サイアミディン

「遺伝」であきらめない

よく「遺伝だからしようがない」とか、

遺伝という言葉は「絶対避けられない運命」のように解釈される場合があると思います。

しかし、遺伝子自身は生まれて以降の環境によって、

いくらでも修飾を受けるということが最近の研究でわかってきています。

これを「エピジェネティクス(後天的遺伝子制御変化)」といいます。



本流のエピジェネティクス研究は、DNAのメチル化とかヒストンのアセチル化など、その分子メカニズムを明らかにしようとする分野で、これは正直私にとってすごく難しいです。

そして、そのメカニズムをターゲットにした分子標的治療薬も開発されたりしていますが、日常診療に応用できるものはまざまだごく少数だというのが現状です。

そんな中私は、最も身近な方法で遺伝子変化を起こす手段となりうるのが「断食(絶食)」だと考えています。
先日、ブログ読者のminaさんから、次のようなコメントを頂きました。

ところで断食ですが、はたしてどれほど減量につながるのか、と思ってしまいます。
断食すれば減量するとは思いますが、それこそ倹約遺伝子が働き、余計に痩せにくさに拍車がかかるのではないか?と思ってしまうのです。


これはごもっともだと思います。

断食するという事は人為的に飢餓状態を作るということなので、

次に食料が手に入った時に効率的に栄養を取り込みやすくできるようOFFになっていた遺伝子をONにするよう働きかける、
あるいは今あるエネルギーを節約して使うようにする遺伝子が新たにONになるというような事が、

起こるという事はさもありなんと思いますし、自分の実体験でもそうです。

確かに、断食明けの食事では、非常にセーブして食べる事を心がけていたとしても、かなり太りやすくなります。

ただ、経験的にはそれが永遠に続くわけではありません。しばらくすればまた体重は横ばいで推移するようになります。


一方で、断食が遺伝子変化を起こす事についての客観的な事実については、

以下の神経内科の雑誌にそのようなことを示す記載がありました。

『空腹による脳機能制御
平野恭敬、齊藤実
BRAIN and NERVE 66(1):41-48, 2014』




文献の中では、ショウジョウバエについてではありますが、「空腹状態が記憶力を増強させる」という興味深い実験結果について記されていました。

そのメカニズムについてまとめると以下のようになります。

①記憶を固定化するにはcAMP応答性転写因子(CREB)を介した新規遺伝子発現が重要である
②CREBが遺伝子発現を誘導するためには、リン酸化してCREBと結合する蛋白質であるCRB(CREB-binding protein:CREB結合蛋白)やCRTC(cAMP-regulated transcriptional coactivator)と結合する事が必要。
③空腹状態においてCTRCが活性化する


ややこしいですが、要するに一生物において、

空腹状態が遺伝子を変化させて記憶力を高めているという事が分子生物学的に証明されたということなのです。

人類が長い歴史の中で遺伝子という設計図を後世の生物へ受け継いできた歴史を踏まえますと、

同様のメカニズムがヒトに備わっていても決して不思議ではありません。

ちなみになぜ絶食すると記憶力が増強するのかという事に関して著者らは、

「空腹状態においてショウジョウバエは、新しい餌場を求めて危険を伴う摂食行動を強いられるけれども、

記憶力を高めれば既に経験した危険(例:摂取すると危ない食べ物)を効率的に回避する事ができるようになるからだ」

と考察されています。


私は糖質制限の事を知るまでは、

自分の太りやすさは親から受け継いだ遺伝でどうしようもないものだと考えてしまっていました。

しかし今回の話からわかるように、

食事を変える事によって遺伝子は変化します。

糖質制限をする事によって自然と1日1~2食になるという現象も、

もしかしたら遺伝子の変化が起こっているのかもしれません。

今の世の中はお金さえあれば、手に入れようと思えば容易に食料が手に入る環境なので、

糖質制限を続けるというだけであれば、比較的簡単な事です。

しかしさらなる遺伝子変化を起こそうと思った場合、

断食が必要なステップになってくると思います。

すなわち私にとっての断食は、やせるための方法ではなく、

「生命が生きていくための潜在能力を引き出すための手段」だという位置づけです。

そうすることで遺伝子発現を変え、今まであきらめていた事にも立ち向かえる力が手に入るのかもしれません

しかし、自分の経験からもわかるのですが、

断食を一時的なものとしてとらえてしまっていると、

確かに断食後に一時的にはやせるけど、断食を解除すればまた元に戻る、というように、

あまり意味のない事となってしまいかねません。

しかし定期的に断食をする事が習慣になってしまえば、

生きる為の新たな遺伝子変化を起こしたままでいられるかもしれません。

その一つが倹約遺伝子だと思いますが、

倹約遺伝子が働いている事を「太りやすくなって悪いことだ」ととらえるのではなく、

「少量の食料でも現状を維持できるのでいいことだ」ととらえれば、生存に有利な変化が起こっている事になるでしょう。

このように、私たちの価値観そのものも変えていく必要があるのではないかと私は考えています。



今回の話は、糖質制限で十分な効果が得られている人にとっては必要のない話だと思いますが、

糖質制限だけでは解決できない何らかの問題を抱える人にとっては重要になってくるかもしれません。

明日ももう少しこの問題について考えてみます。


たがしゅう
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たがしゅう先生、こんにちは。
断食についての先生のお考えはとても興味深く、楽しく拝見させて頂いております。

『少量の食物で現状を維持できる』、まさにこれは私の目標でもあります!
少量で健康な身体が維持できるなんてそんなに素晴らしいことはないと思います。
私のように痩せやすい体質の人は尚更です。食べないと痩せる→だからたくさん食べる→やはり食べ過ぎるとどこかに負担がかかる、という悪循環なような気がします。

1つ、気になることがあります。
女性で(特に痩せ気味の人)妊娠を希望する人や、妊娠中の人などは断食は向かないでしょうか。

先生の考えをお聞きしたいと思います。
よろしくお願い致します。

明日の内容も楽しみにしています。

Re: タイトルなし

ゆりママ さん

 御質問頂き有難うございます.

> 1つ、気になることがあります。
> 女性で(特に痩せ気味の人)妊娠を希望する人や、妊娠中の人などは断食は向かないでしょうか。

 
 断食はあくまで悪くなった状態を元に戻すための最善の方法だと私は考えています.

 妊娠という安定が要求される状態に対しては糖質制限をベースとした食事を確保しておく方が安全だと思いますね.

 一方,何らかの病態で妊娠ができないような状態の人が,その状態を脱するために断食に挑戦するのはアリかもしれませんが,この辺りの話は私には指導経験がなく,あくまで机上の理論です.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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