サイアミディン

「最後の砦」が「最後の試練」にならないように

先日救急当番医の係をしていた時に、

集中治療室で意識障害を起こしている患者さんの往診を頼まれました。

当院では集中治療室に入るような重症患者さんは、

主たる診療科だけでなく、全身管理のプロフェッショナルに当たる麻酔科医によるサポートもありながら診療が行われます。

私が往診したのはインフルエンザ後の肺炎球菌性肺炎で、

重症化して人工呼吸器が装着されている60代男性の患者さんでした。
集中治療室は言わば医療における「最後の砦」です。

昇圧剤、循環作動薬、鎮静剤、血液凝固異常改善剤、輸血など全身管理の知識に長けた麻酔科医が、

生命の危機に瀕する患者さんを力の限り救おうと努力されています。

そういう風に思っていたのですが、

その患者さんに対する治療を見た時に私は愕然としました。

その患者さんは糖尿病をお持ちの方だったようですが、

高カロリー輸液とともに、持続的に大量のインスリンが投与され続けていたのです。

さらに血液中のナトリウム濃度が著明に上がり、それに対してナトリウムの入っていない輸液をひたすら投与され続けていたのです。

後半のナトリウムの話は、一般の方にとっては何がいけないのかよくわからない話だと思いますが、実はこの対応は大いに問題のあるマネジメントです。

その理由についてはやや難しい話になるので、いずれ別記事で触れるとして、

前半の「高カロリー輸液」+「持続インスリン点滴」の問題点はわかって頂けるのではないかと思います。

なぜならば、高カロリー輸液はたいていの場合、高糖質だからです。

逆に言えば、高糖質の高カロリー輸液を選んでいるからこそ、インスリンを持続的に使わなければならない状況に追い込まれている、とも言えます。

まさにマッチポンプ、患者さんにとっては自業自得ならぬ、他業他得とでも申しましょうか。

最後の砦どころか、「最後の試練」を与えられているようなものです。

自分で血糖値の上昇を起こしなおかつインスリンを注ぎ込む状況は、言うなれば代謝の嵐の状況です。

いろいろな要因があるでしょうが、私はその代謝障害が高ナトリウム血症の大きな要因になっていると考えます。


麻酔科医と言えば昔は憧れの存在でした。

しかし糖質制限の観点がなければ、そんなすごそうに見える医者であっても、

実はとんでもない治療をしてしまっている事があるのだという事を学びました。

さらにややこしいのは、上記の見解を麻酔科医に伝えたところで、

おそらくその麻酔科医は納得しないであろうという事です。

私なら高カロリー輸液の糖質量を極力減らし、脂肪製剤やアミノ酸輸液を駆使しての全身管理を試みますが、

それを上申したところで私よりも相当ベテランの麻酔科医が受け入れるはずもなく、ただ単に角が立ち患者さんの益にもならないであろうと思います。

非常にもどかしい思いですが、ここは一歩引くしかありません。

やはり私が今できるのは、目の前の自分の患者さんに正しい情報を伝え続ける事だと思います。


たがしゅう
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日本における臨床教育の乏しさ

まず意識がなくて動けない重症患者に高糖質カロリー輸液がなぜ行われているのか理解に苦しみます。ビタミンやミネラルを補うのは理解できるのですが、重症感染症で高血糖になっている患者だと短期的には高カロリーでなくてもいいはず。高糖質輸液を実施しながらインスリン大量なんてマッチポンプの極みですね。重症感染症で瀕死状態の患者に人工的代謝ストレスを与えていたら、治る病気も治るわけないですね。抗生物質の使い方を含めて薬の副作用や使い方すら知らない外科医も少なくないですけどね。臨床教育の根源的な問題を感じます。

悲しい現実 しかし一歩ずつ

たがしゅう先生こんばんは

今日のエントリーを見て、先生の仕事の大変さや、最新の知識があるが故の苦しい状況を垣間見て胸が苦しくなりました。

でも、このブログの読者の皆さんは、たがしゅう先生のことを応援し信頼している人達です。
一歩一歩地道に積み重ねていきましょう。

カードを持ち歩く

 例えば、いつ交通事故などにあうか分かりません。

 私たちとしては、自分を守るために(高糖質の輸液を点滴されないように)、

『私は糖尿病なので、血糖値の上がる高カロリー輸液の糖質量を極力減らし、脂肪製剤やアミノ酸輸液を使ってください』と書いたカードを血液型などと一緒に持ち歩き、家族にも説明しておくしかありませんね・・・

 患者の意思ということで・・・

それが現実・・・

マッチポンプでは何の効果もなく、回復を遅らせると分かっているのに止めさせられないもどかしさ・・・医原病。患者がかわいそうです。当院にもそのような患者が多くいます。

Re: 日本における臨床教育の乏しさ

ホワイトジャック さん

 コメント頂き有難うございます。

 医療の最前線を走っていると思われる人でもこういう事を知らないのが実情なわけですから、

 医療はイチからやり直しだ!と心から思いますね。

Re: 悲しい現実 しかし一歩ずつ

きのっぴ さん

 応援コメント頂き有難うございます。

 私にできる事を地道に続けていきたいと思います。今後とも宜しくお願い申し上げます。

Re: カードを持ち歩く

長谷川清久 さん

 コメント頂き有難うございます。

> 『私は糖尿病なので、血糖値の上がる高カロリー輸液の糖質量を極力減らし、脂肪製剤やアミノ酸輸液を使ってください』と書いたカードを血液型などと一緒に持ち歩き、家族にも説明しておくしかありませんね・・・


 アイデアとしては良いと思います。

 問題はその自作のカードを、対応した医師が受け入れるかどうかですね。

 世の中は柔軟ではない医師の方が多数派なので現実的には厳しいところがあるかもしれません。

Re: それが現実・・・

もうあかん さん

 コメント頂き有難うございます。

 今の医療情勢の中では、集中治療室に入るような事態になったら一巻の終わりです。そこで高糖質高カロリー輸液を受ける事はほぼ避けられないと思います。

 まだ糖質制限が普及していない状況では、現実的には各人がそんな事態に陷らないように自衛していくしかないと思います。

岡山大学の報告

Ketogenic diet therapy is effective in encephalitis with refractory seizures

http://www.maneyonline.com/doi/abs/10.1179/1743132814Y.0000000371?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%3dpubmed#editorial

 ウイルス脳炎の患者にプロポフォール投与等の手段でケトン食療法を行い劇的に改善しました。

 プロポフォールはおそらく集中治療室で投与されたと思います。東京女子医大で何かと有名になったプロポフォールですが、こういった使われ方なら歓迎です

Re: 岡山大学の報告

精神科医師A 先生

 情報を頂き有難うございます。

 私と同じ、神経内科の先生の御報告のようですね。興味深いです。早速読んでみたいと思います。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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