サイアミディン

月経前症候群と糖質制限

今日のテーマは月経前症候群です.

月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome)というのは,

『月経前3日~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で,月経発来とともに減退・消失するもの』というのがその定義です.

さらにその中で精神症状が著しく日常生活を障害するタイプのものを月経前不快気分障害(PMDD:premenstrual dysphoric disorder)と呼びます.

いずれにしても女性にとって悩ましい病気ですが,この病気の注目すべき点は「月経発来とともに何事もなかったかのように消失する」という部分です.

そこには女性特有の現象である月経,および性ホルモンのバランスが大きく関わっています.

糖質制限をすることによってPMS,PMDDが改善するという話も時々聞きますが,

今日はなぜそのような事が起こるのかについて考察してみたいと思います.
一般的になぜPMSが起こるかに関してはさまざまな仮説(性ホルモンの代謝物の上昇,セロトニンニューロン,GABAニューロンの相互関連,グルタミン作動神経の挙動など)がありますが,正確な実態はわかっていないというのが現状のようです.

私はこのPMSの原因に糖質制限を通じて一つ考えられる仮説を思いつきました.

その事を考えていく前に,まずは女性の月経周期について整理します.

月経周期

通常の月経周期は28日前後であり,月に1回月経が来るというのが一般的だと思います.

この28日は前半の卵胞期と後半の黄体期に大きく分ける事ができます.

図のように卵胞期ではエストロゲン(卵胞ホルモン)というホルモンが徐々に優位になり,妊娠の舞台である子宮内膜を増殖させ,最終的に排卵という現象を起こして終了します.

そして後半の黄体期に入ると今度はプロゲステロン(黄体ホルモン)というホルモンが優位となり,妊娠をしやすい状況を保つために増殖した子宮内膜をそのままの状態で維持しようとしますが,最終的に月経が来て終了します.

この卵胞期と黄体期を繰り返すことで,「月経周期」を形成しているわけですね.

ちなみに,卵胞期に比べて,黄体期の方が体温が約1度高いという特徴があり,この変動する体温パターンの事を「基礎体温」と呼びます.



さてPMSの症状が現れるのは,『月経前3日~10日の間から月経初来まで』でした.

図から考えて,この時期に特徴的な現象というのは,「エストロゲンが少ない事」ではないでしょうか.

となると,エストロゲンが少ない事と症状の出現に何か関連がある可能性を考えます.

米国産婦人科学会(ACOG)の診断基準によりますと,

PMSと診断するには,『過去3回の月経周期において,月経前の5日間に以下の身体症状,または精神症状の少なくとも1つが存在する事』が必要だとあります.

 身体症状:乳房圧痛,腹部膨満感,頭痛,四肢のむくみ

 精神症状:抑うつ,怒りの爆発,いら立ち,不安,混乱,引きこもり

これらの症状が出現する事とエストロゲンが少ない事には何か関連があるのでしょうか.


次にエストロゲンが他のホルモンに及ぼす影響について考えます.

実はエストロゲンはプロラクチンというホルモンの分泌を促進する事が知られています(Carrillio AJ, et al.: Endocrinology 121:1993-1999.1987).

プロラクチンは乳腺文化・発育に関わるホルモンで,妊娠後は乳汁分泌や合成の役割も果たしますが,

一方で先ほどの黄体期の主役,プロゲステロンを分泌させる働きもあります.つまり卵胞期と黄体期の橋渡しをするような役割もあるのです.

さて,このプロラクチンですが,実は視床下部という場所で分泌量が絶妙にコントロールされています.

視床下部ではプロラクチン放出因子(PRF:prolactin releasing factor)とプロラクチン抑制因子(PIF:prolactin inhibiting factor) という二つの因子が放出されます.この二つがバランスを取ってプロラクチンの分泌量を微調整しています.

プロラクチン放出因子としてはTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン),VIP(血管作動性腸管ペプチド),カテコラミン,ヒスタミン,セロトニン,オピオイドペプチド,サブスタンスP,ペプチドヒスチジンメチオニン(PHM),ペプチドヒスチジンイソロイシン(PHI)など様々なものがあります.

エストロゲンはこれとは別にプロラクチンを分泌する下垂体という所へ直接働きかけることによってプロラクチンを分泌させます.

一方,プロラクチンが上昇しすぎた場合にブレーキをかけるためにプロラクチン抑制因子があるわけですが,

プロラクチン抑制因子には,ドーパミン,GABA,GnRH-associated peptide(GAP)があります.

中でもドーパミンは強力なプロラクチン分泌抑制因子である事が知られています.


ここまでをまとめると,

PMSの起こりやすい時期にはエストロゲンが少ない
⇒エストロゲンが少ないとプロラクチンの分泌が減る
⇒プロラクチンの値を正常に保つために,主要なプロラクチン抑制因子であるドーパミン分泌が抑制される.

ということで,「PMSの症状が出ている時期は基本的にドーパミン分泌は抑制されている」という事がわかります.

しかし,ここにおいて外部より強制的にドーパミン分泌を促進させる要因が入ってくるとどうなるでしょうか.

例えば糖質を摂取すると血糖値の上昇を介して強制的にドーパミンセロトニンが分泌されます.

エストロゲンが低く,ドーパミンが抑えられている状況下で,強制的にドーパミンが上昇させられるという事は,

いわば「ドーパミンの乱高下」が起こっている可能性が示唆されます.

PMSの精神症状にはイライラ,不安,怒りといった陽性症状と,抑うつ,引きこもりといった陰性症状とに分けることができそうですが,

もしかしたら急にドーパミンが高まりすぎた時に陽性症状が出現し,

さんざんドーパミンが放出されドーパミン神経が疲弊してしまった場合に一時的な抑うつが起こっているのではないかと,

そして月経が終了し,再びエストロゲンが作られるようになれば自然にドーパミンが放出されやすい状況が戻ってきて症状が治まってくるのではないかと私は考えます.



もっと言うならばエストロゲンの材料はといえば,大元はコレステロールです.

現代のコレステロール悪玉説を元にコレステロールを下げることばかりに意識が向けば,さらにエストロゲンの枯渇を招き,よりPMSの症状を悪化させる事にもつながるのではないでしょうか.

糖質制限をすればドーパミン不足下での不必要なドーパミン分泌を避けられるし,エストロゲンから基礎ドーパミンを供給するためのコレステロールもしっかり確保する事ができます.

だから糖質制限をするとPMSの精神症状がよくなるのではないかというのが私の仮説です.

PMSの身体症状について言及するには,また別の考察が必要ですが,

それはまた次の機会にしたいと思います.



たがしゅう
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七転八倒してました

スゴイです!

私は糖質制限前はPMSとPMDDで七転八倒していましたので、このテーマを取り上げて下さることは涙が出る程嬉しいです…!

昔は、婦人科に行っても「PMS」という言葉を知らないお医者さんもいました。生理痛で来院すると「それしきのことで来ないで」と言われる時代でした。

ひとりでインターネットで一生懸命調べても、もう知ってることしか検索できず…その頃の私が喉から手が出る程知りたかったことが、今日の記事にすべて書いてありました(T▽T)感激です。

30代の私は、このPMSとPMDDのあらゆる症状に振り回されていました。
今に発狂してしまうのではと不安がよぎることすらありましたよ。

しかし、糖質制限を始めてから1年も経たないうちに強い精神症状はまったくなくなり、あとの身体症状はプラセンタで消失しました。

まさに、月に一度の地獄の日々から、糖質制限によって救い出されました。

この同じ悩みを抱えて苦しんでいる人々と、自分のHPで交流しては、「こうすると楽になる気がする」という体験情報を交換していましたが、どれも皆おまじないの域を出ず、医学的に解明されて欲しい…と祈るような思いで支え合っていました。

もう昔の話です。

でも、思い出したこの機会に古いHPデータを出してきて、この時のことを私も記事にしてみます。

私はすっかり忘れていましたが、今の時代でもあの「地獄」に悩まされている女性は沢山いるにちがいありませんよね。

こんな大切なことを糖質制限をからめて医学的に解説して下さるたがしゅうさんに、心から感謝します。

No title

とても興味深く読ませていただきました。
私の場合、
胸の張り、怒りっぽくなる、甘いものが食べたくなる、ドカ食い
があるのですが、

自分でも、普段と少し別人になる感じで驚くんですよ。
体がドーパミンを欲していると考えると妙に納得です!

>糖質制限をすればドーパミン不足下での不必要なドーパミン分泌を避けられるし,エストロゲンから基礎ドーパミンを供給するためのコレステロールもしっかり確保する事ができます.

の仕組みが理解できませんでした・・残念。
糖質制限からドロップアウト中なので、また実践し実体験で
確かめられるといいのですが。

Re: 七転八倒してました

棗 さん

コメント頂き有難うございます。喜んで頂いて何よりです。

ただ過信は禁物です。私も間違う事はありますし、今回のテーマに至っては自分が実体験しようがない事を頭の中だけで組み立てた話なので、どこかで間違っている可能性もあります。

しかしそれでも仮説は恐れずに公開しようと思っています。もしも間違いがあれば是非とも御指摘頂きたい所存です。

Re: No title

鳴海 さん

コメント頂き有難うございます。

> 自分でも、普段と少し別人になる感じで驚くんですよ。
> 体がドーパミンを欲していると考えると妙に納得です!


「ドーパミンを欲している」というかですね、
『自然にドーパミンが分泌される状況を維持しようとしている』感じではないかと思っているんですね。

月経周囲にエストロゲンが少ないのは生体リズムなのでここは動かしようがありませんが、
そういうエストロゲンが少ない時期はプロラクチンを介して結果的にドーパミンが少なめになっている時期なので、
この時期に糖質をとったり、ストレスを受けたりすると、
ドーパミンが低めの状態から一気にドーパミン神経が刺激されてドーパミンが高まってしまうという、いわば「ドーパミンの波」がよくないのではないかと考えています。

そんな中、そういうドーパミンの乱高下を調節する役割をもっているセロトニンというやつもおりますが、これについてはまた次の機会に述べたいと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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