サイアミディン

本質を見過ごしてはいないか

少食の良さを提唱される先生方がいらっしゃいます.

ナグモクリニックの南雲吉則先生や,イシハラクリニックの石原結實先生らです.

南雲先生は1日1食の少食療法でメタボリック症候群からの脱却や若返りの効果を御自身で示されたり,石原先生はリンゴジュース断食で手術不能のガンを治癒させた臨床経験を著書の中で書かれています.

私も食事の回数は少なく体調が維持できている方がよいという考えで,少食療法自体には賛成です.

ところが南雲先生石原先生はともに糖質制限に対しては否定的な見解を示されています.

「結局はカロリーを摂りすぎるから太る」「肉は食べない方がよい」などといった御意見です.その点に関しては私は全く同意できません.

しかしお二人とも現に結果を出しておられる先生です.果たして先生方の言っていることはどこまでが正しいのでしょうか.

今日は糖質制限の理論を元に,この問題について考えてみます.
まず南雲先生は少食が体によい理由について著書の中で次のように書かれています.



『空腹の状態になると,サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)が発現して,体中の細胞の傷ついている遺伝子を修復してくれるのです.その結果長寿と若返りが可能になるのです.』



サーチュイン遺伝子については私はまだ知識が足りませんが,

絶食状態が遺伝子を変化させる可能性については私も興味を持つ所であり,実際に少食傾向の糖質制限実践者の皆さんが若々しく見えている現実を考えるとこの考えには同意できます.

食べていない状態というのは,糖質摂取の有無に関わらず,ケトン体を主たるエネルギーとして使用している時間帯です.

この時間帯は脂肪酸―ケトン体システムから効率的にエネルギーを得ている状態だから活動性が高まりますし,なおかつ血糖値の乱高下も起こらないから恒常性を保ち,酸化ストレスリスクも減らすことができます.

酸化ストレスがかかっていない時間帯は遺伝子の修復が正常に働きやすいので,老化が起こりにくいと言えるでしょう.だから「空腹が人を健康にする」という南雲先生の理論は理にかなっていると思います.

しかし,私と南雲先生の違いはその効果を「糖質制限+少食」をとらえているか,「カロリー制限+少食」ととらえているか,というところにあります.

結局1日1食にしていれば,たとえばその1食で1時間かけて高糖質食を食べていようと,残りの23時間はケトン体モードが働き続けるわけです.

言ってみれば高糖質食のデメリットを絶食療法のメリットが上回るために効果が出ているのではないかと思います.

でもせっかくならば24時間ケトン体モードを働かせることができる糖質制限の方がより良いのではないかと私なら考えます.

それに高糖質食で1日1食を生涯に渡って実践し続けるのは私には不可能です.高糖質食摂取後の異常な空腹感に私では到底耐えられないからです.だからこそ私は,自分で言うのもなんですが,医師であり真面目な人間であるにも関わらず,高度肥満体まで至ってしまったのです.

そういう意味では1日1食,高糖質食品を含めて何を食べてもよい,という南雲先生のスタイルはある意味すごいものがあります.とてもではありませんが真似はできません.

でも糖質制限しながらの少食であれば私であっても無理なく実践できます.


ここでもう一つ思うのは,糖質摂取後の空腹感の強さにもおそらく個人差が大きいのではないかということです.

なぜなら,世の中には糖質制限なんかしなくたってスリムであったり,別に食後に眠くなっていない人だってたくさんいるからです.

おそらく腸内細菌叢の組成や遺伝子の発現パターンが違うことがそうした事と関連しているのではないかと推測しています.


次に石原先生の書籍を見てみます.



石原先生はこの本の中で,「ニンジン・リンゴジュース断食」を勧めておられます.

基本的にはニンジン・リンゴジュースだけで過ごす断食療法のようです.他にショウガ湯や味噌汁の汁のみを組み合わせる方法,朝だけニンジン・リンゴジュースで,昼・夕は玄米・菜食・魚介食を中心にした食事にするというパターンもあります.

それによって糖尿病や脂肪肝,肥満が改善したり,ガンが治ったりするというのです.

「ニンジン・リンゴジュース断食」がよい理由については,次のように述べられています.

『われわれ文明人は,糖,タンパク質,脂肪という三大栄養素の摂取は十分で,むしろ摂取過剰の状態.ところが,それら三大栄養素を体内でうまく利用するときに必要なビタミン,ミネラルなどの微量栄養素に関しては不足気味なのです.

(中略)

ニンジンとリンゴの生ジュースには,人間の身体に必要なビタミン,ミネラルがすべて含まれていること,また,血液中のリンパ球の機能を活性化させ,免疫力を高める作用があるということがその理由でした』



ミネラル,ビタミンの摂取が必要だという事に関しては私も同意見です.

しかしその摂取方法がリンゴ・ニンジンでなければならないという必然性はないと思います.

「ニンジン・リンゴジュース断食」に効果がある理由は,ニンジン・リンゴに含まれる栄養素ではなく,絶食療法の効果だと私は思います.すなわち,ケトン体モードをうまく働かせた結果だと思うのです.

そういう意味ではニンジン・リンゴには糖質が結構含まれるので,絶食療法の効果を弱めている可能性すら考えられますが,
絶食療法のメリットがニンジン・リンゴのデメリットを上回ったために示された臨床効果ではないかと私は思います.


南雲先生にしても,石原先生にしても,糖質制限を否定していても結果を出しておられるので,それ自体は良い事だと思いますが,

その治療の本質を見過ごしてしまっている可能性があります.

両先生の患者さんがよくなった理由は,決して「カロリーを控えたから」でも,「肉を食べなかったから」でもありません.

私は少食療法の本質はケトン体を有効利用するところにあると考えています.

ヒトは基本的なエネルギーを新型エンジンである脂肪酸―ケトン体システムから得ており,緊急時には旧型エンジンであるブドウ糖―グリコーゲンシステムが発動します.

健康を維持するためには基本的には常に効率的な新型エンジンを使い,旧型エンジンの発動は必要最小限にすることが重要です.

旧型エンジンを使わないようにするためには糖質をとらない時間をできるだけ長く保つことです.

だからそれを成し遂げるための最善の方法は「糖質制限+少食(絶食)療法」だと思うわけです.



たがしゅう
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非公開コメント

No title

>高糖質食のデメリットを絶食療法のメリットが上回るために効果が出ているのではないかと

「絶食のメリット」は目から鱗でした。
複数の事象をクリアカットに説明できる良い仮説だと思いました。
巷に出回っている健康法(とその理屈)は隔靴掻痒の感を強く感じていたのですが、
糖質制限の理論に加えて、絶食の効果を理論に加えるとこうもわかりやすくなるとは驚きです。
ある種の「考え方」を導入すると、
それまで知られていた事象の解釈ががらっと変わって視界が開けるのは快感ですらあります。
糖質制限に出会えて→先生のブログに出会えて本当に良かったと思います。

Re: No title

へっぽこ さん

コメント頂き有難うございます。

絶食療法は深いです。

以前は「現代医学で治らない病気が治る」という話にいかにも怪しさを感じておりましたが、

糖質制限の理論を通じて、そのメカ二ズムに非常に興味を持つようになりました。

倫理的に問題があるので患者さんに気軽に勧められない難点はありますが、個人的には興味津々です。

2013年11月27日(水)の本ブログ記事
「絶食療法への興味」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-101.html
も御参照下さい。

少食は糖質摂取量が減る

たがしゅう先生、こんにちは。

私が糖質制限をするきっかけとなったのは、石原先生と南雲先生の著書を読んでからです。

どちらの本にも糖質制限については書かれていませんが、お二人の食事内容は、現代人よりも糖質摂取量が少なくなります。

最初は、少食がなぜ健康に良いのか漠然と考えていましたが、ある時に糖質制限のことを知って、理屈がわかりました。

石原先生と南雲先生の食事内容は、江部先生がいうところのスタンダード糖質制限やプチ糖質制限と同じ程度の糖質摂取量になると思います。

お二人の理屈はどうであれ、少食にすることで、糖質制限をしているのと同じ効果が得られたのではないでしょうか?

少食を発展させたものが、糖質制限というのが私の理解です。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: 少食は糖質摂取量が減る

ミスターT さん

 コメント頂き有難うございます.


> 石原先生と南雲先生の食事内容は、江部先生がいうところのスタンダード糖質制限やプチ糖質制限と同じ程度の糖質摂取量になると思います。
> お二人の理屈はどうであれ、少食にすることで、糖質制限をしているのと同じ効果が得られたのではないでしょうか?


 そうですね.

 糖質制限にしても少食(絶食)にしても本質はケトン体を有効利用するところにあると思います.その意味で両者の治療原理は共通していると私も考えます. 

Re: No title

高岡の清 さん

 コメント頂き有難うございます.

 実質断食というよりはプチ断食といった感じでしょうね.

 辛い本断食を少しでも過ごしやすくするために,他にも「すまし汁断食」とか「酵素断食」など様々なやり方が考案されていますが,そのうちの一つだと思います.

 治療原理は御指摘のように糖質制限と共通していると考えてよいと思います.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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