サイアミディン

パラダイムシフトの波に乗るために




『医療の巨大転換(パラダイムシフト)を加速する』
糖質制限食と湿潤療法のインパクト
著者 江部康二 夏井睦
東洋経済新報社


みなさんは湿潤療法という傷の治療のことを御存知でしょうか.

私は2005年頃に湿潤療法の存在を知りました.湿潤療法というのは「傷が治ろうとする力を邪魔するものを除いて,傷が最も治りやすくなる環境を作って傷を治そうとする治療法」のことです.まどろっこしい言い方をしてしまいましたが,簡単に言うと「消毒・ガーゼを一切使わない傷の治療法」です.

人間の体は傷ができた時に,傷が治ろうとするために組織修復反応が自然に働きます.例えば,傷ができた後のジクジクした液体,よく「膿んでいる」と勘違いされがちですが(医療関係者でさえも),あれは言わば傷が治るために自分の体が作った細胞培養液です.

こうした傷が治ろうとするのを邪魔するものというのが,実は「消毒」であり,「ガーゼ」なのです.

これを初めて聞いた時は驚きました.なにせ消毒が悪いだなんて,医学教育で習ったことなんてないし,実際病院の中では消毒の使用がごくありふれていたからです.それにガーゼで覆わないなら一体何で覆えばいいんだろうか,と当時は思ったものです.

しかしこの治療法を提唱された夏井睦先生は,そうした疑問に次々と明快に答えていきます.

「消毒には細胞障害性があります.細菌を殺すだけでなく,自分の細胞まで殺してしまいます.そうして消毒を繰り返せば繰り返すほど,傷をどんどん深くしてしまっているのです.ガーゼは傷を乾燥させるものです.乾燥により傷の治りが悪くなり,ガーゼを交換するたびに傷の表面をはぎとって傷を深くしてしまいます.しかもその度に痛みを生じます.従って傷に固着しない被覆材を使うべきで,場合によってはそれはラップでもよいのです.」

当時傷に消毒をして,ガーゼを貼るのが当たり前だった時代に,たった一人のお医者さんからそうした問題提起がなされ新しい治療法が発信されるという出来事,これはものすごい事でした.夏井先生は自身のインターネットのホームページ(新しい創傷治療:http://www.wound-treatment.jp/)で毎日更新されて情報発信されていたのでその役割も大きかったと思います.

私は当時研修医でしたが,そうした話を聞いていて「これはいつか自分で実際にやってみて効果を確認したい」という思いが沸々とわき出てきたことを思い出します.

そして研修医の立場を離れ,ある程度自分の意思で治療法を選択できる立場になった時に実際に試しました.自分の治療に責任を持つために,その頃は毎日患者さんの傷の写真を撮らせてもらっていましたが,おかげでこの治療法の効果が間違いないということを確認することができました.

それまでの常識を科学的に徹底検証することで真実にたどりつくという偉業,夏井先生は医者としてだけでなく科学者としてすごい先生だと思いました.


それから数年後,その夏井先生がホームページの中で「糖質制限」の事を紹介されます.

その時,私は相当な肥満者で,かつ自分の人生に相当悩んでいるような状態でしたが,「糖質を制限をするとやせて体調がよくなるらしい」といった情報に半信半疑ながらもとりあえずやってみようと思いました.それ以後スムーズに減量することができ,実際に体調も改善していったということはこれまでも本ブログで紹介して参りました.

ここで,この糖質制限をあの夏井先生が紹介した,ということは私にとっては極めて意味のある事でした.

なにせ湿潤療法を確立するほど科学に精通された夏井先生が「糖質制限」を認めるということは,一見の価値が大いにあるということなのです.もしもただの知り合いからこの話を聞いていたとしたら,もしかしたら納得せずスルーしていたかもしれません.

つまり「湿潤療法」も「糖質制限」も,根幹の部分にはなぜ効くかということに関するしっかりとした科学的根拠があり,そして実際に効く治療法なのです.

そしてさらに夏井先生が糖質制限を実践する上で参考にするよう紹介されていた『糖尿病がどんどんよくなる糖質制限食』という本がありました.この本を書かれた京都高雄病院の江部康二先生の存在をこの時初めて知りましたが,江部先生も科学的な事実に忠実に現在の食事療法の問題点を解き明かし,真実を追求していく姿勢を持った先生であるということがわかったのです.

しかも夏井先生,江部先生ともにインターネットでのホームページ,ブログ活動を通じて,情報を惜しげもなく公開し,なおかつ実際に悩んでおられる患者さんの相談にも非常に親身になって対応されています.

これからの時代,いかにインターネットの情報をつかいこなせるかが重要であるということも学ばされます.

そんな二人の偉大な先生がタッグを組み,医療の巨大転換(パラダイムシフト)を起こそうではないかと対談をされた本が冒頭に紹介した本になります.

私は本を読むのが苦手な人間で,いつも読むのに時間がかかって苦労するのですが,この本は例外でした.

まさにお二人が対談されているライブ感が伝わってきて,内容も面白くてどんどん続きが気になり先を読みたくなる感じになって,あっという間に読み切りました.

この本の中でも,今後従来の常識を変えていく中でインターネットの役割が非常に大きいという事が示唆されていました.

実はこれも未熟者の私がブログ始めてみようかと思った理由の一つであります.面白い本なので皆さんもよろしければ是非御一読下さい.


それにしても,これだけ正しい二つの治療法なのですが,不思議なことにまだ十分に世の中に広まっているとは言えないのが現状です.なぜならば,それを阻む厚い厚い常識の壁が立ちはだかっているからです.

先日も下肢の赤みに対して皮膚科へ患者さんを紹介した際に,たまたま見つかった膝の浅い傷に対してゲーベンというクリーム(※消毒同様細胞障害性があります)とガーゼをはっつけられて帰ってきた,という出来事がありました.私は湿潤療法の原則にのっとり,直ちにその処置をやめさせ,ゲーベンでなくワセリン(※細胞障害性はありません)へ切り替えるよう指示しました.

「フゥ…」とため息をつきました.皮膚科の専門医でさえそのような間違った処置を指示してくるのです.なぜそんな事になるのか,皆さんはさぞや不思議に思うことだと思います.

だって一度でも自分の傷にゲーベンを塗ったことがあれば痛みが生じる事は明らかなわけですし,そうでなくとも少なくとも毎日傷を観察していればゲーベンを塗ろうとは絶対に思わないはずです.

要するにその皮膚科医は昔から慣習的にゲーベンという軟膏が使われているから使っているだけなのです.ここに常識の壁が立ちはだかっています.「本当にそれでよいのか?」と疑う姿勢が極めて重要だと考えます.

ちなみに担当した皮膚科医は私よりも若い医師です.その医師以外でも若い糖尿病医師でも糖質制限を受け入れようともしない医師は実にたくさんいます.

どうやらパラダイムシフトを受け入れられるかどうかに年齢は関係ない模様です.


たがしゅう
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傷の経過良好

私は数日前にカッターナイフで左手の親指に何針か縫うほどの怪我をしてしまいました。

 切った直後は出血がなかなか止まらずあせったのですが、湿潤療法を思い出しその通りにしてみました。

 二日後に患部を確認してみたら、きれいにくっついていました。

 私は普段あまり怪我をしないので、湿潤療法の効果を実際には知らなかったのですが、自分で体験してみてその効果に驚きました。

 ネットをまったく見ない私の妻でも湿潤療法のことを知っていたので、これからどんどん広まっていくと思います。

もしや!

3年前 多発性骨折で
長期入院していたのですが
開放骨折した部位と褥瘡については
生食(又はお風呂)で良く洗浄するだけで
直接オプサイトを貼っていました。

期せずして
湿潤療法を受けていたかもですねw ♪

夏井先生・江部先生の
展開される理論については
まだまだ 不勉強なので
今回の出版もノーマークでしたが
たがしゅう先生ご推奨とあらば
読んで見なくちゃですね ☆

Re: もしや!

☆ acco ☆ さん

 いつも御覧頂き有難うございます.

> 開放骨折した部位と褥瘡については
> 生食(又はお風呂)で良く洗浄するだけで
> 直接オプサイトを貼っていました。

 まさに湿潤療法ですね.主治医の先生に御理解があったのでしょうか.
 普通はそういう場合でも,消毒やゲーベンクリームなどの細胞障害性があるものを使われてしまうのが,悲しいかな今の日本の医療の多くの現状ですので,☆ acco ☆ さんはラッキーだったと思います.

 江部先生もさることながら,夏井先生も相当すごい先生です.

 湿潤療法について勉強するなら,『傷はぜったい消毒するな ~生態系としての皮膚の科学』という本もおすすめです.消毒の有害性を説くところから発展して,特に女性にとって身近な「お化粧が実は皮膚を老化させてしまう」という衝撃的な話まで書かれている夏井先生の御著書です.とても興味深い考察がなされています.

Re: 傷の経過良好

こたろうさん

コメント有難うございます。

傷を乾燥させるのではなく、湿潤環境にすることで傷が治るのを邪魔しないようにするのが湿潤療法です。こたろうさんは自分で上手にできたようで、よかったです。

 ただ出血が多い場合はまず止めることが何より重要です。圧迫止血が基本ですが、止められない場合は近くの病院のお世話になる方が無難です。御注意頂ければと存じます。

 なんにせよ、新しい治療が広まりつつあるのは良い事ですね。

お化粧も?!

ノーメイク ありえませんwww。
(ヾノ・∀・`)㍉㍉…
どうしましょうぅ~!

accoが入院していたのは
日医大の高度救命救急センターですが
(言っちゃってもいいのかな?)
主治医というよりセンター全体で
湿潤療法を実践していたのだと思います。
褥瘡コンシェルジュみたいな
看護師さんまでいましたよ~w。

Re: お化粧も?!

☆ acco ☆ さん

 お化粧については、「ワセリン」という肌に無害な軟膏を基礎化粧品代わりに使うというアイデアもあるようです。詳しくは、湿潤療法創始者の夏井先生のホームページに非常に詳しく書かれていますのでご参照下さい。

新しい創傷治療「ワセリン基礎化粧品化計画」:http://www.wound-treatment.jp/next/essay/vaseline.htm

 さてセンター全体で湿潤療法を理解していたということですが、

 もしそうであれば皮膚移植をしたり、MRSA感染を起こしたりというのはおかしいと思います。

 褥瘡コンシェルジュというのも、もしかしたらWOCナースと呼ばれる認定看護師のことかもしれませんが、こちらも褥瘡学会で湿潤療法と真逆の治療方針(様々な薬剤や高価な器材を使って褥瘡を治そうとする)を習得している方々です。

 もしそうであれば残念ですが、きちんと湿潤療法をやってもらっていたとは思えない経過です。残念ながら理解していたのは一部のドクターだけだったかもしれません。褥瘡には白いクリームが塗られていませんでしたか?

 実は一般的には大学病院や高度な救命センターほど湿潤療法を実践してもらえないという不思議な現象が起きています。

 今後身を守るためにも湿潤療法についてよく知られることをお勧めします。

なるほど・・・

早速のお返事
有難うございますぅ。

うーん
何も塗ってなかったと
思います・・・。

ただ
夏井先生のブログの
該当箇所を拝見して
デブリに対するお考え等
accoが受けた治療とは違かも?
という印象をうけました。

今日 当該書籍
購入して参りました ❤
ちゃんと読んでから
コメ返しさせて頂きますね。

Re: なるほど・・・

☆ acco ☆ さん

杞憂であればすみません。

ともあれ、夏井先生のホームページは本当に勉強になるので、是非合わせてご覧になって下さい。

読了しました ☆

内容は然る事ながら
両先生のお人柄が窺えて
楽しく拝読させて頂きました♪

おふたりのHPも
とても勉強になりますぅ!

全部は
読めていませんが
必要箇所を
逐次読ませて頂きます。

今度
たがしゅう先生と
お逢いする機会があれば
踵の開放骨折の痕
(褥瘡もお嫌でなければ)
お見せしますね。

褥瘡は2箇所あって
片方だけ
皮膚移植しているので
対比出来るかも知れませんw。

Re: 読了しました ☆

☆ acco ☆さん

 お早い読了,有難うございます.全体的に読みやすい本ですよね.

 また是非お会いしたいですね.微力ですが私も糖質制限のこと,湿潤療法のことお力になりたいと思っております.

 これからの☆ acco ☆さんが健康であられますように.

No title

本書を拝読しました。

本書で両氏がおしゃっているように、糖尿病の専門医は訴追されるべきです。

現代の赤ヒゲ二人の、スリリングな対談でした。

僕は、不必要な抗生物質を飲まされ、不必要なワクチンを打たれながら育ち、90近い祖母を不必要な癌の開腹手術で亡くしたので、医師には警戒心どころか軽蔑心を持っていますが、両氏のような知的資本と反骨心をお持ちの才人が活躍なさるのは頼もしいです。

ただ同時に、患者のパターナリズムが医療殺人犯を跋扈させているのも確かなので、私自身戒めたいです。

Re: No title

佐々木 さん

 コメント頂き有難うございます。

 多くの医療者は西洋医学を基本に医療はかなりの所まで進歩したとおそらく思っているかと思いますが、

 私に言わせれば現代医療は西洋医学に偏りすぎたせいで、八方塞がりの袋小路に迷い込んでしまったと思います。この路線で続けている限り、きっと本当の意味での健康を取り戻す打開策は見出せません。

 打開するための基本となるのが糖質制限だと私は考えています。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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