳にタコができる程こまめに水分摂取と言われていても若い人でも熱中症が増加している事実とリンクしてきます。

その上で先述の減塩で血圧が思うように下がっていない事実を照らし合わせて考えた時に、

私の頭の中では「高血圧には減塩すべしというエビデンスがあるけれど、はたしてそれは本当だろうか」という考えが浮かぶのです。


一方で糖質制限でなぜ高血圧が改善するのかについての理屈も考えてみますと、

以前も詳しく述べましたが、高インスリン血症が交感神経を刺激し、

頻回なインスリン分泌が交感神経持続緊張状態を作り、心拍数を増やし、血管を収縮させることが血圧上昇をもたらすというメカニズムがあります。

糖質を制限すればほぼ確実に血糖値を下げる事ができ、血糖値が上がらなければインスリン分泌も避けることができますので、

血圧を下げることに寄与するという説明が可能になります。

この場合、先程のナトリウムホメオスターシスでみられたような理論の抜け穴もないように思えます。

そして何より、自分の目で観察した糖質制限をすることで血圧が下がる人が多いという実際の現象とも合致します。

糖質制限は高血圧治療ガイドラインで推奨されている治療法ではなく、エビデンスレベルで言えばそういう研究自体が存在しないので、おそらく一番低いエビデンスレベルⅥ(専門委員会や専門家の意見)ということになってしまうのでしょうけれど、

私はエビデンスレベルⅠの減塩より、糖質制限の方がよほど科学的根拠を持った高血圧治療になると自信を持って言えます。

勿論、事実を観察する私の目自体にバイアスがかかっており、事実を正しく認識していない可能性も完全には否定できませんので、

絶対に正しいと考えてはいけなくて、頭のどこかでもしかしたら自分が間違っているかもしれないという謙虚さを持っておくことは大事ですが、

それでもこのように考えれば世の中に氾濫する医学文献をもとにした様々な見解に惑わされることなく、

自分が正しいと思う治療に向かって思考を深めていくことができるのではないかと考える次第です。


たがしゅう
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非公開コメント

どうしたらいいのでしょう

たがしゅう先生
こんばんは。この間コメントさせて頂いた続きですが、薬剤による副作用の可能性を訴えたのですが、(腹部膨満、顔膨満)先生の答えは、診察室高血圧があり、そんな状態では、治療強化は当たり前で、仕方のない事だと。
何故か、私が悪いような感じのコメントをされて、ショックで立ち直れそうにありません。治療前に以前の体調悪化を訴えたのにもかかわらず、強行軍されたのは、先生の方なのに。
もう、診てもらうのか、どうかわからなくなってしまいました。
また、彷徨い探す日々に戻るのか、私が我慢していればいいのか?本当に哀しくなってしまいました。
糖質制限して1年になります。かなり、厳しい糖質制限と、1日1食か1.5食ぐらいの小食で、体重は徐々に落ちていますが、先月は横ばいでした。眼科に入院手術を受けてきたので。それが治療強化の引き金でした。
長々とすみませんでしたが、本当にわからなくなってしまいました。

No title

医師とは因果?な職業だと思われます。

因果とは病気だけを診るのではなく患者全体を観ることでエビデンスのみに頼ることなく患者に最適な医療を施せるかということです。

江部先生は自身の糖尿病発症をきっかけに糖質摂取による身体への影響を熟推して糖質制限医療を確立し、

夏井先生は自身の自然科学に対する知的好奇心を演繹的に突き詰めることで湿潤療法を確立し、

たがしゅう先生は自身の糖質制限体験及び臨床経験を基軸に糖質制限の医療への適用の有効性を模索しています。

しかし、他の医師はどうでしょうか?

もちろん、江部先生・夏井先生・たがしゅう先生以外にも数多の医師がエビデンスだけに捉われることなく自分の頭で考えた主体的な病気だけを診るのではなく患者全体を観る医療に積極的に取り組んでいると思われます。

しかし、多くの医師はルーチンワークとして病気だけを診て患者全体を観ることなくエビデンスのみに頼って患者に医療を施している場合が多いのでなないか思われます。

例えば、医科大付属病院等では医長の診療方針に従わなければならない場合が有るでしょうし、勤務医の場合は経営の問題も有ると思います。

こんな現状を解決するにはどうすればよいのか。

医師自身の意識を変革すべきなのか。

それとも医師を取り巻く環境を変革すべきなのか。

どちらにしても一筋縄では行かない難題だと思います。

Re: どうしたらいいのでしょう

鯨岡雪枝 さん

落ち着いて状況を整理しましょう。
一番大事なことは鯨岡さんがどうしたいか、です。

望まぬ治療を変えたいのならそれを変えられるのは御本人の主体的な行動のみだと私は思います。

Re: No title

名無し さん

コメント頂き有難うございます。

確かに複雑な問題でどこから手をつけていいのかわからなくなりますね。
それでも自分ができることを着実に進めていくより他にないと思います。

わかりました

ありがとうございます。
どうしたいのか、どうしたら自分が望んでいる境地に辿り着けるのかをもう一度冷静になって考えてみます。
先生の過去のブログも虱潰しに読みあさっています。
色々、為になり、勉強させて頂いてます。
これからも、よろしくお願いいたします。

交感神経だけなら

血管は狭くならないはずです。
しかし高インスリンで実際に血管は狭くなります。
血管内皮にはインスリンの受容体がたくさんあり、インスリンに反応して活性酸素が大量に発生します。そこにsdLDLが加わると急速に血管が狭くなるようです。またインスリンは血管新生を促進しますので、それにより動脈内など変な場所に血管が作られてアテロームを成長させるようです。
ところがこれらの現象は不可逆ではないのです。
低インスリンに保つと1週間単位で血管が修復され、血圧が正常値になります。これはYouTubeで見て信じられなかったのですが実際に体験して信じるようになりました。
生命の自己修復能力は驚異的なものがあります。

あと塩分について。
糖質制限するとむしろ塩分不足に注意する必要があるようです。
海外では1日12g程度が推奨されているそうです。
塩分が不足するとレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が働き血管を収縮させ、血圧を確保しようとします。このため全身の血流が悪くなります。また最近の研究でRAA系はミトコンドリア機能を阻害し、代謝障害を惹起することが分かったそうです。
私の母は元看護婦という事もあり塩分過剰摂取を異常なまでに気にしていました。
その結果、低ナトリウム血症で倒れて救急車を呼ぶはめになりました。
6gは少なすぎると思います。

Re: 交感神経だけなら

KAZ さん

コメント頂き有難うございます。

体験を元にした御見解、誠に参考になります。
ただ厳密には、他人の体験は自分の体験とは違うので、是非自分の目でも確認していきたいと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院にいます。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

南鹿児島さくら病院では職員を随時募集中です。
詳しくはホームページhttp://www.nissyoukai.or.jp/
を御覧になって下さい。
見学申し込みもお気軽にどうぞ。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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