サイアミディン

ケトン食からビオチン療法まで

『Spilioti M, et al. Evidence for treatable inborn errors of metabolism in a cohort of 187 Greek patients with autism spectrum disorder (ASD). Front Hum Neurosci. 2013 Dec 24;7:858. doi: 10.3389/fnhum.2013.00858. eCollection 2013.

我々は自閉症スペクトラム障害(ASD)に特徴的な症状を呈する187名の小児(男児105名,女児86名:4~14歳)における先天性代謝異常(IEM)の存在についてスクリーニングした.

12名(7%)が尿中3-ヒドロキシイソ吉草酸(3-OH-IVA)の分泌増加を示し,7名の患者でビオチンを補充することで自閉症の症状に軽度から大幅な改善がみられた.また5名の診断は以下の通りであった.2名はLesch Nyhan症候群,2名はコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素欠損症,1名はフェニルケトン尿症(2.7%).

さらなる代謝障害を示唆するIEMとして尿中3-OH-IVAの増加に引き続き血清でメチルクエン酸と乳酸が上昇した2名とブドウ糖負荷試験で異常を示した30名の患者を含めた.後者のグループ30名のうち16名は血清β-ヒドロキシ酪酸(b-OH-b)産生の増加を示し,18名は逆説的に血清乳酸が増加していた.血清b-OH-bが上昇した患者の中の6名はケトン食(KD)の実施後に自閉症症状の改善を示していた.5名の患者はブドウ糖負荷によってケトン体産生が減少していた.

187名の患者のうち12名が非特異的なMRI病理を示した一方で,25名は脳波(EEG)異常を呈した.最終的に家族歴があったのは187名のうち22名(1-2親等に同程度の症状あり)であり,血族が文書化されていたのは12名であった.我々のデータはASD患者へ新しいバイオマーカー(3-OH-IVA)と新しい治療アプローチのためのエビデンスを提供する.

簡潔な一文をtake-home messageとする:ASD患者のギリシャコホートの詳細な代謝スクリーニングによって患者の7%(13/187名)でバイオマーカー(尿中3-ヒドロキシイソ吉草酸と血清b-OH-b)が明らかとなり,ビオチン補給やKD治療を開始することが臨床的に自閉症症状を軽度から高度に改善させる結果となった.』

※3-ヒドロキシイソ吉草酸(3-OH-IVA):必須アミノ酸の一つ「ロイシン」の中間代謝産物.ロイシンは脱アミノを受けた後,脂肪酸やケトン体に転換されうる「ケト原性アミノ酸」の一つ.
※メチルクエン酸:プロピオン酸代謝産物の一つ.プロピオン酸は最も炭素数の少ない脂肪酸.
ケトン食が自閉症の症状改善に有用であったことを報告する論文があったので読んでみました.

上記はアブストラクト(概要)部分の和訳ですが,さらに原文のケトン食のところを深く読んでみると,

自閉症症状のある187名のうち,ブドウ糖負荷試験を行って乳酸とβ-ヒドロキシ酪酸が上昇し,ミトコンドリア機能異常が疑われた16名に対してケトン食を行おうとしたようです.

しかしながら多動性や注意障害がある患児に実際に行うのは困難なようで,結局6名にしか実施できなかったようです.

ただケトン食を実施した6名が6名とも臨床的な改善効果を示し,うち1名は症状が完全に消失していました.

改めて自閉症に対して糖質制限が有効である可能性を確認した次第ですが,

もう一つ気になったのはビオチン補充療法の記載です.

このビオチンとは何か,について学んでみます.

ビオチンは,ビタミンB群に分類される水溶性ビタミンの一種で、ビタミンB7(Vitamin B7)とも呼ばれます.またビオチンは糖代謝,脂肪酸代謝,蛋白質代謝(特にロイシン)のいずれにも関わる補酵素でもあります.

今回の論文では自閉症患者のバイオマーカーにケトン体の一つであるβ-ヒドロキシ酪酸に加えて,尿中3-ヒドロキシイソ吉草酸がマーカーの候補になることを提唱していますが,

3-ヒドロキシイソ吉草酸はケトン体の元となる蛋白質「ケト原性アミノ酸」の一つであるロイシンの中間代謝産物です.

従って3-ヒドロキシイソ吉草酸が高いということは,ケトン体を産み出す生成経路が何らかの原因によって途中でブロックされている可能性が高いということなのです.

それは先天的な酵素活性低下(イソ吉草酸血症;ロイシンの代謝異常を原因とする、珍しい常染色体劣性先天性代謝異常症.米国では25万人に1人)の可能性もありますが,

もう一つの原因がビオチンの欠乏というわけです.

ビオチンはレバーや魚介類,まいたけなどに多く含まれますが,通常は欠乏することはありません.なぜなら普段は腸内細菌が合成してくれているからです.

しかし,例えば抗生物質の乱用などによって腸内細菌叢が乱れた時にビオチン欠乏が起こりえます.

またビオチンは卵の中にも多く含まれますが,卵白中に含まれるアビジンと非常に強く結合しその吸収が阻害されるため、生卵白をあまりにも大量に摂取するによっても欠乏症を生じることがあるそうです(例:1日あたり10個以上の生卵を食用し続ける,など).

さらにビオチン欠乏は自閉症以外にも様々な難治性疾患や免疫不全をきたす病態とも関わりがあると言われています.

例を挙げると,本態性高血圧症,糖尿病,腎臓病,関節リウマチ,掌蹠膿疱症,アトピー性皮膚炎,気管支喘息,花粉症,膠原病(全身性エリテマトーデス,シェーグレン症候群,ベーチェット病),クローン病,多発性骨髄腫,慢性甲状腺炎,肝硬変,脂漏性湿疹,うつ病,全身脱毛,などなど、非常に多岐に渡ります.

さらにビオチンが欠乏した母親から産まれた胎児は奇形の可能性が高いそうです.

ビオチンは基本的には腸内細菌に作らせれば十分であり食事から摂取する必要はないようです.

しかし年齢を重ねると腸内細菌叢の総菌数が減少し、しかもビオチンを作る善玉菌(ビフィズス菌など)も減少します.

その一方で,ビオチンを食餌にして増殖していく悪玉菌(フェカリス菌など)が増殖していくことが臨床実験によって確認されています.従って年齢が高くなればビオチン欠乏のリスクが上がります.

ビオチンを補充する薬もありますが,それだけでは悪玉菌にエサをやるだけであり,不十分です.ビオチンを補うとともに腸内細菌のバランスを整えてやる必要があります.

そのためには活性酪酸菌(宮入菌:ミヤリサン,ミヤBM錠など)を使えば腸内細菌叢が改善しビオチン欠乏を解消できる可能性があるそうです.

まとめると,

「老化,抗生物質の乱用など」
⇒「ビオチン欠乏」
⇒「ケトン生成経路の途中でブロック」
⇒「ケトン体がうまく産生できない」
⇒「神経保護できない,ミトコンドリア機能異常が起こる,などなど」
⇒「様々な難治性疾患の原因となる」

ということになるでしょう.ケトン食とも深く関係がありましたね.

これだけ重要なビタミンであるにも関わらず,

臨床的にはあまり注目されていないように思えるのが不思議ですが,教訓としては,

「ケトン食がうまくいかない場合にはビオチン欠乏の可能性も考えるべき」

であり、なおかつビオチンを補充する際にはビオチンだけでなく良質の腸内細菌と一緒に補充するということですね.

また一つ勉強になりました.


たがしゅう
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たけし

おはおうございまっす!!(^^)

昨夜、テレビタックルみました。

夏井先生はなんとなく、江部先生にお顔がにてますぅ(^^)

実践してみて、血糖値が下がり、体重もおちるという経験があるからなのか、反対派のデブなおばはんに〔汗)言ってやりたい、!

(あんたも、やったほうがええんじゃない?)

って(^^)

それより、たけしのしゃべり方が気になりました(--)

閑話休題 BMIについて

BMIについては、下記で計算できる
http://bmi.nobody.jp/

私は、今まで身長t@172そCmなので、標準体重は、およそ65Kgだと思っていた。
 私の体重は、糖質制限して、90Kgから75から77Kgに減っている。
 2週間前に、ジムに行ってボディチェックをしてもらったところ、体脂肪15% 筋肉量は充分にあり、目標体重は、77Kgだった。
つまり、筋肉のある人は、単純に体重を身長の二乗で割っても当てはまらないということ・・

 さらに私の場合、胴長で、座高が1mもある。
上半身が大きいので、座高に合わせれば、背は、180cmをこえている事になる。
 したがって、例えば
77÷1.8×1.8= BMI  23.7 で、メタボではない事になる。

 胴長の人、筋肉のある人には、この計算式は当てはまらないのではと、一人納得したのですが・・・
 たがしゅうさん どう思われますか?

Re: たけし

すず。さん

 コメント頂き有難うございます.

 私の住む地域は田舎だからかTVタックルが放送されず,残念ながら観ることができませんでした.

 後日何らかの形で観れればいいなと思っています.

Re: 閑話休題 BMIについて

わんわん さん

 コメント頂き有難うございます.

>  胴長の人、筋肉のある人には、この計算式は当てはまらないのではと、一人納得したのですが・・・
>  たがしゅうさん どう思われますか?


 そうだと思います.

 標準体重は一つの目安に過ぎず、たとえ標準体重に当てはまらなくとも、その人の一番体調の良いところが真の意味での「標準体重」なのだと思います。

介 と 貝

こんばんは いつも ブログを読んでいるうちに 知らない文字が出てきたりします きょうは 魚介 という字が出てきたので「介」って どんなものかなーと 夫に聞いたら、辞書を引いてみろだって...。ミヤサリンも飲んでみたくなりました。
それにしても いつも勉強しておられることに対し 頭が下がります。

昨夜のTVタックル

動画見つけました。

http://video.fc2.com/content/201401279LHp0E7P

すでにご存じでしたらご容赦ください。

Re: 介 と 貝

京のsinonome さん

 コメント頂き有難うございます.

 「魚介類」って言葉,普段何気なく使っていましたが,言われてみれば「魚貝」の方がよさそうですね.

 調べてみると,こういう回答がありました.御参考までに.
 http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/071.html

Re: 昨夜のTVタックル

月夜野うさぎ さん

 情報頂き有難うございます.

 流石注目されていた番組だけあってネットに上がるのも早いのですね.

 早速見させて頂きました.「糖質制限反対派の専門家には何を言っても無駄」という印象を持ちましたね.

No title

ビオチンのこと母子共に参考になります。息子は年末からミヤを飲み始めております。

私もス-パ-糖質制限をしながらも体重一向に減らないのは腸内環境に原因ありと捉え、マメビオ・他を補充中。

更に強い冷え・すぐに疲れてしまうこと・日頃どうにか抑えるのがやっとな過剰食欲、甘い物への執着・・・昨日の漢方の記事、これに違いない!と直感しました。

近所に漢方の名医がいますが、これまで漢方医を訪ねたことないのですが補中益気湯を希望と言って、処方してくれるものなのでしょうか。
まずは行ってみます。

田頭先生のブログは糖質制限を含むあらゆる視点から、本来の健康について考えていらして、わかりやすく我々に伝えてくださるので、とても勉強になります。

今まさに実践中です。

たがしゅう先生
今回はケトン食とビオチンについてですね。実は昨年末より、ケトン食とビオチン療法を実践しています。個人的な感想で恐縮ですが、肌がすべすべになりました。もちろん、お通じもすごく良くなりました。私は腸内環境の良し悪しが健康に影響を及ぼすということを実感しており、酪酸菌(ミヤリサン)の働きに注目しております。以下のサイトは実に興味深いです。↓
http://www.miyarisan.com/ ミヤリサン製薬株式会社
http://www.miyarisan.com/probiotics.htm 酪酸菌(宮入菌)の科学

制御性T細胞と酪酸菌の関係↓
http://www.riken.jp/pr/press/2010/20100223/digest/ 

http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry236 

http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131114

No title

おはようございます。
私自身強い炭水化物依存でしたが、うんと甘いものを食べた時の高揚感、充足感、疲れが取れる感覚は、今思うと恐ろしいくらいのものでした。

ス-パ-を始め1年近いのですが、欲求はだいぶ改善したものの、空腹が満たされない時や疲れを癒したいとき甘い物を連想する習慣がまだ少し残っており、これからそんな時こそ頭で・腸で冷静に考えていきます。

子どもにも糖質管理始めていますが、欲しがって苦労しております。これまで与え快感を覚えさせてきたのは他ならぬ親自身。がんばります。

Re: No title

ユッキ さん

 コメント頂き有難うございます.

 腸内細菌,漢方いずれも奥深いです.私はまだまだ未熟ですが,これからも勉強を続けたいと思います.

Re: 今まさに実践中です。

carpediem さん

 貴重な情報を頂き有難うございます.

 ビオチン療法は私は今回初めて注目しました.やはり知る人はすでに知っていたのですね.

 頂いた情報を参考に,私も一度試みてみようと思います.

Re: No title

ユッキ さん

 コメント頂き有難うございます.

 いったんしみついた習慣を変えるというのはなかなか大変な事です.私なども早食いの習慣はなかなかとれません.

 そういう意味では,こどもに糖質との接し方をどう教えるかは難しいところですね.

 親の価値観を強要してもいけないような気がするし,かといって自由にさせていると糖質の中毒性のとりこになる可能性が高いです.そうして習慣になってしまうと軌道修正は難しいかもしれません.

 糖質とどう付き合ったらいいのかを考えてもらうためにも,「糖質とはどういうものなのか」についてわかりやすく教えてあげられるといいですね.

ビオチン談義

いつも有益なブログありがとうございます。拝読させていただいております。
私はそろそろ還暦が見えてきた薬剤師です。よろしくお願いします。

ビオチンについて言及されておられたので、初めて、コメさせていただきます。

ビオチンは実に厄介なビタミンですね。
まず、相互作用が多いですね。
そして半減期が短い。

特に困ったことに、我々の世代では、ビオチンは体内で合成されるので特に摂取する必要はないと教えられました。
つまり、「ビオチン欠乏などほとんどないよ」という思い込みを植え付けられということです。

常識が邪魔をしてきた事例です。

つまり欠乏症という考えが非常識とされたわけです。

その結果、治療には必須であるはずの、ビオチンの体内動態は、町の処方医の多くに、ないがしろにされてきました。
吸収、分布、代謝がはっきりしないものが、治療に使えるはずがありませんものね。

先生もご存じのように、(内外の論文で示されるように)ビオチンは私たちの代謝にとって、とても重要です。
ビオチン欠乏による代謝機能の低下に対して、ビオチンを補充すれば代謝酵素の反応が飛躍的に高まります。
つまりは様々な疾患に関わっている可能性が大であるということです。

商魂たくましい薬剤師が、どうでもいいビタミンを売りつけようとしていると、開業医の先生方や栄養士さんたちから愚弄されてきました。

あたかも「糖質制限が攻撃される図式」に似ている気がします…。


愚痴はさておき、皆さんにお役に立つであろう情報いくつか書きます。

まず、ビオチンを処方される場合には、分3か分4で(前橋先生らによれば、2%ビオチン散で1回量を1.5g くらい…)。とにかく排泄が早いので血中濃度を考えると、分1とか分2ではNGです。

禁煙必須。
飲酒も控えたほうが無難。

生卵の卵白(乾燥生卵白も同様なので注意)は控える。

ビフィズス菌食品は摂りすぎない。彼らもビオチンを食べちゃようです。

アスコルビン酸と宮入菌(酪酸菌)を併用。

病態にもよると思いますが、少なくも半年から1年は続けると改善するケースが多い(ドロップアウトしてしまう方が多い)。

掌蹠膿疱症やアトピー性皮膚炎、脂漏性湿疹によって悩んでいた方で、ビオチン摂取により改善した方は、上記を守っておられました。
つまり、必要条件だと思います。

蛇足かもしれませんが一言お伝えしました。



P.S.
自己流期間が長かったのですが、セイゲニストかれこれ8年選手です。

勿論、DMの方には、糖質制限をおすすめしています。特に皮膚疾患、うつ的な雰囲気などが見られる方には、ビオチンのことも詳しくお話しています。

これからもガンガン書いてくださいね。

管理人のみ閲覧できます

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Re: ビオチン談義

町の薬剤師爺や さん

 コメント頂き有難うございます.

 また具体的かつ実践的なアドバイス,非常に参考になります.

 御意見を参考にビオチン,腸内細菌に関して理解を深めていきたいと考えております.

 今後とも何卒宜しくお願い申し上げます.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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