サイアミディン

更年期障害と糖質制限

前回,月経前症候群の原因について糖質制限の観点から考察しました.

まとめると「エストロゲンが低下した状態では基本的にドーパミンの分泌が少なく,そういう状況で糖質摂取などの強制的にドーパミンが放出される現象をきたせば,ドーパミンの乱高下が起こり精神症状をきたしやすい」という仮説になります.

強制的にドーパミンを出させるという意味では,ストレスもよくないという事になりますね.

さて,このようにエストロゲン低下が主体の病態と言えば,もう一つ「更年期障害」があります.

閉経に伴い女性ホルモンが急速に減少しますので,身体が適応するまでの間は一時的なドーパミン枯渇状態へとつながる可能性があります.

そして,この更年期障害の症状の一つに,ホットフラッシュ(急なほてり感)がある事が知られています.

典型的には手足が冷えて上半身だけほてるという状態で,「冷えのぼせ」という言い方をすることもあります.

本日は,エストロゲンが低下した状態で,更年期障害の身体症状の一つホットフラッシュがどのように引き起こされるのかについて考えてみたいと思います.
まず資料を調べてみると,ホットフラッシュの病態は完全には解明されているわけではないようですが,

そのような中で「中枢を起因とする病態」と「末梢を起因とする病態」の二つがある事が言われているようです.

Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.35 No.1 2011(24-25)

中枢を起因とする病態というのは,

まず卵巣機能が低下し,エストロゲンが低下すると,

視床下部においてエストロゲンを放出させるためのLHRH(=GnRH:gonadotropin releasing hormone;性腺刺激ホルモン放出ホルモン)というホルモンの放出が刺激されます.

また視床下部に随伴する内側視索前野(MPO:medial preoptic area)というところの体温調節反応の亢進(セットポイントの低下)が起こります.

要するに熱いと感じる体温レベルが通常よりも下がってしまうということです.

このせいで通常では熱いと感じない体温を熱いと感じ,結果的にホットフラッシュを自覚するのではないかと言われています.

その他にノルアドレナリン/セロトニン神経系の変化なども関与している事が推測されています.

そしてホットフラッシュが発現した後には,

室傍核(PVN:Paraventricular hypothalamic nucleus)という場所でIL-8,IL-6などの炎症性サイトカインが放出される事も判明しており,

これらが末梢の血管を拡張している可能性も考えられてます.

またMPOとPVNの神経細胞がつながっている事もわかっています.



一方,末梢を起因とする病態ですが,

卵巣機能の低下に伴ってエストロゲンが低下することによって,

血液中のCGRP(calcitonin gene-related peptide;カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質の濃度が低下する事がわかっています.

CGRPというのは,感覚神経や腸管に存在し,CGRP受容体を介して細胞内cAMPを上昇させ、末梢血管拡張、心拍数減少および心筋収縮力増大を起こしたりする働きを持っています.

CGRPが低下する事によってCGRP受容体の数が反応性に増加します.

ここで何らかの要因によってCGRPが一過性に放出されるようで,その結果血管が拡張し,血流が増加し温まることによってホットフラッシュを自覚するのではないかと言われています.

ちなみにこのCGRPは血管を拡張させることによって片頭痛の病態にも関わっている事がわかっています.


大きく見ればこの両者の病態が働けば上半身も手足もほてることになりますし,

中枢を起因とする病態だけ働けば,上半身はほてるけど手足はほてらないという「冷えのぼせ」の病態につながりそうです.

ただどちらの病態もスタートは「エストロゲンの低下」から始まることは共通しています.

閉経すればエストロゲンが低下する事はどうしても避けられないことです.

では閉経を迎えた時にどうすれば更年期障害の症状を予防する事ができるでしょうか.

一般的にはホルモン補充療法,漢方療法,抗うつ薬,抗不安薬などが挙げられていますが,

本当にそれでよいのでしょうか.


一つの方法としては,エストロゲンの材料であるコレステロールをしっかり確保するという事だと私は考えます.

というのは閉経してもエストロゲンがゼロになるというわけではありませんので,

材料をしっかり確保すれば,摂らない場合に比べればそれでもエストロゲンの量を高く保つ事が期待できます.

そしてエストロゲンにはコレステロールのバランスを改善する作用がある事もわかっています.

具体的にはLDLを減少させ,VLDL・HDLの増加にする事で動脈硬化を抑制する作用の事です.

となればコレステロールのバランスを乱す糖質の摂取も同時に避けた方がいいということになりますが,

それこそが糖質摂取を減らし,脂質・タンパク質をしっかり取る「糖質制限食」そのものであり,

糖質制限をしっかり実践する事が更年期障害の予防にもなるのではないかと考えられるわけです.



閉経後の女性の多くはコレステロールが高くなっていきますが,

それはもしかしたら身体を守ろうとしている証拠なのかもしれません.

コレステロールが高くなってきたと悩む人が多い中,にわかには信じがたい話かもしれませんが,

一度きりの人生,誰もが悔いのないように生きたいのではないかと思います.

そのためには,時に従来の常識を疑い,

しっかり自分の頭で考えて判断する事が極めて重要なことです.



たがしゅう
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こんばんは。

糖質制限を始めて約1年半、
劇的に体重は減りませんでしたが
なんとなく体調が良く、体力もついて喜んでおりました。

私は今まさに更年期でして、
今年に入ってから閉経への道をまっしぐらです。

以前何かの記事で、
閉経するということはPMSの症状がずっと続くということ、と書かれているのを目にして本当かなーなどと呑気にしていたのですが、

私の月経前の症状は、
お腹が張る
便秘
空腹と飢餓感
耐え難い眠気
だったのですが、
このうちの空腹と飢餓感、眠気については糖質制限後はほとんど感じてはいなかったのです。

ところが今、
いつも空腹感と飢餓感にさいなまれ、
日中はいつも眠くて仕事の能率も落ち、
集中力もなくなって、
まるで糖質まみれの生活をしていた頃に戻ったみたいで凹んでいます。

ホットフラッシュは未経験ですが、
顔に全く汗を書かなくなり、暑さを感じると顔が赤くなりクラクラします。

糖質制限でも、更年期の身体症状を乗り越えることはできないのかと少々悲観的ですが、

そのうち良くなるかなーと思いながら、
気づいたら人生の晩年を迎えているというのが女の一生なのでしょうか。

人間の体や個体差って奥が深いですね。

Re: タイトルなし

riri さん

 コメント頂き有難うございます.

 糖質制限実践下にも関わらず,空腹感と飢餓感にさいなまれるというのは不思議ですね.その都度チーズやナッツ類を間食するというのでも対応困難でしょうか.

 更年期特有の問題があるのかもしれません.糖質制限だけでよくならない場合は,私であれば漢方薬の併用もおすすめしています.ただどの漢方を使うかは人によって違うのでここでは書き記せませんが,

 もしお辛ければ漢方に詳しいお近くの病院への受診も御検討頂ければと思います.

No title

たがしゅう先生、こんにちは。
とても為になる情報を、いつもありがとうございます。

一つ、引っかかる事があります。それはドーパミンのことです。

わたしは、糖質制限する前とてもPMSがひどくて、そのころマラソンに出会い毎日走り始めたところとても気分が良くなり、PMSが軽減しました。

今思えば、ドーパミンによる気分の高揚かともおもいます。
糖質制限前の症状は、身体の浮腫みがひどく、精神面は日中はイライラ、変わって夜、特に生理1〜2日 前には、なかなか眠れず夜中に、首すじから後頭部にかけての鬱血感、圧迫感による物凄い恐怖感、死んでしまうのではないかという得体のしれない恐ろしさで、主人に泣きついた事もありました。

推測ですが、ドーパミンの乱高下というよりも、糖質摂取による低血糖からの、アドレナリンなどの血糖上昇ホルモンの影響が強かったのではないかと、いかがでしょうか?
エストロゲン減少によるドーパミン低値に加えての血糖上昇ホルモンによる気分の変動。
糖質制限2年が経ち、乳房の張りや痛みはありますが、精神的症状はなくなりとても更年期に入るとは思えないほど生きるのが楽になりました。

Re: No title

ヒロ さん

 コメント頂き有難うございます。

 御指摘のようにアドレナリンの影響もありそうですね。
 PMSはもう少し広く捉えれば、エストロゲン低値状態にストレス刺激などによって起こるストレスホルモンの分泌に身体が適応できていない状態と言う事もできるかもしれません。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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