サイアミディン

ケトン体がなかなか作れない人

絶食はケトン体を産生させる強力な方法です。

私も以前自分で絶食をしたときに、2日目には尿中ケトン体(3+)になる事を確認しました。

ただ、糖質制限を通じていろいろな患者さんを眺めていると、

どうやらケトン体の産生されやすさには個人差があるようです。

つまり、同じ絶食をしても2日でケトン体が産生される人と、5日もかかってようやくケトン体が産生される人などと、

いろいろなパターンがあるということがわかってきます。
先日は高齢のパーキンソン病患者でほぼ寝たきりの状態となった80代女性の患者さんが、

意識障害をきたした状態で救急搬送されたのを私が入院主治医として診ることになりました。

皮膚は乾燥し、舌の水分もカラカラ、血液検査では高ナトリウム血症や血中尿素窒素とクレアチニン比の上昇など、高度の脱水を示唆する状況でした。

この状況では、ごはんを食べることもままなりなせん。

治療としては何はともあれ脱水を治すために点滴を行うことです。そうすればナトリウムを正常化していき、おのずと意識も改善してきます。

すなわち、「意識が戻るまでは絶食点滴」という治療方針だというわけです。

もちろん意識が戻れば速やかに経口での食事を再開することが前提の上での話です。

私はこの患者さんに与える糖質を最小限に絞りつつ、水分をゆっくり補正していくよう点滴メニューを組み、

意識が改善するまでの絶食期間、この患者さんの尿をよく観察する事にしました。

しかし3日経っても、4日経っても、この患者さんからは尿中ケトン体の産生が確認できないのです。

一方、この患者さんはかなりやせた体型の方でした。

ケトン体の元は脂質ですから、最初はやせているから蓄えられた脂質が少ないからケトンがでないと思っていました。

ただこの方の中性脂肪は基準値より高く、コレステロールも極端に低いような事はありませんでした。

つまりそこに材料があるにも関わらず、なおかつ絶食という強力なケトン体産生刺激を与えているにも関わらず、

それでもケトン体はなかなか産生されないのです。一体なぜでしょうか。


ここから先は完全に私の推論です。

謎を解くヒントは、この患者さんがやせている事以外にパーキンソン病である事だと私は考えます。

私の神経内科医としての経験では、純粋なパーキンソン病の人は全体的にやせている人が多いような気がしています。

太れる人は太ることによって糖質の害から身を守るという側面がありますが、

太ろうにも太る素質のない人が、糖質頻回過剰摂取の害を受け続けると、

太れない代わりにアレルギーや自己免疫疾患、神経変性疾患などいわゆる治療困難な病態につながる印象があります。

思うにそれは、糖質過剰摂取によって生じた酸化ストレスを、

処理するシステムのキャパシティが小さく、処理しきれない酸化ストレスが免疫異常や神経変性といった不可逆的な病態へとつながっていくためではないかと私は思うわけです。

そういった不可逆的な現象が、ケトン体を産生するという経路にもある程度及んでしまうと、

その状態から絶食をしようが、中鎖脂肪酸を使用しようが、酪酸菌を使おうが、

ケトンを生み出す代謝経路そのものが不可逆的な損傷をきたしているがゆえに、なかなかケトン体を十分に産生させる事がしにくいのかもしれません。

それでも不可逆的な変化が100%でなければ、

多少が時間がかかってでもケトン体はゆっくりと産生されてくるはずです。

それがケトン体の出やすさ、出にくさの個人差につながってくるのではないかと私は推察しています。


ケトン体が急に増えすぎて問題となる病態としては、アセトン血性嘔吐症色素性痒疹などがありますが、

それとは逆で、このようにケトン体がなかなか増えないという病態も世の中にはあるということです。

そしてそれはその方がそれまでの人生で酸化ストレスを受け続け、不可逆的なダメージを蓄積してきたという事を意味しているように思えます。

これらの病態に対しては、いきなり糖質制限よりも徐々に慣らしていく糖質制限の方がより好ましいのかもしれません。

引き続き注意深く観察していきたいと思います。


たがしゅう
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No title

たがしゅう先生、こんにちは。
いつも初心者にも分かりすく書いて下さってありがとうございます!

質問なのですが、糖質制限や絶食で「皮下脂肪を減らす」ことは難しいのでしょうか?

私は糖質制限で10kg程減量し(今は緩めて、プチ~スタンダードくらい^^;)、中性脂肪は基準低値になったのですが、皮下脂肪は減りません。運動(筋トレ・有酸素)しているのに、です。

今度4泊5日断食道場に行く予定なんですね。
断食で落ちるのは「脂肪⇒筋肉」と分かってはいるのですが、ここでいう脂肪って、中性脂肪のことで皮下脂肪は落ちないのでしょうか?

皮下脂肪燃焼より筋肉燃焼の方が早くて体脂肪率上がったら嫌だなぁと思ったり・・・(^^;)
ご教示頂けたら嬉しいです。

PDの母は

たがしゅう先生

私のPDの母ですが、昨年末から熱が出てなかなか良くならないということで、グループホームから町の医院へ入院となりました。
もう10日以上になりますが、まだ良くならないそうです。。。
食も摂れないようですので、恐らく糖質まみれな状態に置かされてるのかもしれません。
溽創がなかなか治らず、それが影響しているとの見方なようですが、要は詳しく教えてもらえません。
都会では一般的なインフォームドコンセントも、地方の田舎では、信じられないほど遅れているのです。
都会では当たり前の患者の質問も、田舎では即医者への不信感となり、逆らうなら他へ行ってくださいとなります。
ドクターハラスメントの認識もありません。
まさにお医者様は神様なのです。。。

グループホームも全く同じで、どこもそのようなお医者様の系列ですから、
「ご飯(米)は食べさせないで、おかずだけにして下さい」
これだけで施設側としては、面倒な奴だとなってしまい、
さらに「おやつは与えないで下さい」、「甘い飲み物は与えないで下さい」とお願い事か増えるほどに、ブラック扱いとなってしまうのです。

認知症のグループホームでも、糖質による酸化ストレスの影響など全くもって無知です。
運度量の落ちた老人に、毎日3食を強要し、米は残すな、ヤクルトは腸に良い、おやつをあげないと可哀想だ、少し食べられなくなるとエンシュア、等々。

たがしゅう先生や江部先生、夏井先生のブログを拝見しても、これほどに糖質制限で結果を出している人がいる中で、
ネットで検索したら真実がすぐ分かるこの世の中で、
なぜ医療、介護の世界はこんなにも閉鎖的なのでしょうか。信じられません。

母は身長150台で40kg後半、一見は痩せ型ですが、自分に似て、いや自分が似ているのですが(汗)、脂肪過多なサルコペニアです。
昔気質な父のストレスに耐えての毎日でしたから、基本は酸化ストレスに強いのかもしれません。
しかし例にもれず甘いものには目がありませんでした。
極度の恥ずかしがりで旅行も出来ない人ですし、内向的で食べること意外にストレスを発散することは無かったので、まさに糖質に裏切られた感じです。

まてしてもとりとめの無い文章となってしまい申し訳ございません。


No title

先生こんにちは。
昨日、糖質制限を初めて11日目の尿検査の結果、ケトン体は±でした。こんなものでしょうかね。

また、主治医に糖質制限を理解してもらえないのでは…と心配していましたが、逆に「すごいね、頑張っているね」と褒めてもらい、このまま続けていけることになりました。

良かったです。

Re: No title

プランタン さん

 コメント頂き有難うございます。

> 質問なのですが、糖質制限や絶食で「皮下脂肪を減らす」ことは難しいのでしょうか?

 そんな事はございません。皮下脂肪減らす事は十分可能です。

 ただ私もそうなのですが、中には糖質制限だけでは脂肪が下げきれない体質の人がいるというのも事実です。

 脂肪を減らすためには糖質を減らす事に加え、インスリンを必要最小限にしておく事が重要なわけですが、

 実は糖質だけでなく、蛋白質摂取でもインスリンは分泌されます。ただしグルカゴンという血糖上昇ホルモンと同時分泌されますので血糖値には反映されにくいわけですが、

 インスリンが分泌されてしまうと、血液中の中性脂肪が蓄積する方向へと代謝がシフトしてしまうので、

 糖質制限でやせきらない人は蛋白質の摂取量にも気を遣う必要があるわけです。

 ただこの蛋白質の量をコントロールするのがなかなか難しいというのが悩ましいところですね。

Re: PDの母は

福助 さん

 コメント頂き有難うございます。

> ネットで検索したら真実がすぐ分かるこの世の中で、
> なぜ医療、介護の世界はこんなにも閉鎖的なのでしょうか。信じられません。


 悲しいかな、今はそれが医療の現状です。

 このままでは決してよろしくないという事はよくわかっています。何とか少しずつでも変えていきたいです。

Re: No title

みさこ さん

 コメント頂き有難うございます。

> 昨日、糖質制限を初めて11日目の尿検査の結果、ケトン体は±でした。こんなものでしょうかね。

 まず糖質制限でのケトン体上昇と、絶食でのケトン体上昇はレベルが全然違います。

 具体的には私の場合は血中総ケトン体は糖質制限中は200~800μmol/L程度ですが、3~8日程度の絶食をすれば6000~10000μmol/L程度まで高まります。

 糖質制限の精度が甘ければ血中総ケトン体の量もおのずと低くなるので、尿中ケトン体がでなくても不思議ではありません。

 しかも、江部先生の御著書やブログでもよく書かれていますが、

 糖質制限中に尿中ケトン体が検出されるのは体質が切り替わるまでの最初の頃の時期だけであって、

 一般的には3~6ヶ月経つと、心筋や骨格筋など体細胞のケトン体利用効率がよくなり、腎臓のケトン体再吸収も向上するので、血中のケトン体が基準値より高値でも尿中や呼気中に排泄されなくなります。

 従って糖質制限では尿中ケトンが現れないからといってあまり心配する事はありません。

 それにしても、主治医の先生が糖質制限を認めて下さるというのは、よかったですね。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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