サイアミディン

菌を逃がすという発想

糖質制限や湿潤療法の事を学ぶと、

「菌との共生」というものを意識するようになります。

基本的にヒトという生物は菌とともに生きている、そういうものなのだという事がわかります。

ところが世の中を見渡してみると、多くの場合「菌はできるだけいない方がよいもの」として扱われている事に気づきます。

例えば、さまざまな抗菌された調理器具、それを維持するための除菌用洗剤、シャンプーなどはそうした発想で作られていると思いますし、

潔癖症と呼ばれる人達の心理にもまさにそういう気持ちが働いている事がわかります。

また医療の世界でもそうで、菌が原因の感染症はとにかく抗生物質を使って菌を殺すべきだという治療が主流です。

感染症の場合は、それで解決できる場合も多いので一概に否定するわけではありませんが、

その方法論だけでは解決できない場面がある事もまた事実です。
例えば、私が過去に経験した脂漏性皮膚炎についてですが、

この原因は一般的に皮脂中に含まれるトリグリセリドが、真菌(主に癜風菌というマラセチア属真菌)によって分解されて遊離脂肪酸が生じ、それが皮膚を刺激して接触性皮膚炎を生じる事だと考えられています。

だから真菌をやっつけるべきだということで、この病気には抗真菌剤入りの軟膏が処方され、私もその治療を受けた事があります。

それを塗ると確かに塗っている時は皮膚炎が多少治まるのですが、塗るのをやめると程なくして再び再発します。

長年悩まされてきた病気でしたが、これは糖質制限を行う事で速やかに改善し、しかも再発しないという事を経験しました。

これによって私は糖質摂取により皮脂が増加し、真菌がそこにいる事以上に皮膚炎の原因となっていたという事を学びました。

なにせこの時は私は抗真菌剤を塗らずに、糖質制限だけ行っていたわけですから、

真菌は別にやっつけなくてもよかったということになるのではないでしょうか。


同様の出来事は医療のさまざまな場面に見られます。

例えば咳が長引くという状況の事を考えてみます。

一般的には咳の原因の大半は感染症です。咳という生理現象は本来菌やウイルスなどの外敵を痰などと一緒に追い出すために備えられた生体の防御反応だと考えられており、

咳止めはよほどの重症でない限りは使用しないとするのが基本的な対応だと思います。

では医師はどうするかと言いますと、多くの場合、感染症の原因となっている菌をやっつけるために抗生物質を処方します。

ただこの時、ウイルスが原因であれば抗生物質は効きません。しかし万が一菌が原因であった場合の事を考えて、それでも医師は抗生物質を出すのです。

しかし菌との共生という観点でみれば、効かないかもしれない抗生物質により、腸内細菌は同時に乱されることになります。

腸内細菌が乱れれば、それまでの食生活で得られていたエネルギーの吸収効率が下がります。

そうすると、菌がいる事以上に、身体を立て直す栄養が入ってくるスピードが遅くなり、治るのが余計に遅くなる可能性があります。

それでも若い患者さんだと自前の免疫力で時間をかけてもなんとか立ち直っていくので、医師は患者さんが自分の抗生物質で治ったと考えて疑いません。

こうして有害かもしれない抗生剤治療は変わらずまかり通っていく事になるわけです。


じゃあどうすればいいのかと言いますと、ここで重要になってくるのは漢方の発想です。

漢方は菌を殺すという発想ではなく、「菌を逃がす」という発想を用います。

「菌が多くいたとしても、病変のある場所にさえいなければ悪さをしないんじゃないか。逃がせば結果的に炎症がとれていくのではないか」と考えるわけです。

さらに漢方の良いところは、その人の状態により細かく処方を変えられるところです。

西洋医学ではどの医者がみても抗生物質か、よくて抗生物質を出さない、という感じだと思いますが、

漢方の場合は実にさまざまな選択肢があります。

参考までに以前私が咳について勉強したときのメモを以下に記します。




「咳」の分類
 ・「湿」で「熱」→「燥」&「清熱(熱を冷ます)」(例:柴胡、半夏)
 ・「燥」で「熱」→「潤」&「清熱」(例:麦門冬)
 ・「寒」で「湿」→「燥」&「温熱」(例:細辛)
 ・「気逆」   →「降気」(例:桂枝)

「咳」に用いられることの多い処方
 ・小青竜湯:半夏&細辛が入っている
      :半夏(水を捌く)、細辛(乾かす、温める)
 ・麻黄湯:杏仁&麻黄
     :杏仁(胸中の水をとる)&麻黄「発汗剤(乾かす)」
 ・小柴胡湯:柴胡&半夏
      :柴胡(清熱)&半夏(水を捌く)
 ・麦門冬湯:麦門冬&半夏
      :麦門冬(喉のあたりを潤す)、半夏(胃の中の水を捌くので嘔吐がとまったりする)
  ※麦門冬湯は乾いている人に使うのは間違いないが、半夏も入っているので一方的に乾かす薬ではない。半夏は胃の中に水が余っている人に使う薬。のどがかわいたり、肺・気管が乾いたりするけれど、どこかに水のアンバランスがないと使ってはいけない。例えば、のどや気管は渇いているけど、胃の中に水が余っているとき。だから嘔吐が止まることがある)
 ・四逆散:柴胡&枳実(四逆散は胃潰瘍の薬で有名)
     :柴胡(胸中の熱を冷ます)+枳実(心窩部の強いしこりを取り除く)
       →心窩部がカチカチの人の頑固な咳に「四逆散」
 ・麻杏甘石湯:杏仁&麻黄、石膏
     :杏仁(胸中の湿気をとる)麻黄+石膏(冷やす)→熱証の人に使う
      胸の中に水があるだけじゃなく熱がこもっているような人
      熱でわずらわしかったり、顔がまっかっかだったり
 ・参蘇飲(とてもマイルド):紫蘇葉&半夏
     :紫蘇葉(気鬱を改善)、半夏(水があがってきてしょうがなかったり)
 ・神秘湯:柴胡&杏仁
     :胸に熱と水がある→だから喘息に使う
 ・竹如温胆湯(ちくじょうんたんとう):柴胡&麦門冬
     :柴胡(胸の熱をとる、乾かす)+麦門冬(潤す)→胸の中は熱と水があるけど、喉だけは渇いている人に使う
   ※ちなみに温胆湯(うんたんとう)→きもを温めるのではなく、温まってしまった「肝(きも:イライラ)」を冷やす薬。温胆とはイライラが高じている、の意。だから不眠症にも適応あり。
 ・滋陰降火湯:麦門冬&地黄
     :滋陰(潤す。陰とは水っ気のこと)+降火(冷やす)→乾いて熱があるような人に対して、水を撒いて潤してやるだけで冷やしたいようなとき(石膏で強制的に冷やすのではない)。例:舌が乾いて真っ赤っかでいるとき。
 ・滋陰至宝湯:麦門冬&柴胡(竹じょ温胆湯に近い)
     :基本的には潤す。至宝というのはこれ以上ないお宝生薬が入っている、の意。高い生薬が入っている
 ・柴朴湯  :柴胡&厚朴
     :柴胡(胸中の熱を冷ます)と厚朴(気鬱を治す)
 ・人参養栄湯:地黄&五味子
     :地黄(潤す生薬)+五味子(すっぱい生薬。温めながら水を捌く→だから鼻水を治す)→いわゆる慢性気管支炎に使う
 ・苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう):細「辛」&半「夏」     :冷えて水が余っている人たちに使う
 ・麻黄附子細辛湯 :細辛&麻黄(強烈に温めて乾かす)
     :冷えて湿っている咳に使う
 ・半夏厚朴湯:半夏&厚朴
     :半夏は水、厚朴は気鬱
 ・桂枝茯苓丸 :桂枝&茯苓
     :桂枝→気逆の薬、茯苓→水を捌く、お腹に動悸やめまいがある、器質的な疾患がない人。いわゆる気逆の人。



こうしてみると、漢方的なアプローチは画一的でない、オーダーメイドなアプローチが可能となる事がわかります。

総合診療医を目指す私としては極めて重要なツールです。

みなさんも是非参考にされてみてください。


たがしゅう
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蚊やり

こんにちは。
優しい考え方ですね。このお話で、蚊やりのことを思いました。「蚊やり」って、方言でしょうか?蚊が近くに来るのは困るので、蚊をどっかにやる、どっかに行ってもらう。だから「蚊やり」
蚊には死んでもらわなくてもいいです。人間さんと関係ないところに飛んでいてくくれれば。殺虫剤なんて言いません。コロス、は宮中の禁句。
いや、もしかして、実は本当は蚊には死んでほしいけど、角が立たんように婉曲に物を言ってる、蚊に対するイケズなのかもしれませんが(笑)

Re: 蚊やり

エリス さん

 コメント頂き有難うございます。

 蚊やり、まさに菌を逃がすという発想に通じるものがありますね。

 西洋医学はしばしば原因と結果を取り違えています。細菌しかり、コレステロールしかり、うつ病におけるセロトニン低下しかりです。本質を見誤れば対処を間違うと思います。

薬・漢方薬

たがしゅう先生

大変失礼とは思いながらも言わせていただきますが、安易に薬をポンと出して終わり!みたいな先生、結構いらっしゃいますよね。
熱がちょっと出たら解熱剤、咳が出たら咳止め、ここまではまだ我慢出来ます。でも、下痢したら下痢止め!これはさすがにどうかと・・・(v_v)
勿論、そういう症状に対して内服が有効である場合もあると思います。
ですが、患者さんの話をろくに聞かずにただその症状だけをみて薬を出す先生もいらっしゃいますよね。禁忌薬を平気で出す先生も。
外来にいた時、先生のご機嫌を損ねる事なくどうやってお薬を変更していただくか、とても気を使いました。
もちろんそんな先生ばかりではありませんが・・・。
漢方薬は、私も内服しています。8~9年ほど前に、突然酷いアトピーになり、それ以来ずっと症状に合わせて漢方薬を処方していただいてます。今ではほとんどアトピーの症状は出ていませんが、たまに油断すると出てくるので、ずっと症状をお伝えしながら調整していただいてます。先生からは、加加味逍遥散の方と呼ばれています^^;

たがしゅう先生の様に、患者さんの状態を色んな側面から診て、本当に必要と思われる薬を処方し、食事療法も取り入れながら患者さんの状態を良い方向に持っていく。とても素晴らしいなと思います。
ですがなかなか難しい場合もありますよね。ゆっくり話を聞く時間がない。また、薬を出さないと納得しない患者さんもいる^^;
そう言いながら、私自身も安易に薬に頼ってしまう事もあります。そんな自分を反省する意味でも、薬についてその正しい使い方を理解する為にも、時々こうして先生のところで勉強させていただけたら嬉しいです(^^)
プロフィール

たがしゅう

Author:たがしゅう
漢方好きの神経内科医です。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。

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