サイアミディン

憶測を論拠にしてはいけない

以前の記事に引き続き、

今回も以下の書籍の記載についての反論を書きます。

世にも恐ろしい「糖質制限食ダイエット」
(講談社+α新書 134-7B) [新書]
幕内 秀夫


今回取り上げるこの本での著者の主張は、

『過去の糖質制限ダイエットは一過性のブームで終わっており、しかも提唱者の死因とダイエットとの因果関係が否定できない』

というものです。

具体的には、「アトキンス・ダイエット」と「世にも美しいダイエット」の例が取り上げられています。

どういう事が書かれているか、まずは「アトキンス・ダイエット」に関する文章の方から見ていきましょう。

(『世にも恐ろしい「糖質制限食ダイエット」』p36-45より引用)

ブームになるダイエットには、もうひとつ大きな特徴があります。

それは、提唱者がみずから実践して成功したものが多い、ということです。

(中略)

「アトキンス・ダイエット」を提唱したアトキンス博士もそうでした。

ダイエットを始める前のアトキンス氏は、体重が116kgだったといいますから、超肥満です。

おそらく心臓にかなりの負担がかかっていて、もしかすると糖尿病だったかもしれません

それが彼自身の提唱するダイエットによって、70~80kgに体重を落とす事ができたといいます。

(中略)

さて、ここで先述のアトキンス博士がどのような食事を提唱していたのか、彼の本に記されていた日本人向けの1週間のメニューを確認しておきたいと思います。

【アトキンス・ダイエットのメニュー1例】
(誘導段階の献立例)
・朝食:卵(スクランブルエッグでも目玉焼きでも)
   ベーコン、ハム、ソーセージ、カナディアンベーコンのいずれか
・昼食:ベーコンチーズバーガー(パンを除く)
  サラダ(小)、ミネラルウォーター
・夕食:シュリンプカクテル(カクテルソースではなくマスタードとマヨネーズで)
  コンソメスープ
  ステーキ、魚、鶏肉など
  サラダ(お好みのドレッシングで)
  ゼリー(ダイエットタイプ)に生クリームを添えて
『アトキンス式低炭水化物ダイエット』
(ロバート・C・アトキンス・河出書房新社より)


正直言って、こんな食事が続くでしょうか。

少なくとも日本人には厳しいでしょう。無理に続けていたら、間違いなく病気になってしまうと私は思います

(中略)

アトキンス博士は、2003年に凍った歩道で足を滑らせて転倒し、頭を強打して亡くなりました。72歳でした。

亡くなったことでアトキンスダイエットは一気に下火になり、

アトキンスダイエットに必要とされるサプリメントを販売していた会社はまもなく倒産。

著書も、少なくとも日本国内では絶版となり、アトキンス博士の名前を覚えている人はほとんどいなくなってしまいました

じつは、あとでわかったことですが、

アトキンス博士の死亡時の体重は117kgありました。

みずからが提唱したダイエットによって一時は70~80kgまで体重を減らしたはずなのに、亡くなるまでにリバウンドしてしまっていたようです。

なぜその事実がすぐに明らかにならなかったのでしょうか。

あくまでも憶測にすぎませんが、ダイエット提唱者の体重がリバウンドしたということは、関係者にとって「不都合な真実」だったことでしょう。

残された会社の売り上げに影響が出ると考えた人がいても不思議ではありません。

なんといっても、アトキンス・ダイエットは「リバウンドしない体質に変わる」ことを強く主張していたのですから。

もちろん、亡くなったこととダイエットを直接結びつけることはできません。

寿命や病気が食事だけで決まるわけではありませんし、男性で72歳ならば、短命というわけではありません。

ただ、体重が117kgもあったことから、ご本人の主張どおりにはならなかったことだけは確かなようです。

(引用、ここまで)



では、反論します。まず、

①憶測の連続について

著者の主張をまとめると、

「アトキンス・ダイエット」⇒「そんな食事続くわけがない」⇒「提唱者が死亡」⇒「死亡時体重はリバウンドしていた」
⇒「だから糖質制限は危険なダイエット法である」


という事になると思います。

ただし、この主張は著者自らも「あくまで憶測にすぎませんが」と認めているように、

全て「憶測」に基づく主張です。

「憶測」というのは、広辞苑によれば、「物事の事情や人の心をいいかげんにおしはかること」であり、

要するに根拠のない推論です。

「もしかすると糖尿病だったかもしれません」
「正直言って、こんな食事が続くでしょうか」
「無理に続けていたら、間違いなく病気になってしまうと私は思います」
「アトキンス博士の名前を覚えている人はほとんどいなくなってしまいました」


こうしてみると、とにかく憶測が飛び交っている文章だとわかります。

まず「肥満」=「糖尿病」というのは、短絡的な発想です。

実際には肥満で糖尿病でない人もたくさんいますし、逆にやせているのに糖尿病という人もたくさんいます。

「正直こんな食事が続くでしょうか?」と個人の見解ですが、

それは粗食、和食が一番と考えている人から見れば、さぞ到底続けられない食事に見えるでしょうが、

糖質制限の理論を理解した人がみれば、何もおかしい事はない普通の食事メニューです。

続けられないと思うのは個人の自由ですが、それを決め付けてはいけないと思います。

また「無理に続けていたら、間違いなく病気になってしまう」と言いますが、

アトキンス・ダイエットをてんかん治療食として応用した修正アトキンス食は10年の歴史を持つようになりました。

アトキンス・ダイエットと修正アトキンス食の違いは、
①修正アトキンス食ではケトン体を多く産生させるためにできるだけ脂質を多く摂る
②アトキンス・ダイエットは体重減少を効果とみて、修正アトキンス食は体重減少を副作用とみる
③アトキンス・ダイエットは減量達成後緩和してよく、修正アトキンス食は2年を目安に継続する事が望ましい

というところにあるので、本質的に両者は同じ食事療法ということになります。

この修正アトキンス食によってをすることによって、病気になってしまうどころか、薬で治らなかったてんかんのかなりの部分が改善したという医学的なデータが出揃ってきており、

なおかつ片頭痛やがん、精神疾患や神経変性疾患への応用へ適応が拡大されつつあるような状況です。

アトキンス博士の功績は、修正アトキンス食と形を変え、忘れられることなく今も生き続けているのです。

こうしてみると憶測だらけの著者の主張は

それだけで信憑性を下げてしまっていると私は思います。

②アトキンス博士の死亡時の体重について

さて、そうは言っても、

アトキンス博士の死亡時の体重がダイエット開始時のものに戻っていたという点については無視できません。

2003年確かに117kgとウォール・ストリート・ジャーナルという新聞で報じられたようです。

ダイエット法として自らその効果を実感されていたアトキンス博士ですから、

途中で糖質制限をやめたとは到底考えにくい話です。

ではアトキンス博士は、糖質制限を続けることで本当にリバウンドしてしまったのでしょうか。

一方で、Wikipediaをみますと、「体重が116kgあったという発言に対し、死亡する9日前には89kgであったと弁明がなされた」との記載もあります。

これは一体どちらを信じればいいのでしょうか。

そこでそのWikipediaの引用にあった、

Statements on Atkins' death (USA TODAY)

というサイトを見てみました。すると非常に興味深い事が書かれていました。

アトキンス博士は、転倒による頭の強打によって昏睡状態に至り、2週間程病院へ入院されたそうです。

まずこれはアトキンス・ダイエットとは無関係の単なる事故です。

また、入院する前からアトキンス博士の健康状態は長年にわたって細かく記録されていたそうですが、

入院前の平均体重は180ポンドから195ポンド(81.65kg~88.45kg)の間を行き来していたそうです。

ところが、2週間の間治療を受け、体液が貯留していき、昏睡から離脱することもなく、最終的に死亡時の体重が117kgだったというのです。

患者が昏睡状態で食べられない状態ということは、全ての栄養を点滴で投与する高カロリー輸液を行っていた可能性があります。

今の医療で高カロリー輸液を何も意識せずにメニューを組んだら間違いなく高糖質の内容になります。

ということは、病院で受けた点滴治療の結果、117kgまでリバウンドした、と考えるのが妥当ではないでしょうか。

しかも最初に死亡時体重117kgだとする情報を新聞で流したのは、

極端なベジタリアンであるビーガンや動物愛護集団の過激派が連邦法に違反しながら、不正確な個人情報を漏らしたことによるものであったという事も書かれていました。

ビーガンや動物愛護派にとっては、肉、魚、卵など動物性食品を推奨するアトキンス・ダイエットがよくないという情報が流れた方が都合がよいでしょうからね。わかる気がします。

そうした事を加味すれば、純粋なアトキンス・ダイエットの効果を反映した死亡前体重は89kgであるという見方の方が正しそうです。

そして厳密に言えば、81.65kg~88.45kgの間であったというのだから、

それほどリバウンドしたとは言えないのではないでしょうか。



というわけで改めて著者の主張を振り返ると、

「アトキンス・ダイエット」⇒「そんな食事続くわけがない(憶測)」⇒「提唱者が死亡(事故)」⇒「死亡時体重はリバウンドしていた(そうでもない)」⇒「だから糖質制限は危険なダイエット法である」

穴だらけの論理ですね。

もっと言えば、死亡時体重117kgを採用し、89kgを採用しなかったところに著者のよからぬ意図を感じます。

残念ながら信用することはできません。


たがしゅう
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No title

たがしゅう先生の冷静で緻密な記事が大好きです。
理路整然としていて、言いたかったことをスッキリと言語化してくださり、朝から気分がいいです。

No title

幕内さんのブログを見ましたらその本がテレビで紹介された際の映像を載せていらしたのですが、そこには幕内さんの写真とともにこんな記述が!
「病院で1000人以上を食事指導した結果、生理不順・無月経・婦人病の患者の多数が主食のご飯を抜き砂糖と油の過剰摂取になっていた」
どんな文脈でこの文章が出てきたのか知りませんが、およそ糖質制限の批判に値しないでしょうね。

糖質制限=主食抜くだけという風に考えて、その結果カロリーも脂質もタンパク質も足りず体調を崩す、また主食は取らずとも砂糖は取った上で脂質等もどんどん摂取する、、
こういうような人にとっては幕内さんの指摘も当たると思いますが、読むべきは幕内さんの本ではなく江部先生の本でしょうね(笑
糖質制限をどの程度やるのかは自由だけれども、やるからには原則を守った上でやらなければならないし、批判するにもしっかりと批判するべきですね。

Re: No title

ミノル さん

 コメント頂き有難うございます.

 喜んで頂いて何よりです.これからも私も目線で思った事を書き連ねていきたいと思います.

Re: No title

mina さん

 コメント頂き有難うございます.

> 「病院で1000人以上を食事指導した結果、生理不順・無月経・婦人病の患者の多数が主食のご飯を抜き砂糖と油の過剰摂取になっていた」

 これは一方的で客観性に欠ける情報だと思います.

 発言者がそう判断しているだけで,実際に何が原因で生理不順・無月経・婦人病になっているのかを判断するための情報がないので他者による検証のしようがないからです.

 ただこれまでの私の考察からは,月経前症候群など女性関連疾患に関しても糖質制限は有効である可能性が高いです.

 2014年4月30日(水)の本ブログ記事
 「月経前症候群と糖質制限」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-258.html

 2014年5月1日(木)の本ブログ記事
 「更年期障害と糖質制限」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-259.html

 2014年5月2日(金)の本ブログ記事
 「月経関連片頭痛と糖質制限」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-260.html

 2014年5月3日(土)の本ブログ記事
 「自然に備わったメカニズムを邪魔しない」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-261.html

 も御参照下さい.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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