サイアミディン

腸内細菌を入れ替えるのは至難の技

医師のための専門情報サイトMT Proを見ていると、

次のような興味深い情報がありました。

[2015年2月6日]
便移植後に腸内細菌だけでなく体型もドナー並みに?
CDI治療の症例報告


何らかの感染症に対して抗生物質を過剰に使用した時に、

腸内細菌叢が乱れ、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)という菌が優位になった結果起こる腸炎の事を、「偽膜性腸炎」というのですが、

この偽膜性腸炎、なかなか難治性となってしまう場合があります。

今回の医療ニュースは、そんな偽膜性腸炎に対して行われた先進的治療である便移植療法によって、

腸炎が治癒しただけでなく、それまでに無かった太りやすさまで伝わってしまったという話です。

(以下、引用)

反復性のClostridium difficile感染症(CDI)を来したBMI正常の32歳の女性が

腸内細菌叢移植(FMT)を受けた後,体重とBMIが肥満域まで急激に増加した1例が米国感染症学会(IDSA)の機関誌に報告された(Open Forum Infect Dis 2015年2月4日オンライン版)。

この女性のドナーは過体重以外に健康問題のない10歳代の娘。

報告を行った米・Warren Alpert School of Brown UniversityのNeha Alang氏らは,治療によるCDI治癒などの要因も考えられるが,

女性に肥満歴はなかったことから,FMTがレシピエントに与える長期的な影響を詳しく検討する必要があると述べている。

【FMTから1年4カ月で16kgの体重増,食事・運動療法も肥満は改善せず】

女性は性器感染症に対する抗菌薬治療後に,2~3週間続く下痢と腹痛で受診。

CDIと診断された家族との接触歴があったことから,かかりつけ医により,初期のエンピリック治療としてメトロニダゾールが経口投与された。

これにより,一時症状は改善したものの,標準治療が奏効せず症状の再燃が見られたため,大腸内視鏡によるFMTを受けた。

移植当時の2011年の女性の体重は61kg(138ポンド),BMIは26で安定。過去の肥満,過体重歴はなかった。FMTのドナーはこの女性の10歳代の娘で,過体重以外に健康に問題はなかった。

移植から1年4カ月後,レシピエント女性の体重は77kg(170ポンド),BMIは33と肥満の診断基準に該当するまでに増加。

その後,医療機関でのリキッドプロテインによる食事療法や運動プログラムの実施にもかかわらず,肥満は改善しなかった。

移植後3年には女性の体重は80kg(177ポンド),BMIは34.5とさらに増加。現在も肥満は改善せず,便秘や原因不明の消化不良を合併していると報告されている。

【「ドナー選定の際は“肥満なし”も考慮を」】

Alang氏らは,FMT後の体重・BMI増加の要因はFMTだけでなく,

CDIの治癒や同時に行われたHelicobacter pyloriに対する除菌治療なども考えられる可能性があるが,

女性には過去の過体重やFMTの既往がない点は重要との考えを示している。

共同著者のColleen R. Kelly氏は,今回の症例について「FMTによる“善玉菌”の一部が女性の代謝機構にネガティブな影響を与えたのではないか」と考察。

肥満のマウスから正常体重のマウスへのFMTによる検討で腸内細菌叢と体重の関連を示唆する先行研究の報告もあることから,

ヒトにおいてもFMTドナーを選定する際には健康状態だけでなく,過体重や肥満がないことを含めるのが望ましいとの見解を示している。

(引用、ここまで)



世の中をよく観察していると

ヒトの太りやすさは、単純なカロリー理論だけでは、

どうしても説明しきれない現象が多々存在する事に気がつかされます。

やせの大食いというのがその代表格ですが、

今回の症例もその一つではないかと思われます。

つまり、太りやすいかどうかの一因を腸内細菌が担っているということです。

便移植療法前後で本人の食の嗜好が変化するとは考えにくいですし、

この患者さんでは食事療法や運動療法を加えたにも関わらず肥満が改善しなかったこと、

なおかつ便を提供したドナーが過体重であったというのですから、

これは腸内細菌が入れ替わった事で、太りやすさの体質が変化したと考えるのが妥当だと思います。

ただ、この話は「腸内細菌を入れ替えるにはこれくらい強烈な事を行わないとなかなか難しい」と見ることもできます。

すなわち一旦腸内の細菌をほとんど死滅状態に持っていき、

その荒廃した腸内環境に目的とする菌を入れて初めて腸内細菌が入れ替わるということです。

その方法の一つが断食であり、もう一つがこの抗生剤長期使用という荒業です。

参考にはなりますが、なかなか真似するのが難しいですね。

逆に言えばすでに自分の腸内細菌叢が出来上がった状況において、

善玉菌だとか言ってヨーグルトとか整腸剤を使って腸内細菌を整えようとするアプローチ法に、

はたしてどれほどの意味があるのだろうかと私は疑問に感じています。


たがしゅう
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常在菌は大切

たがしゅう先生、こんにちは。

とても興味深い記事ですね。
腸内常在菌によって太りやすさが変わってくるのですから、カロリー計算なんて意味がないような気がします。

最近、テレビ番組や書籍で、腸内環境が大切だという情報を目にしますが、むやみやたらと腸内環境を変えようとしない方が良さそうですね。

ヨーグルト食べたくらいでは、胃酸で乳酸菌が殺されるので、腸内環境に大した影響はないでしょうが、薬を使ったり、腸内を洗浄するようなことは、その後、長期的に体調を崩す危険があるのではないでしょうか?

そういった行為は、糖質制限よりも予後が不安になると思うのですが。

逆手に取れば

たがしゅう先生

今回の事例を逆手に取れば、肥満体質の人に痩せ型の人の腸内細菌を移植すれば、肥満は解消されるかも知れない分けですね。(^^;

自分は中3から太りだしましたが、その頃からお腹の調子が度々悪くなり、友達の勧めで正露丸を飲むようになりました。

自分は正露丸も怪しいと思っています。。。

Re: 常在菌は大切

ミスターT さん

 コメント頂き有難うございます。

 私のこれまでの経験で考えますと、「腸内細菌はそう簡単に変わらない」という印象です。

 整腸剤で一時的に腸内環境が変わるとしても、それを止めたら元に戻るというのであればそれは本質的ではないと思います。

 腸内細菌が大事だという事がわかっていても、なかなかアプローチが難しいというのがもどかしいところですね。

Re: 逆手に取れば

福助 さん

 コメント頂き有難うございます。

> 自分は正露丸も怪しいと思っています。。。

 正露丸が良いかどうかを見極めるには、正露丸とそれと似たプラセボ(偽薬)を使って、

 ランダム化比較試験を行う必要があるかと思いますが、実際はそういうデータはなく慣習的に使われている部分があると思います。

 常識だと思っている事も一度疑ってみる姿勢は大事ですね。

断食と腸内洗浄と糖質制限

たがしゅう先生こんばんは。

先日ケトン体の記事でコメントさせて頂いた者です。
タイムリーな記事で嬉しく思います。

たがしゅう先生は腸内洗浄に関してどう思われますか?

先日、4泊5日の断食を終え(しっかり糖質制限していたせいからか、全く平気でした!)、腸内環境を変えるべく断食前後に腸内洗浄(コーヒーではなくお湯)も行ったんですね。

素人なりの考えですが、一旦腸内はすっきりしたのかな?と。

このまま断食明けに食べるものを気をつけていたら、
無事痩せやすい体質になるんじゃないかなぁと考えているのですが…あまり意味がないでしょうか?

Re: 断食と腸内洗浄と糖質制限

プランタン さん

 コメント頂き有難うございます。

> たがしゅう先生は腸内洗浄に関してどう思われますか?

 腸内洗浄はですね。興味はあるんですけど、いまいち実行に移せないというのが正直なところです。

 断食の発想は極めて自然で受け入れやすいのですが、本来排泄器官である肛門に異物を入れて洗浄するという発想は操作的で人工的な感じがやや受け入れにくく感じるのです。

 ただ「人工的なもの=悪い」とは限りませんので、一度は試してみたいと思っています。

> このまま断食明けに食べるものを気をつけていたら、
> 無事痩せやすい体質になるんじゃないかなぁと考えているのですが…あまり意味がないでしょうか?


 その方法でうまくやればいけるんじゃないかと個人的には思いますが、

 私自身その方法論をまだ確立できていないので、少し説得力に欠けるかもしれません。

腸内細菌の変え方

たがしゅう先生

腸内細菌について興味深いインタビュー記事がありましたので、ご紹介します。
http://seimei-kagaku.info/archives/category/%E5%85%89%E5%B2%A1%E7%9F%A5%E8%B6%B3

・乳酸菌が生きて届くかどうかは関係なく、成分(死骸)が腸内免疫を通じて腸内環境を改善する
・腸まで届いても住み着くことはほとんど無い
など、目から鱗です。

やはり普通の酪酸菌や乳酸菌の整腸剤を飲む程度では、根本的な腸内細菌の変化は望めないようですね。
兆単位の乳酸菌を摂取して効果が出たという報告もあるようです。

Re: 腸内細菌の変え方

mina さん

 情報を頂き有難うございます。

> ・乳酸菌が生きて届くかどうかは関係なく、成分(死骸)が腸内免疫を通じて腸内環境を改善する
> ・腸まで届いても住み着くことはほとんど無い


 大変参考になります。

 私も個人的に自分の腸内細菌を改変させようといろいろと試行錯誤していますが、やはり腸内細菌を変えるのは至難の技のようですね。

 2015年2月12日(木)の本ブログ記事
 「腸内細菌を入れ替えるのは至難の技」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-573.html
 も御参照下さい。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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