サイアミディン

ケトン体産生で片頭痛を強力に押さえ込む

難治性てんかんの治療法として知られるケトン食は、

てんかん以外にも多くの神経疾患に有効である事が示されています(Stafstrom CE, Rho JM. The ketogenic diet as a treatment paradigm for diverse neurological disorders. Front Pharmacol. 2012;3:59. Epub 2012 Apr 9.)。

そのうちの一つ、片頭痛にもケトン食が有効であるとする論文は、

これまでにも症例報告がありましたが(Kossoff E.H.,Huffman J.,Turner Z., and Gladstein J.(2010).Use of the modified Atkins diet for adolescents with chronic daily headache. Cephalalgia 30, 1014–1016.)、

大集団でその効果を実証するという試みはまだなされていませんでした。

今回はその証明に取り組まれた以下の論文を紹介します。

Di Lorenzo C, et al. Migraine improvement during short lasting ketogenesis: a proof-of-concept study. Eur J Neurol. 2015 Jan;22(1):170-7. doi: 10.1111/ene.12550. Epub 2014 Aug 25.

背景と目的:
ケトン体産生は飢餓やケトン食(KD)という脂質代謝を誘導しケトン体合成を促す炭水化物を劇的に制限した食事レジメによって引き起こされる生理学的な現象である。

最近、体重を減らすために超低カロリーKDを行っている周期の範囲内でのみ片頭痛が消失した患者が2名観察された。

我々のこの観察を確かめるために、栄養士が臨床的に設定した2つの並行した片頭痛患者集団において、

一方には1ヶ月間の超低カロリーKDに続いて5ヶ月間の標準低カロリー食(SD)を与え、他方には6ヶ月間SDを与える、フォローアップする事とした。

方法:
96名の過体重の片頭痛女性がダイエットクリニックに登録され、盲目的にKD(n=45)かSD(n=51)のどちらかの処方を受けた。
1ヶ月の平均発作頻度、頭痛の起こった日数、内服回数が食事療法開始前と開始後1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の時点で評価された。


結果:
KD群では、ベースラインの発作頻度(2.9回/月)、頭痛の日数(5.11日/月)、そして内服回数(4.91回/月)が、最初の1ヶ月が経った時点で有意に減少した(それぞれ0.71回、0.91日、0.51回、全体でKD対ベースライン, P<0.0001)。

移行期間(1ヶ月目対2ヶ月目)では、KD群はベースラインと比べて改善されているにも関わらず、それぞれの臨床的頭痛変数の一時的な悪化を示した(それぞれ2.60回、3.61日、3.07回)が、

6ヶ月目までは継続的な改善を示した(それぞれ2.16回、2.78日、3.71回)。

SD群では、頭痛日数と内服回数の著明な減少が3ヶ月目からのみ観察され(P<0.0001)、そして頭痛頻度の減少は6ヶ月目に観察された(P<0.0001)。


結論:
KD効果の基礎のとなるメカニズムはミトコンドリアエネルギー代謝を高め、神経炎症を打ち消す能力と関連している可能性があると考えられた。



この研究で用いられたケトン食は超低カロリーケトン食といって、

低炭水化物(1日30g)、低脂質(1日15g)、正常蛋白質(理想体重kgあたり1.0-1.4g)でカロリーを800kcal以下にコントロールするという、

ちょっと厳しい食事療法であったようです。

ただ参加された片頭痛患者さんは過体重の人ばかりであったので、

多少低脂質であったところで、糖質を制限しているので、もともと蓄積されている脂質を燃焼させることによって、

それほど空腹感を感じる事もなく1ヶ月の超低カロリーケトン食を完遂する事ができたのではないかと推測します。

もう一つ、この研究の特徴的なところは、片頭痛が良くなったのがケトン食の効果なのか、やせた事による効果なのかをはっきりさせているところです。

一般的にケトン食の効果は、やめた後もしばらく残存するという事がわかっています。

この研究では1ヶ月間の超低カロリーケトン食を行った後、標準的な低カロリー食へと切り替えて、その後6ヶ月目までフォローアップしています。

そして最初から6ヶ月間ずっと標準的な低カロリー食を続けた群と比べてどうなるかという事を見ているわけです。

結果をグラフでみると次のようになっています。

片頭痛とケトン食 図

このグラフを見ますと、最初の1ヶ月でケトン食群でぐっと頭痛が改善しており、

2ヶ月目以降は開始前に比べたら多少マシではあるものの、頭痛が再増悪している事がわかります。

しかしながら減量効果は多少緩やかになりながらも6ヶ月目まで維持されています。

もし減量のおかげで片頭痛が改善したのであれば、途中で再増悪するのはおかしいので、

片頭痛が改善したのは減量のおかげではなく、ケトン食によってもたらされた効果だと言えると著者らは考察されていました。

そしてそのメカニズムとして脳において抑制性および興奮性神経伝達物質を調節したり、

ミトコンドリアの中でのNADH酸化を増やしたり、フリーラジカルを減らしたりする事で酸化ストレスに対抗すること、

さらにはミトコンドリア遺伝子の発現を調節し、特に3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA(HMG-CoA)合成酵素に働きかける事でミトコンドリア代謝を改善させる事が示唆されていました。

実に多面的なメカニズムで片頭痛を押さえ込み、

その結果、劇的な臨床効果を得ているのではないかと考えられます。


たがしゅう
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No title

健康への興味から、糖質制限に関する本を色々と読んでいる一般の者です。数週間かけて、過去のブログを最初からすべて読ませていただきました。色々納得できる事があり、大変勉強になりました。ぜひ、今後、子ども(特に幼児)に対する糖質制限についての考察も期待しています。過去、「低身長」よりも「健康」であることの方が大事ではないか、という記事も読みましたが、もし糖質制限で低身長となる可能性が高いのであれば、親としてはできれば背は高くなってほしいなぁと思ってしまうのです(笑)胎児はケトン食という宗田先生のお話もありましたが、母乳にも糖が高い割合で含まれていることから、生まれた後、激しい細胞分裂にはやはり糖質は必要なのではないだろうか?と、迷いがあるのです。成人には糖質を制限することはいいに違いないというのは納得できたのですが。

これからも、ブログを楽しみにしています。先生のような、本当に人を見てくれるお医者様が増えていってほしいと思います。お礼が言いたくてコメントいたしました。ありがとうございました。

Re: No title

Racha さん

 コメント頂き有難うございます。

> もし糖質制限で低身長となる可能性が高いのであれば、親としてはできれば背は高くなってほしいなぁと思ってしまうのです(笑)胎児はケトン食という宗田先生のお話もありましたが、母乳にも糖が高い割合で含まれていることから、生まれた後、激しい細胞分裂にはやはり糖質は必要なのではないだろうか?と、迷いがあるのです。成人には糖質を制限することはいいに違いないというのは納得できたのですが。

 そこは難しいところです。

 どのくらいの低身長なのか、個人差もあるところですし、やってみないとわからないことですから。

 しかも自分の事ならまだしも、まだ小さい子なら自分での判断ができるわけではないでしょうから、ともすれば自分の価値観の押し付けにもなりかねません。

 子どもの場合は、健康を害さない程度の糖質摂取が許容される場合もあるのかもしれませんね。

そうなのですね。。。少しがっかりしてしまいました。先生は高齢者を見ることが多いとのことでしたので、考察いただくのも難しいのかもしれませんね。返信ありがとうございました。
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たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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