サイアミディン

絶対量ではなく相対量が問題

昨日に引き続きフリーラジカルの増加要因についての考察です.

元情報は昨日の記事を御参照下さい.

③「現在の喫煙と酸化ストレスマーカーとの関係には,年齢に比べ約3倍の強い相関がある」について

昨日の記事では,多少の酸化ストレスが人体によい働きをもたらしている可能性について言及しましたが,

喫煙が人体に悪い作用をもたらしてるという事は,

今の医療を取り巻く状況を見れば,明らかだと思います.

喫煙が肺がんのリスクを増やす事は有名ですが,それ以外にも,

喉頭がん.口腔がん,食道がん,膀胱がん,胃がん,肝臓がん,腎細胞がん,膵臓がん,白血病など他のがんのリスクを増やしますし,

慢性閉塞性肺疾患(COPD).自然気胸,気管支喘息,間質性肺炎,睡眠時無呼吸症候群など他の呼吸器疾患,

さらには脳卒中,虚血性心疾患のリスクを高める動脈硬化,循環障害,それに伴う高血圧,

2型糖尿病,骨粗鬆症,歯周病,アルツハイマー病,クローン病(腸の炎症性疾患)などとの関連が指摘されています.



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井埜 利博 (著)


こうした喫煙にまつわる医学的な事実を踏まえて,喫煙により酸化ストレスが急増するという事実を見つめれば,

酸化ストレスはやはり多すぎる事はよくないという事が言えそうに思えます.

しかし,喫煙していても健康状態に特に問題がない,という人をたまに見かける事があります.

またパーキンソン病,潰瘍性大腸炎など,一部の疾患で喫煙によって発症リスクが低下するという疫学調査結果も報告されています.

大きな酸化ストレスを受けても,それに対抗する抗酸化ストレス系,あるいは酸化ストレスをよい方向に転換できる何らかのシステムが発達している人は,

酸化ストレスを糧にしてうまく利用する事ができる,という可能性も見えてきます.


④「女性はすべての年齢層で男性よりも酸化ストレスマーカーが高かった」について

先日,日本人男性の平均寿命が80.21歳と初めて80歳を超えた事が話題になりましたが,

日本人女性の平均寿命は86.61歳と男性よりも長く,この「女性>男性」の構図が崩れた事は過去にありません.

老化にも関係していると考えられている酸化ストレス,そうであるならば女性の方が酸化ストレスが少なくなっていそうなものですが,

実際には女性の方が酸化ストレスが高かったというわけですから,

やはりある程度の酸化ストレスは必要という見方が再浮上します.


⑤「アポリポ蛋白E遺伝子のε4対立遺伝子、およびアルツハイマー病バイオマーカーは、共に酸化ストレスマーカーとの関連性が示されなかった」について

酸化ストレスによってもたらされる神経変性は,

アルツハイマー病の大きな一因の一つと考えられていますが,

アルツハイマー病を起こしやすい体質となる遺伝子として,アポリポ蛋白E遺伝子のε4対立遺伝子の存在は以前からよく知られています.

しかし,そういう遺伝子があるからといって酸化ストレスが増えるというわけではなく,

受けている酸化ストレスには大きな差はないという事が今回示されています.

アポリポ蛋白Eε4遺伝子がある人は,そうでない人に比べて少ない酸化ストレスでも,害を被ってしまうということなのでしょう.


⑥「酸化ストレスマーカーと人種について、喫煙状況の影響を調整したところ有意な関連性は認められなかった」について

糖質制限にまつわっても,

「日本人と欧米人は人種が違うから,欧米の疫学データは日本には当てはまらない」などとする反論をよく聞きますが,

人種差というものは何かしらあるとしても,

大きくみれば同じホモ・サピエンス,基本的に共通原理が働いていると考える方が妥当だと私は思います.

今回のデータも酸化ストレスを受ける量に関しては差がないという事なので,それは納得がいく話です.


これらの結果を受けて,研究グループでは,

「人の脳におけるフリーラジカル損傷は年齢依存的に増加し、損傷の程度は男性より女性で大きい」
「BMI・喫煙といった2つのライフスタイルがフリーラジカル損傷に与える影響力は、加齢よりも強い」


とまとめられていますが,

最後に私が感じた事をまとめてみます.


・一般的には酸化ストレスが多くなれば多くなるほど,身体に害をもたらす可能性が高く,喫煙が酸化ストレスを増やす非常に強い因子.
・ただし酸化ストレスは絶対量ではなく,その相対量が問題となる.
・個人差はあるものの,適度の酸化ストレスは身体に好影響を与える可能性がある.
・その個人差を決めるのは遺伝的背景によって規定される酸化ストレスに対する感受性.人種が違うからといって受ける酸化ストレス自体は変わらない.


最後の「遺伝的背景」に関しては,エピジェネティクス(後天的遺伝子制御変化)で運命を変えることもできると思います.

そして糖質制限は、そのための最も身近で誰でも実践可能な酸化ストレスコントロール手段です.

酸化ストレスを活かすも殺すも自分次第だと思います.


たがしゅう
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意見と質問

いつも有用な情報をありがとうございます。

テーマから外れますが、たがしゅう先生は喫煙を完全否定されますか?
1日一箱以上の重喫煙であれば、完全否定することに異論は出ないと思われますが、1日数本の少数の喫煙はいかがでしょうか。
アリセプトは部分肯定されているようですが、喫煙はいかがでしょうか?

例えば1日に3本程度といった、少数の喫煙の健康への長期的影響(有益か有害か。重度のCOPD患者等を除く。)について私などは興味があります。

実際、健康管理に気を配っている人の中には、健康長寿を目的として1日数本の喫煙をしている人もいます。

少なからぬ医師が未だ十分とは言えない疫学データを元に、喫煙を完全否定し、思考停止しているようです。

また、大気汚染や海洋汚染などの環境問題を重大視している私などからすれば、喫煙の問題など、当事者にとっては大問題でしょうが、些細なことに見えます。

プロパガンダに流されて、大半の医師が禁煙には関心を持っても、環境医学に関心を向けることが出来ないのは残念ですね。

Re: 意見と質問

喫煙を部分肯定の非喫煙者 さん

コメント頂き有難うございます。

> テーマから外れますが、たがしゅう先生は喫煙を完全否定されますか?
> 1日一箱以上の重喫煙であれば、完全否定することに異論は出ないと思われますが、1日数本の少数の喫煙はいかがでしょうか。


鋭い御質問ですね。実はその点は私も思案中でした。

喫煙も糖質も同じ酸化ストレスリスクという捉え方をすれば、

それに対する抗酸化システムが十分に働いていれば問題ないし、場合によって有益かもしれないという可能性があると考え始めています。後日記事で考えをまとめてみたいと思います。

最近思っていることです。

こんにちは。
美容の敵は酸化と糖化。打倒酸化と糖化、と思っていましたが、正直分かりません。
いまだかつて、健診や献血で異常値は出たことないし、酸化マーカーなんて普通には測ってもらえません。

糖化を示すAGEは、私は化粧品オフィスで測ってもらいますが、最近では、この値の、だから、何?って感じです。
どうも美容業界のほうでも、AGEというものがある、測れるらしい、どうも悪いものらしい、で始まったようですが、最近ではつかみどころがなくなっています。
測れば値によって、「体内年齢」なんかと同じで、よかったらうれしい、悪かったらサプリを勧められる、以上の利用法はないようで。

酸化ストレスも、活性酸素は体内でワルモノを殺してくれるいい働きもあるから、やたら抗酸化もよくないんじゃないかと思えます。
それも、指標がないからさっぱりわかりません。

何よりも、酸化も糖化も全然自覚症状がないのが煙に巻かれているようです。

Re: 最近思っていることです。

エリス さん

コメント頂き有難うございます。

> 何よりも、酸化も糖化も全然自覚症状がないのが煙に巻かれているようです。

確かにわかりにくいのですが、自覚症状は無いようで実はあります。そこに注目する事が防ぐべき糖化・酸化かどうかを推し量る最大のコツではないかと思います。これについても後日記事で触れようと思います。

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抗酸化よりも、まず酸化予防

近年になって抗酸化という言葉をよく目にしますね。
ワイン、チョコレート、ココア、緑茶、ブルーベリー、、等、抗酸化で体に良い!という食品が溢れていますが、
血糖をコントロールして酸化を抑えるという発想は単純なことなのに全然言われませんね、
何事もっと自分から変われるという事を知ることが大切ですね。先生のブログを見ていると特にそう思います。

ところでふと気づいたのですが、糖質制限して以来、最近の暑さでもさほど暑いと感じないようになった気がするんです。
暑くないという訳では決してないのですが、暑くてどうしようもない、という事が全然なくなったんです。おそらく糖質制限で大きく痩せたと言う事も大きいとは思うのですが。。
先生は暑さの感覚に変化に差を感じられますか?

添加物原因説

たがしゅう先生

お返事ありがとうございます。

それとあまり注目されませんが、喫煙の健康被害の原因は、本当に煙草なのか、それとも煙草に含まれる添加物か、どちらなのかが未解明です。
気をつける方は、無添加の煙草を吸われるようです。




Re: 抗酸化よりも、まず酸化予防

mina さん

 コメント及び御質問を頂き有難うございます.

 酸化の原因を放置して,抗酸化食品を摂りましょうと促す流れは,

 糖質の問題を放置して,インスリンを使って血糖を下げましょうと促す医療とさも似ていると思います.

 御指摘のようにどうやって過剰な酸化を起こさないようにするかが重要だと思います.

> 先生は暑さの感覚に変化に差を感じられますか?

 私はもともと暑がり体質なので,糖質制限をしていても暑くないと感じるまでの域には達していないのですが,

 夏が過ごしやすくなったというのは確かにあります.サラサラのいい汗をかくようになりました.

 その理由はやせる事もさることながら,糖質制限によって自律神経の働きが整うという事も関係しているのではないかと思います.

Re: 抗酸化よりも、まず酸化予防

たがしゅう先生、おはようございます。

私もminaさんと同じく、糖質制限を始めてから暑さに強くなっているようです。

暑さは感じるので、気温に鈍感になったわけではありません。以前ほど暑さに負けにくくなったということです。

体温も上がり、平熱で37度ありますから、このあたりも関係あるかもしれません。なお、糖質制限前の平熱は36.5度から36.8度の間くらいでした。

No title

> 何よりも、酸化も糖化も全然自覚症状がないのが煙に巻かれているようです。

まあ、元気なミトコンドリアをお持ちの健康美人なのでしょうかね。
いーですね !

Re: Re: 抗酸化よりも、まず酸化予防

ミスターT さん

 コメント頂き有難うございます.

> 体温も上がり、平熱で37度ありますから、このあたりも関係あるかもしれません。なお、糖質制限前の平熱は36.5度から36.8度の間くらいでした。

 糖質制限して高蛋白になるため,食事誘発性熱産生が高まり基礎体温が上がるのでしょうか.

 興味深いレポートで参考になります.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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