慢性疲労の影に慢性炎症
慢性疲労症候群と呼ばれる病気があります。
原因不明の強度の疲労が長期間(一般的に6ヶ月以上)に及び継続する病気、と定義されています。
なんだかあいまいすぎて、医者でなくても診断できそうな病気です。
先日、この病気が疑われる50代男性の患者さんと出会いました。
この方は朝はなんともないのだけれど、日中歩いているうちに非常に疲れてきて、足が動かなくなってくると訴えられ、
何らかの脳の病気ではないかという事で神経内科の私のところを受診されました。
ところが診察をしても神経の異常を示唆す所見は全く認めません。
そしてこの患者さん私のところに来る前に膠原病内科の診察も受けておられました。
原因不明の強度の疲労が長期間(一般的に6ヶ月以上)に及び継続する病気、と定義されています。
なんだかあいまいすぎて、医者でなくても診断できそうな病気です。
先日、この病気が疑われる50代男性の患者さんと出会いました。
この方は朝はなんともないのだけれど、日中歩いているうちに非常に疲れてきて、足が動かなくなってくると訴えられ、
何らかの脳の病気ではないかという事で神経内科の私のところを受診されました。
ところが診察をしても神経の異常を示唆す所見は全く認めません。
そしてこの患者さん私のところに来る前に膠原病内科の診察も受けておられました。
膠原病(こうげんびょう)内科というのは、免疫の誤作動で自分の組織を間違って攻撃してしまうという自己免疫疾患主にみる内科のことです。
そこで「この患者さんには慢性炎症がある。しかしなぜ炎症があるかははっきりしない」というコメントをもらっていました。
「炎症」というのは一つ大事なキーワードです。
近年様々な難病にはこの「炎症」が深く病態に関わっている事が明らかになっています。
例えば、糖質制限を学んでいる方であればご存知であるように、
血管が固く狭くなっていく「動脈硬化」という現象の根本は「血管の炎症」である事がわかってきています。
決してコレステロールが高い事が原因ではないのです。
またストレスによって下痢や便秘に悩まされる過敏性腸症候群も、腸管の微小炎症という事が言われてきています。
他にも炎症が関わる病態は実に多く、潰瘍性大腸炎、側頭動脈炎、多発性筋炎、結節性動脈周囲炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎など挙げればきりがありません。
そしてその全てにステロイドという薬が有効だという事が特徴的な事実です。
その点については今回はさておき、この患者さんの何をみて慢性炎症があるとわかったのでしょうか。
通常、医師が炎症反応と聞いて思い浮かべる血液検査の項目は「CRP」です。
CRP(C-reactive protein:C反応性蛋白)は体内で炎症反応や組織の破壊が起きているときに血中に現れるタンパク質のことで、主には急性の炎症反応を表す物質としてよく知られています。
基準値はおおよそ0.3mg/dL以下と、健康な人ではほとんど上昇しないものです。
ただこの患者さんのCRPは0.11mg/dLであり、これでは炎症反応があるとは言えないですね。
一方、もう少し慢性的な炎症をみる事ができるのは「血沈」です。
「血沈」とは赤血球沈降速度の略で、赤血球が試薬内を沈んでいく速度をみる検査です。
通常、赤血球は試薬の中で非常にゆっくりと沈んでいくのですが、
貧血や炎症があるとその沈むスピードが早くなるのです。
この時、1時間後にどれくらい沈むかをみる1時間値と、2時間後にどれくらい沈むかをみる2時間値とをみることになります。
基準値は、1時間値が、男性で10mm以下、女性で15mm以下、2時間値が、男性25mm以下、女性で40mm以下となっています。
この方の血沈は1時間値が42mm、2時間値が75mmとやや上昇していました。
ただこの方、同時に貧血も存在していたので、血沈が上昇したのが貧血のせいなのか、炎症のせいなのか判別できません。
ところが、実はこの貧血自体が慢性炎症を表している事があるのです。
具体的にはちょっと専門的になりますが、赤血球の大きさが小さい「小球性」で、
血清鉄が不足し、総鉄結合能が上昇し、なおかつ貯蔵鉄であるフェリチンが十分に蓄えられているような貧血は、
慢性炎症によって起こるとされているパターンです。
この患者さんはかなりそのパターンに当てはまっていました。
非常に疲れやすいとされる慢性疲労症候群の影には、こうした慢性炎症の存在があるのかもしれません。
ではなぜ、この方に慢性炎症が起きたのでしょうか。
動脈硬化の原因とされる血管炎症も、元をたどれば酸化ストレスです。
この患者さんの食生活を詳しく聞く余裕はなかったのですが、
やはり私はこうした方にも糖質頻回過剰摂取に伴う血糖値の乱高下が大きく関わっているような気がしてなりません。
ただ、この患者さんの場合はどうもそれだけではないようで、
もう一つ確実に関わっているであろうと思われる事がありました。
それは向精神薬の多剤内服です。
この患者さんは仕事でのストレスをきっかけに、精神科で3,4種類の向精神薬を処方され、
多少種類が変わりながらも10数年来ずっと飲み続けていました。
そうした精神に作用する薬の常用が、徐々に脳の正常な働きを妨げていき、
結果的に疲労感を感じやすい身体にした可能性は、私は十分にあると考えました。
普通こういう患者さんは、そのまま精神科で薬を調整してもらいなさい、と言われるのがオチです。
しかし上記のように考察した私は、
慢性炎症をとりかつ精神面を安定させるために、血糖値の乱高下を防ぐ糖質制限について情報提供を行い、
なおかつ慢性炎症が治らなくする増悪因子である向精神薬の多剤内服について目を向けさせ、
糖質制限が軌道に乗ったら少しずつ減薬に取り組んでみるよう指導を行いました。
「疲れやすい」というありふれた症状ですが、
その裏に隠れる背景をしっかりと捉えるようにすれば、
全然マネージメントが変わってくるのです。
たがしゅう
そこで「この患者さんには慢性炎症がある。しかしなぜ炎症があるかははっきりしない」というコメントをもらっていました。
「炎症」というのは一つ大事なキーワードです。
近年様々な難病にはこの「炎症」が深く病態に関わっている事が明らかになっています。
例えば、糖質制限を学んでいる方であればご存知であるように、
血管が固く狭くなっていく「動脈硬化」という現象の根本は「血管の炎症」である事がわかってきています。
決してコレステロールが高い事が原因ではないのです。
またストレスによって下痢や便秘に悩まされる過敏性腸症候群も、腸管の微小炎症という事が言われてきています。
他にも炎症が関わる病態は実に多く、潰瘍性大腸炎、側頭動脈炎、多発性筋炎、結節性動脈周囲炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎など挙げればきりがありません。
そしてその全てにステロイドという薬が有効だという事が特徴的な事実です。
その点については今回はさておき、この患者さんの何をみて慢性炎症があるとわかったのでしょうか。
通常、医師が炎症反応と聞いて思い浮かべる血液検査の項目は「CRP」です。
CRP(C-reactive protein:C反応性蛋白)は体内で炎症反応や組織の破壊が起きているときに血中に現れるタンパク質のことで、主には急性の炎症反応を表す物質としてよく知られています。
基準値はおおよそ0.3mg/dL以下と、健康な人ではほとんど上昇しないものです。
ただこの患者さんのCRPは0.11mg/dLであり、これでは炎症反応があるとは言えないですね。
一方、もう少し慢性的な炎症をみる事ができるのは「血沈」です。
「血沈」とは赤血球沈降速度の略で、赤血球が試薬内を沈んでいく速度をみる検査です。
通常、赤血球は試薬の中で非常にゆっくりと沈んでいくのですが、
貧血や炎症があるとその沈むスピードが早くなるのです。
この時、1時間後にどれくらい沈むかをみる1時間値と、2時間後にどれくらい沈むかをみる2時間値とをみることになります。
基準値は、1時間値が、男性で10mm以下、女性で15mm以下、2時間値が、男性25mm以下、女性で40mm以下となっています。
この方の血沈は1時間値が42mm、2時間値が75mmとやや上昇していました。
ただこの方、同時に貧血も存在していたので、血沈が上昇したのが貧血のせいなのか、炎症のせいなのか判別できません。
ところが、実はこの貧血自体が慢性炎症を表している事があるのです。
具体的にはちょっと専門的になりますが、赤血球の大きさが小さい「小球性」で、
血清鉄が不足し、総鉄結合能が上昇し、なおかつ貯蔵鉄であるフェリチンが十分に蓄えられているような貧血は、
慢性炎症によって起こるとされているパターンです。
この患者さんはかなりそのパターンに当てはまっていました。
非常に疲れやすいとされる慢性疲労症候群の影には、こうした慢性炎症の存在があるのかもしれません。
ではなぜ、この方に慢性炎症が起きたのでしょうか。
動脈硬化の原因とされる血管炎症も、元をたどれば酸化ストレスです。
この患者さんの食生活を詳しく聞く余裕はなかったのですが、
やはり私はこうした方にも糖質頻回過剰摂取に伴う血糖値の乱高下が大きく関わっているような気がしてなりません。
ただ、この患者さんの場合はどうもそれだけではないようで、
もう一つ確実に関わっているであろうと思われる事がありました。
それは向精神薬の多剤内服です。
この患者さんは仕事でのストレスをきっかけに、精神科で3,4種類の向精神薬を処方され、
多少種類が変わりながらも10数年来ずっと飲み続けていました。
そうした精神に作用する薬の常用が、徐々に脳の正常な働きを妨げていき、
結果的に疲労感を感じやすい身体にした可能性は、私は十分にあると考えました。
普通こういう患者さんは、そのまま精神科で薬を調整してもらいなさい、と言われるのがオチです。
しかし上記のように考察した私は、
慢性炎症をとりかつ精神面を安定させるために、血糖値の乱高下を防ぐ糖質制限について情報提供を行い、
なおかつ慢性炎症が治らなくする増悪因子である向精神薬の多剤内服について目を向けさせ、
糖質制限が軌道に乗ったら少しずつ減薬に取り組んでみるよう指導を行いました。
「疲れやすい」というありふれた症状ですが、
その裏に隠れる背景をしっかりと捉えるようにすれば、
全然マネージメントが変わってくるのです。
たがしゅう