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「悪」:小川仁志先生の哲学カフェの御報告

私が哲学カフェに興味を持つきっかけを与えて下さった、

山口県は徳山を拠点に活動されている哲学者、小川仁志先生が主催する哲学カフェへ今回も参加して参りました。

今回のテーマは「悪」ということで、いつもと違ってネガティブな感じがするテーマでしたが、ネガティブと捉えること自体がすでに先入観にとらわれてしまっているのかもしれません。

今回もさすが全国的にも有名な小川先生が開催される哲学カフェだけあって、

本格的な哲学者、宗教家、私のような医師などの専門職から、中高生や大学生、主婦や御年配の方々、常連メンバーも加わり、総勢30名くらいの老若男女様々な参加者で開かれた対話を楽しんで参りました。
まず小川先生の最初の質問の投げかけは、「悪」という言葉のイメージを膨らませるために、

「悪と言えば何を思い浮かべますか?」というものでした。

政治家、腹黒い人、人を殺すこと、人に迷惑をかけること、犯罪者、サイコパス、倫理観の欠如、メディア、ずる賢さ…などなど、

様々な意見が上がる中で、話は「悪を悪たらしめている基準」「善悪の判断基準」とは何なのかということに話は及んでいきました。

そしてこの疑問は、そもそも「絶対悪」というものは存在するのかという疑問へとも繋がっていきました。

というものも、世間的に見て一見悪だと思われがちな現象においても、

人によっては悪と感じないというケースが現実に見受けられると思います。

例として分かりやすいことに、アンパンマンとばいきんまんの話が紹介されていました。

アンパンマンという物語の中でばいきんまんは悪役として描かれていますが、

見る人によってはばいきんまんはアンパンマンを倒すためにあらゆる努力を惜しまない努力家の側面があるといいます。

かたやアンパンマンは顔が濡れたら力が出ないと代えの頭部が届くまで何もしない(できない)他者依存的な側面があるというのです。

確かにそんな風に考えてみたことはなかったですが、言われてみればそういう見方ができなくもありません。場合によっては善悪の立場が逆に見えかねない思考の転換です。

こう考えると絶対的な悪というものは存在せず、悪とはあくまでも相対的なものであるということが見えてきます。

そもそも、もし絶対悪というものがあるのだとすれば、

哲学カフェにおけるルール「相手の意見を全否定しない」ということが守れないケースが出てくるということになってしまいます。

無差別大量殺人や戦争を影で操る謀略でさえ、当人の中で正当化された善の要素があるはずです。たとえどれだけ極端な意見だとしても、どんなプロセスでそう思うに至ったのかを考えて本質を理解しようとすることは大事だと私は思います。

それゆえ私は「自分の価値観にそぐわないものを人は悪だと認識しているのではないか」という意見を述べさせて頂きました。

他の参加者から挙げられた例の中に「制限速度60kmの道をみんなが時速70kmで走っているのに、一人だけ律儀に時速60kmで走るのは、それはもはや悪だと思う」という意見がありました。

なぜならば皆が時速70kmで走った方が道路の全体の流れがスムーズになるわけで、

一人だけ時速60kmで走っていれば流れが滞って全体に迷惑がかかってしまうからだというのです。

ここから「みんながやっていることに従うのが善で、みんなと違うことをするのが悪ではないか」という見解が導き出されました。

しかし私はそこには落とし穴があるように思いました。「みんながやっていることが常に正しいとは限らない」ということです。

ただしみんながやっていることをやっていれば安寧が得られやすいという傾向はあると思います。「赤信号みんなで渡れば怖くない」というやつです。

要するにみんながやっていることというのは、いわゆるパラダイム、社会通念、常識と呼ばれるものにつながりやすく、

多くの人が善悪を判断する価値観として使用されやすいという側面があるのではないかと思います。

ところが時速60kmで走っている当の本人にしてみれば、きっと悪を遂行している自覚はないはずです。

むしろ「自分は法定速度という社会で決めたルールを守っている」と、善を遂行している心持ちなのではないでしょうか。

要するに時速70kmで走る人の価値観は全体の流れがスムーズになることが善、時速60kmで走る人にとっての価値観は法律を守ることが善、という風に価値観が違うから、

人によっては悪で、人によっては善、という状況が生み出されるのではないかと思うのです。

別の例としてはブラックジャックを悪と感じるかどうかというのがありました。

ブラックジャックとはかの有名な漫画家でかつ医師免許も持っていた手塚治虫先生のマンガ作品のキャラクターで、

無免許医ですがずば抜けた手術の腕の持ち主で、世界中の誰も手術できないとされる難しい患者の手術を引き受ける代わりに法外な報酬を要求するという医師のことですが、

カフェ参加者の挙手でアンケートをとられたところ、大多数の人がブラックジャックを悪とは思わないという見解を持っておられました。

それは多くの方の命に対する価値観がブラックジャックの信念と一致していたが故のことなのではないかと私は思いました。

逆にブラックジャックと価値観が合わない、例えば命を救うのに億単位の報酬を要求するのは悪徳だという価値観の人にとってはブラックジャックは悪に映るであろうと思います。

このように、善悪の判断は私達が今まで生きてきた中で知らず知らずのうちに形成された価値観によってなされているのではないかと思うわけです。だから移ろうのではないでしょうか。

ではその価値観はどのようにして作られるのかと言えば、人生の中で喜びや心地よさなど本人が正と感じた経験の積み重ねによって作られてきているのではないかと私は考えます。

その意味でみんなと一緒であることの安寧では、心地よさを感じやすいので、

だからみんながやっていることが多くの場合に善だと認識され、その逆が悪だと認識されやすいのではないかと思います。

過去の大量殺人事件の犯人は絶対悪ではないかという意見もありましたが、

そのケースでさえ、本人にとって世の中全てが敵に見えた状況において、自分以外の敵を仕留めるという行為には喜びや快感などを感じるという価値観が背景にあったのではないかと想像します。

そんな風に絶対悪はないということで会場に納得の空気が流れかけていたところに、

ある哲学の先生が、「そんな風に感じていながら、私達はこのカフェ会場を後にすれば結局『あの人は悪い人だ』などと判断したりすることがある。それって怖いことじゃないでしょうか。」と述べられました。

それに関しては私には、「人間はそれほど合理的に動ける生き物ではない」という想いがあり、そうなってしまうのも無理もないと感じています。

難しい言葉で言えば、ヒューリスティックがあるということです。「もしかしたら自分は間違っているかもしれない」という気持ちを頭のどこかに残しておくことは大事だと私は思います。


最後にカフェで話題になりかけましたが、時間の関係で踏み込めなかった「悪をどうすればなくせるか」という疑問について考えてみます。

悪は相対的、絶対悪などない、さりとて悪が世の中にはびこるのは困るというのは正直なところだと思います。

ここでいう悪は大多数の人に共通するであろうみんながやっていることベースの考え方、

すなわち法律とか常識とか、社会通念に反するものを指しているわけですが、

絶対悪はないとしても、大部分の人にとって悪と感じられる現象は警察や裁判、監視システムなど何らかの抑止力など律されるべきではないかと私は思います。

ただここでまた効いてくるのが「絶対悪」というものはないということ、「自分はもしかしたら間違っているかもしれない」という観点です。

つまり警察や裁判そのものが誤っている可能性もあるわけです。

人の価値観は変動し、悪を規定する基準も移ろうものであるならば、

今自分が行なっていることが悪なのか、あるいは今まで悪だと認識してきたことが本当にそうなのか、

常に振り返る気持ちを忘れずに、考え続けることが大事だということです。

そんな面倒くさいことは御免だともし投げやってしまったならば、

善悪の判断がつかず、当たり前のように皆がやっていることが実は凡庸な悪となる構造に加担してしまいかねないのです。

私は糖質制限に比べてのカロリー制限食を勧めることの非合理性に、まさにこの構造が存在しており、

そしてその構造は未だに続いており、多くの人はみんながやっているという理由でカロリー制限の正当性を信じて疑わない状況があると思っています。

かといって糖質制限の方も、もしかしたら間違っているかもしれないという可能性を自ら捨て去ってしまってはならないとも思うのです。

モヤモヤが残るような話に聞こえることかもしれませんが、

それこそがまさに哲学的思考のキモとなる重要な視点であると私は思います。


たがしゅう
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プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院にいます。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

南鹿児島さくら病院では職員を随時募集中です。
詳しくはホームページhttp://www.nissyoukai.or.jp/
を御覧になって下さい。
見学申し込みもお気軽にどうぞ。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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