サイアミディン

全く別の視点から考える

神経内科の領域において,

難病である神経変性疾患の病態解明と治療法の確立は最重要課題であり

世界中の研究者がこの難題に立ち向かっています.

様々なアプローチが試みられている中で,

中には斬新な発想の研究者もおられます.

今回は難病中の難病,筋委縮性側索硬化症についてのある一つの論文を紹介し,

そこから私が考えた事について記事にしたいと思います.

桑原聡、佐藤泰憲.「人差し指が短いのは筋委縮性側索硬化症の発症リスクである」
BRAIN and NERVE 65(12) : 1542-1543, 2013
本文では,筋委縮性側索硬化症の患者は人差し指の長さ(人差し指/薬指の長さの比)が短い傾向があるという論文(Vivekananda U, et al. Low index-to-ring finger length ratio in sporadic ALS supports prenatally defined motor neuronal vulnerability. J Neurol Neurosurg Psychiatry 82: 635-637, 2011)が紹介されていました.

さらに論文では,その理由として「胎生期における高テストステロン暴露が,晩年の筋委縮性側索硬化症と関連している」と書かれていました.

テストステロンというのは男性ホルモン(=アンドロゲン)の90%を占めるホルモンで,その材料はコレステロールです.

男性の精巣ではそのままテストステロンとして作用しますが,

女性の卵巣ではそのテストステロンがアロマターゼ(芳香化酵素)によってエストロゲンに変換されます.

さて筋委縮性側索硬化症は,筋肉を運動させる神経(運動ニューロン)が徐々に変性していく病気なのですが,

実はこの運動ニューロンにはテストステロンが作用するための受け手である「アンドロゲン受容体」が発現しています.

胎生期に高テストステロン状態にさらされると,

赤ちゃんとして生まれた時に,このアンドロゲン受容体の発現が低下しているのではないか,という仮説が提唱されているようです.

そのようにいわば普通の人と比べて反応が乏しい運動ニューロンが,

その後どのように神経変性を生じていくのかという事について,はっきりしたことはまだよくわかりません.

ただ私の想像では,糖質制限をして,コレステロールをしっかり確保する事によって,テストステロンを増やせば,

少ないアンドロゲン受容体でも有効に使う事ができ,弱い運動ニューロンをうまく使っていく事ができるのではないかという気がいたします.



ここで,ただコレステロールを多く摂取するだけではなく,糖質も制限するという事にはもう一つ意味があります.

実はテストステロンはそのまま単独の状態でいると,

5α-還元酵素という酵素によって,ジヒドロテストステロン(Dihydrotestosteron:DHT)という薄毛・禿頭の原因になる物質に変わってしまいます.

ところが,性ホルモン結合グロブリン(sex hormone binding globulin, SHBG)というタンパク質が一緒にあれば,

テストステロンはSHBGと結合することで,逆に髪毛が太くなる作用をきたします.

いわゆる男性が男性らしい姿になるようにテストステロンが作用するためにSHBGが必要なわけですが,

このSHBGがインスリンが分泌される事によってその値が低下してしまうのです.

従って,糖質制限をする事で,インスリン値を極小にすれば,

SHBGもしっかり産生され,テストステロンの本来の働きをもたらすことができるというわけです.

だから糖質制限は禿頭の治療にもなると思います.

そして運動ニューロンにおいても,ただテストステロンが多いというだけではなく,

SHBGも同時に存在しているという事が,その機能を発揮するのに役立ってくれるのではないかと想像する次第です.


私は糖質制限が筋委縮性側索硬化症の症状進行予防に役立つ可能性があるという仮説を持っていますが,

不完全ながらも,そう考える根拠が,また一つ増えたように思います.


たがしゅう
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No title

糖質制限を始めて2か月の40台後半男性です。
最近明らかに頭頂部の髪が増えました。少なくとも私の場合は、糖質制限は薄毛に効果ありです。

ところで、「アルツハイマー病が劇的に改善した」という本は読まれましたか?
ココナッツオイル摂取で若年性アルツハイマー病が改善したという内容です。
この本を読むと糖質制限はアルツハイマー病にも効果があるはずと思えます。

先生毎日のブログ更新ありがとうございます。 糖質制限を初めてから脂質の重要性を知り、今日の先生の記事でした。
「本当は危ない植物油」を何となく読み終わり、精読しきれていない私は途方もない不安に駆られています。
まさか…油脂の種類によっては糖質並みの害があるのかも知れない、
免疫力を高める事で添加物からは自衛出来る力を得る事が出来ても、油脂は細胞に直接働きかける…そのような内容を読むと、不安を感じざるを得ませんでした。 勉強不足なのは承知でコメントさせていただきました。
毎回つたないコメントで申し訳ありませんが投稿させていただきます。

Re: No title

3D さん

 コメント頂き有難うございます.

> ところで、「アルツハイマー病が劇的に改善した」という本は読まれましたか?
> ココナッツオイル摂取で若年性アルツハイマー病が改善したという内容です。


 その本はすで購入はしているのですが,実はまだ読めていません.
 ただ,御指摘のように糖質制限に通じる話だと思っています.

Re: タイトルなし

shin1 さん

 コメント頂き有難うございます.

 糖質はまず制限した方がいいとしても,

 それ以外の栄養素の細かなリスクをどこまで気にするかは,個々人それぞれが考える必要がありそうです.

 答えは一つではないと思います.

たがしゅう先生コメントありがとうございました。 生きていく、食べる、なにがしかのリスクを負いながら生きて行かなければならないのですね。先生のブログを改めて読み返し、心配し過ぎだった自分を反省しています。安易に先生のコメントで自分で考える事をせずに安心感をいただこうとしていた自分が恥ずかしいです。
糖質制限を勧めている栄養士さんのブログにも、とても詳しく油との付き合い方が書かれていてそちらもとても勉強になりました。
どうもありがとうございます。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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