サイアミディン

原因か結果か、それが問題だ

今日は脳梗塞と脂質に関する疫学についてです。

今月の日本医師会雑誌のテーマは「脳卒中診療の進歩」でした。

その中で、久山町研究の責任者として知られる清原裕先生が特集記事を書かれていました。

日医雑誌 第143巻・第9号/平成26年(2014)年12月
清原裕. 「脳卒中の疫学-リスクファクターの変遷」


スタチンの存在によって脂質は下げた方が脳卒中の発症リスクは少ないというイメージが、

一般だけでなく医療関係者の間にも強固に存在すると思いますが、

はたしてそれは本当なのかどうか、疫学研究結果を改めて俯瞰して見てみたいと思います。
以下、コレステロールに関する記事を引用します。

(以下、p1870‐1871より引用〉

国内外の追跡研究では、血清総コレステロールあるいはlow-density lipoprotein(LDL)コレステロールレベルが脳梗塞に及ぼす影響については成績が一定しておらず、

特にわが国ではこれら脂質レベルと脳梗塞リスクとの間に有意な関係を認めた報告はない

そこでこの問題を検証するために、脂質異常症の治療がほとんど行われていなかった1983年に設定した40歳以上の久山町の集団2351人を19年間追跡した成績より、

Friedewaldの式で算出したLDLコレステロールレベル(四分位)と脳梗塞発症との関連をそのタイプ別に検討した。

その結果、LDLコレステロールレベルと脳梗塞発症との間には有意な関連は認めなかった

しかし、脳梗塞をタイプ別にみると、

LDLコレステロールレベルの増加によって性・年齢調整後のアテローム血栓性脳梗塞発症のハザード比は有意に上昇し、

この関係は他の危険因子の影響を調整しても変わりなかった。

性・年齢調整後のラクナ梗塞の発症のリスクはLDLコレステロールレベルと共に有意に上昇したが、

さらに他の交絡因子を調整すると有意性は消失した。

一方、心原性脳塞栓症発症のリスクは、多変量解析においてLDLコレステロールレベルの上昇とともに有意に低下した。

この負の関連の理由は明らかではないが、

血清総コレステロール低値によって心原性脳塞栓症の主な原因である心房細動発症のリスクが上昇するとの報告があることから、

両者の負の関係に心房細動が介在している可能性がある。

以上より、LDLコレステロール値はアテローム血栓性脳梗塞との間に強い正の関連が、

ラクナ梗塞との間には弱い正の関連が、

そして心原性脳塞栓症との間に有意な負の相関があり、

脳梗塞のタイプによってその影響が異なることがうかがえる。

このことが、脳梗塞全体を解析対症としてきたこれまでの追跡研究において、

結果が一定しなかった大きな理由と思われる。

(引用、ここまで)



一般に今のありのままの様子を観察する事で、

疾病のリスクや関連因子を明らかにしようとする研究のことを「観察研究」といいます。

それに対して何か介入を加える事で、疾病の有り様がどう変わっていくかをみる研究を「介入研究」といいます。

観察研究はありのままの状態を浮かび上がらせる事はできますが、

要因と結果の因果関係を立証する事はできないというデメリットがあります。

例えばもし「脳梗塞を起こしている人にコレステロールが高い人が多い」という観察研究結果が出たときに、

コレステロールが高いから脳梗塞になったのか、脳梗塞になったからコレステロールが上がったのか、

要するに「ニワトリが先か卵が先か」という命題のどちらが正解なのかを決める事ができないということです。

その正解を決めたいという場合には、介入研究の出番となります。

ここで例えばコレステロールを下げるスタチンを使って本当に脳梗塞が下がるという事が証明されれば、

「コレステロールが高いから脳梗塞になったの方が正解だ」という結論が導き出せるわけです。

実際スタチンが脳卒中の発症リスクを下げるという研究は散見されますので、

普通に考えればやはりコレステロールが高い方が脳卒中を起こしやすいという結論に至りそうなものです。

しかしスタチンという薬には製薬会社の巨大な利権が絡んでいますので、

製薬会社の息がかかったスタチン研究は容易に信用する事ができないという問題をはらむため、一概にスタチンがよいとは言い切れません。結局真実は藪の中です。

だからこの問題に対して私たちができるのは「観察研究」の結果をどう解釈するか、という所が突破口になると私は考えています。

なぜならば、観察研究の結果そのものは、信頼できる情報として利用する事ができるからです。


その上で今回の清原先生の記事を読んでみますと、

まずスタチンの息がかかっていない状況下では、LDLコレステロールと脳梗塞の発症との間に有意な関連がないという事です。

また脳梗塞にはラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症という3つの病型がある事が知られていますが、

ラクナ梗塞に弱い正の関連、アテローム血栓性脳梗塞に強い正の関連、心原性脳塞栓症に負の関連があるという話です。

一般的にはラクナ梗塞は軽い脳梗塞、アテローム血栓性脳梗塞は中等度の脳梗塞、

そして心原性脳塞栓症は一発ノックアウト型の重症の脳梗塞になりやすいという傾向があります。

この結果をみて私は思います。

この観察研究結果は、当然ながら普通に糖質を摂取している集団の話です。

糖質を摂取し血糖値の乱高下を繰り返し、酸化ストレスを生じ、

その酸化ストレスを消去するためにLDLコレステロールを含む抗酸化物質が上昇して食い止めようとしていると思います。

そして、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞は、そうやって上昇したにも関わらず抗酸化作用が追いつかずに脳梗塞を発症してしまった状態、

心原性脳塞栓症はもはや抗酸化物質の産生ができなくなって脳梗塞を発症してしまった状態ではないかと思うのです。

この関係は以前私が考察したアミロイドβとうつ病、認知症との関係と似ています。

そう考えれば病型の重症度によってコレステロールの動向が変わる理由も、

脳梗塞全体として有意な関連が消失するという理由も説明できるように思います。

もしも世間で言われるようにコレステロールが高いと脳梗塞になるという事実が本当だとするならば、

脳梗塞の最重症型である心原性脳梗塞栓症が増えないという事実をどう解釈すればいいのか、

また一体どのように治療アプローチすればいいのか、はたして本当にスタチンを使っていいのか、という疑問が生じるのではないでしょうか。


私の結論は常にシンプルです。

コレステロールの増減は人体のメカニズムに任せ

糖質を制限し、メカニズムの邪魔になる酸化ストレスを減らすように心がけます。

そうする事で、すべての脳梗塞病型に対して有益な効果をもたらす事ができると思います。


たがしゅう
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血管プラークについて

糖質制限食は認知症・脳梗塞・心筋梗塞などへ突き進む危険な食事療法です
http://majimaclinic22.webmedipr.jp/kanzenyobou/column2/39.html

…糖質制限食で悪化した症例は一例も提示できていない.
ただ、このHPは一読の価値はあるが
http://majimaclinic22.webmedipr.jp/kanzenyobou/index.html#mokuji2

Re: 血管プラークについて

精神科医師A 先生

 情報を頂き有難うございます。

 サイトの先生は、糖質制限を「アルコール・肉・揚げ物・油炒めなどを制限せず好きなだけ食べる食事」だと誤解しています。どうやら糖質制限の本質を理解していないようですね。

 高糖質+高脂質の食生活をしていれば、プラークは進展するのは当たり前です。

 私の患者さんで糖質制限によってプラークの退縮を確認できている方もおられますし、そういうコメントを頂いた事もあります。理論上も糖質制限の方に分があります。全く心配する必要はございません。

スタチンは益よりも害が多い

たがしゅう先生
まったくおっしゃる通りですね。
下半身の筋肉と末梢神経を破壊していくスタチンは高齢者にフレイルと免疫低下を引き起こすので、著しくADLとQOLを低下させます。
75歳以上は内服しないほうがいいでしょう。
またLDLを低下させる事にどれほどの意義があるの?副作用リスクを冒して内服を勧める意味が不明です。

Re: スタチンは益よりも害が多い

アンチスタチン主義 さん

 コメント頂き有難うございます。

 まさに「アンチスタチン主義」ですね。

 なぜスタチンは横紋筋融解症を起こすのか、なぜスタチンによって糖尿病リスクが増えるのか、

 そういう事を突き詰めて考えていくとスタチンという薬の本質が見えてくると思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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