インスリンで治しているつもりの医療者達
腎障害を伴う糖尿病患者さんを診る時は特に気を遣います。
糖尿病が進行すると、合併症としての糖尿病性腎症が顕在化してくる事があります。
その進行度がある程度重症(糖尿病性腎症4期以上)の場合は、単純に糖質制限指導をするだけではなく、
それに加えてタンパク質制限も加えていく必要があるからです。
しかも私だけが主治医であればまだしも、
そういう場合の多くは糖尿病専門医が糖尿病の管理をしていて、
脳の病気のフォローのためたまに私の外来に来ているというケースが多いのです。
どうしたら良いかということで私が相談を受けました。
なぜ非糖尿病専門医の私に相談されるかと言いますと、
糖尿病専門医に相談しても「どうしようもない」と言われるだけ、だからだそうです。
そしてこの患者さんは当たり前のようにインスリン治療(超速効型インスリン朝食直前2単位、昼食直前4単位、夕食直前3単位)を受けておられます。
この方のHbA1cは6.1%(NGSP)なので、私にしてみればこのインスリン自体が不要であるように思えます。
一方インスリン使用下での糖質制限指導は常に低血糖のリスクを抱えることになるので非常に困難を極めます。
無理解な糖尿病専門医の話は今に始まった話ではありません。この状況において私の指導は、
「低血糖症状に注意しながら、米の量をほんのすこしだけ減らして、血糖値が改善したらインスリンを減らしてもらうように主治医の先生に相談しましょう」
とアドバイスするのが関の山でした。
しかしそうする事によって蛋白質は相対的に増加します。
通常はその事はスルーできますが、このような腎機能が悪い状況においてはその事ですら病状の悪化に寄与してしまう可能性を指摘できません。
しかも、この患者さんの場合、すでに栄養士により腎不全食の指導を受けている状況でした。
腎臓に対して自分の指導と栄養士の指導内容が食い違っても患者さんを混乱させる事になってしまうので、
一応どんな栄養指導を受けたのか確認しようとしたところ、患者さんから驚きの返事が返ってきました。
「糖尿病の方はインスリンでやっつける事ができるから気にしなくて、腎臓の事だけ気にしていればいいですよって言われました。」
はっきり言ってとんでもない指導です。
糖尿病が悪化しているが故に腎臓が悪くなっているというのに、
糖尿病の方を放置するとは言語道断だと思います。
また「インスリンでやっつける」という表現も曲者です。
これは医師、栄養士がインスリンを使って血糖値を下げてさえいれば、
糖尿病の治療はうまく行っているという認識を持っている証拠だと思いますが、
実際のところそれでは何一つうまく行っていません。
なぜならば、インスリンを用いる事で低血糖のリスクを生じ、
24時間監視しているわけではない医師や栄養士の知らないところで軽い低血糖を繰り返している可能性がありますし、
インスリンを必要以上に用いる事自体が酸化ストレスを生じ、動脈硬化やがんのリスクを高めているからです。
栄養の専門家たるものが、このようなお粗末な認識であるのが偽らざる今の現状だという事なのです。
ここまで根本的に間違った指導を行っているとは、怒りを通り越して呆れ返るばかりです。
またここまでこじれてしまうと、私の立場ではもはや軌道修正は困難です。
どうしてこんなおかしな治療が世の中でまかり通ってしまうのか。
一刻も早く、できるだけ多くの人にこのおかしさに気がついてもらう必要があると思います。
たがしゅう