サイアミディン

飲酒による緩和と緊張

2014年10月の日本医師会雑誌の特集は,

「症状に応じた向精神薬の使い方―かかりつけ医の心得」というテーマでした.

薬を使って治療するのを前提に,どうやって使えば効果的に使えるかという事を,

症状別,あるいは小児や妊婦,高齢者などのケース別にいろいろと紹介されていました.

こういう特集を読む時に私は,

書かれているおすすめの治療法を取り入れようとするというよりも,

薬の作用機序や症状の病態生理などメカニズムの部分に注目するようにしています.

そんな中今回私の目を引いたのは,

「新しいアルコール依存症治療」についての記事でした.
2013年5月,アルコール依存症から離脱させるための新薬,アカンプロサートカルシウムが臨床使用可能になったという話題でした.

樋口進.「新しいアルコール依存症治療」
日医雑誌 第143巻・第7号/平成26(2014)年10月


(以下,引用)

これまでの抗酒薬はアルデヒド脱水素酵素を阻害することにより,

飲酒後に体内にアセトアルデヒドが蓄積し,ひどい二日酔い状態を起こし,

この不快感を連想させることで断酒に導くことを期待する薬物である.

これに対して本薬(アカンプロサートカルシウム)は,中枢神経系に作用し,ア症患者の飲酒渇望を抑制すると考えられている.

継続的な飲酒により,中枢神経の抑制系神経は活性化されるが,

これに適応するために興奮系神経,すなわちグルタミン酸神経が活性化される.

この状態で禁酒によりアルコールの刺激がなくなると,

興奮系神経だけが活性化されるため,脳内の神経のバランスが崩れ,これが飲酒渇望につながる


本薬は,グルタミン酸作動性神経の活動を抑制することにより,脳内神経のバランスを保ち,

飲酒渇望を下げると考えられている.

(引用,ここまで)



アルコールの自律神経系への影響は以前も振戦の際に触れましたが、

同様の現象が脳でも起こっているということに注目です。

寝酒で入眠が促される事からもわかるように、アルコールは強制的な抑制系神経刺激になると言えるでしょう。

一見アルコールはストレスのたまった時にシンプルにリラックスさせるための良い方法と思われるかもしれません。

しかし寝酒を繰り返していると、だんだん同じ飲酒量では眠れなくなってきます。ここに落とし穴があります。

これを耐性ができるといい、徐々に飲酒習慣が止められなくなっていく温床となります。

そして強制的な抑制系神経刺激であるがゆえに、その反動で強制的な興奮系神経刺激も起こるわけであり、

しかるべき飲酒量に達しなければ、興奮系神経刺激が上回ってしまい、逆に眠れなくなって飲酒渇望につながってしまうというわけです。

今回の新薬はこのメカニズムに注目して、強制的な興奮系神経抑制薬を作ったというのですが、

私はこの薬おそらく処方しません。いかにも身体に無理がかかっていると思うからです。

アルコールによって引き起こされた神経伝達物質のバランスの乱れは、大元を断つ、すなわちアルコールをやめる事によってしか解決に至らないと私は思います。

さもないと、新薬で強制的に興奮を沈めたはよいものの、その後薬を止めてしまえば元の木阿弥になりかねません。

そのゴールを見据えた上で、一時的に飲酒渇望を抑えるために使用するのであればわかります。

しかしこれさえ飲めばアルコール依存症が治るという夢の新薬のように考えてはいけないと思います。

他の新薬のように、予想外のトラブルが出ることだって否定できません

依存症を治すには依存物質を断つ

糖質中毒と同様です。

これ以外に王道はないと私は考えます。


たがしゅう
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No title

クスリ、特に神経系に作用する薬剤はある部分は麻薬と同様の作用があり非常にリスキーです。
クスリが強力であればあるほど幻覚、妄想、衝動性、或は過沈静、依存性を誘発する傾向にありますので厳重な注意が必要です。諸刃の剣。
SSRIやSNRIも安全とはとても言えないクスリです
参考図書
「ヒーリー精神科治療薬ガイド第5版/PSYCHIATRIC DRUGS EXPLAINED Fifth Edition」by David Healy 田島治・江口重幸(監訳)みすず書房
この書籍では日本の教科書では書かれない精神科治療薬の危険性をリアルに書いています。ぜひ購読してください。

Re: No title

アンチスタチン主義 さん

情報を頂き有難うございます。勉強させて頂きます。


アカンプロサートカルシウムについて

 レグテクト(アカンプロサートカルシウム)の添付文書には以下の記載があります
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1190022H1020_1_02/

「心理社会的治療と併用すること」
「断酒の意志がある患者にのみ使用すること」

 ちなみに国立病院機構久里浜医療センターではアルコール依存症の治療プログラムを策定しています

http://www.kurihama-med.jp/news/index.html

 同時に医療/福祉関係者を対象とした研修会を実施し、全国の数多くの病院で同一レベルの治療が行えるようにしています

Re: アカンプロサートカルシウムについて

精神科医師A 先生

 情報を頂き有難うございます.

> 「心理社会的治療と併用すること」
> 「断酒の意志がある患者にのみ使用すること」


 新薬と言えど,基本は今までと変わりませんね.

 依存症から抜け出すために最も大事なのは,御指摘のように本人の意志だと思います.
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。

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