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サイアミディン

かんじんなことは論文に書いていない

カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教授の津川友介氏の記事を取り上げて、

文献ベースで事実に立脚していない思考は、文献の妥当性が崩れると同時に途端に信頼度を失うという問題点について指摘しました。

その記事対してブログ読者のホリデーさんより、津川氏の「白い炭水化物を食べている人は体重が増加しているのに対して、茶色い炭水化物を食べている人では体重が減っている」との主張について、

その根拠となっている引用文献(Mozaffarian D, et al. N Engl J Med. 2011 Jun 23;364(25):2392-404.)に直接当たって検証してみたとのコメントを頂きました。ホリデーさん、有難うございます。

ホリデーさんが検証された内容は御自身のブログに書かれておられます。私もその内容を読ませて頂くとともに、自分でもその文献を確認してみました。

確かにホリデーさんの御指摘もわかるような気がしますが、なかなか理解しきれない所もあります。

なぜ理解しきれないかと言えば、判断するのに十分な情報が論文に書かれていないからだと私は思います。
ホリデーさんのブログ記事では「総摂取エネルギー量が分析に使われていない」との御指摘がありましたが、

その前に実は、そもそもこの文献の食事調査がどのようにして行われたかがはっきり書かれていないのです。

この文献ではアメリカにおける3つの大規模前向きコホート調査の結果を利用して、食品と体重変化の関係を明らかにしたと書かれています。

その3つのコホート調査というのは、1976年に登録開始となりアメリカ11州の女性看護師約12万人を対象に実施されているThe Nurses' Health Study(NHS)、

同じく1989年に登録開始となり新たに14州の女性看護師約11万6千人を対象に行われているThe Nurses' Health Study Ⅱ(NHSⅡ)、

そして1986年に登録開始となった全50州より約5万人の男性の健康のプロを対象としたThe Health Professional Follow-up Study(HPFS)です。

いずれも登録集団に対して食生活、運動習慣、病気の種類、投薬内容など、健康に関する様々な出来事を尋ねるアンケートを1-2年毎に送付し回答後、回収し集計するという調査で、3つとも現在も続いている前向きコホート調査です。

その全部で約30万人の集団の中から、肥満、糖尿病、がんなどの慢性疾患がある人を除外したり、

アンケートの結果で考えにくい総摂取エネルギー(900kcal以下もしくは3500kcal以上)を記入している人を解析から外したり、

妊娠した人や65歳以上の人、あるいは交絡因子となりうる加齢に伴ってやせている人など次々に除外していき、

最終的に健康状態に特に問題のみられない30-50歳代くらいの女性看護師約10万人、男性健康プロ約2万人を解析対象にしているということです。

そこまではよいのですが、その人達の食事内容をどうやって把握したかについて論文の中で述べられていた箇所は1か所のみです。

(以下、上記文献より一部引用)

For this analysis, the baseline year was the first year for which detailed information was available on diet, physical activity, and smoking habits — 1986 in the NHS and HPFS and 1991 in the NHS II.
(この解析に際して、ベースラインの年とは食事や身体活動、喫煙習慣に関する詳細な情報が利用できる最初の年のことで―NHSとHPFSでは1986年、NHSⅡでは1991年がそれにあたる。)

(引用、ここまで)



ちょっとわかりにくいですよね。

つまり、どうやって食事調査を行ったかについては一切書かれておらず、

詳細な食事調査を行ったとされるそれぞれのコホート調査の指定年度のアンケート結果が利用されたであろうことが読み取れる文章となっています。

それから先に読み進めてみても、そのアンケートを何回行ったのかとか、食事内容が面接で確認されたのかなどは一切書かれておらず、

しばらくしてから急に評価した食事因子は果物、野菜、全粒穀物、精製穀物、イモ類、ポテトチップス、全脂肪乳製品、低脂肪乳製品、砂糖入り飲料、スイーツ、デザート、加工肉、加工していない赤身肉、トランス脂肪であったと、得られた結果だけが述べられていました。

一歩譲ってNHS、NHSⅡ、HPFSのデータベースにその詳細が書かれているから、この論文にはいちいち詳細を書いていないということなのかもしれませんが、

データベースはそうだったとしても、そこからデータを抽出したのは論文著者らなのでそこを説明していないと読み手にとっては判然としません。

3つのコホート調査は1-2年毎にアンケートが繰り返されているので、食事調査も1-2年毎に評価し直されているのかもしれませんが、

それについても明確な記載がないが故に推測の域を出ません。

そこで、現在もまだ続いているNHS、NHSⅡ、HPFSそれぞれのサイトに入り、

NHSの1986年のアンケート、NHSⅡの1991年のアンケートHPFSの1986年のアンケートをそれぞれ閲覧してみました。

すると、そこではFFQ(Food Frequency Questionnaire:食事摂取頻度調査票)と呼ばれる食事調査アンケート方式が用いられていることがわかりました。

FFQというのは、食品名、その摂取頻度、1 回に摂取するおよその量(重量、容量、大きさ)を尋ねる質問票のことです。

FFQにはさらに定量式、半定量式、固定量式などの方式がありますが、

当該のアンケートをみますと、1サービング、すなわち食品ごとの目安量が定められ、それをどのくらいの頻度で食べるかということを尋ねる内容となっていますので、固定量式ということになると思います。

例えば、ヨーグルト1カップを食べる頻度について、「1ヶ月に1度もない」「1ヶ月に1-3回」「1週に1回」「1週に2-4回」「1週に5-6回」「毎日」「1日に2-3回」「1日に4-5回」「1日6回以上」のどれかについてマークシートにマークするという感じで、

それと同じ事が多数の食品に対して尋ねられるので、答える方は骨が折れる調査法です。

それでも3つのコホート調査での対象者は皆医療に関わるプロだからアンケートにも正確に答えるであろうという性善説の下にデータが取りまとめられている所があるように思えますが、

実際のアンケートを見てみると想像されますが、気の遠くなるほどのアンケート項目の量に、医療者であっても自分なら途中からざっくりとした印象で適当に答えてしまうかもしれないと思ってしまいます。

現にそれぞれのコホート調査で後年、食事調査を毎回行うのが大変だったのか、尋ねる食品数が少なくなっていたりとカットされている部分が見受けられました。

年度毎のアンケートで調査している項目が変わるとなれば、文献のように「茶色い炭水化物で体重が減少する」と言いたければ、

最初のアンケート結果での食事習慣がその後もずっと続いているという前提で結果を解析しなければ、そのようなデータを出せないということになります。

この文献の場合は体重変動をみた期間が4年間ということになっていますので、1回のアンケート結果が4年間持続したと仮定した上で出された結果ということになると思います。


ごちゃごちゃとややこしい話をしてしまいましたが、要するに私が今回言いたかったのは、

えてして「かんじんなことは論文に書かれていない」ということです。

極めつけは、その論文で導かれた「茶色い炭水化物を食べている人では体重が減っている」という結果で、はたしてどのくらい減ったのかに関してですが、

4年間で「-0.37lb(ポンド)」となっていて、これは-約0.167kg、すなわち100-200gの体重が減って有意差がついたと言っているのです。

100-200gの体重変化など誰でも日常的に起こっている体重変動です。それが4年間の時間をかけてようやく起こって来るという結果などはたして信用に値するでしょうか。

調査方法も得られた結果も到底納得できるものではなく、何もかもが不透明で釈然としない印象しか残りませんが、

百歩譲ってこの研究結果が精緻な食事調査で行われ、得られた結果も正しい解析がなされ非の打ちどころのないデータであったと仮定します。

それでもその論文データは個人に当てはまるわけではありません。要するに本当に茶色い炭水化物で体重が減るかどうかはやってみないとわからないという話になるのです。

なぜならばその論文データは多数の人間を集めることによって個性を潰し、多様性を平均化して得られた結果であるからです。

結局やってみないとわからないことなのであれば、最初から論文などを当てにせず、とにかくやってみたらいいのではないでしょうか

やってみて実際に起こったことを基本におき、その理屈を突き詰めて考えていけば、

森羅万象に共通するルールのようなものが浮かび上がっていくことに気が付きます。

そうやって得られる気づきの方が、文献を詳しく読み込むことよりはるかに重要なことではないかと私は思います。


たがしゅう
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非公開コメント

記事に取り上げていただきありがとうございます

たがしゅう先生
私のコメントをきっかけに、記事にまで取り上げていただきありがとうございます。栄養、食事に関する調査はデータの信頼性が?のものが多いですね。
また、NHS、NHSⅡ、HPFSのアンケートまで調べていただき、申し訳ないような気がしました。このようなことに先生の貴重なお時間を割いていただくことはなかった、と思います。
素人としては、専門家が論文を引用していても、客観的な事実・真実ではなく、自分の主張に沿うデータのみを引用していることがある、ということは改めて肝に銘じたいと思います。本当は専門家の言うことはそれをそのまま信じたいのですが。

Re: 記事に取り上げていただきありがとうございます

ホリデー さん

 コメント頂き有難うございます。

> NHS、NHSⅡ、HPFSのアンケートまで調べていただき、申し訳ないような気がしました。このようなことに先生の貴重なお時間を割いていただくことはなかった、と思います。

 どうかお気になさらず。きっかけはどうあれ私が調べてみたくなったから調べただけのことです。私は常に主体的であろうと心がけています。

 ちなみにこの文献が乗った雑誌はNEJM(The New England Journal of Medicine)という世界でも最高峰の医学雑誌です。
 2018年発表のインパクトファクターランキングで79.258と世界第二位の高さを誇っています。
 そのNEJMにこのような論文が掲載されるわけですから、少なくとも権威的な医学雑誌であれば信用するという思考パターンはやめておいた方がよいという教訓にもなりますね。

食事で摂取した脂肪の行方

たがしゅう先生、こんにちは。
記事の内容と異なるコメントで申し訳ありません。

夏井先生の「炭水化物が人類を滅ぼす【最終解答編】 p.100」には、「食物中の脂肪は小腸から吸収されるが、吸収されるかどうかは遊離脂肪酸濃度によりコントロールされている。・・・・・腸管内に残った脂肪は便と一緒に排泄される。」とあります。これを読んだ時には、だから糖質制限中の脂肪摂取は体脂肪率を上げないんだと、えらく納得しました。

ところが、江部先生の「糖質制限食 パーフェクトガイド p.83〜」や「ヒトはなぜ太るのか?そしてどうすればいいか p.126〜」、「ダイエットで減った脂肪はどこへいく? https://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20150115/1062167/?P=2」には、摂取した脂肪は一旦は吸収される旨の記述がされています。

特に「ヒトはなぜ太るのか?そしてどうすればいいか」のLPL・HSLの働きについての記述は、非常に納得のいくもので、これはこれで正しいように思えます。

自分自身で試してみて、脂肪を多めに摂取しても糖質を落として入れば、体脂肪として蓄積されないことははっきりしているのですが、なぜ、そうなるかについてわからなくなってしまいました。

先生はこの点についてどのようにお考えですか?
お時間のある時で結構ですが、お答えいただければ幸いです。
よろしくお願いします。

Re: 食事で摂取した脂肪の行方

JACK さん

 御質問頂き有難うございます。

 脂肪は十二指腸で胆汁に乳化され、膵臓からの消化酵素で分解され吸収可能な脂肪酸やモノグリセリドなどの形となり小腸で血管内へと吸収されます。
 そこから先の流れは複雑なのですが、血液の中で蓄えられる脂質の量には限界量があります。その飽和状態に達していれば、それ以上は小腸からは吸収されず糞便中に脂質が排泄されることになります。

 ところがここでインスリンが作用すれば血中の脂肪が脂肪細胞を中心に体内の様々な場所へ蓄積される事となるので、血管内には再び脂肪が入る余地が生まれますので、また小腸から脂肪が吸収できるようになります。

 したがって、糖質制限をしていてインスリンが最小量にコントロールされていれば脂肪を摂り過ぎても飽和状態以上には脂肪が体内に取り込まれることはありませんが、インスリンが働く状況があれば身体は限界を超えて脂肪を取り込んでしまうということだと私は理解しています。
 ちなみに私はタンパク質でもインスリンが結構出てしまう体質なので、糖質制限をしていても一定以下に体重を落とすことが困難です。

Re: Re: 食事で摂取した脂肪の行方

お忙しいところ、早々にお答えいただきありがとうございます。

> その飽和状態に達していれば、それ以上は小腸からは吸収されず糞便中に脂質が排泄されることになります。

だから、「吸収されるかどうかは遊離脂肪酸濃度によりコントロールされている」ということになるのなんですね。スッキリしました。

FreeStyleリブレでチェックしていると、知らずにグルコースミニスパイクが起きていることがあります。脂肪はいくら取っても大丈夫というようなことを鵜呑みにしていると、中途半端な糖質制限の場合、知らないうちに脂肪を取り込こんでしまうということも起こり得ますね。

> それ以上は小腸からは吸収されず糞便中に脂質が排泄されることになります。

この場合、脂肪便ということにはならないのでしょうか?

Re: Re: Re: 食事で摂取した脂肪の行方

JACK さん

> この場合、脂肪便ということにはならないのでしょうか?

なります。ただし、多くの場合は便が水に浮くようになる程度です。
教科書に載っているような白い脂肪便は、基本的に重症膵炎などで胆汁も膵液も両方出なくなるような特殊な事態に見られる現象です。

Re: Re: Re: Re: 食事で摂取した脂肪の行方

何回もお答えいただいてありがとうございました。
お陰様でスッキリしました。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院にいます。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

南鹿児島さくら病院では職員を随時募集中です。
詳しくはホームページhttp://www.nissyoukai.or.jp/
を御覧になって下さい。
見学申し込みもお気軽にどうぞ。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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