サイアミディン

アセトン血性嘔吐症の正体

プライマリケア医を目指す医師としては,

「専門外なのでわかりません」という事をできるだけ言いたくないので,

神経内科領域以外の病気もできるだけ勉強するよう心がけています.

今日とりあげるのは「アセトン血性嘔吐症」という病気です.

http://hobab.fc2web.com/sub6-Cyclic_Vomitting.htm

アセトン血性嘔吐症というのは2~10歳くらいの小児に多い病気で,過労、精神的緊張、感染などが誘因となって頻回に嘔吐したり腹痛をきたしたりします.別名を「自家中毒」「周期性嘔吐症」と言います.

尿中ケトン体が陽性になることが大きな特徴です.低血糖はあったりなかったりしますが,低血糖をきたした場合は「ケトン性低血糖症」と呼ばれたりします.

そしてこれらの病気ではケトアシドーシスをきたしたり,ブドウ糖の補給が治療であったりします.そのためこどもに糖質制限を勧める事を懸念する理由の一つになっていると思います.
しかし肝腎の原因については不明とされているのが現状です.

そこで糖質制限の観点を持って,このアセトン血性嘔吐症の原因について考えてみたいと思います.

一つ大事なこととして,アセトン血性嘔吐症はスリムな痩せ形の体格の子供(筋肉質でない、華奢な体格の男子)に多いと言われています.逆に体が大きくなっていく10歳以降に自然に治癒して事が多いです.

またこの病気の誘因となる過労、精神的緊張、感染を一言でまとめれば「ストレス」です.

身体はストレスを受けるとコルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンの働きによって血糖値が上昇します.その後追加のインスリン分泌が刺激されることになります.

そしてもう一つ1歳まではこの病気はまず起こらない(同様の症状が起こったとしたら他の疾患の可能性が高い)ということも特徴的です.

1歳までと言えば,ミルクで栄養を受けている時代です.1歳以降は離乳食になりますが,以前ブログ読者のチュチュさんより「日本の離乳食は炭水化物が多い」という事を教えて頂きました.

さらに,2014年1月12日(日)第17回日本病態栄養学会年次学術集会では宗田マタニティクリニックの宗田哲男先生が「胎児~新生児期はケトン体を重要なエネルギー源としている」という事を見事な実証で報告して下さいました.




以上の事実から私が考える「アセトン血性嘔吐症」の正体は次のようになります.

離乳食前までは基本的には糖質代謝はあまり利用していない子が,2歳頃になると炭水化物主体の離乳食にさらされます.

その結果,その子の代謝はケトン体代謝から糖質代謝主体に切り替わります.

糖質代謝に切り替わったばかりの頃は,血糖変動が大きいとその影響を多いに受けることになります.

ストレスのような血糖上昇イベントが起こるとインスリンが分泌されます.

しかし小児の肝臓の働きは未熟であり,成人ほど肝臓での糖新生の働きが強くないので,インスリンが効き過ぎて低血糖に近い状態になります.

筋肉が少なくて華奢な子は普段より蛋白質を摂っていない可能性があり,まず糖新生の材料である糖原性アミノ酸が足りません.

それに筋肉があれば運動により分子鎖アミノ酸が骨格筋で異化され,生成されるグルタミン酸から、アラニンが生成され、肝臓での糖新生を促進させると考えられていますが,筋肉の少ない子はそれができません.

言ってみれば「糖新生能力の低い子がケトン代謝から糖質代謝に適応しきれずに、血糖変動イベントによって身体が悪影響を受けた状態」,これが「アセトン血性嘔吐症」ではないかと私は考えます.

アセトン血性嘔吐症でケトアシドーシスになるのも、酸性であるケトン体がインスリンの作用で代償しきれていない、すなわち代謝がうまく切り替わっていない事を示唆しています。

また,成長して筋肉が発達して糖新生能力が増せば,血糖変動に適応できるようになる.だから10歳以降は起こらないのだと思います.

そして低血糖になりかけているのが「アセトン血性嘔吐症」,実際に低血糖まで行ってしまったのが「ケトン性低血糖症」だと考えます.言ってみればケトン性低血糖症はアセトン血性嘔吐症の重症型です.

ケトン性低血糖症の好発年齢は1~5歳とアセトン血性嘔吐症より若めです.これもアセトン血性嘔吐症の重症型だと捉えれば,「そんなに重症のアセトン血性嘔吐症は成長していくにつれ早めに起こらなくなっていく」と考えれば説明がつきます.



さて,そうなるとこの病気を作り出す諸悪の根源は何でしょうか.

それは離乳食文化であり,炭水化物主体の食生活ではないでしょうか.

もともと赤ちゃんは生まれた段階ではケトン体をしっかり利用しているのです.

その代謝を無理やり糖質代謝へ切り替えるように仕向け,それに適応できないがためにストレスを契機に嘔吐を繰り返す.

ならばブドウ糖を補給することはあくまで対症療法であり,

根本治療は炭水化物主体の食生活を見直すことだと私は思います.


たがしゅう
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非公開コメント

No title

たがしゅう先生おはようございます。
先生のお話、目からうろこですね。離乳食ですね。そこからもう狂ってしまっているということですね。
 もう子育てはないでしょうが、まだ見ぬ孫に口出ししそうで怖いです。
 もっと世の中に認知される糖質制限であってほしいです。
 まずは、自分と夫の健康を考えて生きていきたいです。

Re: No title

スマイル さん

 コメント頂き有難うございます.

 糖質制限の観点を持って世の中を見つめ直すと,

 よくも悪くも今まで気が付かなかったことが本当にいろいろ見えてきます.

 これからも検証し続けたいと考えています.

スマイルさん

>離乳食ですね。そこからもう狂ってしまっているということですね

そのとおりですね。
その後の、保育園・小学校の給食も糖質過多で、栄養バランスが非常に悪いです。
 私の知り合いの栄養士さんは、小学校の現場でなんとかしようと頑張っています。

 「狂って」というのは、差別用語になりますので、「そこからもう間違っている」とお使いください。

Re: スマイルさん

わんわん さん

>  「狂って」というのは、差別用語になりますので、「そこからもう間違っている」とお使いください。

確かにそういう側面もあるかもしれませんが、もう少しアサーティブに指摘する方がいいと思います。

言葉は相手がどう受け取るかという問題もあります。例えば「歯車が狂う」などの差別でない表現もあります。

わんわんさんの意図を伝えたいなら「〜という言葉を使う方がいいと私は思います」などの表現の方がよいと思います。

糖質制限の未来

「アセトン血性嘔吐症」私も興味を持っていたので、
取り上げて頂いて嬉しいです!

糖質を多く摂ることによって、身体にどんな影響が出て来て、どんな病気にかかる可能性が増えるのか…。
まだまだ調べないとわからないことが沢山あるのでしょうね。
そして、それはきっと将来どんどん解明されていくのでしょう。
思い描くだけでワクワクします!

糖質の害の及ばない適度な摂取量の食習慣が、世の中に広く定着して行く未来を、早く見てみたいです。

病気になってしまった人は快癒し、
新たに病気になってしまう人は減り、
本来人体がもともと持っている力を糖質に損なわれることなく健康に生きられる、
糖質制限が常識になった未来。
胸が希望でいっぱいになります。

だからこそ、今日の一歩に大きな意味があるのですね!

この、パラダイムシフトが加速している時代を生きられることに、大きな喜びを感じています♪

医学に携わる方々のご尽力あってこそ、前進しますね。
牽引して下さる方がいて、一般の私達も次々学び続けることができています。
ブログで知識を発信して下さるたがしゅうさんに、心から感謝申し上げます。

かげながら、でも精一杯応援しています!(*^-^*)

アセトン血性嘔吐症

この病気を診ているときの違和感。いえ親近感。
ストレスの後にやってくる腹痛(これがメインです)、それに引き続く嘔吐(実はない子もいます)、そして、点滴をしてアタPなんか入れて眠らせるとなぜか落ち着きます。
尿ケトンは出ない子も多いんです。症状とケトン陽性は関係あるようなないような。
違和感は、あくまで尿ケトン陰性になるまでこだわる小児科医に対して。
親近感は自分が持っている片頭痛とそっくりなので。
で、このごろ周期性嘔吐症が腹部片頭痛の仲間に分類されつつあって、我が意をえたりになっています。
ちなみにアセトン血性嘔吐症という病名は海外にはないと以前聞きました。
ここからはちょっと頭が働かないのですが、腹痛嘔吐が先にあって、その結果として短期絶食となり、そこから代謝の変化が起こってくるのではないか。じゃあなんで腹が痛くなるのか。疲れたら頭が痛くなるのとおんなじじゃないか。実は吐きまくっている大きい子に聞くと頭痛いと言うことが多いです。
頭痛・腹痛のメカニズムは、、、???
糖質をとっていると本当に予防になるんでしょうかね。低血糖の治療にはなると思いますが。

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです

よいと思うことをつづけて

こんばんは。
糖質の思わぬ負の側面と思われることは、奥深いですね。糖質制限することでの身体への寄与ははかり知れないと思いました。
糖質制限をつづけて
糖尿病にもがんにもならない丈夫な体を持ち、
頭脳明晰 糖化しない骨は頑丈、
お肌はツヤツヤなままのきれいなおばさま、おばあさまに
私はなりたいです。
そして100歳まで生きて、糖質制限効果の生き証人になりたいです。
原因不明な体調不良には、医院に行く前に、ダメもとでもいいから(実害はないから)まず糖質をやめて様子見てみたらって、言いたくなります。

Re: 糖質制限の未来

棗 さん

 応援コメントを頂き有難うございます。

 「アセトン血性嘔吐症」については一度頭を整理したいと思っていたので良い機会になりました。少しでも何かの参考になれば幸甚です。

 実は「アセトン血性嘔吐症」について気が付いたことはこれだけにとどまりませんが、それはまた後日記事にしたいと思います。

Re: アセトン血性嘔吐症

にこ さん

 コメント頂き有難うございます。

> このごろ周期性嘔吐症が腹部片頭痛の仲間に分類されつつあって、我が意をえたりになっています。
> 頭痛・腹痛のメカニズムは、、、???


 おそらく血糖値の乱高下によって受ける悪影響の表現型が人によって頭痛であったり、嘔吐であったり、腹痛であったりするのではないかと私は考えています。実際の現象から推測しているだけなので、エビデンスも根拠もありませんが。


> 糖質をとっていると本当に予防になるんでしょうかね。低血糖の治療にはなると思いますが。


 あくまで対症療法ですね。根本的な原因に対処しないと同じ事を繰り返す可能性が高いと思います。

Re:

貴重なコメントを頂き有難うございます。

御意見を肝に銘じて今後のブログ管理に活かしたいと思います。

※内容は非公開とさせて頂きます。

Re: よいと思うことをつづけて

エリス さん

 コメント頂き有難うございます。

> 100歳まで生きて、糖質制限効果の生き証人になりたいです。

 私もです。是非とも一緒に生き証人になりましょう。

> 原因不明な体調不良には、医院に行く前に、ダメもとでもいいから(実害はないから)まず糖質をやめて様子見てみたらって、言いたくなります。

 同感です。原因不明の病気こそ一度は糖質の関与を考えるべきと思います。

 2013年11月14日(木)の本ブログ記事 
 「原因不明の病気と糖質」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-87.html
 もご参照下さい。

言葉について

>意図を伝えたいなら「〜という言葉を使う方がいいと私は思います」
 などの表現の方がよいと思います。

 たがしゅうさんの言われるとおり、読み直してみると、きつい言い方をしてしまいました。

私が、福祉事務所に勤務しており、また、障害者のボランティアをしているので、言葉に対して、過敏なのかも知れません。
 たとえば、「障害者」の害という言葉も、害をなすという意味があるので、「がい」という風にひらがな、または「碍」 を使うべきだとの意見があります。
 私は、言葉狩りをするつもりはないのですが、福祉事務所では、「歯車が狂う」という言い方はしません。『歯車が合わない、あるいは、ずれている』という言い方をします。

 皆さん、それぞれ育ってきた地域性などで、感じるところが違うと思います。

 今回のコメントのポイントは、スマイルさんの言われるとおり、幼少期から、間違った情報が刷り込まれるということです。

 学校などの現場で働いている栄養士さんは、文科省などの「糖質タップリの栄養摂取方針」の中で、戸惑われている方も多いと思います。

 こどもの落ち着きのなさ。肥満の増加。視力の低下に、糖質の過剰・頻回摂取が影響しているのではと思います。

No title

お久しぶりです。私はアセトン血性嘔吐症に以前から興味がありいつか質問したいと思っていましたので、今回取り上げていただいてうれしいです。

また離乳食の話も取り上げてくださってありがとうございます。
最近はよちよち歩きの赤ちゃんがスティックパンを食べているのを見るにつけ、大丈夫かなと気になってしかたないです。
ぐずった子供の間をもたせるために、母親は手軽に食べられるパン、おにぎりを持ち歩くことが多いです。
「さっき食べさせたのに、もうお腹空いたって言うんだよ」と苦笑する母親の言葉をよく耳にします。血糖値の変動を考えるとお腹が空いて当然なのですが。

本題ですが、以前友人に、子供をふくめた糖質制限をすすめたところ「この子は炭水化物を食べないと吐くからだめなんだ」とのことでした。
チーズが好きなお子さんだったのですが、嘔吐症のことを考えて、普段からあまり食べさせないようしている、また小児科からもそのように指導されているようでした。

根本治療は糖質制限なのでしょうが、上手に脂質を使えない子供に、どうやったら安全に、嘔吐発作を起こさせずに体質を変えることができるのでしょうか?
何度も発作を起こして苦しんでいるお子さんの話を聞くと気の毒です。

Re: No title

チュチュ さん

 コメントと御質問頂き有難うございます.

> 「この子は炭水化物を食べないと吐くからだめなんだ」

 これは何らかの脂質代謝異常症のお子さんという意味なのでしょうか.

 例えば長鎖脂肪酸代謝異常症であれば,脂肪の中でも中鎖脂肪酸を使うようにすればケトン体を利用することができるということがありますが,

 病態によっては炭水化物を取らざるを得ない場合もあるかもしれませんね.

 この辺私は実際に脂肪酸代謝異常症の患者さんと関わった事がないので,残念ながら知識不足で答えきることができません.申し訳ございません.

No title

誤解があってすみません。友人の子供はこの記事のアセトン血性嘔吐症です。

Re: No title

チュチュ さん

> 友人の子供はこの記事のアセトン血性嘔吐症です。

 すみません.どうやら深読みしすぎてしまったみたいです.

 それならば「炭水化物を食べないと吐いてしまう」というのは誤解だと思います.

 正確には「ストレスによる血糖上昇イベントのせいで低血糖になりかけて吐いてしまい,炭水化物を食べないとすぐによくならない」ではないでしょうか.

 根本治療はやはり糖質を制限してケトン代謝を有効に使い,多少血糖上昇イベントがあっても困らない体質を作ることですね.

アセトン血性嘔吐症

読ませていただきましたが、糖質制限の「教義=ドグマ」に染まりすぎの感があります。
私は、アセトン血性嘔吐症のお子さんは、肝臓の発育が遅めで、糖新生が追いつかず、低血糖→低インスリン血症→ケトーシスとなると考えます。
アセトン血性嘔吐症のお子さんには、肝臓が十分発達するまで、ある程度の炭水化物投与はやむを得ないことと考えます。
またストレスで高血糖とお考えのようですが、低血糖の説明がつきません。

Re: アセトン血性嘔吐症

かくちゃん 先生

御意見頂き有難うございます。

「ストレスで高血糖→インスリン分泌→血糖乱高下で嘔吐•腹痛など」

と考えておりました。この時糖新生が未熟な子であれば低血糖になってもおかしくはないのではないかと思うのですが。

ストレスホルモン分泌中は低インスリン血症ですが、その後インスリンが追加分泌されるという事はないのでしょうか。また自分でも再考してみます。

ケトン性嘔吐症

はじめまして。3歳児の母親です。
本日、娘がケトン性嘔吐症という症状で入院になりました。アセトン血性嘔吐症とは同じものなのでしょうか?

Re: ケトン性嘔吐症

マミ さん

 御質問頂き有難うございます。

> 本日、娘がケトン性嘔吐症という症状で入院になりました。アセトン血性嘔吐症とは同じものなのでしょうか?

 おそらく同じものだと思いますが、「ケトン性嘔吐症」は正式な医学用語ではないと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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