そもそも病気とは何なのか
そうした方の中には「自分は病気だらけだ」と言って来院される方も少なくありません。
先日もそのようにおっしゃり原因不明の手足のしびれの精査のため当科を受診された70代の女性がいらっしゃいました。
その方には高血圧症、脂質異常症、糖尿病、慢性心不全、シェーグレン症候群、原発性肺高血圧症、関節リウマチなど、様々な病名がつけられており、それぞれに対応する薬が併せて20種類も出されているような状態でした。
医療が発達して病気を病気として認識できるようになったと言いますが、
ここで私はふと思いました。
「もしも医療が発達していない時代だったら、この人はただの体が弱ったおばあちゃんなんだろうな・・・」
はたして病気とは一体何なのでしょうか。
著者の岩田健太郎先生は、医療界の中ではかなり有名な先生です。
国内有数の有名総合病院や、国外での多数の診療経験を持ち、感染症学のプロフェッショナルとして37歳の若さで神戸大学の教授に就任されたスーパーエリートの先生です。
診療の傍ら、講演も数多くこなし、上記の本以外にも積極的に執筆活動に取り組まれています。若手医師にとってはケアネットTVという医療情報番組で多数の番組にも出演されており、非常にわかりやすい説明にも定評があります。
さて、この本の中には「病気というものは実在しない」という、一見「えっ?」と思うような事が書かれています。
もう少し詳しく言えば、「病気とは実在するものではなく、ある現象を規定し、ネーミングしたものに過ぎない」というのです。
確かに、糖尿病一つとっても、HbA1c6.5%以上の人を「糖尿病」と呼ぶという,あくまでルールに基づいて糖尿病の人かどうかが決められています。
しかし,実際には糖尿病でない人が糖質を摂取してもグルコーススパイク(血糖値の変動)は起こります。ただ糖尿病と呼ばれる人とそうでない人でその程度が違うというだけです。
そうした状況の中、どこからが糖尿病と呼ぶか、呼ばないかを分けるのは、人の「恣意性」が関わっています。
極端に言えば、「グルコーススパイクが起こること」=「糖尿病」と仮に定義したら、国民のほとんど全員が「糖尿病」ということになります。
自分は糖尿病じゃないからまだそこまで糖質制限は厳密にしなくてもよいという考えを聞くことがありますが、
糖尿病であろうとなかろうと、生きて行く中で糖質の摂取量に応じて、グルコーススパイクを受け、それに伴う酸化ストレスを受け、人は年老いて死に近づいていきます。
そうした人生のラインを歩いていく中で、病気というものにこだわらなければ、糖質制限をするのはいつだって良いようにも思えます。
一方で病気だと認識される事には害もあります。認識される事でその病気に対応する薬を強く勧められる事です。
今の医療ははっきり言って薬中心主義で成り立っています。それはもう医師も患者もどっぷりとこの主義に浸かってしまっています。
だからその不自然さになかなか気がつく事はありませんが、薬というのは身体にとって不自然な現象を人工的に起こすという側面があります.
高血圧に降圧剤,脂質異常にスタチン,糖尿病に血糖降下剤,慢性心不全に利尿剤,膠原病にステロイドなどと,根本的な原因がわからないまま身体に不自然なことが積み重なっていけば,果たしてどうなっていくでしょうか.
それに薬には相互作用というものがあります.薬が積み重なれば重なるほど身体の中で起こる現象は複雑怪奇を極めます.
その一つの結果が冒頭の,いわゆる「病気だらけ」の弱った高齢女性なのです.
こうなるともはや,病気でそうなっているのか,薬でそうなっているのか訳が分からなくなります.
病気と認識することは既知の治療法につなげることができるという良い側面もありますが,
糖質制限の観点を持つと,その既知の治療法そのものも正しいのかどうかを見直さなければならないので,必ずしも良いことになるとは限りません.
しかし,病気があろうとなかろうと,
人が健康であるためにどうすべきかということを
考える事が大事だと私は思います.
たがしゅう