サイアミディン

「蛋白質を取りすぎるな」への違和感

糖質制限に対する批判の中で頻繁に聞かれるものとして、

「糖質制限をすると相対的に蛋白質の量が増えるから腎機能が低下するのでよくない」

というものがあります。

蛋白質は糖質や脂質と違ってグリコーゲンや皮下脂肪という形でエネルギーを貯蔵することができません。

従って、蛋白質を取りすぎると使わない蛋白質は捨てるしかないため、その捨てる働きを担う腎臓に負担がかかる、というのがその理屈とされています。

しかしある程度腎機能が保たれている場合はそうした心配をする必要はないことがわかってきていますし(Friedman AN, et al. Comparative effects of low-carbohydrate high-protein versus low-fat diets on the kidney. Clin J Am Soc Nephrol. 2012 Jul;7(7):1103-11. doi: 10.2215/CJN.11741111. Epub 2012 May 31.)、

また日本腎臓学会のCKD診療ガイド2012によれば、「GFRが60ml/分以上あれば、顕性タンパク尿の段階でも、糖尿病性腎症2期、3A期までは、蛋白質制限必要なし」とあります。

さらに2014年1月10日に日本糖尿病学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本病態栄養学会の4学会が合同委員会で、糖尿病性腎症の3A期と3B期を区別しない、すなわちいずれも「第3期」とすると決定したことをHPで発表しました。

という事は、まだ名言はされていませんが、事実上「3B期まで蛋白制限不要」にまで基準が緩まる方向性さえ見えてきました。

次々に見直されていくこの高蛋白質による腎臓への負担、本日は少し違った観点からこの問題を考えてみたいと思います。
そもそも蛋白質は生命を維持する上で不可欠な栄養素です。

蛋白質の英訳であるproteinは、ギリシア語で「第一の」を意味する「proteios」から来ています。

蛋白質の元であるアミノ酸には、「必須アミノ酸」という生体で合成できないものが含まれています。それゆえ「第一番目に必要な栄養素」という意味が込められているのかもしれません。

そんな大事な蛋白質ですが、日本人の食事摂取基準(2010年版)によりますと推定平均必要量が定められています。

この値どう決められたかといいますと、乳牛などによる複数の窒素出納実験結果と、ヒトでのたんぱく質の消化率の実験結果を組み合わせて算出した値で、すなわちあくまで「推定」の値です。

実際それ以上蛋白をとったら本当に腎臓に負担がかかるかどうかということは実はわからないのです。

一方、今でこそ蛋白の量がグラム単位で測れますが、人類の狩猟採集時代はそうはいかなかったと思います。

そうなると「人体に必要な栄養素だけども摂りすぎるとよくない」という微妙な栄養素を、昔の人類は何も測らずにどうやってちょうど良い量を摂っていたというのでしょうか。

それは「ヒトの自然な食欲が適切な蛋白の摂取量を教えてくれていた」のだと思います。

糖質制限をすると食欲が適正化することを自覚します。私の場合、誰に言われるでもなく自然に1日1-2食になりました。

高糖質食を食べていた頃、私はもう胃袋がいっぱいで呑酸などの胃食道逆流を疑う症状を自覚しているにも関わらず、それでも食べたい気持ちが満たされない、食べることがやめられないという自分でも情けない状態を繰り返していました。

今考えるとそれは糖質中毒の状態であり、食欲中枢が麻痺し、いつまでたっても満腹感が現れない病的な状態だったのだと思います。

それが今はある程度食べると自然とブレーキがかかる感じになっています。腹八分というのも昔は絶対できませんでしたが、今ならやろうと思えば腹八分どころか絶食までできるくらい食欲をコントロールすることができます。

だから適切な食欲さえ働いていれば、カロリー非制限にしておいても、そんなに蛋白の量を気にし過ぎなくても、ちょうど良いところで蛋白の摂取量は治まるのではないか、そう思うのです。

ここでカロリー非制限とカロリー無制限が違うということに注意して下さい。

「糖質制限で肉を好きなだけ食べていいだなんてけしからん」という批判のされ方もよくされますが、

より正しいニュアンスは「カロリーを制限せずに食べはじめ、満腹感が出てきたところでやめなさい」ということだと思います。決して「無制限に食べ続けなさい」ではないのです。これも実際にやってみないと違いがわからない感覚ではないかと思います。

ただそれでも現時点で第4期以上の腎不全の人には高蛋白負荷をかけることはできません。そのような腎機能では流石に蛋白質を処理しきれないからです。

では高蛋白質以外に腎臓が悪くなる原因はないのでしょうか。

そんなことはありません。それは血管のトラブルです。

腎臓が悪くなっていく人は腎臓へ行く血管の動脈硬化が進行していたり、血管の炎症も起こっていたりするのです。その大きな要因の一つは酸化ストレスであり、酸化ストレスをきたす大きな要因は食後高血糖や平均血糖変動幅の増大であったりするわけです。

カロリー無制限に食べ続け、想像を絶する蛋白量を摂取すれば別かもしれませんが、

自然な食欲下で普通に糖質制限食を食べている状況であれば、そのせいで健康な腎臓に負担がかかることはまずないと私は思います。

そして腎機能障害の真の犯人は糖質過剰摂取であり、高蛋白質は濡れ衣を着せられているとさえ思います。

それが証拠に慢性的に進行するしかないとされている慢性腎臓病が、糖質制限をすることで改善をしているという方の報告は江部先生のブログ等でよく目にすると思います。



必須栄養素である蛋白質を摂りすぎてはいけないだなんて、私にしたら違和感のかたまりでした。

しかし真実はそういうところにあるのではないかと私は考えます。


たがしゅう
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Re: No title

ユッキ さん

楽しい会でしたね。私も勇気もらっています。

今後とも宜しくお願い申し上げます。

たんぱく質摂取上限の謎、解決

おはようございます!
昨日のオフ会では、大変お世話になりました。


「糖質制限はずっと続けていると腎臓に悪い」
と昔私が医師から言われた話を、
昨日のオフ会でお話ししましたが
たがしゅうさんの今朝のブログで、自分が
「たんぱく質を摂りすぎているのかも?」
という不安が解消しました。
ありがとうございます(*^-^*)

昔から、一番聞かれる
「お肉をどれくらい食べていますか?」
という質問に困惑していたのです。
私の食べているたんぱく質摂取量では
質問されるその方には多過ぎて、
それを目安にされてしまうと摂取過剰になるかも知れないと心配だったので。

今までは、無難に
「その日その時食べたいぶんだけ、食べています」
と答えて逃げていました(笑)

やはり、その答え方で間違いなかったと安心できました。


沢山食べたい時は沢山食べるし、
普通に200gくらいで満足する時もあるし、
それは身体が教えてくれているのだと解釈しています。
これからも身体の声に耳を傾けることが大切だということが
今朝の記事で再確認できました。


甲状腺関連の数値も、そのスタンスで身体と
じっくり向き合って行きたいなと感じているところです。

頼もしい記事に感謝しますm(^^)m

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Re: たんぱく質摂取上限の謎、解決

棗 さん

こちらこそ昨日は楽しい時間を有難うございまさした。

とにかく糖質制限にまつわっては、様々な分野での抜本的な見直しが必要です。

一概に反対ではなく、どこまでが正しくて、どこまでが見直さなければならないのかをしっかり考えていかなければならないと思っています。

なお、追伸の件、了解致しました。

またひとつ

糖質制限を始めてから、身体全体の肌が柔らかくなっています。血圧も(特に上が)下がり始めました。

血管(血液の流れ)が健康に向かっている何よりの証拠だと感じています。

こんな糖質制限が身体に悪いわけがない。

でもこればかりは、自分でやってみないと実感できないのでしょうね。

なので、タンパク質の取りすぎで腎機能が低下する、血管リスクが増大するという定番のフレーズに、「それは違うんじゃない?」といつも思っていました。

でも、その理由がうまく説明できず…

でも、たがしゅう先生の今日の記事を読んで腑に落ちました。

またひとつ不安が解消されました。ありがとうございます。

Re: またひとつ

月夜野うさぎ さん

コメント頂き有難うございます。

私は検査よりも何よりも一番信頼のおける健康マーカー(健康指標)は、自分の体調だと思っています。

体調がいいのにデータが悪い時は、どちらかといえばデータの方を疑うべきと考えます。

体調の改善、良かったですね。

身体は嘘をつかない&御礼

たがしゅう先生!糖質オフネットワーク東京のChiです!

昨日は、ご参加ありがとうございました(=^x^=)
どうやら、私たち、かなり赤ワインをいただいてしまったようです(^^;;
でも、楽しかったです。

タンパク質。私も、取りすぎが悪いという話はききますが、本当に基準量と言われているものが、本当に基準なのかという科学的根拠を疑っています。
また、今の生活みていると、実はタンパク質たらない→体の構成素もそうですが、ストレスに立ち向かうホルモン+脳内ホルモンの元がたらない→ストレス耐性が弱くなってるような感じさえ受けてしまうのですよね。
糖質を取ることによる酸化ストレスも輪をかけてますね。

エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013

(一部修正分)
http://www.jsn.or.jp/guideline/pdf/CKD_evidence2013/03honbun_teisei.pdf
江部Drのblogでも報告しましたが、改めて書きます

『たんぱく質不足には生命予後に対して潜在的なリスクが否定できないため,必要以上のたんぱく質制限は避けることが望ましい』

『透析患者に食品添加物を含んだ食事を避けるように指導することで,血清リンが0.6mg/dL減少することがRCT で示されており…』

  □

ところで先日の病態栄養学会でも、蛋白質の制限に疑問の質問がありましたね


英語論文の紹介
British Journal of Nutrition
Volume 108 - Supplement S2 - Aug 2012
蛋白質/アミノ酸の特集号
http://journals.cambridge.org/action/displayIssue?decade=2010&jid=BJN&volumeId=108&issueId=S2&iid=8724268

Effects of a high protein diet on body weight and comorbidities associated with obesity
http://journals.cambridge.org/action/displayFulltext?type=6&fid=8724285&jid=BJN&volumeId=108&issueId=S2&aid=8724284&fulltextType=RA&fileId=S0007114512002322

The role of high-protein diets in body weight management and health
http://journals.cambridge.org/action/displayFulltext?type=6&fid=8724318&jid=BJN&volumeId=108&issueId=S2&aid=8724317&fulltextType=RA&fileId=S0007114512002437

精神科医A先生!

いつも、本当に科学的な裏付けありがとうございます!

本当にだかしゅう先生も江部先生も糖質オフネットのTK先生も!
先生方のように、納得のいく根拠
示していただける方々に恵まれたことが本当に幸せです。

Re: 身体は嘘をつかない&御礼

Chie さん

 コメント頂き有難うございます.

 必要なものの摂りすぎを心配するよりも,必要ないものの摂りすぎの方をまず心配すべきですよね.

 今の世の中は糖質中心文化のため,蛋白質が全体的に不足する社会構造になってしまっていることも大きな問題です.

Re: エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013

精神科医師A 先生

 いつも情報を頂き有難うございます.

> ところで先日の病態栄養学会でも、蛋白質の制限に疑問の質問がありましたね

 ですね.蛋白質制限が見直されてきている状況は,裏を返せば蛋白質の重要性を示していると考えます.

 文献情報も誠に有難うございます.頑張ってついていきます.

タンパク質の摂り過ぎは?

たがしゅう先生

はじめまして。初めてコメントをさせて頂きます。

私は、54歳で糖尿病と診断されたのをきっかけに、
糖質制限食を初めて2ヶ月過ぎ、
178センチで体重が92⇒82に10キロダウン。
血糖は、124⇒93
Hba1c は、6.8⇒5.8、
他に肝臓の数値も全て良になり、
結果が見えてよくなりました。

今回、タンパク質について
ネットで「タンパク質の摂り過ぎ」と、検索すれば、
先生のブログと以下の2件もヒットしました。

この2件については、
先生はどのようにご判断をされるのか、
お教え願いたいと存じます。

お忙しい中、申し訳ありませんが
よろしくお願いします。


http://kenkounews.rotala-wallichii.com/protein_cancer-risk/
タンパク質の摂り過ぎで、タバコと同程度にガンのリスクが増加(1/3)


(2014年3月) "Cell Metabolism" 誌に掲載された米国・イタリアの研究によると、中年の頃に肉や、牛乳、チーズ、などの動物性タンパク質の摂取量が多いと、摂取量が少ない人に比べてガンで死ぬリスクが4倍に増加します。

このリスク増加率は喫煙による増加率と同程度です。 さらに、動物性タンパク質の摂取量が多い中年では、ガン以外での死亡率や糖尿病による死亡率も増加していました。
・・・


http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20140527/181885/?P=2
タンパク質の取りすぎにも要注意

 また、炭水化物と同様に、タンパク質の食べ過ぎにも注意が必要なんですよ。

 タンパク質をエネルギーに変換して、私達の体の中で使えるようにするためには、実は、ブドウ糖が必要なんです。そのため、お肉を食べると、体は血中にある手軽な糖をまず使うので、血糖値は下がっていきます。お肉ばかりをたくさん食べて、血糖値が下がり過ぎると、グルカゴンというホルモンがすい臓から分泌されます。

 グルカゴンは、貯め込まれていた脂肪を肝臓で分解して糖にして血液中に放出し、代謝に使えるようにしてくれます。そのため、体内の脂肪は次第に減っていくので、めでたしめでたしなのですが、グルカゴンがこのように働いてくれるのは、炭水化物とタンパク質がバランスよく食べられている時だけです。
・・・



Re: タンパク質の摂り過ぎは?

大和 さん

 御質問頂き有難うございます。

 まず今、世の中にある動物性タンパク質の危険性を指摘するデータは、ほとんど全て「糖質摂取集団」でのデータです。

 そのデータでもって「動物性タンパク質ががんのリスクを上げる」と結論づけるには根拠が乏しいと思います。
 
 従って明確な結論は下せませんが、個人的には糖質摂取による高インスリン血症の方が、タンパク質によるインスリン分泌(+グルカゴン分泌)よりもはるかにがんリスクが高いと思います。

 2件目の「血糖値が下がりすぎるとグルカゴンが分泌され膵臓に負担になる」という話ですが、

 私は最大8日間の絶食療法を自分で行い血液検査を詳しく調べた事がありましたが、そこまで絶食して64mg/dlまで血糖値が下がってもグルカゴンは正常値でした。

 従って、その記事で言われるほど、そう簡単にグルカゴンは上昇しないのではないかと私は思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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