サイアミディン

膵炎再考

糖質制限をやってはいけない病態の一つに「活動性膵炎」があります.

どうして糖質制限をしてはダメなのでしょうか.

「膵炎」についての現在の食事のスタンダードはどうなっているのでしょうか.

それを考えるに当たって次の書籍を購入致しました.



この本は全80ページほどの小さな本ですが,膵炎のみならず,「基礎的な栄養学」「膵炎以外の膵臓の病気」「遺伝性膵疾患」「膵切除と膵切除後糖尿病」など膵臓に関する医療情報が網羅的にまとめられています.

膵臓について学び直すには大変助かる本です.

今回はこの本を参考に,「膵炎」について考えてみます.
まず「基礎的な栄養学」の項目では,「①脂質」「②炭水化物」「③蛋白質」の順に各栄養素が説明されています.この手の解説では珍しく三大栄養素の中で「脂質」が一番最初に詳しく説明されています。

膵炎では消費エネルギーがかなり増加しますので,失われたエネルギーをどう効率的に確保するかが重要です.おそらくはその観点からみて、単位g当たりのエネルギー量が最も多い「脂質」が強調されているのではないかと考えます.

そもそも膵臓というのは胃の裏側にある長さ15~20cm, 幅3~4㎝, 重さ80~100gの小さな臓器ですが,その働きは大きく「外分泌機能」と「内分泌機能」の二つに分けられます.

糖尿病の話題では,とかく内分泌機能だけが注目されがちです.ごく微量血管内に分泌されることで遠方にある細胞へ確実な効果をもたらす「ホルモン」全般に働きを担うのを「内分泌機能」と言います.膵臓の場合,この内分泌機能を担う部分をランゲルハンス島と呼び,その中にグルカゴンを分泌するα細胞(約20%),インスリンを分泌するβ細胞(約60~75%)などがあります.

ところが実は膵臓の体積の95%以上は外分泌部から成っていますので、膵臓のほとんどは外分泌の働きを担っているということになります.

外分泌とは膵臓の膵管を通して十二指腸へ膵液を分泌することですが、その目的は主に二つあります。一つは「胃酸を中和すること」、もう一つは「食物を分解する消化酵素を分泌すること」です。

食べ物は十二指腸へ来る前に胃の中で胃酸という強い酸の影響を受けてまずはおおざっぱに消化しやすい形へ分解を受けています。

胃の粘膜は胃酸にさらされても耐えられる構造になっているのでいいのですが、そのまま胃酸が十二指腸からその先へ流れ込んだら強い酸の影響が小腸に及んでしまいますので、それを膵液の中に含まれる「重炭酸塩」が酸を中和してくれているのです。

胃酸の強さが弱まり、唾液と胃液とで適度に食べ物がほぐされた状態でさらに膵液の中に含まれる消化酵素が働くことで、小腸で栄養素が吸収される形にまで分解されるという多段階消化システムとなっています。

この中で重要な消化酵素としては、蛋白質を分解するプロテアーゼ、脂質を分解するリパーゼ、そして炭水化物を分解するアミラーゼがあります。三大栄養素全てを分解する能力を持っているわけです。

その他、膵液の中には水、ナトリウム、カリウム、クロール(塩素)、カルシウムなども含まれています。

さて急性膵炎、いわゆる「活動性膵炎」というのがこれに当たるかと思いますが、この場合膵臓から十二指腸へ分泌される消化酵素(蛋白分解酵素)が膵臓が自分自身の細胞を消化してしまう現象が起こります。これを「自己消化」といいます。これによって膵臓が傷害されると急激な腹痛・吐き気・嘔吐・発熱などの症状を認めるようになります。

急性膵炎の原因は飲酒と胆石でおよそ60%を占めますが、20%は特発性といって原因のわからないものです。その他、薬の副作用などが原因のこともありますが、大部分の急性膵炎は原因を取り除けば治癒します。

しかし何らかの原因によって膵炎を繰り返した場合は膵臓の外分泌腺、内分泌腺が破壊されていき「慢性膵炎」の状態となります。そうなるはっきりとした原因はわかっていませんが、この本には,慢性膵炎は「長期大量飲酒、その他の毒性物質、胆石、遺伝的素因、自己免疫疾患など多くの原因が複雑に関与した多因子疾患と考えられる」と書いてあります。

慢性膵炎の場合は時間をかけてそのような状態になってきていることもあって、急性膵炎と症状の出方が違ってくることがあります。具体的には上腹部痛や腰背部痛、全身倦怠感、食欲低下、腹部重圧感などで、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。またまれに痛みのない慢性膵炎もあります。

慢性膵炎も繰り返す毎に次第に悪化していき、消化不良の結果体重減少をきたし、大量で悪臭を放つ脂肪分の多い便やガスが出るようになり、最終的に内分泌機能も破壊されれば糖尿病になります。

では本題の、膵炎に対する栄養療法のスタンダード(標準的治療)についてみていきましょう。

まず急性膵炎についてですが、膵液の分泌される誘因は「食べること」なので、急性膵炎が活動している最中には原則絶飲食になります。その間は点滴で栄養を補給することになります。

そして「腹痛などの症状が治まるまで待ち、再び食べられるくらいに症状が収まった段階で、できる限り速やかに通常透明な流動食(主に炭水化物)から摂取を開始し、その後状態をみながら低脂質食にし通常の食事へ移行する」とあります。

ただ,ここで私は思うのですが、

高炭水化物、低脂質食にする意味ははたしてあるのでしょうか。

だって、どういう食事にしていようと、食事自体が膵液を分泌させる刺激となるわけだから、低脂質食にして得られるメリットはあまりないと思います。その点なぜ低脂質食なのかという根拠についてはこの本では全く触れられていません。

要するに「活動性膵炎」が禁忌なのは何も糖質制限食に限った話ではなく、「食事療法全般が禁忌」ということだと私は考えます。

しかも、次のようにも書かれています。

「急性膵炎では、重症ほど安静時エネルギー消費量が多く、摂取するエネルギーが持続的に不足すると急性膵炎の致命率が高くなりますが、患者さんの栄養状態を良好に維持すると生命の免疫能を高めることができ、合併症の発生を阻止し、予後を改善できます」

それならば、むしろ脂質をしっかり確保した方がよいですし、それを成し遂げられるのは糖質制限食/ケトン食ではないかと思います。


一方、慢性膵炎に関してですが、

「慢性膵炎の患者さんは脂質をうまく消化・吸収できないことから、以前は脂質摂取制限を行うことが重要と考えられていました。しかし、消化吸収障害が出現してくる時期には、上腹部痛・背部痛などの膵炎の症状は軽減あるいは消失していることが多いため、一律に低脂質食にする必要はありません。」

とあり、こちらでは低脂質食の意義がすでに否定されています。その代わり、失われた消化酵素を補充するために膵消化酵素薬を服用することが重要だと書かれています。

膵消化酵素薬さえ飲んでいれば脂質を吸収することもできるので、通常の脂質摂取と適切な膵酵素補充療法を組み合わせてバランスのとれた食事をしなさい、と勧められています。

ここまで読んで私は思いました。

おそらく「脂質は基本的に吸収しにくい」という考えの下に、「脂質制限」の考え方が生み出されたのではないかと思います。

しかし脂質が吸収が悪いかについては個人差はあるにしても一概に悪いとは言い切れないのではないでしょうか。

糖質制限を実践している人が皆脂質の吸収が悪く脂肪便(黄色~クリーム色~灰白色、悪臭あり)になるかと言えば、実践者の皆さんの報告を聞いていると必ずしもそうはなっていないと思います。

逆に言えば、糖質制限をしてもなかなか体重の増えないやせ体質の人は膵消化酵素薬(パンクレアチンなど)を内服するというのも一案かもしれません。

膵臓疾患の領域に関しても、新たな栄養学の構築が必要であるように感じます。



たがしゅう
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おはようございます!(^^)

今日も、勉強になりました!(ペコリ)

Re: 朝

すず。 さん

 朝,お早いですね.コメント頂き有難うございます.

こんにちは。

先日等質オフ新年会に参加させていただいた海ぶどうです。大変貴重なお話を本当にありがとうございました。(*^^*)
等質オフ食にして一ヶ月、先日かかりつけの病院で血液検査をして来たら、a1c6.3→6.1、空腹時血糖値が130→114に下がっており、よくコントロール出来てるねとほめられました。ただ、尿にケトン体がプラス出てて、主治医はこれは血糖値が高かったら入院レベルだよと言われました。
おととい、京都の江部先生の講演会に行ってきました。ケトン体が出てても心配ないと言われ、改めて自信をもって続けていこうと思っています。
あと、誘惑に負けて?もしお菓子を食べてしまった場合は、その後一時間くらい運動するとか筋肉を動かすと血糖値上昇が押さえられると思いますか?
今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m

追記です。
blogを拝見させていただき、糖尿病のみならず、たがしゅう先生の幅広い視野でのさまざまな分析や探求心いっぱいのblog、素晴らしいなと思いました。
これからも楽しみにしています。

高糖質にする理由

素人考えなのですが・・・

たんぱく質・脂質の摂取
→コレシストキニン分泌
→膵液・胆汁の分泌
って流れを
回避させたいのかと・・・(・vv・)

脂質は
胃での滞留時間が長いと
考えられているのも
理由のひとつかも知れません。

酵素補充療法に関しては
消化を助ける事も重要ですが
コレシストキニンの分泌を抑えて
痛みを緩和する目的が大きいと思います。

慢性膵炎に関しては
ある程度
症状が進行してしまうまでは
脂質が痛みを誘発するかも???

なんて
思ったりしました (`・ω・´)∩ 

Re: こんにちは。

海ぶどう さん

 コメント頂き有難うございます.

 またお褒めの言葉も頂いて有難うございます.

 尿ケトン体が出ているのは上手に糖質オフができている証拠です.海ぶどうさんの状態が危険だという事は全くありませんのでご安心下さい.

> あと、誘惑に負けて?もしお菓子を食べてしまった場合は、その後一時間くらい運動するとか筋肉を動かすと血糖値上昇が押さえられると思いますか?

 運動するとインスリン非依存的に血糖が筋肉へ取り込まれるので,血糖値上昇を押さえる効果はある程度期待できると思います.

Re: 高糖質にする理由

☆ acco ☆ さん

 考えるきっかけを頂き有難うございます.もう少し深く考えてみます.
 
 回答が長くなりそうなので,後日別記事としてまとめさせて頂きますね.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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