サイアミディン

飽きるのも大事な能力

私が勤める病院に入院している患者さんの中に、

誰もいない病室の中で同じフレーズを言い続けたり、同じ歌を歌い続けられている認知症の患者さんがいました。

先日休みの日に病棟で仕事をしながらその声を傍で聞いていたのですが、

2時間経っても、3時間経っても止む気配なくずっと同じことをしゃべり続けています。

そして一旦用事があって帰宅し、夜にもう一度病棟へ戻ってきましたところ、

なんとまだ同じ様子が続いていました。流石に後半は疲れが見えていたものの、優に12時間くらいはしゃべり続けていた事になります。

普通の感覚であれば、同じ言葉を言い続けて飽きるのではないかという気がすると思いますが、

この患者さんは飽きる事なくひたすら同じ行為を続けていたのです。
このようにひたすら同じ行動を繰り返す事を、医学的には「常同行動」といいます。

これは、認知症の中では「前頭側頭型認知症」に比較的よく見られる症状です。

何かをしようとする意志であったり、我慢する能力であったり、複雑な事を考えて実行したり、怒り、喜び、悲しみなどの情動、人格などに前頭葉を中心とした脳領域が関わっているのですが、

前頭側頭型認知症は前頭葉の機能が低下しますので、そういう事が関与しているものと思われます。

同じ事は小さな子供さんにも見られる事がありますが、前頭葉が未発達でそうなるという事もありますが、

もう一つは「自閉症」という病気の存在を疑う必要がある兆候なので、病的に持続する場合は注意が必要です。


さて、この光景をみて私はふと思ったのですが、

認知症患者さんで「飽きる」という事が欠如しているということは、

「飽きる」という能力は、人間にとって本来必要な能力であると見る事ができると思います。

「すぐに飽きてしまう」などと「飽きる」という言葉を、私達はネガティブなイメージで捉えがちですが、

脳がきちんと働いている状態においては、しかるべき時に「飽きて」、またしかるべき時には「飽きてはいけない」という、

そういう取捨選択をしていく必要があるのだと思います。いわば脳の防御反応とも言えます。

すなわち、何らかの理由で、本来しなくても良い行動を取ってしまった時に、

それ以上身体を疲れさせないように脳が「飽きる」という感情を作り、無駄な行動を取らないように防いでいるのではないでしょうか。


一方で「飽きる」の反対は「ハマる」ではないかと思いますが、

何かにハマるという行動には、脳の報酬系に当たるドーパミン神経系が深く関わっています。

ハマるという行動には、時には人生の活力を生み、時には人生の時間を無駄にするという2つの側面があると思います。

前者の例はスポーツの練習にハマりプロの選手にまでなること、後者の例はゲームに熱中し宿題がおろそかになってしまう事などが当てはまると思います。

しかし、この時「飽きる」という防御反応は作動していないという事になります。

それほどにドーパミン神経系の力は強く、脳を麻痺させてしまうということの現れではないかと私は思うのです。

「飽きる」という能力はヒトの身体の初期設定として備わっている能力ですが、

残念ながらその善悪までも選別できる優れたシステムではないようです。

今ハマっている事が飽きずにできているという時に、それが良い事なのか、悪い事なのかは、

冷静な判断力を持った自分の前頭葉を中心にして、自分の頭で考えていくしかなさそうです。

そのためにはドーパミンを無駄に使う事は控えるべきでしょうね。

糖質を避けたり、ストレスを避けたり、喫煙・飲酒と適切に距離をおいたりする事が、

そうする事につながるのではないかという気がいたします。


たがしゅう
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No title

たがしゅうさん

橋元淳一郎と言う(SF作家、物理科学者、教育者)方の主張では時間は人間の主観であって実在していないのだそうです。楽しい時間は一瞬で過ぎて、退屈かつ疲れてくると長く感じるというのはドーパミン神経系がこの時間の感覚に関連しているのかな、という気がします。
またスポーツをやっていると物凄く研ぎ澄まされた感覚を味わえますよね。英語でZONEと言うそうですが、神がかりというか何をやってもうまく行く時ですね。これなんかも本人の中では常人の数倍時間を引き延ばした感覚を味わっているのではないかと思います。

Re: No title

SLEEP さん

情報を頂き有難うございます。

「時間は自分で作るもの」とも言いますね。考え方次第で如何様にもできそうです。

No title

たがしゅう先生。毎日、ブログ楽しみにしています。
今回の「飽きる」で、以前バイク屋の店長から聞いた話を思い出しました。
店長曰く「人は飽きるから進歩するんですよ」。
新車が出ても見向きもせず、ひたすら古いバイクに乗り続けている私へのイヤミかとも思いましたが(笑)
実際、現状に飽きて新しいことに挑戦して、人間は進歩してきたのかもしれませんね

Re: No title

かんな さん

 コメント頂き有難うございます。

> 「人は飽きるから進歩するんですよ」

 まさにその通りですね。

 価値あるものに「ハマり」つつも、適切に「飽きて」様々な可能性を模索していくのが理想ではないかと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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