うつ病と認知症の関係
特に高齢者においてはその傾向が強くみられており、一般的にはうつは認知症(特にアルツハイマー型認知症)の前駆状態としても捉えられています。
また、うつも認知症もともに高齢者に多くみられます。65歳以上において抑うつ症状は約30%、認知症は約15%にみられると言われています。
これらは高血圧、糖尿病をはじめとした生活習慣病が近年増加してきていることとリンクしている現象に思えます。
そしてうつと認知症は併存しやすいという特徴もあります。
今日はなぜうつと認知症の間に密接な関連があるのかについて考えてみたいと思います。
よく言われる「うつ病でセロトニンが低下」、「認知症でアセチルコリンが低下」といった神経伝達物質のバランス問題は、一つの現象を説明しているに過ぎず、本当の原因はまだわからずじまいなのです。
しかし一つ注目されている事象があります。
それは「アミロイドベータ(※以下、Aβ)」と呼ばれる変性した異常蛋白の存在です。
認知症の原因となる病気の中で最も頻度の多い「アルツハイマー型認知症(※以下、AD)」という病気は、このAβが脳内の記憶に関連する領域を中心に蓄積していくという現象が明らかになっています。
一方、うつに関しても「うつとAβの量に相関があるのではないか」ということが複数の臨床研究で示されてきています。
それは本当だろうかと確かめようとしている研究があったのでそれを紹介致します。
Direk N, et al. Plasma amyloid β, depression, and dementia in community-dwelling elderly. J Psychiatr Res. 2013 Apr;47(4):479-85.
血漿Aβ濃度はADのリスク増大と関連がある。
我々は縦断的にうつとAβ濃度の関係を地域高齢者住民の調査で検討した。
ロッテルダム研究のAβを測定した980人の60歳以上の高齢者住民を対象とした。
うつはCentre for Epidemiological Studies-Depression scaleで11年間繰り返し調べた。
横断研究では認知症がなく、Aβ1-40が高値でうつ傾向がみられた。
この関連はその後の11年で認知症に進展した例にみられた。
縦断研究では認知症がなくAβ1-40やAβ1-42が低値であるとフォロー期間中にうつになりやすい傾向にあった。
これらの結果から横断研究ではAβが高値であれば認知症の前段階としてのうつになりやすく、縦断研究ではAβが低値でうつ状態になっており、うつの疫学はAβでは説明できない結果であった。
ある1時点での状態を評価するのが「横断研究」、それに対して一定の期間をかけて評価した項目がどう推移していくのかを調べていくのが「縦断研究」です。
一般的には縦断研究の方が信頼度が高いとされています。
Aβでうつと認知症の関係を説明しようとすると、普通に考えれば、
正常:Aβ正常
うつ病:Aβ軽く上昇
認知症:Aβ大きく上昇
という結果になると考えると思います。おそらくこの研究者の方々もそういう結果を予想していたでしょう。
しかし、実際は予想に反して、うつの人はむしろAβが低かったというのがこの論文の結果です。
さて、この結果をどう解釈すればよいでいいでしょうか。
こういう時にも事実を元に考えることが大事です。
まずうつ病の人が認知症になりやすいという疫学的な証拠はたくさん集積されてきています。これは事実です。
そしてADの人に脳内Aβが多いということにもほぼ間違いない現象です。
でもうつは必ずしもAβが高くなっていないという事実。
私ならこう考えます。
うつ病はAβを可逆的に除去しうる状態で、認知症はAβを処理しきれず蓄積してしまった状態ではないかと。すなわち、
正常:Aβがたまっていない
うつ病:Aβがたまってきたけど、まだ自分の力で除去できる可逆的な状態
(Aβ上昇もAβ低下も両方ありうる)
認知症:Aβがたまってきて、もはや自分の力では処理しきれなくなった不可逆的な状態(全員Aβ上昇)
実際にはそれぞれの中間の状態などボーダーラインやグレーゾーンが数多く存在していると思います。
そしてAβを除去する人体のシステムの一つとして知られているのが「ネプリライシン」という酵素です。
このネプリライシンはAβを分解する働きとともに、「インスリンを分解する」という役割も持っています。
糖質を取り過ぎてインスリンがたくさん出るとネプリライシンはAβを処理する前に緊急事態である高インスリン血症を抑えるために優先的にインスリンを分解しようとし、その結果Aβの分解が追いつかなくなりAβがたまっていく。
いろいろなことが一本の線につながってきませんか。
そしてAβを作る大元として私は酸化ストレスに注目しています。
酸化ストレスがかかることで蛋白の変性が起こりえます。それによってAβができるのか、それ以外の変性蛋白ができるのかということは個々の体質差があると思いますが、
いずれにしても最上流にある酸化ストレスという現象にアプローチできればそれが根本治療につながるのではないかと考えています。
だから酸化ストレスを減らしAβを蓄積させないようにし、なおかつインスリンの分泌も抑えることができる糖質制限はうつ病にも認知症にも有効であると考えます。
しかも私は、自分自身が糖質制限でうつを克服した経験を実際に持っているので、
うつ病も認知症も糖質制限で改善できるということをかなり強く確信しています。
たがしゅう