サイアミディン

無駄に敬意を払いすぎる関係

医師は医師免許を取得し研修医となった時点から、

患者さんや周囲のスタッフから「先生」と呼ばれるようになります

医師同士の会話でも、お互いを「○○先生」と呼び合うことが慣習化しています。

本来、「先生」と呼ぶのは敬意を払う相手に対してそうすべきなのではないかと思いますが、

敬意とか関係なしに、ただ慣習的にそう呼ぶとようになりそれが定着してしまっているのです。

言い方を変えれば、「無駄に敬意を払い過ぎている」とも言えると思います。

一方で「大は小を兼ねる」とも言いますから、足りないならまだしも、

敬意が多すぎる事には特に問題はないのではないかと思われる方もいるかもしれません。

しかしながら、日常診療の中ではそうとも限らないことが起こるものです。
先日も90代女性の患者さんの診療に当たっていた時の話です。

開業医からの紹介状を持参され、意識消失発作を起こしたとのことで救急受診された患者さんです。

家族に連れられ私のところへ来られた時にはたいそう眠そうな感じでした。

聞けば自宅の廊下で倒れる音がして、駆けつけると意識のない状態で横たわっていたそうですが、

その後意識が戻ってきて、完全に意識が無かったのはものの数分くらいであったとのことでした。

そこでかかりつけの開業医に電話で相談したところ、すぐに大病院へ行くよう指示されたようなのです。

まずは自分で診察をしてくれればいいのにと思いながらも

診察したところ、明らかな麻痺や感覚障害など、脳に異常をきたしているような所見は認められませんでした。

また頭部CT写真では年齢相応、あるいはそれ以上の脳萎縮が認められる状況で、

すでにアルツハイマー病の診断の下、抗認知症薬(アリセプト)が投与されている状況でした。

さらに不眠や頭痛、めまいを常時訴えられているということもあってか、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入薬・抗不安薬も連用されている状況でした。

診察上の皮膚乾燥や血液検査上の所見からは軽度の脱水が示唆されましたので、

私はおそらく脱水に伴う腎機能低下で、普段の薬の効き目が強めに出てしまった可能性を考えました。

つまり、睡眠薬の効果が遷延して日中になっても鎮静効果が残ってしまった状況ですね。

90代ともなれば、それだけでも腎臓の働きが弱ってくる状況です。

それなのにずっと同じ薬を漫然と投与し続けていたら、こうなってくるのはある意味必然的なことです。

もっと言えば、慢性的な頭痛とかめまいはベンゾジアゼピン系薬の離脱症状の可能性があるとさえ思えました。



私はこういう処方を漫然と続ける開業医に問題があると思います。

本来であれば「病院に紹介する前に、まず自分の処方を見直すべき」と言ってしまいたいところなのですが、

ここで医師間の「無駄に敬意を払い合う関係」というのが邪魔をしてきます。

本当にそのような批判的な返事をしてしまったら、医師はプライドが高い人間が多いですから、

反発して二度と患者を紹介してこないかもしれませんし、

噂はたちまち広まって、私だけでなく科内への悪評が広がってしまうかもしれません。

そうなれば結果的に損をするのは、今後紹介されるべき状況になる未来の患者さん達です。

従って私は本音では批判的なことを感じていても、

その気持ちをぐっと我慢して、あくまで紳士的に「薬の副作用の可能性もあると思います。可能であれば減薬も御検討下さい。」などと返答しなければならないのです。

本当に真面目であればあるほど生きにくい世界です。

その辺割り切れれば楽なのでしょうが、その場合はたしてどちらが幸せなのでしょうか。


たがしゅう
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開業医は

開業医は商売人なので患者側に薬を求められればホイホイ処方してしまいます。薬を出さないと言うと田舎だとすぐにヤブ医者だという噂が広まって患者減少、たちまち経営難に陥ります。
また少しでも危ない救急患者は診ないようにしてます。引き受けたかかりつけ患者が脳卒中や硬膜下血腫や心筋梗塞など救急を要する病気が判明した場合、病院の救急外来との交渉が非常に面倒くさいからです。田舎だと病院が少ないから特にそうなります。その交渉で外来がストップしてしまいます。そうこうしているうちに最悪救命に間に合わずに患者が死んでしまったら、責任が問われ、風評被害に遭い、最悪つぶれます。
病院の勤務医はCTやらMRIやらエコーやら血液検査やら高性能の検査があり、救命できる設備やスタッフや環境もそろっているので、「このくらいの事で病院へ送ってくるな」とか簡単に言うかもしれませんが、医者1人で検査機器もロクに持っていない一般開業医が1~2次救急に対応するのは例外を除いて至難の事です、基本的には開業医は病状が安定している患者しか診れないのが現実です。病院で勤務している間は開業医の立場や現実などたぶんおわかりにならないと思われますが。もしご自分が開業されたらおわかりになる日が来ると思います。
開業医も勤務医も必ずしも正しい医療ができるとは限りません。今の時代、自己防衛的医療(ディフェンシブ・メディシン)にならざるをえないのです。

Re: 開業医は

アンチスタチン主義 さん

率直なご意見を頂き有難うございます。

開業医は商売人、少しでも危ない患者は見ない、自己防衛的医療にならざるを得ない・・・

御指摘の通りです。だからこそ既存の開業医は「頼りにならない」のです。

誤解してほしくないですが、私は開業医の気持ちが全くわからないわけではありません。短いですが類した環境での診療経験もあります。

その上で、開業医はもっと良い方向に変われないのか、と思うわけです。

リスクばかり気にして逃げてばかりいれば学びはありません。たとえ不幸な事になろうとも全力を尽くしたと思ってもらえる信頼関係があれば、訴訟などにはならないはずです。

高度な医療機器がなくとも、どこまで患者と真剣に向き合えるか、それが大事です。

私ならそういう開業医を目指します。それが本当にできるかどうかは別にしても、少なくとも志は持ち続けます。

No title

おつかれさまです。
このようなダーティな感情を文章に表して記憶を上書きしてはよくないですよ。
敬意や敬語は、別に尊敬しているとか関係なく、不測に起こってしまう誤解や無用な衝突を避ける、とても便利な言葉なんですよ。

例えばですよ、
さらにさらに
「薬の副作用が非常に高いと拝察申しました。減薬の方向が最も適切かと存じます。下記のような処方でぜひ様子を観察していただきたく、ご高配をお願い申し上げます。
  処方~~
     ~~ 」と書いて、その後にその開業医の先生に折りを見てお電話を入れるのはどうですか。文書のみより印象がよくなるし、ていねいだし、双方向になるし、患者さんへのフォローにもなりますよ。

僭越なので、伏せて送ります。ご返信不要です。
トムとジェリーのように、私も無理難題を提示するお客さま、取引先、上司と仲よく戦っています。
 

No title

たがしゅうさん、アンチスタチン主義さん

おっしゃることはよくわかります。ただ、医療者以前に人間として、誠実であって欲しいなと。
ユニクロやドンキホーテ、百円ショップで安物を摑まされても誰も文句は言いませんよね。せめてできないことはできない、苦手なことは苦手だ、自信がないなら自信がないとはっきり伝えて欲しいわけです。
あともうひとつ言えば30前の若造を先生、先生とちやほやするのも考え物ですね。特に製薬会社ですが、そういう過度の付き合いに気をつけろという教育も必要ですね。

No title

たがしゅう先生は知らないかもしれませんが、江部先生も勤務医と開業医という二足のわらじをはいてます。
自分は故人ですが縁者がいい時代(開業医にとって)の医者でした。
自宅と併設していたのでいわば365日一年中診療、時間外で救急患者も時折診ていたようです。
まあ、自分も医者についてはいろいろいいたくなるようなことは分かるので否定しません。
たがしゅう先生はたぶんすごく素直なんだと思います。

Re: No title

SLEEP さん

 コメント頂き有難うございます。

> 医療者以前に人間として、誠実であって欲しいなと。

 ごもっともです。

 「今自分がいる場所でできる限りの最善を尽くす」、それが誠実である事につながるのではないかと私は思います。

Re: No title

学生 さん

 コメント頂き有難うございます。

> 自宅と併設していたのでいわば365日一年中診療、時間外で救急患者も時折診ていたようです。

 そのような状況だとあればいくら理想を掲げていても、忙殺され理想通りの事ができにくくなるのでしょうね。

 適切な医療を施すためにはスタッフ側の生活の質を保つ事も極めて重要な視点です。そのためには現在の医療システムそのものを抜本的に見直していく必要があると私は考えています。

勤務医も頼りにならない

あえて開業医の立場から意見を書いてみましたが、まあそのとおりですね。多くの開業医はいざという時に全く頼りにならないですし、急病時はほとんど病院に丸投げするしかないのです。それは日本国民の性格もあって検査をして異常がないと言ってもらわないと信頼できないという風潮があります。だからみな軽症でも病院の外来に殺到するのではないですか?おのずと開業医の仕事はかぜ、胃腸炎、生活習慣病の管理だけに限定されます。
しかし病院の勤務医も頼りにならない。特に時間外と救急。1年前に後頭部の激痛で夜間に病院を受診したが、検査もせず返された60歳男性がいましたが、改めて検査をオーダーしたらMRAで椎骨動脈乖離でした。この方が病院の対応に不信感を持ったのはいうまでもありません。
開業医が病院に電話してどんな病気でもスムーズに受けてくれるのでしょうか?そうでないと開業医は急病を受けれないと思いますよ。
たしかに何でもかんでも丸投げして来られるために病院の救急が疲弊して、地方大学病院の救急部が総撤退などという話も聞いた事があります。
また都会の病院でも当直医が自分の専門外でなければ受けません。全科が当直してどんな救急でも対応できますという病院も希少だと思いますね。
○○科は撤退したので受けれませんとかそういう感じではないでしょうか?
これからの時代は病院がサテライトクリニックを一杯作っていって、頼りにならない既存の開業医はどんどん撤退していくのではないでしょうか?
病診連携など絵にかいた餅に等しいと思いますが
開業医が最低限できることとしては高齢者に危険な副作用のある薬剤を処方しない事くらいでしょうか?現実的にはたぶん無理だと思いますがね。
しかし中小病院の勤務医の友人の話によると近隣の大学病院の精神科と神経内科が認知症の高齢者に対して滅茶苦茶な処方をして、明らかな薬害による意識障害で自分の病院に救急搬送されてくるが、その大学病院はまったくかかりつけ患者の救急も一切受けないらしくて怒ってました。大病院の処方で薬害で意識障害になっているのに、後は知らんでは困ると。そういう患者は点滴して薬が抜けたら
すぐに復活するそうですが(苦笑)。大学病院の勤務医も開業医もいろいろで。




Re: 勤務医も頼りにならない

アンチスタチン主義 さん

コメント頂き有難うございます。

御指摘のように医療制度や国民性、薬絶対主義の背景なども大いに影響しているとは思います。

開業医とか、勤務医とか、専門医が悪いとかではなく、結局はそれぞれの医師が患者とのどう向き合っているかという事が問題なのかもしれませんね。

たとえどんな立場でも、理想は無理だとしても、理想に近づける努力は可能だと思います。

参考になります!

たがしゅう先生

今回の記事、色々参考になります。

「おそらく脱水に伴う腎機能低下で、普 段の薬の効き目が強めに出てしまった可能 性。
睡眠薬の効果が遷延して日中に なっても鎮静効果が残ってしまった状況。
90代ともなれば、それだけでも腎臓の働き が弱ってくる状況。
それなのにずっと同じ薬を漫然と投与し続 けていたら、こうなってくるのはある意味 必然的なこと。」

私の様に知識・経験ともに不十分ですと、なかなかここまで深く推測する事が出来ないので、今回のこの記事はとても勉強になります。
お薬の調整をされるのは医師ですが、脱水の可能性があるなら私達看護師にも出来る事があると思います。
勿論勝手な思い込みや判断でそれをする事は危険も伴う為、あくまでも医師に相談しながらですが、そういう可能性もあるという事は頭の片隅に入れておきたいと思います。

先生のブログを読ませていただいてると、深く観察しながら、色々な視点から物事を捉えて考えていく。看護師として働いていくうえで本当に参考になります。
ありがとうございます。

Re: 参考になります!

かず さん

 コメント頂き有難うございます。

> お薬の調整をされるのは医師ですが、脱水の可能性があるなら私達看護師にも出来る事があると思います。
> 勿論勝手な思い込みや判断でそれをする事は危険も伴う為、あくまでも医師に相談しながらですが、そういう可能性もあるという事は頭の片隅に入れておきたいと思います。


 とても大事な視点と思います。

 一般的に看護師さんは法律的な制約のため医師の指示に従うというのが基本にあるわけですが、

 私の知る限り、できる看護師さんというのはいつも「自分で考えて」行動しています。

 それは医師の指示を無視しているのではなく、その状況においてさらに良いと思われるプランを提案してくれるのです。

 是非とも「医師の指示の下に」の向こう側のステージに進んで頂ければと思います。

 2014年9月20日(土)の本ブログ記事
 「医師の指示の下に」への苦悩
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-426.html
 も御参照下さい。

医師の指示の下に

たがしゅう先生

お返事ありがとうございました。

「医師の指示の下に」読ませていただきました。
医師は、プライドの高い方も多いです。ギョッとする様な指示を出される先生や、禁忌薬を出される先生、様々です。
そんな先生方のご機嫌を、いかに損ねず、柔らかくお願いをしていくか、結構大変です。
ですから色んな事を考察しても、それを伝えるのは容易ではありません。ただ、だからと言って考える事は止めずに、いつも自分で考えるという感覚は大事にしようと思っています。
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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