サイアミディン

どこまで妥協できるか

私は大学病院という大組織に所属する医師です。

組織に属している以上、ルールというものがあります。

その組織の方向性と、自分のやりたい事の方向性が合っている場合は何も問題ないのですが、

現実にはそうでない事の方が多いはずです。

こういう時の立ち振る舞いは常に悩ましいもので、

仮に自分のやり方の方が正しいと確信していたとしても、

そこで我を通す事が必ずしもよい結果をもたらすとは限らないのです。

こういう場合はどこに妥協点をおくかというのが重要です。
例えば、先日紹介した尿路感染症の症例に関して言えば、

泌尿器科に任せるより自分が入院の主治医になってそのまま診るという選択肢もあったかもしれません。

しかし私は神経内科に所属する医師です。

入院させると他の神経内科医の目に触れ、当然ながら「なぜ神経内科に関係のない疾患で入院させたのか」という話になります。

たとえば「自分が責任を持って診れると思ったから」と主張したとして、仮にその主張が受け入れられたとしても、

患者さんは専門医に診てもらっていない事を不信に思うかもしれません。泌尿器科との軋轢も生まれます。

私が我を通す事によって、たとえその内容が正しかったとしても周囲に不安を生み出す結果につながってしまうかもしれないのです。


今回泌尿器科の対応に不満を感じながらも、

泌尿器科に治療を任せたのは私なりの妥協点でした。

過剰治療であっても、治癒に導かれる見通しが立っていたからです。

ただもしこれが治癒につながらない治療であった場合は、意地でも自分で診ていたかもしれません。

専門医に限ってそんな事があるものか、と思われるかもしれませんが、

たとえば褥瘡に関して言えば、十分にありうる話です。ゆめゆめ専門医を盲信してはいけないのです。

あるいはもし患者が家族や大事な人であったらどうでしょうか。

どんな患者であっても平等に対応するのは医師の基本原則ではありますが、それ以前に医師も人間です。

このような絶対ここだと決まっているわけではない妥協点探しにおいては、私情が挟まる余地が出てきます。

家族であっても他の患者さんと全く同じような対応ができるか、正直私は自信がありません。


このように自分の中の理想と、社会のルールを照らし合わせて、

その時々で悩みながら妥協点を探す作業を繰り返し続けています。

それでは組織から離れればそういう悩みがなくなるかと言えば、おそらくそんなことはないと思います。

生きている限り人は人と関わり、何らかのルールに基づいて行動します。

そうした社会的な関わりがある以上、どこかで妥協するという選択をするしかないのかもしれませんが、

たとえ制限のある中でも、できるだけ理想に近い選択肢を選び続けたいと思います。


たがしゅう
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No title

たがしゅう先生

社会でも家庭ででも場合によっては趣味の世界でもヒトとヒトがかかわる時には妥協が必要だと感じています。40代になった今だから思えるのです。

若い頃は正論を押し通しヒトの気持ちを考える余裕がありませんでした。職場でも押し通すので多くのヒトに不快な思いをさせてきたような気がします。

糖質制限を続けると性格が穏やかになっていく事を感じます。ですから「妥協」する事が苦になりません。どんどんヒトと調和できるようになっていくことを実感します。これは糖質制限で夜ぐっすり眠れるようになってからの性格変化であると気づきました。

くんだみえ

Re: No title

栗田(くんだ)さん

 コメント頂き有難うございます。

 御指摘のように糖質制限をする事によって心に余裕が生まれますね。

 腹の立つ出来事は依然として起こりますが、起こってもそれに対する自分のアウトプットが変わってきている事を感じます。

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大学病院は

たがしゅう先生
私の場合は、研修医の最初の1年で大学病院の診療科間の壁の高さや制限の多さに嫌気がさしたので、それ以後は大学以外の病院を転々として臨床経験を積みました
民間病院では合併症としての肺炎とか尿路感染症を他科にコンタルトした記憶がなく(そもそも泌尿器科は非常勤しかいない病院もあった)といった所でしょうか?
大学病院はコメディカルの柔軟性も乏しく、診療以外の雑用やストレスも多いうえに、common diseaseの臨床経験も限られてしまうという印象です。
大学病院以外では1人だけで入院患者20人くらいは余裕で診れますが、大学病院だと1人の患者に3人くらい主治医がつく感じですかね?
まあ20年前と現在では違うのかもしれませんが。
大学病院から民間病院に移ると何もかもが違いすぎてカルチャーショックでした。




Re: 大学病院は

ホワイトジャック さん

 コメント頂き有難うございます。

 私にも大学病院、民間病院と両方の診療経験がありますが、どちらも一長一短あると思っています。

 満遍なくいろいろな経験をしておくのがバランスがとれてよいのではないかと個人的には思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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