サイアミディン

治らないという前提に抗う

先日、緩和ケアの勉強会に参加してきました。

緩和ケアというのは、がんの分野でよく知られていますが、

末期がんなど根治不能になった病気の為に耐え難い痛みや呼吸苦などの症状に悩まされる状況になった時に、

せめてその苦しみをできるだけ取り除こうとするアプローチの事です。

主にモルヒネなどの医療用麻薬が用いられたり、酸素療法を行ったり、心理的なアプローチもしばしば組み合わされて、総合的に患者さんの苦しみを取り除こうとします。

近年その考え方はがんだけにとどまらず、神経難病などの非がん性疾患にも応用されつつあります。
今回は特に神経難病の最新の緩和ケア事情について学びましたが、

例えばALSという神経難病の場合は、がんとは違って、胃瘻や人工呼吸器を使えば少なくとも生物学的にはずっと生き続ける事ができます。

ただ身体が何も動かない状況で人工呼吸器で強制的に呼吸をさせられ、胃瘻から栄養を与えられて、

それが本当に生きていると言えるのかという事に関しては考える人の価値観によって異なる部分です。

そのためある程度病状が進んだ時に、人工呼吸器をつけるのか、胃瘻を作るのかという選択を迫られるわけですが、

その決断はとても厳しいものがあります。

少なくとも医学的にどっちが正しいという事は言えませんし、

仮に人工呼吸器をつけないという選択をしていても、いざ病状が進行して症状が耐え難くなった時に、

やっぱり苦しみを取るために人工呼吸器をつけてほしいと心変わりしてしまうかもしれません。

その時に、人工呼吸器をつけないという初志を貫徹するために緩和ケアのアプローチが重要になってくるというはなしです。

しかし一方で人工呼吸器をつけない事で家族はどう思うのか、保険などの経済的な問題、

あるいは意思表示できなくなったステージに入っても、元気だった頃の本人の事前意思はそのまま有効だと考えていいのか、などの倫理的な問題など、

非常に複雑な問題と向き合わなければなりません。

その勉強会においてもこれといった絶対的な方法があるのではなく、

様々な立場のスタッフ、本人、家族で問題を共有してその時におけるベストを模索していくしかないという事を学びました。


ただ、こうした問題は病気が治らない事を前提にした話です。

「確かに今の医学ではこの病気は治せない。けれど私達はあなたをサポートし続けますよ」とそのように言うのですが、

聞こえのいい言葉に聞こえるかもしれませんが、

いくら取り繕っても、当事者にとってはやはり絶望的なメッセージだと思うのです。

治らないという前提に立てばこうするしかないのかもしれませんが、

もしその前提が崩れ、治すことができるようになれば一気に状況は好転します。

糖質制限にそのヒントは隠されていると私は感じています。

治らない前提に安穏とせず、治る可能性をどこまでも追い求めていきたいと思います。


たがしゅう


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神経変性疾患・難病は増加傾向

たがしゅう先生
神経変性疾患・難病は急速な高齢化に比例して増加しているようですね。20年前は稀にしか見ることがなかった難病もよくみかけるようになりました。それゆえ神経変性疾患の緩和ケアこそが今後は必要とされます。仰るとおりです。
北欧などは高齢者には延命的医療処置は一切しないです。また米国などは安楽死薬は保険適応で医者が処方可能です。安楽死薬の内服に関しては患者自身の自己責任です。胃瘻や気管切開をする是非で苦悩している日本は諸外国から見るとかなり異質なのではないでしょうか?
医療費を大幅に削減したい財務省や現政権の方向性としてはTPP解禁・米国流追従・保険医療の大幅な縮小化しかないと思われます。国民の反発なくそれを粛々と遂行していくのではないかと思われます。現状の保険医療の逼迫状況や急速な高齢化を考えれば胃瘻や気管切開・人工呼吸などの高齢者に対する濃厚医療は保険医療的にターゲットにされやすいのではないかと推測しています。濃厚医療が可能な受け皿を限られていますしね。
これはかなり現実的でシビアな見解ではありますが。


Re: 神経変性疾患・難病は増加傾向

アンチスタチン主義 さん

コメント頂き有難うございます。

> 胃瘻や気管切開をする是非で苦悩している日本は諸外国から見るとかなり異質なのではないでしょうか?

そうですね。

昔は家族に見守られながら自宅で亡くなられるというのが一般的でしたが、

今は病院で亡くなるのが当たり前の時代です。その事が家族から死を受容する準備機会を奪い、

その結果、死と向き合えない家族は多くの場合、延命行為を選択してしまうのだと思います。高齢者であれば私の中での答えは出ています。

一方で若くして神経難病にかかった方の場合は、同じような状況でもその判断はさらに複雑になります。

そのような状況で「死を受容せよ」と言われても、おそらくは厳しいものがあります。当事者にしかわからない苦悩があると思います。

そうですね

濃厚医療を希望する患者は在宅介護ノルマとか保険外にでもしないと入院ベッドも国庫も医療スタッフもとてもじゃないけど足りないですからね。
仰るように若い患者と高齢者では違うとは思いますが、米国では脳腫瘍で安楽死を選んだ若い女性が話題になりましたが、保険医療システムや人の考え方がかなり違うのでしょうね。
日本は恵まれすぎている?と言うよりは、保険医療であまりにも無理しすぎているという見方も今後は出てくるでしょう。無い袖は振れないので。

「健康第一」は間違っている ?

いつもありがとうございます。

良医の名郷医師の本を見つけました。
関連ありそうなので読んでみようと思っています。

http://www.amazon.co.jp/dp/4480016058/ref=wl_it_dp_o_pC_nS_ttl?_encoding=UTF8&colid=2JKKDEIJPVJ55&coliid=I35B91IR52DWV

ただ糖質制限からの視点はおそらくないでしょう。

Re: 「健康第一」は間違っている ?

f さん
 
 情報を頂き有難うございます。

> ただ糖質制限からの視点はおそらくないでしょう。

 たとえ糖質制限からの視点で書かれていなくとも、

 読者が糖質制限の視点を持ってさえいれば、こうした本は大いに参考になると思います。

No title

先生はじめまして。

私自身、糖質制限を実施(2012年~)してましてまた進行性核上性麻痺パーキソニズムの診断を受けた父がいるものです。

今回の内容がとても共感できたので思わずコメントしてしまいました。

神経内科の病気をもつ本人やその家族は病状が進むにつれこれらのことをことを考え選択していかなければなりません。

現在父は嚥下状態が悪く、そう遠くない将来に胃瘻等の選択を考えなくてはならないとおもいます。

その時に癌のように緩和ケアの選択があれば…と思っていたのですが今回先生が記事にして下さってそういう考えができつつあることを知ることができました。感謝です。

ただやはりこれは院内の勉強会でのことで現実的には実施はされてないのでしょうか。

実は私自身、看護師でもありまして勤めているのが福祉(デイサービス)なのでこのような情報が入ってきずらいのもあるのですが以前見てもらっていた総合病院の主治医や現在の主治医からも聞いたことがないのです。

しかし神経変性疾患の患者は本当に増加の一途ですね。
デイサービスでみていても一割強くらいはいらっしゃります。

どの病気もそうですが神経内科の病気ほど生活の質を落とす病気はないと思います。

確立した治療方法がない疾患に糖質制限をもって挑んでいる先生のブログに勉強させていただいてます。

これからもブログ楽しみにしてます。

乱文失礼しました。

Re: No title

なっぱ さん

 コメント及び御質問頂き有難うございます。

> ただやはりこれは院内の勉強会でのことで現実的には実施はされてないのでしょうか。

 私が参加したのは院内の勉強会ではなく、「神経難病緩和ケア研修研究会」というところの全国の医療関係者向けの研修会でした。

 参加者は医師が多数派でしたが、看護師や理学療法士、ソーシャルワーカーなどのコメディカルスタッフの方々も参加されていました。

 1泊2日の濃密スケジュールで、毎年開催されているそうです。主催の先生方は今後会のノウハウをパッケージ化して各地方に広げていきたいともおっしゃっていました。

ありがとうございます

早々にご回答いただきありがとうございます。

「神経難病緩和ケア研修研究会」さっそくググりました。案内を確認しましたがとても興味深い内容ですね。

自分自身も望めばこのような機会に勉強できるということがわかり勇気を出して書き込みしてよかったです。

ありがとうごさいました。


プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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