サイアミディン

ベジタリアンのトリック

賛否両論のあるベジタリアンですが,これについて少し勉強してみました.

今回の記事はこの本を参考にして書きました.



この本の著者は臨床医かつ研究者の先生です.肥満や糖尿病に関する基礎研究で有名な科学誌「ネイチャー」や「アメリカ科学アカデミー紀要」などに筆頭著者として発表されている立派な経歴を持っておられます.

内容はベジタリアンを全面的に肯定する内容になっています.

糖質制限の理論を踏まえて,それははたして本当の事かどうか,吟味してみることにします.

まずベジタリアンの定義ですが

「動物性食品を避け,穀物,豆類,種実類,野菜,果物などの植物性食品を中心に摂る人々」

となっています.

そして動物性食品をどの程度避けるかということによって以下のように分類されます.

・ビーガン(vegan):動物性食品を厳格に避けるベジタリアン
・ラクト・ベジタリアン(lacto-vegetarian):乳製品を摂取するベジタリアン
・オボ・ベジタリアン(ovo-vegetarian):卵および卵製品を摂取するベジタリアン
・ラクトオボ・ベジタリアン(lacto-ovo-vegetarian):乳製品や卵を摂るベジタリアン
・ペスコ・ベジタリアン(pesco-vegetarian):魚介類を摂取するベジタリアン
・ポゥヨゥ・ベジタリアン(pollo-vegetarian):家畜の肉を摂取するベジタリアン

一口にベジタリアンといってもいろいろなパターンがあるようです.ビーガンが最も純粋なベジタリアンで,ペスコとポゥヨゥはセミ・ベジタリアンという呼ばれ方もしているようです.

また,ベジタリアンがベジタリアン食を選ぶ理由としては大きく3つの理由が挙げられています.

①自らの健康の維持・増進のため
②エコロジーへの配慮といった環境倫理のため
③畜産業などにおける動物に対する不適切な扱いに反対するという倫理観のため.

つまり,健康のためだけでベジタリアン食が選ばれているわけではないという背景があります.

しかし私の興味は,はたしてベジタリアン食が本当に健康によいのか,という点です.①を検証してみます.

例えば,この本では「糖尿病を予防し改善するベジタリアン食」と題して,なぜベジタリアン食が糖尿病に有効であるかということに関して次のように説明しています.

ベジタリアンの割合が多いセブンスデー・アドベンチスト教団(SDA)では,一般人口に比べて,糖尿病患者が半分以下となっています.また,SDAの中で比較すると,ベジタリアンの方が,非ベジタリアンよりも糖尿病患者が少ないことがわかっています.
SDAを対象にした研究では,糖尿病を発症するリスクが示されています.それによると,男性では,ベジタリアンを1.00としたとき,セミ・ベジタリアンでは1.35,非ベジタリアンでは1.97でした.また,女性ではそれぞれ,1.00,1.08,1.93となっています.
ベジタリアン食が糖尿病に効果的なメカニズムとして,ベジタリアンではBMIが低い(つまり肥満者が少ない)こと,食物繊維の摂取が多いこと,インスリン抵抗性を減らしインスリン感受性を改善することなどが挙げられます.
ただし,SDAの研究では,BMIや体重で補正した場合でも,非ベジタリアンの男性は,ベジタリアンよりも糖尿病のリスクが80%高いことが示されています.従って男性では,肉食が糖尿病のリスクに大きく影響するようです.


ふむ,一見もっともに思えますね.

次はアメリカ農務省が作成したフードピラミッドという食事療法の指針をお示しします(日本で言う食品交換表のようなものですね.)

ベジタリアン図1

これは要するに「ピラミッドの一番下にある米,麺類,パンはしっかりとって,ピラミッドのてっぺんに位置する脂肪や油はほどほどにしておこう」といった意味合いで視覚的に食事の注意点をわかりやすくした内容になっています.

アメリカの一般人はこのような食事指導を受けているということになります.ここでの最下層にある1日に摂るべき穀物の推奨量は6~11サービングとなっています(※1サービングはパン1スライス,調理した穀物1/2カップ,シリアル1オンス程度の量).

それに対してベジタリアン・フードピラミッドは次のようになります.

ベジタリアン図2

通常のフードピラミッドから肉・魚・卵などの動物性食品を抜いて,その分それぞれのピラミッドの各階がカルシウム豊富な食品群(ブロッコリー,キャベツ類,トマトなど栄養ジュース,牛乳,ヨーグルト,アーモンドなど)で補強されている形です.

こちらのベジタリアン・フードピラミッドでは最下層の1日に摂るべき穀物の推奨量は6サービングとなっています.

そして,ベジタリアン食を適切なスタイルにするために著者は以下の注意点を挙げています.

①まず,バランスよく多品種の食品を摂ること.
②必要な栄養素・エネルギー量を満たすように注意すること.
③必要なたんぱく質を得るため,豆類,特に大豆製品を多めに摂ること.卵や乳製品など良質のタンパク質を摂取するラクトオボ・ベジタリアンであれば,タンパク質に関して問題はありません.
ビタミン・ミネラルの所要量に注意すること
例えば,鉄分の不足に注意します.鉄分は,一般的に動物性食品に豊富ですが,豆類などの植物性食品にも含まれています.
乳製品を摂らない場合,カルシウムを含む植物性食品を十分に摂取します.
亜鉛は,卵や乳製品のほか,豆類などの植物性食品に含まれています.サプリメント(栄養補助食品)を用いることもできます.
その他のミネラル類は,種実類や豆類に含まれていますが,サプリメントを利用することもできます.
卵や乳製品を摂る限り,ビタミンB12不足の心配はありません



こうした内容を見て,私はいくつかのことに気がつきました.

一つ,動物性食品は悪いという前提の下,理論が展開されている.

一つ,ベジタリアンは非ベジタリアンに比べて穀物の摂取量が少ない.

一つ,特別な注意を払っていないとビタミン,ミネラルなどの不足に陥る可能性があり,場合によってはサプリメントを用いる事がある.


結局ベジタリアンというのは植物性食品を重んじるあまり,穀物の摂取量が非ベジタリアンに比べてやや少なくなっている集団というわけです.

著者の先生は,糖尿病以外にもいろいろな病気でベジタリアン食がよいと、医学的根拠を元に、と言って理論を展開されているのですが,

そのほとんどが「穀物少な目のベジタリアン」vs「穀物多めの非ベジタリアン」という構図での疫学的な研究結果の有意差を根拠とされています.

いわば植物メインのプチ糖質制限食,というわけです.

そうであれば先述の糖尿病に対する臨床効果も科学的に説明可能です.野菜がよかったというわけではありません.

それに卵や肉の方がビタミン,ミネラルが効率的に確保できるという事実がありながら,動物性は悪いという決めつけのもと大豆や種実にこだわるという姿勢もどうかと思いますし,

そもそもサプリメントを用いないと成立しないような食事が健康食であるとは私には到底思えません.

極めつけはベジタリアンの起源ですが,遡ると紀元前6世紀に古代ギリシャの哲学者ピタゴラスが,弟子たちに「肉食を減らすことが自然で健康的な食事である」と説いたことに端を発します.

その後19世紀になってキリスト教教会の一部からベジタリアニズムが派生してきたという歴史です.

いわば思想的(宗教的)な理由からベジタリアン食はスタートしたのであって,残念ながら科学的根拠はすべて後付けです.

この本ではたくさんのデータを提示されていますが,そこには上記のトリックが巧みに組み込まれているように思えました.

吟味の結果,植物でなければならないという理由はないという結論に達しました.むしろ植物に偏った食事は様々なビタミン,ミネラル不足に配慮しなければならない煩雑さがあります.

高糖質+カロリー制限の従来食に比べれば多少はマシかもしれませんが,

糖質制限,ケトン食の考え方の方がよほど理にかなっていると思いました.

偉い先生が書かれているからといって,やはり盲信はいけませんね.


たがしゅう
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教えてください

先生おはようございます。
いつもブログ拝見しております。(少し難しい時(素人ですので)ありますが!
毎日楽しみにしています。
今日は先生にご指導いただきたいと思います。
私の周りで糖質制限している方のごとですが。
スーパーが出来ない糖尿人達です。
たしかに糖質は以前の半分以下に減らし、カロリーも以前より減らしています。
しかし体重が、ほとんど変化しません。(特に女性たち)
現在SU剤及びインスリン注射をしています。
使用している薬剤と関係があるのでしょうか。
宜しくお願いします。

はじめまして

たがしゅう先生、はじめまして。
富山で開業獣医師をしているものです。

ベジタリアンに対するモヤモヤ感が少しすっきりしたようです^^
ありがとうございます。

夏井先生のサイトで紹介されていた、「牛乳と乳がん」を読んでいた際も、「ビーガンになる事が望ましい」などの作者の考え方の記述があったところ以降は、ほとんど興味のない内容になってしまいましたw

>穀物少な目のベジタリアン」vs「穀物多めの非ベジタリアン」という構図での疫学的な研究結果の有意差を根拠

このあたりをちゃんと読み解くことが必要ですね。

食事の栄養素をサプリメントばかりに求めるのも、アメリカ人って何者?って思っちゃいます。

アメリカ人そのものが宗教をベースにできあがっていると思えば、そんなものなんでしょうね。

今後もお邪魔させて頂きますので、宜しくお願いします。

Re: 教えてください

もとつむりさん

 応援と御質問を頂き有難うございます。

>スーパーが出来ない糖尿人達です。
>たしかに糖質は以前の半分以下に減らし、カロリーも以前より減らしています。
>しかし体重が、ほとんど変化しません。(特に女性たち)
>現在SU剤及びインスリン注射をしています。


 糖質の量が十分に減らせていない場合はやせないこともあると思います。

 それにSU剤は肥満ホルモンであるインスリン分泌を24時間刺激し続ける薬なので当然太りますし、
 インスリン注射そのものであれば言わずもがなです。

 おそらく糖質を減らした減量効果と、薬によるインスリンの肥満効果とがプラスマイナスゼロになっている状態ではないでしょうか。

 今の状態では食後高血糖のリスクと高インスリン血症のリスクが解除できていないので長く続けるのはあまり良くないと思います。

 薬をやめてスーパー糖質制限食へ切り替えるのが糖尿病の制御に対してもダイエットに対してもベストの選択ではないかと私は思います。
 

Re: はじめまして

どくたけ先生

 はじめまして。コメントを頂き有難うございます。

> ベジタリアンに対するモヤモヤ感が少しすっきりしたようです^^
> ありがとうございます。


 そういって頂けて何よりです。

 江部先生や夏井先生が科学的な見地から糖質制限理論の基礎固めをされたおかげで、

 私のような一介の医師でも、こうした問題について自分で考えられるようになりました。

 宗教や文化的なものも大事でしょうが、やはり科学的に理論がしっかりしているものが一番信頼ができると思います。

ナイス

マニアックで毎回楽しみです。今のところ付いていけます。

Re: ナイス

奈良県吉野けんさん さん


 いつもコメント有難うございます.

 これからもできるだけわかりやすい記事を書くよう心がけていきます.

No title

たがしゅうさん

私はパンク、ハードコアと呼ばれるジャンルの音楽にはまっていたことがありまして、だいたいインタビューなんぞ読むとタトゥーばりばりのガリガリ短髪の兄ちゃんが、政府や大企業批判、肉食否定、煙草酒を含むアンチドラッグ、デカフェのコーヒーを飲みながら克己心を持て、みたいなことを言ってるんですね。宗教がかってるというかまさに中二病をこじらせた状態です。
まあそんな人たちがマクドナルドに行ったり、ソファに寝そべりながらジャンクフードをつまんだりはしないだろうなと、それだけの話のような気がします。

Re: No title

SLEEPさん

 コメント有難うございます.

 信念があってもそこに「自分で考える力」がないとただ言いだしっぺに言いなりのままです.
 反対するだけなら誰でもできると思います.

 糖質制限だって例外ではなく(糖質制限をただやっていればよいということではなく)細かい部分ではこれからまだまだ理論を考えていかなければなりません.私はこれからも考え続けたいと思います.

No title

たがしゅうさん

すいません、説明不足でしたね。要はビーガンというのはそういう変わった人たちだということです。ただまあいわゆるヴェジタリアンというのは一般のアメリカ人と比べれば健康に気を遣う人が多いのはたしかだと思います。それがその人の幸福かどうかはさておき・・・

ハーバード大学の大規模研究

この研究は、結局はベジタリアン・トリックで説明できるということでしょうか

http://low-carbo-diet.com/greeting/topic/red-meat-consumption-and-mortality

Re: ハーバード大学の大規模研究

精神科医師A先生

 情報を有難うございます.
 
 ざっと読んでみましたが,この研究は赤味の肉の摂取量を5段階に分けて,その摂取量が高いグループになればなるほど総死亡率が高くなるという内容ですね.

 確かに,赤味の肉が多い群になればなるほど,whole grain(全粒穀物)の量は少なくなっています.
 しかしそれと同時にアルコールの摂取量は逆に増えていっている関係がみてとれます.

 さらにこの論文の中には炭水化物の摂取比率は記載されていませんでした.だから赤味の群が多い群で炭水化物がどのくらい減っていたのかということがはっきりとわかりません.

 ただこの研究,「赤味の肉=危険」という固定観念の下にデザインされているように見えます.そのまま素直に受け取ってはいけない内容だと思います.

No title

米国では、ユダヤ人が、自分がユダヤであり、ユダヤ独特の食事制限を実践していることを隠すため、「菜食主義」を名乗るケールがあるようです。

つまり私たちの目の前では菜食主義者と名乗るが、異教徒から見られていないところでは、ユダヤ式に処理した肉を食べている。

Re: No title

通行人 さん

 コメントを頂き有難うございます。

> 米国では、ユダヤ人が、自分がユダヤであり、ユダヤ独特の食事制限を実践していることを隠すため、「菜食主義」を名乗るケールがあるようです。

 それは知りませんでした。

 ベジタリアンの健康状態を評価する際にそういうトリックも混ざっているのかもしれませんね。

ベジタリアンの真実

暴かれた、ベジタリアンの虚勢「菜食主義者の約4割が肉を食べてる」=英

http://news.biglobe.ne.jp/trend/1015/toc_151015_4104973021.html

Re: ベジタリアンの真実

精神科医師A 先生

 情報を頂き有難うございます。

> 暴かれた、ベジタリアンの虚勢「菜食主義者の約4割が肉を食べてる」=英

 ベジタリアン食はそれだけコンプライアンスの悪い食事療法だという事かもしれませんね。

No title

ベジタリアンのほとんどはいわゆるノンミートイーター(畜肉以外の動物性食品を食べる者)であり、
ヴィーガンやフルータリアン、マクロビオティックのような完全菜食者は極少数かと思います
前者と後者の健康リスクは分けて考えるべきではないでしょうか
卵や乳製品も家畜を殺すことが前提に生産されるため、思想的な理由から菜食をする方はヴィーガンになりやすいと思います

また、「ベジタリアン」は「ベジタブル」から来ている言葉ではないので、必ずしもベジタリアンとは野菜ばっかり食べている人というのは誤解です
宗教上の理由からベジタリアン人口が世界で最も多いインドでも糖質過多などで糖尿病が社会問題化しています

Re: No title

コメント頂き有難うございます。

> ベジタリアンのほとんどはいわゆるノンミートイーター(畜肉以外の動物性食品を食べる者)であり、
> ヴィーガンやフルータリアン、マクロビオティックのような完全菜食者は極少数かと思います
> 前者と後者の健康リスクは分けて考えるべきではないでしょうか


確かに、ベジタリアンが良いとするデータのほとんどは前者メインの集団だと思います。
一般の糖質過多集団に比べて、結果的にやや低炭水化物、高蛋白となっているのがよいのだと考えられます。

完全菜食主義者は、糖質制限的にはかなりリスキーな食べ方ですが、
それで健康を維持できるのは腸内細菌がうまく適応した青汁1日1杯生活の森美智代さんのようなパターンが考えうると思います。

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プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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