サイアミディン

原因と結果を逆に見る

「タバコは身体に良くない」ということは、

広く一般に知れ渡った医学常識であると思います。

それだけその知識が広まっているにも関わらず、タバコが止められない人が多いのは、

タバコそのものに「中毒性」があるからだという事は、これまでに述べてきた通りです。

しかし、世の中には「タバコが身体に良い」とする研究報告もあったりするのです。

その中で我々神経内科の領域でよく言われているのは、「喫煙がパーキンソン病のリスクを下げる」という報告です(Ritz B, et al. Pooled analysis of tobacco use and risk of Parkinson disease. Arch Neurol. 2007 Jul;64(7):990-7.)。

これは1960年から2004年までに行われた11の研究から、11,809名(パーキンソン病に罹患した者2,816名、パーキンソン病に罹患していない同姓、同年齢の対照者8,993名)のデータを分析したもので、

喫煙者の病気を調べると、非喫煙者に比べてパーキンソン病の頻度が少なかったというのです。
この結果から、パーキンソン病に関してはタバコの何らかの物質が神経保護的に作用しているのではないかという見解が出たりしていますが、

がんとか動脈硬化とかアレルギー疾患とかのリスクは高めるのに、こと神経、しかもパーキンソン病だけには保護的に働くという流れが私にはどうもすっきりと納得がいきませんでした。

そんな中、「喫煙とパーキンソン病」に関する新たな見解が、

しかも上記の論文を書かれたRitz先生によって、Neurologyという神経内科雑誌で発表になり、私の興味を引きました。

Ritz B, et al. Parkinson disease and smoking revisited: Ease of quitting is an early sign of the disease. Neurology. 2014 Oct 14;83(16):1396-402. doi: 10.1212/WNL.0000000000000879. Epub 2014 Sep 12.

概要
目的:喫煙を止めることができるかどうかを評価する事は、
タバコが“神経保護的”であるというよりもむしろパーキンソン病(PD)の発症の早期マーカーであり、
我々は禁煙のしやすさとニコチン代用品使用についての情報を解析した。

方法:本症例対照研究では、
1996年から2009年の間にデンマークのレジストリーでPDと診断された1808名の患者と、
性・年齢・集積された生活習慣情報を適合させた1876名の対照集団を同定した。
適合因子と交絡因子を調整したロジスティック回帰でオッズ比と95%信頼区間を評価した。

結果:対照より喫煙習慣のあるPD患者はほとんどいなかった。
過去に喫煙歴のある人の中では、禁煙やニコチン代用品の使用に困難が大きい程、
パーキンソン病に発展しにくく、そのリスクは“禁煙しやすい”人に比べて、
“禁煙するのが非常に難しい”人で一番低かった。
ニコチン代用品使用は禁煙のしにくさと喫煙期間と強く相関しており、
言い換えれば、現在の喫煙者で最も強い相関があり、
続いてニコチン代用品を使用した過去の喫煙者、
最も相関が弱いのはニコチン代用品を一度も使用した事がない過去の喫煙者であった。

結論:我々のデータはPD患者は対照者よりも容易に禁煙する事ができるという考えを支持する。
こうした見解はPDの前駆段階ではニコチンへの反応性が下がるという事と矛盾しない。
我々は禁煙のしやすさは嗅覚低下、レム睡眠行動異常症、あるいは便秘と同様にPDの前駆症状の観点があると提唱し、
疫学研究で観察される喫煙の明らかな”神経保護効果”は因果関係が逆にある事を示唆している


疫学研究というのは解釈に注意を要するもので、

確かにある研究で「喫煙者集団でパーキンソン病患者が少ない」という事実が明らかになりました。

しかし因果関係、すなわちどちらが原因でどちらが結果なのかという事は、それだけでは何とも言えないのです。

今回の研究を私なりにまとめると、

「喫煙がパーキンソン病を減らす」のではなく、

「パーキンソン病になると喫煙を続けにくくなる」という事だと思います。


パーキンソン病を酸化ストレスの観点でみますと、

酸化ストレスの処理がうまくできなくなった病気です。

そして以前も触れたように、喫煙は種々の要因の中で最も強力な酸化ストレスです。

喫煙者の人がパーキンソン病になっていないのは、

強力な酸化ストレスを処理できるだけの余力が残っているからであって、

その余力が無くなりパーキンソン病を発症してしまうと、喫煙の強力な酸化ストレスを処理できなくなってしまいます。

その結果、喫煙者でパーキンソン病の人がいなくて、非喫煙者でパーキンソン病の人が増えてしまうのだと思います。


糖質制限もそうですが、

他は全部良くしているという流れの中で、

これだけは例外的に悪くするという話は、

少し疑ってかかった方がよいかもしれません。

今回は自分の中ですっきりと整理がつく話でした。


たがしゅう
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非公開コメント

No title

神経伝達物質は常に連動して影響しあっています
ニコチンが神経伝達に何らかの関連を及ぼしているのは間違いないでしょうね。
例えば初期のパーキンソン病の患者に少量のガランタミンやを長期間(数年間)投与し続けたら機能予後に差は出るのでしょうか?

Re: No title

アンチスタチン主義 さん

 コメント頂き有難うございます.

 ニコチンにしてもガランタミンにしても神経伝達に影響を与えるのは間違いないでしょうが,

 いずれにしても,不自然な神経伝達バランスを形成する事になるので,最終的に良い事にはならないのではないかと私は予想しますが,どうでしょうか.

No title

たがしゅうさん

ある方がタバコと言うのは、アルコールやカフェインあるいは大麻などの鎮痛系薬品と違って体に毒しかない、わざわざ小さな靴を履いて脱いだ後の開放感を楽しんでいるようなものだと書いてました。

靴を脱いだ後の開放感を楽しめないほど体がダメージを負ってしまったということなのでしょうか。糖質制限についても同じことが言える気がします。昨日、今日と久々にジャンクフードを楽しみましたが、鼻水や眠気が来ます。あと一ヶ月はいらないかな・・・

Re: No title

SLEEP さん

 コメント頂き有難うございます。

 自己マッチポンプとでも言うべき状態ですね。

 「タバコを吸うとストレス解消になる」という人は、そもそも「タバコを吸う事がストレスの原因を作っている」という事に気がつくべきだと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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