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「副腎疲労」と糖質制限

「副腎」という臓器があります。

名前は「副腎」ですが、腎臓とはあまり関係なくて、ただ腎臓の近くにちょこんと存在する事からその名がついたとされますが、

実はストレスに対抗するためのストレスホルモンを産生するとっても大切な臓器です。

その「副腎」の働きが低下すると種々のストレスに対抗できなくなり、様々な体調不良の温床となります。

そのような副腎の働きが低下した病態として「副腎疲労」という疾患があります。



今日はこの「副腎疲労」と糖質制限について考えてみます。
「副腎疲労」とは、1990年代に米国の医師ジェームズ・L・ウイルソン氏によって提唱された比較的新しい概念です。

一般的に医師の間では「副腎不全」という病気の存在はよく知られていますが、「副腎疲労」に関して言えば正直知る人ぞ知るという感じではないかと思います。

何を隠そう私自身も1年くらい前までは知らなかった疾患です。上記の本を読んで勉強してみました。

本の中には「副腎疲労」と「副腎不全」の区別について直接書かれた部分はありませんでしたが、

私が思うには、副腎から分泌されるストレスホルモンの最たるものであるコルチゾールの分泌がどれだけ保たれているかという事がポイントではないかと思います。

すなわち、「副腎疲労」は軽度のコルチゾール低下から重度のコルチゾール低下までの幅広い概念ですが、

「副腎不全」というのは重度のコルチゾール低下を指す概念であると私は思います。

通常、私たちが副腎不全と診断を下すためには、血清のコルチゾールが基準値以下に低下していることを示す事が必要です。

重度にコルチゾールが低下していると、好酸球増加といったアレルギー性疾患でもよくみられる血液のデータが現れたり、

同じく副腎から放出されるアルドステロンというホルモンが出なくなり、ナトリウムが下がったり、カリウムが上がるなどのミネラルバランスの乱れも生じてきます。こうした検査所見があれば「副腎不全」の診断は容易です。

ただ近年、コルチゾール値が正常であっても、ストレスがかかった時にコルチゾールの追加分泌ができなくなる「相対的副腎不全」という病態がある事も注目されてきています。

この相対的副腎不全はストレス負荷試験(ACTH負荷試験)というのを行わないと正確には診断できません。

言ってみれば「副腎疲労」という概念は、この「相対的副腎不全」と「(絶対的)副腎不全」の両者を包含した概念ではないかと思うわけです。

そして「副腎疲労」の場合は、血液ではなく唾液中のコルチゾールが低下している事をその診断の根拠とします。

血液中には何とかコルチゾールが保たれているけど、唾液のような末端組織にまでは十分に行き届かないといった程度の副腎機能低下が、

「相対的副腎不全」とか軽度の「副腎疲労」と呼ばれる状態に相当するのではないかと思うわけです。

さて上記の本を書かれた内科医、本間良子先生によれば、「副腎疲労」はさまざまな症状をきたします。例えば、

・朝起きるのがつらい。
・熟睡できず、朝に目が覚めても疲れがとれない
・甘いものや濃いもの(しょっぱいもの)が好き
・エネルギーが不足している感じがする。元気が出ずだるい。
・今までできていた日常的なことをやるのに一苦労する。
・性への興味が低下している。性欲がない。
・ストレスにうまく対処できない。小さなことでもイライラし、人に八つ当たりする。
・風邪や呼吸器の感染症(気管支炎、副鼻腔炎など)にかかってなかなか治らない。ぶつけた傷なども治りにくい。
・ベッドや椅子から立ち上がると、クラクラしたり、目の前が真っ暗(真っ白)になる。
・気持ちが落ち込む。「うつ」っぽい気がする。
・人生に何の意味も見い出せない。楽しいことがない。
・PMS(月経前症候群)が悪化している。
コーヒーやコーラなどカフェインの入った飲み物やチョコレートを口にしないと、やる気が出ない。
・ボーっとする事が多い。集中力が低下した。
・もの忘れをすることが多くなった。昼食に何を食べたか思い出せないなど、記憶力が落ちた気がする。
・食事をスキップするとぐったりしてしまう。
・甘いものを食べると元気になるが、その後だるくなる。
・我慢ができなくなり、急にキレてしまう。
・夕食後の午後6時以降になると少しずつ元気になってくる。


いかがでしょうか。

今掲げた項目が3つ以上当てはまれば、「副腎疲労」の可能性があるそうです。

実に様々な原因不明の病気の一翼を「副腎疲労」が担っているような印象を私は持つわけですが、

中に「甘いものが好き」とか「甘いものを食べると元気になるが、その後だるくなる」といった項目についてみれば、

糖質中毒の状態と非常によく似ています。糖質を摂取し、人為的な血糖上昇をきたし、人によってその後のインスリン大量分泌によって機能性低血糖症をきたす場合があります。

そうするとその低血糖の危機的状況を即座に回避するためにアドレナリン、コルチゾールといったバックアップホルモンを出す必要があり、そのために副腎が刺激されてやがては疲労します。

従ってその原因を取り除く糖質制限は「副腎疲労」の治療に有効であるように思えます。

ところが、上記の本には糖質制限に関しても言及されており、次のような慎重なコメントが書かれています。

(以下、p158より引用)

副腎が弱っている人は低血糖症になりやすいので炭水化物を食べない「糖質カットダイエット」は一見、理にかなっているように見えます。しかし、これには落とし穴があります。

というのは、ひどい生理痛が起こる月経困難症やPMSでも悩んでいる女性は、

炭水化物を完全に除去してしまうと、落ち込みやうつ症状が悪化することがあるからです。

炭水化物には精神の安定に関与するホルモン、セロトニンの分泌を助ける働きがあります。

炭水化物はセロトニンブースターと呼ばれ、炭水化物の摂取で血糖値が上がることにより、セロトニンの分泌が促される仕組みになっているのです。

ですから、アドレナル・ファティーグ(副腎疲労)でかつ、月経困難症やPMSの女性には、炭水化物を少しずつ減らし、

できる限り玄米や果物から摂るようにすること。さらにセロトニンの材料となる、トリプトファンというタンパク質が豊富な肉を食べるようにアドバイスしています。

PMSの人にはタンパク質があまり食べられないという人も多いので、徐々に実践するようにしてください

また、PMSを患っている人に特に多いのですが、

ビタミンB6が欠乏しているために、セロトニンを体内で生産できず不足しているケースがあります。

トリプトファンはビタミンB6がないと体内でセロトニンに変化できないのです。

肉にはB6が多く含まれていますが、さらにサプリメントで補うといいでしょう。

(引用、ここまで)



このコメントには一理あると私は思います。

確かに「副腎疲労」の患者さんは、低血糖時の時に駆動する血糖上昇させるためのバックアップシステムのいくつかが働きにくいですし、

糖質制限で人為的なストレスの部分は避けたとしても、

日常的に受けるそれ以外の様々なストレスには、副腎が回復するまでの間は対抗できません。

そしてPMS(月経前症候群)は以前考察しましたが、ストレスによって分泌されるドーパミンが基本的に枯渇している状況だと考えられるので、

副腎疲労にも増してストレスに対抗しにくい状態にあると分かります。

この状況で糖質制限を一気にすると、うつや落ち込みにつながるというのはさもありなんと思えます。

ただ反論もあります。本間先生は「炭水化物はセロトニンブースター」と表現されていますが、

それは確かにそうなのですが、見方を替えれば「炭水化物はセロトニンを搾り出す強制分泌刺激」、言わば付け焼刃です。

そもそも安易に炭水化物でセロトニンをブーストしていたから、セロトニンの枯渇状態が生み出されたのであって、

玄米や果物で炭水化物を摂るべきという話には私はなりません。

そこは炭水化物の絶対量を徐々に減らしながら、離脱症状に注意しながらセロトニンの材料を補うために肉などをしっかり食べる努力を続けるべきではないかと考えるわけです。

言わば炭水化物は副腎疲労の状況を作り出した最も重要な薬物で、その薬物を一気に断つ事は身体に負担がかかり過ぎるという事であり、

要するに、「副腎疲労」は糖質制限の慎重適応ということです。

「副腎疲労」が疑われる人に対しては、副腎がきちんと回復するまでの間、

じっくりと時間をかけて糖質制限に移行していくスタンスも重要になってくるのではないかと私は考えます。


たがしゅう
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プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
漢方好きの神経内科医です。
南鹿児島さくら病院に勤務しています(下段にリンクあり)。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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