サイアミディン

神経変性疾患も生活習慣病?

パーキンソン病筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患は、

左右差がある事がその特徴の一つとされています。

例えば、手が震えるという訴えに対して、

右手だけが震えるという場合はパーキンソン病をより疑いますが、

両手が同じ程度震えるという場合は、

動脈硬化や脳血流低下が高じて起こる「脳血管性パーキンソン症候群」や、

薬剤の副作用による「薬剤性パーキンソン症候群」などの、類似の病態をより疑います。
もちろん、それだけで全てが決まるわけではなくて、実際にはそれ以外の情報も全て総括して総合的に診断を下すのですが、

参考になる特徴の一つです。

しかし、なぜ左右差が現れるのかという事については謎でした。

そんな中、ある神経内科の雑誌を読んでいると、

その謎を解き明かそうとしている論文が紹介されていました。



桑原聡、佐藤泰憲.「パーキンソン病は利き手から発症することが多い」
BRAIN and NERVE 66(2):196-197, 2014


文中ではパーキンソン病と利き手に関して調べている論文10編を抽出し、forest plotと呼ばれるメタ解析の結果を要約する手法を用いて調べられた論文(van der Hoorn A, et al. Handedness correlates with the dominatn Parkinson side: a systematic review and meta-analysis. Mov Disord 27: 206-210, 2012)が紹介されていました。

その結果、パーキンソン病で症状に左右差がみられる患者が4405名いて、

そのうち右利き患者のうち、2413名(59.5%)が右優位の症状を呈しており、

左利き患者(全体の8%)のうち、59.2%が左優位の症状を呈していました。

「絶対利き手から始まる」とまでは言えないものの、確かにそういう傾向があるという事が確認された形です。

そして、私が面白いと思ったのは、その理由についての考察です。

(以下、引用)

「著者らはPD(パーキンソン病)において利き手発症が多いメカニズムについて仮説を2つ挙げている。

1つは利き手の使用度が高いために黒質~大脳基底核~皮質のネットワークの代謝要求がより高く、酸化ストレスにさらされやすいこと、

もう1つは優位半球ではさらに言語~運動のネットワークの特性がPDの病理に対して脆弱性を持つ可能性があることを挙げている。

これらの考察は言語~優位半球の部分を除くとALS(筋萎縮性側索硬化症)における利き手発症の考察とかなり類似している」

(引用、ここまで)



著者が掲げた2つの仮説のうち、

前半の仮説はパーキンソン病と筋萎縮性側索硬化症に共通しているメカニズムだというのです。

すなわち、利き手は生活の中で必然的によく使う、よく使えば代謝要求が高まる、そのような状況下ではより酸化ストレスを受けやすいという事なのです。

となれば右利きであっても、趣味や仕事など何らかの事情で左側をよく使う状況の人であれば、

右利きだけで左優位に発症する、という事があってもおかしくはないと思います。

神経変性が酸化ストレスによって起こるという視点に立ってみれば、この仮説は私にとって非常に腑に落ちます。

というよりも、パーキンソン病にしても筋萎縮性側索硬化症にしても、

『酸化ストレス病』という見方をすれば、生活習慣病の一つという見方ができるかもしれません。

ただ、その表現型のマジョリティが高血圧、糖尿病、脂質異常症などで、マイノリティの一つが神経変性疾患だというだけであって、

それを決めるのは人体のブラックボックス、すなわち体質の違いということなのかもしれません。

そして酸化ストレスのリスクを日常生活で確実に減らせる方法が糖質制限です。

糖質制限は神経変性疾患の予防にも有効だと私は考えます。


たがしゅう
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繊維筋痛症

先生こんにちは、いつもご苦労様です。
本文とは直接の関係はないのですが、痛みの生理学によれば慢性痛(進行した筋・筋膜性疼痛症候群や繊維筋痛症など)の場合、神経の可塑的変化によって痛みのシステムが出来る場合がある、と言われています。
また前回うつのお話もありましたが、痛みとうつの関係性は密接であることも痛みの生理学ではよく言われることです。それで抗うつ薬が痛みの治療として使用され、その効果もよく報告されています。
であれば糖質制限は慢性痛患者さんのセルフケアや根本治療として立派に成立するのではないかと、今回と前回の記事を読んでいてふと思いました。

Re: 繊維筋痛症

松尾 さん

 コメント頂き有難うございます.

> 糖質制限は慢性痛患者さんのセルフケアや根本治療として立派に成立するのではないか

 的を射ている御意見だと思います.

 実は興味深い論文があります.

 Masino SA, Ruskin DN. Ketogenic diets and pain. J Child Neurol. 2013 Aug;28(8):993-1001. doi: 10.1177/0883073813487595. Epub 2013 May 16.

 ケトン食が温熱痛,炎症痛,神経障害性疼痛のいずれに対しても鎮痛効果がある事を示した論文です.

 非常に興味深いので全訳を試みていますが,忙しくてなかなか進みません.折をみて詳しく紹介しようと思っています.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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