サイアミディン

想いが伝わらない

重度認知症のある90代女性患者さんの話です.

約1年前にそれまで診ていた認知症専門医の先生が異動となり私が引き継いで診る事になりました.

いつも息子さんに連れられ車いすに乗った状態で受診されています.

この患者さんはいつもうつらうつらと眠り込んでいて,話しかけると目を開けて応答はされますが,すぐにまた眠り込んでしまうような状態です.

そこでその状態を少しでもよくしてあげようと思い,覚醒度を高める目的で「フェルガード100M」をお奨めしてみました.

ある日私は息子さんへ,「このフェルガード100Mというのは薬ではないので処方ができず,御自身で注文して頂く形になりますが,一定の効果が期待できるサプリメントです.もしよろしければ1ヶ月だけでも試してみませんか」とお話ししました.

息子さんは「わかりました」と言って下さいました.

そしていつもの抗認知症薬も処方して,その日は診察終了しました.
数か月後,再び受診された際に私は尋ねてみました.

たがしゅう「どうですか,フェルガード試してみましたか?」

息子さん「いや,試していません.」

患者さん「………(眠りこんでいる)」

たがしゅう「そうですか.でも使ってみればもう少し元気が出るかもしれません.困ってくるようなら検討してみて下さいね.」

息子さん「わかりました.」




…しかし,それから何度か診ていますが,待てど暮らせどその患者さんの御家族は一向にフェルガードを試そうとしません.

明らかに本人の活動性が低下しているにも関わらずです.

これだけ活動性が低下していれば,食事を介助するにも,トイレに行かせるにも,きっと困っているはずなのに,

御家族の方が一度もフェルガードを試そうとしない事を私は不思議に思っていました.

そんなある日,その息子さんが,こうおっしゃいました.

「いつもの〇〇先生の薬を出して下さい」


その時私は気が付かされました.

〇〇先生というのは,私の前にこの患者さんを診ていた認知症の専門医の先生です.

要するに御家族は「認知症専門医が出した薬を飲んでいるのでそれで問題はない」と思っているのだと思います.

もっと言えば,もうすでに〇〇先生が出してくれた薬を飲んでいるのに,ポッと出の若い医者に得体の知れないサプリメントを勧められてよくなるわけがない,とさえ思われているかもしれません.

これって糖尿病専門医の出している薬であれば大丈夫って思う患者さんの心理と同じです.


この御家族にとっては患者さんが眠りこけていても当たり前なのかもしれませんが,

私にしてみれば,それは改善させる事ができるかもしれないことです.

私は医師として患者さんがよくなる可能性がある事はできるだけ試してあげたいと思っているのですが,

残念ながらこういう患者さんには私が何を言っても声は届きません.

権威を盲信してしまう患者さん,そしてそれを軌道修正することができない自分の力量のなさ,

またしても自分の中でやるせない思いです.


たがしゅう
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私の感想

おはようございます。
たがしゅう先生のその患者さんの問題は、ご家族にとっては切実ではないorあきらめの境地でそれが普通になっているのかもしれません。

私が糖質制限と出会えたのは、夏バテを改善したいという切実な動機がありましたから。

Re: 私の感想

エリス さん

 コメント頂き有難うございます.

> ご家族にとっては切実ではないorあきらめの境地でそれが普通になっているのかもしれません。

 そうですね.御家族に切実な動機がない限りは難しいのかもしれません.

懐かしく思い出す日が来ます

おはようございます♪

このやるせなさも、もどかしさも、自分が行動している確かなしるしだと、たがしゅうさんはわかっていらっしゃいますよね(*^-^*)
糖質制限もそうですし、他のどんなことでも。

心がひりひりするような苦しい思いもおありでしょうが、なにもかもを
「あの頃は大変だったね」
と懐かしく思い出し、今までがんばって来てよかったと振り返る日が来るでしょう。

日々いろんなことがありますね。
未来のための大切な「今」を、一歩ずつ着実に前進して行かれますようにと、かげながら応援しています。
それぞれの立場で、未来を信じる気持ちに真っ直ぐに、今できることから取り組んで行きたいですね。

どんなことがこの先あっても、たがしゅうさんの心に希望がいつも力強く輝いていますように!
お祈りしています☆(*^人^*)

Re: 懐かしく思い出す日が来ます

棗 さん

コメント頂き有難うございます。

> 心がひりひりするような苦しい思いもおありでしょうが、なにもかもを
> 「あの頃は大変だったね」
> と懐かしく思い出し、今までがんばって来てよかったと振り返る日が来るでしょう。


そうですね。辛い事は日々ありますが、うつむいてばかりもいられません。
前向きな姿勢で一歩一歩を積み重ねていきたいと思います。有難うございます。

No title

その患者さんのご家族は先生のことを信頼していない訳ではないと思います。
ご家族にとって今まで通りの薬の方が都合が良いという事ではないでしょうか。

認知症の家族を持つと生活はとても大変になります。
何をするか分からず危険で目が離せなくなるからです。
お世話をする家族の手が足りなければ元気に動かれては困るのです。
悲しい話ですが、現実問題として生活をしていかなくてはなりませんから、そういう考えにならざるを得ないのではないでしょうか。

Re: No title

ゆるママ さん

コメント頂き有難うございます。

またお察し頂き有難うございます。私には知り得ない実生活上の様々な問題は確かにあるのでしょうね。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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