サイアミディン

リン不足の原因はリン摂取不足ではない

本日はリンというミネラルについて考えてみたいと思います。

リンは医療現場では比較的関心が払われにくいミネラルですが、実は重要な役割を果たしています。

まずリンはカルシウムに次いで私たちの体内に多く含まれるミネラルです。

その主な働きとしては「①骨や歯を作る」「②エネルギー代謝に働く」「③その他」が挙げられます。

①の骨や歯と言えばカルシウムのイメージがあると思いますが、

カルシウムとリンは結合してハイドロキシアパタイトという形で存在し、ここに全リン中の約85%が存在していると言われています。

またエネルギーの通貨と称される「ATP」の「P」は「Phosphorus」、すなわち「リン」の事です。

すなわちエネルギーを生み出すのにリンは必須の存在で、まさに縁の下の力持ちと言えるかもしれません。
「③その他」の役割としては、細胞膜の構成成分である「リン脂質」を形作るわけですし、

その事はひいては神経機能にも関与しますし、遺伝をつかさどるDNAなどの核酸の構成成分でもありますし、

さらには浸透圧やpHの調節など生理機能の維持に働いてくれています。

そんな重要なリンですが、先日紹介したリフィーディング症候群の話を紹介したときに、

「低リン血症や低カリウム血症、低マグネシウム血症といった血液中のミネラル不足がリフィーディング症候群発症の危険因子となる」という話があったと思います。

そうなるとリンが欠乏するというのはよほどの低栄養状態ではないかという印象を受けますが、

はたしてリンはどんな時に欠乏するのでしょうか。

そう思って栄養の本を紐解いて、まずリンがどんな食品に多く含まれるのかを確認してみます。



するとリンが多い食品として、魚類、肉類、玄米ごはん、牛乳が書かれていました。

ただ食品に広く含まれているため、リンの欠乏によって健康障害が起こることはまずない、とも書かれていました。

その理由としては、先程も述べたように全体のリンの85%は骨や歯に蓄えられていますが、

残り14~15%は細胞内に存在しており、血液の中には全体のなんと1%未満しかリンは存在していません。

血液検査で測る事のできるリンはその1%未満の部分ですから、「血液に存在するリン以上に骨、細胞内には膨大なリンのタンクが存在している」という事になります。

これならそう簡単にはリン欠乏に陥らないという事もうなづけますよね。

しかも、リンの調節には、「副甲状腺」という甲状腺の四隅にそれぞれ存在する豆のような臓器が深く関わっています。

副甲状腺

その副甲状腺から出る副甲状腺ホルモン(パラソルモン)が骨からリンを放出させます。

さらには腸管からのリンの吸収を増やしたり、一方で尿中からのリンの再吸収を抑制したりして微調整します。

加えて最近は、骨細胞に発現するリン代謝調節因子(PHEX、FGF23、DMP1など)によってもリンは調節されている事もわかってきています。

とにかくよほどの事がない限り、リンは欠乏せず常に一定の値に保たれるようなシステムが生体には備わっているのです。

では、その「よほどの事」とは一体なんでしょうか。

それを考える上で、「リフィーディング症候群の危険因子が低リン血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症」という事実がヒントになります。

すなわち、リンだけが欠乏しているのではなく、カリウム、マグネシウムも同時に欠乏しているという状況です。

これら3つのミネラルに共通する特徴は、「インスリンの働きによって細胞内に取り込まれる」ということです。

リフィーディング症候群がそうであったように、長期絶食後にいきなり糖質を摂取させて大量のインスリンを分泌させてしまうと、

血清にある1%未満のリンは細胞内に取り込まれ、あっという間にリン欠乏に陥ります。

つまり「そこに山のようなリンのリン貯蔵タンクがあるにも関わらず、インスリンのせいで使えない」という状況に追い込まれてしまっているのです。

そしてインスリンは同時にカリウム、マグネシウムも細胞内に取り込むので、血液中のカリウム欠乏、マグネシウム欠乏も同時に起こるのも理解できます。

逆に言えば、リン、カリウム、マグネシウムが同時に欠乏していれば、インスリンがドバっと出ている状況を真っ先に考えるべきだと言えるかもしれません。



リンが欠乏と聞くと、「食事中のリンが足りないのだろう」とついつい考えがちですが、

リンに関して言えばその発想はナンセンスで、本質的な原因はインスリンによってもたらされた代謝障害にあるという事がわかると思います。

リンについてはまだまだ深いので後日もう少し考えてみたいと思います。


たがしゅう
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インスリン恐るべし

 いつもありがとうございます。
インスリンって何者なんんだ?と
先生の記事といい、今日見たテレビといい・・

きっと生きていくためにインスリンは懸命に働いているんでしょうねぇ・・

今日テレビでPET-CTを見ました
ガンも炎症もブドウ糖がお好きみたいで
それを利用しての検査だとか・・

ということは糖質はガンのごはん?
糖質を多く摂るとガンは成長する?
インスリンがせっせと細胞に送るのか?

よくわかりませんが糖質怖いです。

そして検査につかわれるブドウ糖?インスリンを出すくらいの量をつかうのかなぁ・・
そんなにたくさん糖を摂ったら体がびっくりして検査どころじゃなかったりして・・
といらぬ心配をしております。

よく味覚障害に昔なってましたがこれも糖質が関係してたんですね・・

先生の記事でもっともっと糖質の悪事を知りたい私です。

Re: インスリン恐るべし

あーちゃん さん

 コメント頂き有難うございます。

 インスリンはたくさん出ると有害となりますが、ゼロであっても生きていく事ができなくなります。

 多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ、ちょうどいい所が一番だと思います。

リン不足

突然の書き込みすみません。
リン不足で辿り着きました。

人間でなく愛犬(14歳)の話で申し訳ないのですが
昨年の9月に麻酔が原因で急性腎不全になり2週間入院しました。
BUN、クレアチニン、リン 全て測定不能でした。

10月から炭酸カルシウムがリンと吸着して排出するという仕組みの「カリナール1」というサプリとBUNを下げる効果のある「カリナール2」を摂取しています。
年末の血液検査では、病気になる前のリンの数値より低くなりました。正常値の低値よりあたり。
退院時は足を使っていなかったので、よろよろしていましたが足を使うようになってから、だんだん元通りになりましたが、1ヶ月前位前から、急激に四肢が衰えてきました。
後足の筋肉が小さくなった気がします。

リン不足は筋力低下につながりますか?
ご迷惑でなければ、教えて下さい。よろしくお願いします。

Re: リン不足

もこもこ さん

御質問頂き有難うございます。

獣医師ではないので詳しくはないですが、汎動物学を勉強し始めた立場として「おそらくヒトもイヌも共通構造は同じであろう」という仮定の下でお答えします。

基準を下回る重度の慢性リン欠乏が続けば、筋力低下や食欲不振、骨軟化症につながる事はあるようです。
ただし一般的には無症状である事が多く、リン欠乏の背景には他のミネラル不足(カリウム、マグネシウムなど)や何らかの代謝異常が並存している事も多いですので、リン欠乏は症状の原因となる可能性の一つという理解に留めておくのが無難ではないかと思います。

Re: リン不足

早々のご返答ありがとうございます。
もしかしたら、他の栄養素も吸着されているのかもしれません。摂取量を減らして様子を見たいと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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