サイアミディン

「日本人だからこそ「ご飯」を食べるな」書評

少し前までは日本で最も平均寿命が長い都道府県は沖縄県でしたが,

2000年に男性は26位に,2012年に女性は3位に後退しています.

この現象の事を「沖縄の短命化」,または「沖縄クライシス(危機)」と呼んでいます.

その原因として,1972年に沖縄返還があるまでの27年間,戦後の沖縄県がアメリカ統治下にあった事による「食の欧米化」と「運動不足」が言われています.

ここでの「食の欧米化」とは,「高脂肪食」の事を指しています.脂肪にはまるで薬物中毒のように人をとりこにする性質があり、いくら対策を取っても高脂肪食から容易に抜け出せないから,というのが研究者の弁です.

しかし,その判断に待ったをかける一人のお医者さんがいます.

沖縄県こくらクリニックの渡辺信幸先生です.

渡辺先生は糖質制限に通じる「MEC食」を提唱されています.その渡辺先生が現在の誤った健康常識について警鐘を鳴らす本を書かれましたので,読ませて頂きました.


渡辺先生は,沖縄クライシスの原因を「食の欧米化」と決めつけるのは明らかな事実誤認だと言います.

実は沖縄の歴史を紐解けば,もともと養豚が盛んで山羊も食べられたりする肉食中心の食文化でした.

また沖縄県内にはほとんど田んぼがなく,本土との交流が生じるまでは米の自給ができない状況でもあり,独自の食文化を形成してきた唯一の県でもありました.

よって,もともと沖縄は高脂肪食であったと言えます.では本当に沖縄クライシスの原因は何なのでしょうか.

それは,肉食から草食(穀物・菜食)に変わってしまったからだと渡辺先生は言います.

さらに渡辺先生は問いかけます.

本当の意味でのヘルシーな食事とは何でしょうか?



その問いに対して渡辺先生が提唱する「MEC食」というのは,「肉(Meat)」「卵(Egg)」「チーズ(Cheese)」を普段の食事の中心におくべきという考え方で,それぞれの食品の英語の頭文字をとってMECと名付けられています.

MEC食でのルールをまとめると次のようになります.

・食べ物を一口入れたら箸を置き,30回よく噛んで食べる.
・肉・卵・チーズを食事の中心にして,たっぷりと食べる.
・糖質を多く含む食品(穀物・果物・野菜)をなるべく控える.
・食事の際にはまず肉・卵・チーズから食べ,ビタミンC補充のための野菜(推奨するのは葉野菜)を少量プラスする.それでも,どうしても満足できない場合には,食事の最後に穀物(ご飯・パン・めん類)を食べてもいい.
・1日3食にこだわらず,空腹を感じたときに食べる(深夜に食べても可).
・毎日,体重を測る(できれば複数回.ただし,記録する必要はなし).


これらが糖質制限に通じる考え方であることはよくわかると思いますが,

特筆すべきは,「肉」「卵」「チーズ」に注目するポイントを絞っているところです.

渡辺先生は「制限」とか「禁止」というネガティブなワードをできるだけ使わず,「控える」といったマイルドな表現に留め,それよりも何よりも「肉」「卵」「チーズ」をしっかり食べるように呼びかけることで,ネガティブなイメージを与えることなく結果的に糖質を制限させる,という戦略をとっておられます.これは非常に有用な考え方です.

今回の著書の中では,なぜ「肉」「卵」「チーズ」を選択したのかという理由についても詳しく書かれています.

「肉」「卵」「チーズ」の栄養バランスは以前の記事でも取り上げたように,炭水化物が必須でないという観点に立てば,ビタミンCがない事を除いてかなり完璧に近いものです.

また「3つだけ覚えて下さい」と言うアプローチの仕方は指導する医師側にとっても,指導を受ける患者側にとってもシンプルで受け入れやすいものです.

それに肉,卵は栄養学的に極めて優秀な食材であるにも関わらず,誤った健康常識によってあたかも不健康になるというレッテルを貼られ誤解を受けやすくなってしまった二大食品です.

それを積極的に勧めるというのは非常に価値があります.例えば魚などは,わざわざ勧めなくても皆さんそれなりに食べたりしているわけですからね.

以上のような理由から,「MEC食」はかなり上手なやり方だと私は評価し,実臨床の中でもよく取り入れさせて頂いています.



ただ,「肉・卵・チーズをしっかり食べて下さい」だけでは,うまく糖質制限につなげることは難しいのではないかとも思っています.

なぜなら今の世の中は高糖質である事が極めて広く浸透しきっているからです.

糖質を制限する事をあまり認識させないまま,「肉・卵・チーズを食べて」とだけ伝えてしまうと本質を誤る可能性があります.

もしかしたら,卵かけごはんを食べられるかもしれません,あるいは豚の生姜焼き定食を食べられるかもしれません.はたまたパンにチーズを乗せて食べられるかもしれません.

それだとダメなのです.高糖質+高脂質という組み合わせが最もよくないのです.

そのような理由から,やはり「糖質は制限すべきもの」という事実を,

たとえネガティブなイメージが伝わったとしても,きちんと真正面からその事実を伝えていかなければならないと私は考えています.


「糖質を制限すること」=「非必須栄養素を控えること」
「肉・卵・チーズをしっかり食べること(脂質・タンパク質をしっかり補給すること)」=「必須栄養素を十分確保すること

これらは「本当に意味でのヘルシーな食事」を手に入れるための,いわば車の両輪です.どちらが欠けても真の健康を手にすることはできません.

ともあれ,渡辺先生の考え方を知ることができる非常に読みやすい本でした.

皆様も是非一読される事をおすすめします.



たがしゅう
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なかなか、簡単には行かないですね

渡辺先生の本の紹介ありがとうございます。

3/23 お彼岸で、久しぶりに兄夫婦と姪に会いました。
 兄嫁は、HbA1c 8くらいなのですが、私が説明し、「血糖値を上げるのは糖質。お米・パン・そばや、甘いものは避けましょう」というのは、理屈としては分かっていても、農家出身なので、どうしてもお米を口にしたいし、甘いものも、止められないようです。

 江部先生や夏井先生の本もプレゼントしたのですが・・・
 やはり、生活習慣と、「日本人はお米」という考えが、刷り込まれているんですね。
 姪も、「きちんとセーブ出来ていない」とボヤいていました。

 もう、いい大人なので、これ以上行っても仕方ないか?
 血糖値測定器も買わないし・・・
と、あれこれ、次の手はないかと考えています。

自分には関係ないと思っていること

たがしゅう先生、こんにちは。
高糖質食を食べている人もこれは体によくないとわかっていてもなかなか改めることができませんね。例えば血糖値が高くともわざわざ血糖値を上げるものを食べ続けています。これは合併症の症状がイメージしにくく自分はならないと思っているからだと思います。

食後高血糖になるとお腹が痛くなるとかいう症状が現れるといいのですが・・・・


日本人の場合は子供の頃からご飯をたくさん食べる子は良い子であるというコンセンサスができてきたのとこのコンセンサスのもとでご飯を食べないというときっとそれだと病気になるという思い込むが糖質制限に立ちはだかっているような気がします。

おかずもご飯がすすむものが好まれますね。ふりかけとか味付けのりとかですね。

小さい頃からの習慣を断ち切るのは難しいかもしれませんが逆に脳はフレキシビリティーがあるので糖質を控えるのが生活習慣になりやすいともいえますね。

Re: なかなか、簡単には行かないですね

わんわん さん

 コメント頂き有難うございます.御親族の件,お辛いですね.

 価値観を強制することはできません.一方,自分の思い通りにならない事を嘆いても,自分に負の感情がこもるだけで何も良い事はありません.

 できる事をやったら後は相手にお任せするしかないと私は思います.

Re: 自分には関係ないと思っていること

クロワッサン さん

 コメント頂き有難うございます.

> 血糖値が高くともわざわざ血糖値を上げるものを食べ続けています。これは合併症の症状がイメージしにくく自分はならないと思っているからだと思います。

 その通りだと思います.

 糖尿病の怖いところは,自覚症状ないようで実は真綿で首を絞められるようにじわじわと悪くなっていくところです.中毒性が弱い故にそのような事になるのだと思います.

> 日本人の場合は子供の頃からご飯をたくさん食べる子は良い子であるというコンセンサスができてきたのとこのコンセンサスのもとでご飯を食べないというときっとそれだと病気になるという思い込むが糖質制限に立ちはだかっているような気がします。

 私がこどもの時もそうでした.いっぱいごはんを食べると周りの大人が喜んでくれました.それが病気につながるだなんて夢にも思いませんでした.

 良い悪いではなく,もはや文化となってしまっているところが,糖質を考える上で大きな壁となっていると思います.

どうでしょう?

たがしゅう先生こんにちは。
いつも楽しく拝見しております。

私も渡辺先生のこの本読みました。
これだけしつこく「非必須栄養素=糖質は食べなくていい」と繰り返しているし、
なんといってもタイトルが「ご飯を食べるな」ですから、これを読んで卵かけご飯を食べるのはありえないのではないでしょうか?

説教くさくないし、上から目線でもないし、
私は素晴らしい本と思いました。

Re: どうでしょう?

Mieko さん

 コメント頂き有難うございます.

> なんといってもタイトルが「ご飯を食べるな」ですから、これを読んで卵かけご飯を食べるのはありえないのではないでしょうか?

 確かに,この本をきちんと読んだ人であればそのような間違いをされる事はないと思います.

 しかし私達が診察室で説明する場合には,短い時間で簡潔に糖質制限の意義を伝える必要があるわけです.

 その際に「肉・卵・チーズをしっかり食べなさい」は一つの戦略であるわけですが,炭水化物ベースの食事が当たり前になっている人達にそれを伝える場合は注意しないと結果的に「高脂質+高糖質」の食事を勧めてしまう事になりかねないという懸念です.

> 説教くさくないし、上から目線でもないし、
> 私は素晴らしい本と思いました。


 それは私も同意します.

 ただ「ごはんを食べるな」という本のタイトルは,本文を読んでみると渡辺先生の意図と少し食い違っているようにも思いました.「食べるな」というのは渡辺先生が避けている「制限」のニュアンスですので(夏井先生のサイトで本のタイトルは著者が決めるのではなく,出版社が決めると聞いた事がありますが,そのせいでしょうか,).

 将来低糖質にする事が当たり前の世の中になれば,糖質はわざわざ「制限」するものではなくなりますが,今の高糖質の世の中では,残念ながらまだまだ糖質は「制限すべきもの」だと私は思います.

そうですね

ご返答ありがとうございます。

たがしゅう先生は神経内科がご専門なので
普段接しておられる患者さんたちの大半は
血糖コントロールの悪い方と想像します。

だとすれば、「制限」という言葉を使うのも
仕方がないのかもしれませんね。
その点、「治療」だけでなく「予防」にも
重きを置いている渡辺先生とは発想が違うのでしょうか……。

私は糖質を摂らない食生活をしていますし
友人や知人にも勧めていますけど、
「制限」という呼び方は人を締めつけるので
本当によくないと感じています。

それに、「糖質」が何かの説明も必要なので
「糖質制限」という呼び名は
変えたほうがいいとも考えています。

これはあくまで、私個人の意見です。
長々と失礼いたしました。

Re: そうですね

Mieko さん

 コメント頂き有難うございます.

> 「治療」だけでなく「予防」にも
> 重きを置いている渡辺先生とは発想が違うのでしょうか……。


 私の説明の仕方が不十分だったようで申し訳ございません.

 勿論,私も「予防」を非常に意識しています.だからこその「糖質制限推進派」医師です.

 実際には私も「炭水化物は極力控えて下さい」というような口頭表現をよく使います.私が言いたかったのは,「糖質制限」という言葉の問題ではなく,「糖質を減らす」という事も「肉・卵・チーズをしっかり食べなさい」と同じくらい強調して伝えないと患者さんを誤誘導してしまう可能性があるという事です.

 決して渡辺先生の方法論を否定しているのではなく,むしろ素晴らしいと思っています.その方法をより私なりに昇華させたいと思い試行錯誤をしているという次第であります.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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